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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
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その8 新人研修

 僕は王都を離れて大空へ。一路西へと飛んでいた。

 青い空には、一面に大きな入道雲が浮かんでいる。


「ギャウー! ギャウー!(パパ! あれスゴイ! 真っ白、もこもこ!)」

「ギュウー!(僕、あの上に乗ってみたい!)」


 久しぶりの飛行とあって、ファル子達はさっきから大興奮だ。

 そしてハヤブサよ。雲の上には乗れないからね。

 いかにも乗れそうに見えるって? いやいや、乗ったらスポンと落っこちて地面に真っ逆さまだから。


「こら、ファル子! 風防を引っ掻かない! ちょっと、カーチャ。ファル子を大人しくさせてくれないかな」

『・・・勝手に屋敷を離れて良かったんでしょうか』


 元気な子ドラゴン達とは逆に、メイド少女カーチャは心配そうな顔で操縦席に縮こまっている。

 カーチャには悪いとも思うけど、僕が出かけると聞いてファル子達が付いて来たがったからね。

 二人のお世話をしてくれる人が必要だったのだ。


「キュウウウン! キュウウウン!」


 興奮した二人は僕のエンジン音に合わせて遠吠えを始めた。

 カーチャが仕方なくハヤブサを抱き寄せる。


『ハヤブサ様もファルコ様も少し落ち着いて下さい。良い子ですから』

「キュウキュウ(カーチャ姉! 喉が渇いた! お水飲みたい!)」

『はいはい、水ですね。少し待って下さいね』


 カーチャは二人の飲み水の用意を始めた。彼女はファル子達の言葉は分からないはずなのに、二人の言いたい事が通じるようだ。

 うん。やっぱりカーチャに来てもらって正解だったね。


 おっと、二人に気を取られている間に、少し風に流されてしまったようだ。

 僕は進路を修正すると、ナカジマ領の西、コノ村を目指した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『今からコノ村に戻るんですか? 一体どうして?』


 ファル子達を連れて僕の所にやって来たカーチャに、僕は自分の考えを打ち明けた。


 今から十日後、ティトゥは屋敷に貴族家の当主達(と、王都の商会主)を招いてパーティーを開かなければならなくなった。

 落胆するティトゥが気の毒で見ていられず、僕は自分にも何か手伝える事が無いかと考えた。

 僕は一晩悩み明かした結果、ティトゥの主催するパーティーに、ナカジマ家の料理人ベアータの作るドラゴンメニューを出せばいいんじゃないか、と考えたのだ。


『パーティーにドラゴンメニューを? 確かに、王都のドラゴンメニューはベアータさんの作る料理とは違っていましたが』


 そう。王都で今、流行っているというドラゴンメニュー。それは緑色(多分、僕の機体色をイメージしているんだと思う)の食べ物というだけのまがい物だったのだ。

 本物のドラゴンメニューと、王都のドラゴンメニュー(偽)の違いは一目瞭然。

 だったら本物のドラゴンメニューを用意すれば、パーティーの目玉になるんじゃない?


『――なる程。ドラゴンメニューは見た目も珍しいですし、それだけでもお客様の目を引く事が出来るかもしれませんね』


 カーチャもティトゥパパのお供で、貴族家の屋敷のパーティーに参加した事があるようだ。

 多分、その時の事を思い出しているのだろう。

 顎に指をあてて『ふむふむ』と考え込んでいる。


『それで――あっと、ファル子様、逃げないで下さい。ええと、それでハヤテ様は、さっきコノ村に戻ると言ったんですね』

「ギャウー! ギャウー!(カーチャ姉、降ろしてー!)」


 カーチャは長い話に退屈したファル子が脱走しようとした所をサッと抱き上げると、納得したように頷いた。


『では、ティトゥ様には私の方から言っておきますね』

『ヨロシク』

「ギュウ?(パパ、どこかに行くの?)」


 ハヤブサが僕を見上げて可愛らしく小首をかしげた。

 あっ。これはマズい展開だ。


「ギャウギャウ!(どこかに行くなら一緒に行きたい!)」

「キュウキュウ!(私も! 私もパパとお空を飛びたい!)」

「ええと・・・困ったな」


 子ドラゴン達に詰め寄られて僕はすっかり弱ってしまった。

 休日に家に子供を残して、会社の接待ゴルフに出かけた事のあるパパなら、今の僕の気持ちを分かってくれるに違いない。


「ギャウー! ギャウー!(カーチャ姉、離して!)」

「ギャウー! ギャウー!(パパ! 行っちゃヤダ!)」


 ぐっ・・・。良心の呵責が。

 二人のためにもこのまま残ってやりたい気持ちが。

 でも、そうするとティトゥが。僕のパートナーが。

 ぐぬぬぬぬっ。

 ここは誰かが犠牲になるしかないのか?

 僕の良心か、ファル子達か、あるいはティトゥか。

 犠牲になるのは一体――


『お二人共! ハヤテ様は大事なお仕事なんですよ!』


 あ。カーチャがいたわ。


『キミニ キメタ』

『え? 何を決めたんですか?』


 こうしてカーチャは一人犠牲となり、二人のお世話係として僕に付いて来る事になったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 といったわけでコノ村に到着。

 まあ、(四式戦)にかかれば、簡単なお話な訳でして。


 ドラゴンメニュー以外にも考えている事があるからね。

 ここはサクサク~っと手早く進めておこうかな。


 僕は最近ではいつもそうしているように、村の外に着陸した。

 今やコノ村は人も物も増えすぎて、僕が直接着陸するには狭くなってしまったのだ。まあ普通に危ないしね。

 そしていつものように、代官のオットー達が村の外まで僕を出迎えに来てくれた。

 オットーは僕を見上げると、ティトゥの姿が無い事に気が付いた。


『あの、ハヤテ様。ご当主様は?』

『カーチャ オネガイ』

『あっはい。ええとですね・・・』


 カーチャはつっかえつっかえ、オットーに事情の説明を始めた。

 その間にファル子達は一直線に村の中へと駆け込んで行く。

 しばらく村を離れていたからね。きっと自分達の縄張りが気になるんだろう。


 僕は使用人達にお願いして村の中へ運んでもらった。

 動力移動(タキシング)で進んでもいいけど、エンジン音で迷惑をかけちゃうだろうからね。


『ベアータ! ベアータ!』

『はーい! あれ? ハヤテ様?! 今、アタシを呼びましたか?!』


 僕が呼びかけると、家の中からナカジマ家の小さな料理人、ベアータが顔を出した。


『ハヤテ様、戻って来ていたんですね。ご当主様は一緒じゃないんですか?』


 ちょうど昼食の仕込みをしていたのだろう。ベアータは大きなお玉を手に持ったまま僕の所にやって来た。

 まあそこはいい。そこはいつも通りの彼女と言える。

 問題は彼女の背後だ。


『こ・・・これがナカジマ家のドラゴン』

『キミ ダレ?』

『しゃ、喋った?!』


 ベアータの後ろで、僕を見上げてあんぐりと口を開いている青年。

 芋の皮むきをしていたのだろう。両手に芋とナイフを持っている。

 年齢は日本で言えば大学生くらいだろうか。

 ブラウンの髪に長身。線の細い大人しそうな青年だ。草食系イケメンといった感じか。


 ベアータは後ろを振り返ると青年を手招きした。


『こちらは見習い料理人のハムサスです! ハムサス! ハヤテ様に挨拶しなさい!』

『あっ! は、ハイ! 先日からここで働かせてもらっている見習いのハムサスです』


 そう言うと青年はベコリと頭を下げた。

 ハンサムならぬハムサスか。なる程(何が?)。




『最近、ここも人手が不足していましたから』


 代官のオットーの説明によると、王都のティトゥの世話に人手を取られた事で、ナカジマ家では人手不足が深刻化していたんだそうだ。


『いえ。どのみち増やす予定ではありました。これもいい機会かと思いまして』


 元々、ティトゥがチェルヌィフ王朝から帰って来た頃から、面接は進めていたそうだ。

 そして今回、多くの使用人がティトゥの世話をするために王都に行ったため、ナカジマ家では一時的に人手不足になった。

 その穴を埋めるため、オットーは予定を前倒しして新人を雇うことにしたんだそうだ。


 カーチャは周囲を見回した。 


『そういえば知らない人も結構いますね』

『ああ。必要な人数よりも多めに雇ったからな』


 どうやら今は新人研修期間という事らしい。オットーの口ぶりからして、働きの悪かった者や特に性格に難がある者は、正式採用の際には見送られるのだろう。

 そういった不採用枠も含めて多めに雇っている、という訳か。

 けど、全員問題無かったらどうするわけ? 働きの悪かった人から順番に解雇するとか?


『いえ。使える者は全員雇います』


 ティトゥも、今はこんな漁村の家に住んでいるが、いずれ屋敷が建てばそちらに移らなければならない。

 その時になってから人手不足で慌てないように、今から人を雇って事前に教育をしておきたい、との事だ。


『騎士団の時にはそれで苦労しましたからね』


 そう言ってオットーは苦笑した。


『あの。それで、ハヤテ様はアタシに一体何の用なんですか?』


 おっと、ベアータの事を忘れていた。

 カーチャ、説明をよろしく。


『さっきオットーさんに同じ話をしたばかりなのに・・・』


 カーチャはブツブツ言いながらも、ベアータに僕の考えを説明してくれた。

次回「ベアータの弟子」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 果たして王都には誰を連れていくことになるのやら…?いっそのこと料理人とミールキットとは別に王都での政治的な出来事に対処するためにユリウス老をつれていくのもありかもしれない。 [一言] ティ…
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