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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
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その14 タコパ

 翌朝。

 僕はティトゥからの報告で、見習い料理人ハムサスに作ってもらったカクテル”レジェン=ド=ラゴン”が、ティトゥ主催のパーティーで正式採用された事を知った。


「って、なんだよ”レジェン=ド=ラゴン”って! 僕はちゃんと”伝説の黄金都市レジェンダリー・ゴールデン・シティ”だって言ったよね?!」

『その名前は覚え辛いので不採用になりましたわ』


 ええ~っ。せっかく頑張って考えた名前なのに・・・。

 がっかりする僕に、ティトゥは申し訳なさそうにした。


『私の力が足りずにごめんなさいね』

「いや、いいよ。こっちこそ気を使わせてゴメン」


 まあ、カクテル自体の採用が見送られずに済んで良かったよ。

 頑張って作ってくれた見習い料理人のハムサスに悪いからね。

 名前の件でも、きっとティトゥは(パートナー)のために頑張ってくれたに違いない。

 頑張ったって上手くいかない時はある。ここは気持ちを切り替えて行こう。


 ――と、その時の僕は納得した。

 だが僕は勘違いしていた。ティトゥは僕の伝えた名前をすっかり忘れていたのだ。

 そして彼女はモニカさん達の前で適当に思い付いた名前を口にしてしまい、結果としてその名前が正式採用されてしまったのだ。


 後日、それを知った僕は呆れ返った。


「ティトゥ。君ってヤツは・・・」

『は、ハヤテが覚え辛い名前を考えたのがいけないんですわ!』


 僕にジト目で睨まれて逆ギレするティトゥ。


 僕は彼女に反省を促す意味も込めて、「しばらく君の味方はしないから。ユリウスさんとカーチャの味方をするから」と突き放した。

 その後、ティトゥは事あるごとに、ユリウスさん、カーチャ、僕の三人からお小言を貰い、かなり堪えた様子だった。

 とはいえ、ティトゥ本人よりも、はたで聞いている代官のオットーの方が気の使い過ぎで参っていたので、早々に突き放すのは止めたんだけど。


 おっと、あまり先の話をしても仕方がない。話を元に戻そう。

 カクテルは無事に採用されたが、「どの程度の量が確保出来るか詳しい話が聞きたい」との事だった。

 う~ん。そう言われても、僕は料理人じゃないからね。詳しい話は作ったハムサスに聞いて貰わないと。


 ハムサスは伝説の黄金都市レジェンダリー・ゴールデン・シティ改め、レジェン=ド=ラゴン以外のカクテルも研究して貰っている。

 お客さんにも好みがあるからね。出来れば後、二~三種類はあった方がいいと思ったのだ。


『他の味ですの?』

「レジェン=ド=ラゴンだけだと、甘いお酒がダメな人は困るだろ? それに料理によって合う合わないもあるだろうし」


 以前も言ったが、僕はあまりお酒を飲む方ではない。

 飲めないというわけではないが、飲むと直ぐに記憶を失くすから楽しくないのだ。

 周囲もそんな僕を気遣ってか、あまり飲み会に誘うような事はなかった。


 そういった訳で僕自身はお酒に疎いが、酒好きの友人は辛口のお酒を好んでいた印象がある。

 ジュースでご飯を食べないように、甘いお酒ではおつまみが美味しくないんだろう。きっと。


「じゃあ、今からハムサスに聞いて来るよ。ベアータに頼んでおいたミールキットの見本も取りに行かないといけないしね」

『なら、私も一緒に行きますわ。――何ですの? 今日はパーティーの予定は入ってませんわよ』


 本当かなぁ? あ、丁度メイドのモニカさんがやって来た。

 モニカさん、ちょっといいかな?


『なんですか? ハヤテ様』


 僕はモニカさんにティトゥの今日の予定を尋ねた。


『確かに今日はパーティーの予定は入っていませんね』


 パーティーは大掛かりなものばかりではない。

 むしろどっちかと言えば、そういった外向き(・・・)のパーティーは少ないそうだ。

 大抵は身内――寄り親が寄り子を集めて行ったり、立場や関係が近い者達を集めて行うものらしい。

 なる程。つまりは、お茶会の拡大版みたいな感じなのかな。


 モニカさんの説明に、ティトゥは小躍りせんばかりに喜んだ。


『ほらね! ほらごらんなさい!』

『でも、面会希望者は大勢詰めかけていますよ。それに午後からは当家で主催する招宴会に関して、トラバルト商会の集めた各商会の担当者達との打ち合わせが入っています』


 途端に「ぐぬぬ・・・」なティトゥ。


『だったら午前中に行って戻って来ますわ!』


 モニカさんはため息を付くと、『分かりました。面会希望者にはこちらで対応致します』と言ってくれた。


『イイノ?』

『どうせ使いの者達ですから。私の方でご当主様の代わりに話をうかがっておきます』

『ケド ティトゥ――『もう! ハヤテはこれ以上、余計な事を言わないで頂戴!』


 ティトゥは、せっかくモニカさんが折れてくれたのに、ここで気が変わってはたまらない、と焦ったのか、慌てて僕の言葉を遮った。


「ギャウー! ギャウー!(パパ! ママ!)」


 おっと、丁度ファル子達の散歩が終わったみたいだ。

 腕白ドラゴンのファル子は、今朝は土遊びをしていたのか、顔面とお腹を泥だらけにしている。

 そしてハヤブサは途中で遊び疲れてしまったのか、メイド少女カーチャに抱っこされていた。


『ファルコ、ハヤブサ。今からパパと一緒にコノ村に行きますわよ。カーチャに体を拭いて貰いなさい』

「ギャウー! ギャウー!(お空! お空行く!)」


 興奮したファル子はカーチャのスカートに飛びついた。

 カーチャはファル子に足を取られ、危うくハヤブサを落っことしそうになった。


『ちょっ! ファルコ様! 落ち着いて下さい!』

「ギャウー! ギャウー!(お空! お空!)」


 ファル子は全然、話を聞いていない。

 といった訳で、僕はティトゥとファル子達、それとカーチャを乗せて、コノ村へと飛び立ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「ブルド様。この度は当商会を選んで頂き、誠にありがとうございます」

「今日は王都に名高い姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー・ナカジマ様をご紹介頂けると聞き、年甲斐もなく胸が躍って仕方がありません」

「先日ウチの商会がお仕立てしたドレスが、ナカジマ様のお気に召して頂けていれば良いのですが」


 ティトゥの屋敷の応接間で待たされているのは、トラバルト商会の老会長ブルドを中心とした、数名の男達。

 彼らは老会長がモニカと相談して集めた、今度の招宴会の準備に携わる各商会の担当者達である。

 王都でも有名どころの商会が集まった裏には、老会長の力だけではなく、ティトゥとハヤテのネームバリュー、そしてティトゥが開発景気に沸くナカジマ領の領主である点も強く影響していた。


「うむ。ナカジマ様は礼儀に囚われない気さくな方だが、やや奇抜なお方でもある。そこの点は覚悟をしておいた方が良いかもしれんな」


 老会長は昨日出されたカクテルを思い出したのか、そう言って周囲に注意を促した。

 担当者達も、「確かに。ドラゴンの主人になるような方ですからね」と、一様に納得していた。

 もしもこの場にティトゥがいれば、「ハヤテのせいで私まで変わり者のように思われていますわ」とショックを受けたに違いない。


「それにしても遅いですな」

「この部屋に案内される時、カシーヤス様(※モニカの家名)に会ったが、”みーるきっと”? がどうとか言っておられたな。何やら準備に時間がかかるとも聞いたが・・・」


 この老会長の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、笑顔を浮かべた若いメイド――モニカが姿を現した。

 モニカの後ろには、使用人達が料理の乗ったワゴンを押している。

 彼らはモニカの指示で、各担当者達の前に料理を並べていった。


「あ、あの。カシーヤス様、これは? それにナカジマ様は?」

「ハヤテ様のアイデアです。ご当主様との話し合いを始める前に、是非みなさんにナカジマ家のドラゴンメニューを食べて頂こうと思いまして」

「なっ?! ドラゴンメニュー?!」

「これが?!」


 皿の上に乗っているのは、ソースのかかった一口サイズの丸い塊。

 貴族家との付き合いの中、様々な珍しい料理を食べて来た彼らにとっても、今までに一度も見た事が無い珍妙な料理である。

 ふわりと立ち昇る香ばしい匂いに、誰かがゴクリと喉を鳴らした。


 色々と聞きたい事はあるが、彼らが真っ先に思った事は一つだった。


「「「「「全然緑色じゃない!!」」」」」


 モニカは苦笑するしかなかった。




 モニカの説明によると、ナカジマ家のドラゴンメニューは必ずしも緑色ではないそうだ。

 困惑の表情で顔を見合わせる担当者達。


「こちらは”タコヤキ”という料理です。ハヤテ様がおっしゃるには、パーティーを代表する料理だそうです」


 パーティーの料理と聞いて、真っ先にハヤテが思い浮かべたのが”たこ焼きパーティー”――いわゆる”タコパ”である。

 大阪人でもないのに、なぜタコパ? それは本人にも分からない。

 何となく思い付いてしまったのだから仕方がないだろう。

 それはさておき。ハヤテは王都の屋敷に届けるミールキットに、以前ベアータに作って貰った”たこ焼き”をリクエストしたのだ。


 ちなみにこの料理。名前こそたこ焼きだが、中に入っているのはタコではなくエビである。

 それを知ったハヤテは、「たこ焼きなのにタコが入っていないなんて詐欺だ!」と、妙なこだわりをみせた。

 しかし、ティトゥをはじめとして、周囲の誰もがタコを食材として認めなかった。


『気味が悪いですわ』

『アタシもあれを料理するのはちょっと・・・』

『・・・(目を合わさないようにしている)』


 タコが全員から拒否られたため、ドラゴンメニューでは、タコの代わりにエビが入った”エビ焼き”が”たこ焼き”と呼ばれる事になったのだった。なんとややこしい。ハヤテの苦い敗北の記憶である。

 そしてボハーチェクの商人、ジトニークに特注で作ってもらった”たこ焼き鉄板”は、かなり高額な買い物となった。

 それを気にしたハヤテは、しばらくの間代官のオットーに不必要に気を使って、かえって彼から鬱陶しがられたという。

 しかし、幸いな事にたこ焼きはティトゥ達にも人気で、使用人達も小腹が空いた時に自分達で作って食べているようである。



 見慣れない茶色の塊に、担当者達は驚くやら警戒するやらで、なかなか手を出そうとはしなかった。

 そんな中、一人の男が覚悟を決めると、たこ焼きに手を伸ばした。

 彼はパーティーの料理を担当する事になっている商会の者である。

 ”ドラゴンがパーティーを代表する料理と言った”と聞かされ、商売柄、好奇心が抑えきれなかったようだ。

 

「は、はふ()っ! ほっ、ほっ! 熱っ!」


 一口噛むと中から溢れ出る熱い汁に、男は慌ててハフハフと口元を押さえた。

 ようやく口の中の熱が落ち着くと、彼はジッと様子を見守っている周囲の者達に振り返った。


「熱い! だが美味いですよ! 中はとろりとした濃厚なスープのような・・・これは小麦か? それを焼き目を付けて丸めているようですね。具材は鳥? この具材が良いアクセントになっていて――いや、とにかく美味いですよ!」


 男は一息に言い切ると、待ちきれないように次のたこ焼きを口に運んだ。

 彼の様子を見て、周囲の男達も次々にたこ焼きに手を伸ばした。


「はふっ! はふっ!」

「こ、これは、手が止まりませんな」

「単純な味のようだが癖になる。ただのスープではないという事ですか?」

「食感で鶏肉かと思ったが・・・違うな。これは何の肉だ?」


 たこ焼きは大好評だった。


 そしてたこ焼きを皮切りに、この後も、彼らの前には今まで見た事も無い料理が次々と運ばれて来た。

 そのどれもが、この場の全員に新鮮な驚きと衝撃を与えた。

 彼らは思いもよらない美食に大いに舌鼓を打つと共に、「今度のパーティーの料理はドラゴンメニューで決まりだ!」と、意見の一致を見たのだった。

次回「プラチナチケット」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>飲めないというわけではないが、飲むと直ぐに記憶を失くす ハヤテ君、それは世間では飲めないと言うのだ……。
[一言] お貴族のパーティーでたこ焼きとか斬新すぎませんかね…ハヤテくんホームパーティーとは違うんやでw
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