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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
442/785

その21 赤と緑

本日二話目の更新です。

読み飛ばしにご注意下さい。

◇◇◇◇◇◇◇◇


 メルトルナ家当主ブローリーは、馬車の中で窮屈そうに身じろぎをした。

 隣国ゾルタと国境を接するメルトルナ領を治めるブローリーは、日頃から屋敷にいるよりも騎士団を率いて領内を回っている時の方が多かった。

 自他ともに認める武辺者の彼にとって、馬車での移動もキッチリとした礼服も息が詰まるだけであった。


 ガタン。

 馬車は石畳を外れて屋敷に入ったようだ。ブローリーは窓から外の景色を眺めた。


「ん? この屋敷は、確かマコフスキーの屋敷じゃねえか?」


 ティトゥが使っている屋敷は、昨年まで上士位貴族のマコフスキー家が使っていたものである。

 ブローリーは王都に新年会で訪れた時、この屋敷で開かれたパーティーに参加した覚えがあった。


 馬車が止まると、ブローリーは無造作にドアを開けた。

 彼は驚きの表情で立ち尽くす使用人と目が合った。

 どうやら使用人が馬車のドアを開くために駆け寄った所、間髪入れずに中から開かれたので、どうして良いか分からずに固まってしまったようだ。


(ちっ。俺はどうにも落ち着きがなくていかんな)


 ブローリーは日頃から騎士団と行動を共にする事が多く、他の貴族のように使用人にかしずかれる場面に慣れていない。

 戦場や行軍中にいちいち使用人に身の回りの世話をされていては、まどろこしくて仕方がないからである。

 出来る事は自分でやる。敵はこちらの準備が終わるのを待ってはくれないのだ。


 ブローリーは手を振って使用人を下げると馬車から降りた。


『――って、なんだありゃ?!』


 軽く周囲を見回した彼の視線は、庭の入り口に佇む巨大な緑色の存在に釘付けになった。

 本体は軽く30フィート(※約10m)。大きく広げた翼には中央部分には派手な赤丸模様が描かれている。

 どう見てもまともな生き物ではない。大きな翼を持つ事から、空を飛ぶ存在であるのは間違いないだろう。


(空を飛ぶ異形? まさかコイツが噂のドラゴンなのか?!)


 ブローリーは屋敷の使用人に振り返った。


『おい。コイツが噂になっているドラゴンなのか?』

『ゴキゲンヨウ』

『うおっ! 喋った!』


 急に声をかけられて、ビクリと体を硬直させるブローリー。

 そして困った顔をする使用人。屋敷を警備する親衛隊の者達は、何度も繰り返された光景に苦笑している。


 これがメルトルナ家当主ブローリーと、ドラゴン・ハヤテとの初遭遇であった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕は来客者の出迎えを続けていた。

 真新しい馬車が止まると、中からティトゥパパとティトゥママが降りて来た。

 これってティトゥパパの馬車だったのか。

 ティトゥが以前使っていた馬車は、ティトゥパパが使っていた馬車――つまりはお下がりである。

 どうやらティトゥパパは娘に馬車を譲った後、新車を購入したようだ。


『ゴキゲンヨウ』

『や、やあハヤテ。出迎えありがとう』

『ごきげんよう、ハヤテ。今日は楽しませて貰うわね』


 ティトゥパパは僕がこんな場所にいるとは思っていなかったようだ。

 驚きに笑顔が若干引きつっている。


 彼は僕が新車を気にしているのに気が付いたのだろう。チラリと背後を振り返ると少し疲れた顔を見せた。


『私が譲った馬車ではティトゥの家格には足りないと思っていたが、まさかあんな馬車を用意するとはね。オットーは何を考えているんだ・・・』


 ああ。ティトゥパパはティトゥの馬車を見たのか。

 先日ティトゥはティトゥパパの寄り親、ヴラーベル家のパーティーに出たから、その時に目にしたのかもしれないね。

 ティトゥパパは勘違いしているみたいだけど、あれを作らせたのはナカジマ領代官のオットーじゃないから。

 聖国の宰相夫人カサンドラさんが、金に糸目を付けずに作らせた逸品を、貴族メイドのモニカさんが運んで来たものだから。

 多分この国でも滅多に見られない高級馬車(ハイエンド車)なんじゃないかな。


 ティトゥパパとティトゥママは、僕と一言二言会話を交わしてから屋敷へと案内されていった。

 ティトゥパパからはそこはかとなく、代官のオットーと似た苦労人の気配を感じた。

 流石はオットーの元上司、といったところか。



 その後も僕は来客の出迎えを続けた。

 やがてパーティーが始まったのか、屋敷の中からひと際大きな歓声が上がった。

 この辺りで客足も途切れていき、やがて使用人達がやって来ると僕を中庭に移動させた。

 中庭では既に立食パーティーが始まっていて、来客達が興奮気味に食事とお酒に舌鼓を打っている。


 ふむ。中々盛況な様子じゃないか。


 僕は上々の滑り出しに、パーティー成功の確かな手ごたえを感じていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 大広間には多くの貴族達が集まっていた。

 ちなみにティトゥの両親達の姿はここにはない。二人は有力商会の参加者と共に中庭にいるはずである。


 今回のパーティー会場は大きく分けて三か所。

 屋敷の大食堂と、大広間と、中庭の三か所である。

 そしてここ、大広間に集められているのは下士位貴族家の中でも特に有力な貴族家となる。

 例えばティトゥが初日に屋敷のパーティーに参加した、ネライ家傍系ルーベント家等がそれにあたる。


 料理が運び込まれると共に、会場には大きなどよめきが上がった。


「おおっ! あれがドラゴンメニュー」

「ほほう。これが本物のドラゴンメニュー・・・おや?」


 物珍しい料理に喜びの声を上げる来客達。

 しかし、それはすぐに驚きの声に取って代わられた。


「「「「「全然緑色じゃない!!」」」」」


 ナカジマ家の使用人は困った顔で苦笑するのだった。




 代わってこちらは大食堂。

 この部屋に招待されているのは領地持ちの上士位貴族家の当主達。

 参加者達は中央の大きな長テーブルに座って、料理が運ばれて来るまで会話を楽しんでいた。

 ここにいるのはこの国の領主達。とは言うものの、この屋敷の元の持ち主であるマコフスキー領の領主は参加していない。

 彼は嫡男が聖国のマリエッタ王女の誘拐計画を企んだ罪により、今頃は自領の屋敷で謹慎生活を送っているはずである。

 あるいは近い将来、新国王の即位に伴う恩赦があるかもしれない。


 参加者は時々チラチラと、上座に座ったホストの少女の様子を窺っている

 ハッと人目を引く美少女だ。流行の赤いドレスが、レッドピンクの豊かな髪色に良くマッチしている。

 貴族の令嬢としては日に焼けている点が残念だが、むしろ彼女の健康的な魅力を良く引き出していると言えるかもしれない。

 参加者の耳目を集めて止まないこの少女こそ、今回のパーティーの主催者、ナカジマ家当主、ティトゥ・ナカジマであった。


 ティトゥはさっきからずっとこうして黙り込んでいた。

 貴族の社交場を苦手とする彼女は、客に対して何を話せばいいのか分からないのである。

 相変わらず、といえば相変わらずだが、これは何も彼女だけに原因があるのではない。

 今の彼女が相手をしているのは、この国の身分制度(ヒエラルキー)でも上位に位置する上士位貴族達なのである。

 ネライ卿パンチラに目を付けられて以来、ずっと屋敷から出る事も出来ずにいた彼女にとって、そんな彼らの相手をするのは荷が重すぎるというものであった。


 ホストのティトゥは一番の上座――ではなく、一段下がった席に座っている。

 上座にはナプキン等の準備が整えられている点からも、誰かが座るのは間違いない。

 屋敷のホストが上座に据える相手。

 王城の親衛隊が屋敷の警備をしている時点で、周囲には誰が来るかおおよその推測が付いていた。


「ほほう。これが”カクテル”か。カクテルもドラゴンメニューとの事だが」

「ふむ。こちらのカクテルは辛口で私の好みだ」

「うそ――甘い。甘いお酒を飲んだのなんて初めて。・・・ああ美味しい。もう一杯頂戴。あ、次はそっちの赤いカクテルがいいわ」


 ナカジマ家の新人料理人ハムサスの作ったカクテルは、舌の肥えた貴族家当主達にも好評を博していた。

 彼らは物珍しい酒に口を濡らしながら、食事の用意が整うのを待っていた。


 ギッ。


 重いドアが開くと、若いメイドが大食堂に入って来た。

 上士位貴族全員の視線を浴びながら、柳に風と受け流し、こゆるぎすらしていない。

 聖国からナカジマ家にやって来た、押しかけメイドのモニカである。

 彼女のふてぶてしいとも思える豪胆さに、一部の参加者から「ふむ」と感心の声が漏れた。


「大変お待たせ致しました。ただいまから料理をお運び致します」


 モニカの言葉に、「もったいつけやがって。待ちかねたぞ」とガラの悪い悪態をつく者がいた。

 何人かが不快そうな表情で振り返ったが、誰もとがめる者はいなかった。

 男は「西のネライ、東のメルトルナ」と名高い、メルトルナ家の当主、ブローリーだったからである。

 モニカは「申し訳ございません」と慇懃な態度で頭を下げると、背後の使用人達に指示を出した。

 彼らの手によって、次々とテーブルにスープの皿が並べられる。


「なっ?! これは・・・!」

「赤いスープですか?」


 見慣れない真っ赤なスープに一瞬、ギョッとする参加者達。

 思わず鼻を押さえる者もいたが、意外な事にスープの皿からは彼らが予想したような血生臭い匂いは全くしなかった。


「・・・鮮やかな色彩だ」


 思わず声を漏らしたのは白髪の老人。ネライ家当主、ロマオ・ネライであった。

 鮮やかな赤色のスープ。その中央にはこれも鮮やかな緑のバジルペーストが乗せられ、赤と緑の見事なコントラストを描いている。

 このビビッドな色合いは、ある種の芸術的な美しさを醸し出し、彼の優れた審美眼に訴えかけるものがあった。


「はい。こちらは冷製トマトスープとなります」

「トマト?」


 聞きなれない食材に、思わず顔を見合わせる参加者達。

 中には聞き覚えがあるのか、「トマトって、まさかあの(・・)トマトの事かしら?」と、首を傾げる者もいる。

 先程悪態をついたブローリーも、今は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で自分の前に置かれた皿を見つめていた。


 こうしてナカジマ家主催の招宴会、そのドラゴンメニューがスタートした。

 コース料理の最初の一品目、スープが登場した時点で、参加者達は早くも未知の料理に心を掴まれていた。

次回「「No」と言える勇気」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昨日の晩の更新に気づいてなかったので一日で3話も楽しめて大変アリガタクゾンジマスW [一言] 嘘次回予告 「これは素晴らしい料理だ」 「我が家でこの料理人を雇ってやろう、光栄に思うがいい…
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