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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
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その11 何も聞かずにお願い

 そんなこんなでやって来ました、本日のもう一つの目的地。ランピーニ聖国のレブロン伯爵領。

 そう。お馴染みのラダ叔母さんのレブロンの港町である。

 メイド少女カーチャは、眼下の景色を見下ろし、感慨深そうに呟いた。


『レブロンに来るのも去年の夏以来になりますね』


 あれ? そうだっけ。いやいや、つい最近も――って、ああ、そういえばあの時にティトゥと一緒に乗っていたのは、ティトゥの妹のクリミラだったっけ。

 それより前に来たのは・・・ティトゥが領主になってすぐの頃か。

 あの時はカーチャは一緒じゃなかったんだっけ? だとしたらカーチャがこの港町を訪れるのは、去年の海賊退治の時以来になるのか。

 なる程、感慨深そうにする訳だ。


『あの時は凄く大きな港町だと思っていましたが・・・。最近チェルヌィフでもっと大きな町を見たせいか、少し見劣りして見えますね』


 カーチャは何とも言えない困った顔になった。

 あ、うん。君の気持ちは良く分かるよ。けど、それはもういいかな。

 つい先日、似たようなことをティトゥも言ってるし。

 あまり同じ話を繰り返されてもね。


『ネタ カブリ』

『な、なんですかハヤテ様! 待って下さい! 何でちょっと気の毒そうになっているんですか?!』


 カーチャ。君にはがっかりだよ。

 そして僕の冷たい視線に荒ぶるカーチャ。


 おっと、町中を爆走している馬車を発見。

 あれは多分、代官の優男君こと、メルガルの馬車だね。

 きっと僕を見付けたので、町の外の砦に向かっているに違いない。

 待たせてしまっても悪いし、さっさと現地に向かおうかな。


 僕は翼を翻すと、レブロンの港町に隣接する、レブロン伯爵領砦へと舞い降りたのだった。




 ファル子達が砦で忙しく縄張りの主張をしている所に、先ほど見た馬車が駆け込んで来た。

 馬車から降りて来たのは洒落た服を粋に着こなした伊達男。この港町の代官メルガルだ。

 やあ、最近ぶり。


『ナカジマ様――あれ? 今日はナカジマ様はいらっしゃらないんですか?』


 メルガルは不思議そうにキョロキョロと辺りを見回した。

 そういえば僕がティトゥを連れずに誰かと会いに来たのは初めてかもしれない。

 そう考えるとちょっと緊張して来たかも。


「「ギャウギャウー!(ごきげんよう!)」」

『あっと、これはええと・・・ファルコ様とハヤブサ様でしたか? ようこそレブロンに』

『あれ? ナカジマ様はいないんですかい?』


 メルガルに続いて、髭マッチョが馬車から降りて来た。

 チェルヌィフからやって来た鍛冶屋のドワーフ親方だ。

 いや、ああ見えて実はドワーフじゃなくて人間なんだけど。

 というか、これは願ってもない展開だ。わざわざ呼びに行ってもらう手間が省けた。

 今日の僕は彼に用事があったのだ。


『オヤカタ オサケ』

『? いきなりどうしたんです? ハヤテ様』

『おさけ? それって酒の事ですか? まさか酒が飲みたくて抜け出して来たんですかい?』


 おっと、つい気がはやって、説明をすっ飛ばしてしまった。

 ていうか、お酒を飲みにコッソリ抜け出して来るとか、親方は僕の事を何だと思っている訳? 僕はそんな吞兵衛じゃないから。




 僕は一度落ち着くと、二人に今日この場所を訪れた目的を説明した。


火酒(かしゅ)ですか? そりゃまあ、確かに俺達の船には積んでますが』

『――火酒(かしゅ)とはまた悪趣味な物を。ゴ、ゴホン。それで一体何に使うつもりなんです?』


 やっぱりドワーフ達は持っていたか。

 そして代官のメルガルはイヤそうな顔になった。

 あの様子だと、どうやら過去に飲んだ事があるみたいだね。そしてヒドイ目に会ったと。


『何に使うって、メルガル様。当然、飲むに決まっているだろうよ』

『いやいや、あんなものを飲むのはお前達と船乗りくらいだって。ハヤテ様。そちらでお酒が必要なら、私共が聖国酒を用意致しますよ?』


 そっちはそっちで有難いけど、今日の目的は火酒の方なんだよね。

 どうかな? いくらかで譲って貰えないかな? ――って、ああっ!!


 ・・・し、しまった。ついうっかりしてた。


「・・・・・・」

『ど、どうされたんですかハヤテ様?』

『ハヤテ様? 急にどうしたんです?』


 突然黙り込んでしまった僕に、二人が心配そうに声を掛けた、


 ああ・・・自分の思い付きに夢中になっていたせいで、僕はとんでもない事を忘れていた。

 ヤバい。どうしよう。

 この場だけでも何とかならないだろうか?

 ・・・・・・くっ。ええい、ままよ!


『・・・ナニモ キカズニ オネガイ』

『はっ?! えっ、い、一体何を?! あ、ま、まさか?! ――あ、いえ、私に出来る事でしたら勿論。いや、しかし、その、もしよければ、一度レブロン伯爵に口添えを頼まれた方が・・・』

『そうですぜハヤテ様。人間――じゃなかった、ドラゴンはやけになっちゃいけねえ。ナカジマ様とも良く話し合わないと』


 ん? 君達は何を言っているのかね?

 僕は親方に火酒を売って貰うために、こうして聖国まで飛んで来たというのに、自分が一文無しだった事を思い出しただけなんだけど。


 思えばこの世界に転生して以来、僕はずっとティトゥの所で居候生活をしていた。

 そのため、一度もお金を手にする機会が無かったのだ。

 ちなみに、おこずかいも貰っていない。火酒を買おうにも手持ちのお金なんて無いのだ。


 僕の説明を聞いて、メルガル達は呆れ返ると共に怒り出した。


『はぁ?! そんなしょうもない話だったんですか?! ていうか、そのくらいの代金、私がいくらだって出しますよ!』

『そうですぜ、全く人騒がせな! ”何も聞かずに”なんて言うもんだから、すっかり勘違いしてしまったじゃないですか!』


 そっちが勝手に勘違いしておいて怒られても困るんだけど。


 どうやら二人は、僕がティトゥと喧嘩別れをして、子供達を連れて飛び出して来たと思ったらしい。

 今日はティトゥが一緒じゃないのを、つまりはそういう理由(・・・・・・)だと勘繰ってしまったのだ。

 そして二人は、すっかりやさぐれてしまった僕が、昼間からやけ酒を求めていると思ったようだ。


 ええ~。何その酷い誤解。失敬だな。

 君ら僕を一体どういう風に見ているわけ?


「ギャウギャウー?(カーチャ姉、パパ達どうしたの?)」

『・・・ハヤテ様。父親として子供達の前でそういう話をするのは良くないと思います』


 なっ?! ちょ、カーチャ。これって僕が悪いの?!

 勝手に深読みしたメルガル達の方が悪いんじゃないの?!


 声を荒げて言い争いを続ける僕達の前に、立派な馬車が到着した。

 どうやらレブロン伯爵一家もやって来てしまったようだ。




『一体何を騒いでいるのかと思えば・・・』

「キュウキュウー!(くすぐったい! くすぐったいってば!)」


 ハヤブサを撫で回しながら呆れ返っているのは、マリエッタ王女の叔母。

 レブロンの領主の奥さん、ラダ・レブロン伯爵夫人である。

 ハヤブサは脇腹を撫でられてくすぐったいらしく、身をよじって叔母さんから逃げようとしている。

 ちなみにファル子は、叔母さんの子供達と追いかけっこをしている最中だ。最初はハヤブサも参加していたのだが、早々にラダ叔母さんに捕まってしまったのだ。


『火酒というのはチェルヌィフの酒なのか? 私は聞いた事が無いな。珍しい酒という事か』

『いや、珍しいというか・・・確かに聖国(こちら)ではあまり飲まれていませんね。チェルヌィフでは船乗りや職人が好んで飲んでいるようですが』

『ふうん。土地の名酒というヤツか』


 代官メルガルの説明に、気の無い返事を返すラダ叔母さん。

 あ、これって絶対に興味がなさそうなフリをしてしているだけだな。内心では興味津々なのが丸わかりだ。

 好奇心旺盛なラダ叔母さんが、珍しい物や新しい物を放っておくはずがないからね。


 ちなみに今回は、ラダ叔母さんの旦那さん、レブロン伯爵はこの場にはいない。

 どうしても外せない仕事があったそうだ。

 ラダ叔母さんは『すまんなハヤテ』と言っていたけど、別に領主が来てくれなくても大丈夫なんだけど。

 というか、忙しいようならラダ叔母さんも来なくても良かったんですよ?


『ハヤテ様! 持って来ましたぞ!』


 代官メルガルの馬車が到着すると、樽を抱えたドワーフ親方が降りて来た。

 親方には船まで火酒を取りに行って貰っていたのだ。


『ほうほう。それが火酒か』


 ラダ叔母さんはハヤブサを抱きあげたまま、素早く樽に近付いた。


『どれ? 一杯貰おうか』

『あっ! ま、待って下さい!』


 代官メルガルが止める間こそあれ。ラダ叔母さんはいつの間にか用意していたカップに酒を注ぐと、グイッと男らしく一気にあおった。

 あなたどれだけ興味津々だったんですか?


『ブフゥーッ!』

「キュウ!(汚い!)」


 そしてラダ叔母さんは男らしく酒を噴き出した。

 これほど見事な噴き出しは、今時、TVのバラエティー番組でも中々お目にかかれないだろう。

 ハヤブサは慌てて叔母さんの拘束から逃れた。

 キューキューと情けなく鳴きながらカーチャの下へと逃げ込んでいる。


『ブホッ! ゲホゲホッ! お、おい! なんなんだこれは!』

『・・・だからお止めしたのに。私の話を聞かないからですよ。これに懲りたら軽はずみに何にでも手を出すのをお止め下さい』


 涙を流しながら咳き込むラダ叔母さん。そしてそんな彼女を冷ややかに見つめる代官メルガル。

 日頃から言いたい事を色々と溜め込んでいるのだろう。彼の言葉には人の情というか温かみが感じられなかった。


 ドワーフ親方は苦笑した。


『コイツは売り物になる酒を取り出した後の、搾りかすから作った粗悪品でして。酒精が強いってんで俺達は好んで飲んでいますが、貴族様が飲まれるように作られてはいないんですよ』


 そう。火酒(かしゅ)とは蒸留酒。それも”かす取り焼酎”と呼ばれる物なのだ。


『そういう事は先に言え!』


 ラダ叔母さんは、鼻水をすすりながらドワーフ親方を怒鳴りつけた。

 いやいや、どう考えても完全にあなたの自爆ですよね? これってただの八つ当たりじゃん。

次回「火酒」

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― 新着の感想 ―
[良い点] そういやハヤテもだいぶ現地語うまくなってきたね…片言でもちゃんと意思疎通できるようになってるし。 [気になる点] ハヤテ…お酒…そういや以前お酒でやらかしたことがあったような… ハヤテ:キ…
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