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その10 ドラゴンの姉弟

 今回のお話は、ファル子とハヤブサが主役の三本のショートストーリーとなります。

◇◇◇◇ドラゴンの姉弟その1 将来の夢◇◇◇◇


 最近、ファル子とハヤブサはご機嫌だ。

 連日両親と一緒にお出かけしているためである。


 二人の父親は大きなドラゴンだ。自分達とは全く姿が違うが、これはまだ自分達が子供のドラゴンだからである――らしい。

 父親の説明によれば、二人が成長して、その上で進化を遂げれば、父親と同じ姿にもなれるのだという。

 今すぐに進化出来ないのは、進化には厳しい修行が必要とされるためである。

 ハヤブサは「絶対にパパと同じ姿に進化する」と意気込んでいるが、姉のファル子は「今の姿のままの方がいいかなあ」と考えていた。

 理由は”不便そうだから”である。

 実際、二人の父親は、人間に押して貰わなければ家であるテントからも出られない程であった。

 このファル子の最もな指摘に、ハヤブサはつまらなさそうに鼻を鳴らした。


「ギャウギャウ(分かってないな。そこがいいんじゃないか)」

「ギャウ?(えっ?)」

「ギャウギャウ(ずっと家に閉じこもっている生活。いいよね)」


 どうやらハヤブサは根っからの引きこもり体質のようだ。

 腕白なファル子には弟の気持ちが全く理解出来なかった。


「ギャウギャウ(けど、不便じゃん)」

「ギャウ? ギャウギャウ(どこが? パパは全然不自由そうにしてないよ)」


 二人の父親は、日頃はずっとテントに引きこもって何もしない。なんと食事すらしないのだ。

 魔法生物のハヤテは大気中のマナさえあれば事足りるため、食事も排泄も行わないのである。

 逆に二人の母親は、日中は机で何かしていたり、食事をしたり、トイレに行ったり、夜はベッドで横になったりと何かと忙しい。

 実は半魔法生物と言っても良いファル子達は、人間ほどは睡眠を必要としない。

 夜は遊ぶと叱られるため、仕方なく寝床でジッとしているのである。


「ギャウギャウ?(だって、一日中、夜みたいな生活になるのよ。それってイヤじゃない?)」

「ギャウギャウ?(う~ん。別に?)」


 ハヤブサの返事にファル子は呆れ果てた。


「ギャウギャウ(あんた絶対パパみたいなドラゴンになるわ)」

「ギャウギャウ(だったら嬉しい)」


 素直に喜ぶハヤブサに、ファル子は「ハヤブサがパパみたいになるのなら、私はママみたいになるのかな?」「ピンク色の頭の毛がフワフワしてるしキレイだから、いつかあんな毛が生えたらいいのに」などと思うのだった。


◇◇◇◇ドラゴンの姉弟その2 姉と弟◇◇◇◇


 先程からファル子の事を姉。ハヤブサの事を弟と呼んでいるが、実は二人はほぼ同時に生まれたので、どちらが姉でどちらが弟といった事実はない。

 なら、なぜファル子が姉なのかと言えば、ファル子が自分でそう言い出したからである。

 二人が姉と慕っているメイド少女カーチャ。

 ファル子は突然、カーチャが姉なのが羨ましくなってしまったのだ。


「ギャウギャウ(これから私があんたの姉だから)」

「ギュウー(え~っ。まあいいよ)」


 こうしてファル子が姉。ハヤブサが弟と決まった。

 ファル子は早速、父親に報告した。


「ギャウギャウ(パパ。私、ハヤブサの姉になったから)」

『ええっ? いや、姉とか弟とかって生まれた順番であって、自分達が決めていいものじゃないんだけど』


 とはいえ、ハヤテも二人のどちらが先に生まれたのかは分かっていない。

 二人はいつの間にか生まれていたのだ。


『う~ん、だったら勝手に決めちゃってもいいのかな? それってハヤブサは納得しているのかい?』

「ギャウ(うん)」

『そう。だったら構わない、のかな? じゃあ、今日からファル子がお姉さんね』


 こうして姉になったファル子だったが、彼女はすぐに後悔する事になる。

 母親であるティトゥが彼女を叱る時に、「ファル子はお姉さんなんだから」「ファル子はお姉さんなのに」と、事あるごとに姉である事を指摘するようになってしまったからである。

 ファル子は、姉が思っていたよりも不自由でつまらない事に、すっかり嫌気が差してしまった。


「ギャウギャウ(やっぱりあんたが兄になりなさい。私、妹がいいわ)」

「ギュウー(え~っ。まあいいよ)」


 こうしてファル子は妹になった。

 しかし母親のティトゥから「一度決めたのならファル子がお姉さんですわ」と、バッサリ切られてしまった。

 こうしてファル子は今でも渋々、姉を続けているのである。


◇◇◇◇ドラゴンの姉弟その3 飛行訓練◇◇◇◇


 脱皮を終えたファル子達の体には、いくつかの大きな変化が起きていた。

 自分で大気中のマナを取り込めるようになったのもそうだ。

 しかし、二人が特に喜んだのは、背中の翼が大きく逞しく(※本人達の感想です)成長した点であった。



 ここはコノ村から近い海岸。

 ファル子達二人は、姉であるメイド少女カーチャに連れられて、お昼の散歩の途中だった。


「ギャウギャウ(ハヤブサ。良く見ててね)」

「ギャーウー(分かった)」


 ファル子は精一杯力むと力の限り翼をはためかせた。

 そのまま全力でバサバサと翼を動かす事十数秒。

 ファル子はブハーッと大きく息を吐いた。


「ギャウ? ギャウ?(どう? 浮いていた?)」

「ギャーウー(全然)」


 ベシッ。尻尾の一撃がハヤブサの頭に落ちた。


「ギャウギャウ!(なんで叩くんだよ!)」

「ギャウギャウ!(弟のくせに生意気だからよ!)」


 姉の理不尽な八つ当たりに怒る(ハヤブサ)

 

「ギャウギャウ(ホラ。次はあんたの番よ)」

「ギャーウー(いいけど)」


 二人は翼が大きくなって以来、散歩の合間にこうして飛行練習を続けていた。

 メイド少女カーチャはそんな二人の様子を微笑ましく見つめていた。

 

「ギャーウー(いくよー)」


 ハヤブサは集中するために目を閉じると、翼をバサバサと動かし始めた。

 明らかにファル子の時とは違うスムーズな動きに、カーチャは思わず目を見張った。

 ――やがて。


「ギャウ?!(あっ?!)」

「スゴイ! 浮かんでいますよ!」


 ハヤブサの足は地面を離れ、ほんの十センチ程だが宙に浮かんでいた。


「ギャウー(ふうーっ)」


 ハヤブサは着地すると大きく息を吐いた。

 時間にしてほんの数秒だけだったが、ハヤブサは確かに自分の翼で空に浮かんでいた。


「すごいじゃないですか、ハヤブサ様! いつの間に飛べるようになったんですか?!」


 驚くカーチャに、ハヤブサは少しはにかんだ様子で前足で顔を掻いた。


「ギャウギャウ(鳥を見ている時に。あんな風にすれば僕も飛べるんじゃないかと思ったんだ)」


 彼らの父親、ハヤテは飛行機の体を持つ人間である。二人に空の飛び方を聞かれても、「そのうち飛べるようになるよ」とか、「練習していればいつか飛べるようになるよ」としか言えなかった。

 ハヤブサは鳥の羽ばたきを見習う事で、独学で翼の使い方を学んだのである。


 その時、ハヤブサはファル子がこちらを睨んでいる事に気が付いた。


「ギャウ?(ファル子?)」

「ギャウ!(ふん! だ!)」


 バチコーン! さっきの倍は強力な尻尾攻撃がハヤブサを襲った。


「ギャウ!(痛っ!)」

「ファルコ様! 何をするんですか!」

「ギャウ! ギャウギャウ!(キライ! ハヤブサもカーチャ姉もキライ!)」


 ファル子は一直線に海に駆け込むと、そのまま真っ直ぐ泳いで行ってしまった。


「ファルコ様! 戻って下さい!」


 浜で網の繕いをしていたアノ村の漁師が、この騒ぎを聞きつけて集まって来た。


「ファルコ様の事は俺達に任せてくれ。すぐに船を出して追いかけるよ」

「事情は分かってる。大方、弟に先を越されて、ちょっとムカついただけだろうぜ」


 カーチャはファル子の事が心配だったが、ハヤブサを連れて一足先にハヤテのテントに戻る事にした。

 漁師達から「ここに二人がいたら、バツが悪くてファルコが帰って来れないから」と言われたためである。


「・・・困ったお姉さんですね」

「ギャーウー(ホントだよ)」


 この後、腹立ちまぎれに海で泳ぎまわっていたファル子は、船の修理にやって来たトレモ船長達に見付かり、湾内を追いかけ回される羽目になるのだった。

 そして、物覚えの悪い彼女は、追いかけっこをしている間にすっかり本来の怒りを忘れてしまい、ご機嫌で父親のテントに戻ったのであった。

 三本目のお話は、河童長老様から頂いた感想で、『ティトゥが書類と格闘してるのでカーチャがドラゴンハーヴァーへ子ドラゴンたちをお散歩に連れて行ってたんかな?』というものがあったので思い付きました。

 河童長老様、いつも感想をありがとうございます。


次回「トレモ船長の焦り」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハヤブサは父親似、ファル子は母親似ってことなんですかねw 感想が少しでも役に立ったならよかったです。
[一言] イメージによって生まれたドラゴンだから鳥の様に飛ぶってイメージが力になったのかな?実際に羽の力で飛ぶのは現実的じゃ無いし
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