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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
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その22 「No」と言える勇気

昨日の夕方にも更新しています。

読み飛ばしにご注意下さい。

 屋敷の中庭ではパーティーの参加者達が、料理に舌鼓を打っていた。


『これがドラゴンメニュー』

『確かに、この味を知ってしまっては、王都のドラゴンメニューを偽物と言うのも仕方がないでしょうな』

『これは何の肉かしら? ホロリと口の中でほどけるようで美味しいわ』

『むうっ。手が止まらん』


 中にはベアータのドラゴンメニューを、王都のドラゴンメニュー(偽)と比べる人もいるようだ。

 ティトゥが言うにはドラゴンメニュー(偽)は、どぎつい緑色をしただけのありふれた料理だそうだからね。

 ドラゴンメニュー(真)と比べるのは無理があるんじゃないかな?


『料理も美味いが、俺はこのカクテルが気に入った』


 おっと、見習い料理人ハムサスの作ったカクテルを評価している人がいるようだ。


『濃厚な口当たりでありながら、爽やかな後味。口の中がスッキリしているので、つい次のひと口が欲しくなってしまう。こんな酒、今まで一体どこに隠れていたのだ?』


 彼はカクテルを随分と気に入った様子だ。興奮した様子で褒めちぎっている。

 顔も真っ赤だし、飲みすぎなんじゃない?

 そしてカクテルはハムサスが作ったもので、どこにあったとか隠れていたとか、そういったものじゃないから。


 男は周囲の人間にカクテルの出どころを聞いて回っている。

 自分の商会で売り出したいと思っているようだ。

 う~ん。それは難しいだろうね。

 

 昔のお酒は、嗜好品の用途以外にも保存用の飲み物の意味合いもあったと聞く。

 しかし、カクテルはお酒に果汁や水あめ等を混ぜ合わせたものだ。

 当然、日持ちさせようなんて最初から考えていない。商会で売って良いようなシロモノではないのだ。


 ちなみにドラゴンメニューの中で一番お客の反応が良いのは、タコ焼きだったりする。

 庭の片隅に簡単なかまどが作られ、料理人が”キリ”と呼ばれる千枚通しで忙しくタコ焼きをひっくり返している。

 この世界にも屋台の串焼き屋のような、いわゆる”実演販売”はあるようだ。

 しかし、見慣れない鉄板を使ったタコ焼きの作り方はやはり目新しいらしく、多くの客の目を引き付けていた。


 パーティーが始まってから既に半時(約一時間)。この時間帯でも、料理は運ばれてくる先からあっという間に無くなっている。

 タコ焼きは次の料理が運ばれてくるまでの時間を埋めるのに、客にとっての丁度良い時間つぶし? になっているようだ。


 とはいえ、お客の中にもそろそろ満足したのか、あちこちで話し込む人達も見られるようになっていた。

 僕の周囲にも野次馬達が集まり始め、興味深そうに僕をしげしげと見上げている。


『しかし、何度見ても魔訶不思議な生き物ですな。まさに怪物だ』

『およしなさい。ドラゴンは人間の言葉が分かるのですぞ』


 酒と美食で気が緩んだのだろう。うっかり口を滑らせた事に気付いてハッとする男。

 男は小さくなって頭を下げた。


『こ・・・これは申し訳ない、ドラゴン殿。どうかお気を悪くなさらずに』

『ヨロシクッテヨ』

『『『『喋った!』』』』


 いやいや君達、僕が喋るって知っているよね。

 屋敷に到着した時、僕が挨拶したのを忘れたの?


『いや、確かにそうなんだが・・・』

『挨拶をされるのと、こちらの言葉に返事を返されるのとではまた別物と言うか』


 ああ、なる程。挨拶だけならオウムやインコだって出来るしね。

 単なる挨拶とは違い、会話というのは言葉の意味が分かっていないと成立しない。

 それは確かに別物だよね。


『サヨウデゴザイマスカ』

『すごい・・・本当に会話しているわ』

『しかし、なぜ婦人の言葉なんだ? 声は男なのに』


 ふむ。それを聞きますか。

 いいでしょう。ならばお教えしましょう。僕がなぜオネエ言葉になってしまったのか。その秘められた過去を。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれはまだ僕がティトゥの実家、マチェイのお屋敷でお世話になっていた頃の話。

 当時のティトゥは今よりも何割か増しで中二を患っていた。

 そんな彼女にとって、僕の庶民的な言葉遣いはどうしても耐え難いものだったようだ。

 そこで彼女は、僕の言葉遣いを矯正するための特訓を決意したのだった。


『違いますわ、ハヤテ! そこは”ゴメン”ではなく、”恐れ入ります”ですわ! もう一度!』

『オソレ、イリマス』

『途中で言葉を切らない! もう一度!』

『オ、オソレイリマス』

『そう! 繰り返し!』

『オソレイリマス、オソレイリマス、オソレイリマス・・・』


 ティトゥのダメ出しは微に入り細を穿ち、特訓は次第に熱を帯びていった。


『違いますわ! そこは”オモウ”とは言わずに”存じます”と言うのですわ! ”存じます”は”知っている”と言う時にも使うのですわ! ではハイ!』

『ゾ、ゾンジマス』

『繰り返し!』


 思えばこの辺までは、まだティトゥも間違った事は言っていなかったと思う。

 雲行きが怪しくなったのは、どのあたりからだっただろうか・・・


『”オハヨウ”ではありませんわ! そこは”ごきげんよう”ですわ! はい!』

『ゴキゲンヨウ』

『”チガウ”ではありませんわ! そこは”さようでございましょうか”ですわ! はい!』

『サヨウデゴザイマショウカ』

『”イイヨ”では『あ、あの、お嬢様――ティトゥ様』


 ここで、ずっと僕達の訓練を見守っていたメイド少女カーチャから待ったがかかった。


『なに? カーチャ』

『ハヤテ様はオスのドラゴン――ええと、男性のドラゴンですし、その言葉遣いはいかがでしょうか?』

『「!!」』


 ティトゥと僕はハッと我に返った。

 特訓に熱が入っていたティトゥは、いつの間にか自分の使う貴婦人の言葉を僕に教えていたのだ。


 ・・・・・・。


 僕の冷ややかな視線を感じたのだろう。

 ティトゥのこめかみに一筋の冷や汗が流れた。


「ティトゥ、君ねえ――」

『”イイヨ”ではありませんわ! ”好ましゅうぞんじます”ですわ! はい! 繰り返して!』 


 この瞬間、僕とカーチャは気が付いた。


 この子、自分の失敗を認めない気だ!


「ちょ、あのね、ティトゥ」

『ティトゥ様?!』

『ハヤテ、さあ! ”好ましゅうぞんじます”ですわ! はい! はい!』


 はい! はい! って・・・

 ティトゥは眉を吊り上げて必死になって僕に詰め寄って来た。


 今のティトゥならこんなゴリ押しはしないだろう。

 しかし、当時のティトゥは主人として常に僕に対してイニシアティブを取ろうとしていた。

 つまり、今のような余裕が無かったのだ。

 まあ、変に頑固な所は今も変わらないんだけど。


『”好ましゅうぞんじます”ですわ! ”好ましゅうぞんじます”! はい! ハヤテ! はい!』

『・・・コノマシュウ ゾンジマス』

『! そ、そう! それでいいんですわ!』


 パアッっと安堵の笑みを浮かべるティトゥ。くそっ。可愛いじゃないか。

 カーチャは『それでいいんですか?』と言いたげな目で僕を見上げた。

 良くは無いけど、ティトゥが聞いてくれないんだから仕方がないだろ?


 結論から言おう。ここで引いてしまったのが全ての間違いだった。

 ティトゥはガンとして自分の誤りを認めず、僕はそれからずっと女言葉を言わされる羽目になってしまったのだ。

 あの時僕に「No!」と言える勇気があれば、今頃僕はオネエドラゴンにならずに済んでいたのかもしれない。

 たった一つのボタンの掛け違いが、こうして今も僕を苦しめているのである。 


◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕の後悔に満ちた回想は終わった。

 周囲には何とも言えない空気が漂っている。


 え? 何これ?


『・・・ええと』

『何と言えばいいか・・・』


 彼らは一様に僕と視線を合わせようとはしなかった。

 どうやら、あまりのしょうもない話に引いてしまったようだ。


 やがて屋敷から料理を乗せたワゴンがやって来た。


『お、おお、次の料理が来たみたいですな!』

『そうね! 今度はどんな料理かしら!』

『ドラゴンメニューは噂通り素晴らしいものですな!』


 お客達は料理の到着にかこつけて、蜘蛛の子を散らすように僕から離れて行った。


 ちょーっ! ちょっと待って! 何それ!

 いくらなんでも流石にその反応は傷付くんだけど!

 何を言えばいいのか分からないんだろうけど、そのリアクションは違うから!

 腫れ物に触るような扱いは違うから!

 そんなふうに可哀想な物を見る目で僕を見ないで!


 しかし今夜のパーティー中、彼らは遠くからチラチラとこちらの様子を窺うだけで、僕に近付く事はなくなったのだった。どうしてこうなったし。

次回「大食堂にて」

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― 新着の感想 ―
[一言] 子供の躾に失敗するとどうなるかって例ですねぇ~ティトゥの頑固さを矯正するチャンスもこうやって失われたと(ホロリ
[一言] くっ! ハヤテが自分は男だとさえ言わなければ、「ドラゴンの女性は声が低いんだなぁ」くらいにしか受け取られなかったものを……!
[良い点] オネエドラゴンというパワーワードW [気になる点] この時間帯でも、料理は運ばれてくる先から飛ぶように売れている。 いや、売ってはないんじゃないかな…
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