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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十四章 ティトゥの招宴会編
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その1 旧マコフスキー邸 

 王都に到着した僕達は、案内の騎士団員に連れられて貴族街を移動していた。

 流石に大通りのような大騒ぎは無いものの、あちこちの屋敷から僕達の姿をひと目見ようと、大勢の使用人達が集まっていた。


『ほほう。あれがドラゴンなのか?』

『スゴイわね! 馬車より大きいじゃない!』

『それよりあの異相を見ろよ。どこに顔があるんだ? 本当にあんな生き物がいるんだな』


 大きなどよめきが上がる中、王都騎士団員達はまんざらでもない笑みを浮かべながら僕達を先導して行く。

 どうやらティトゥの騎士の気分に浸っているようだ。

 まあ、ちゃんと仕事をしてくれるのなら、心の中でどう思おうと別にいいんだけどさ。


 やがて僕達は貴族街の一角にある大きな屋敷の前に到着した。

 どうやらここが王都での僕達の宿になるようだ。




 屋敷の前には興奮に頬を染めた騎士達が立哨している。

 装備から見てナカジマ騎士団員に違いない。

 そして僕達を案内してくれた騎士団員達は、分かり易い程ガックリと肩を落としていた。

 どうやら彼らの仕事はここまで。ティトゥの騎士という役割演技――ロール・プレイングもここまでという訳だ。

 ここからの護衛は屋敷の前の彼らに引き継がれるのだろう。

 お気の毒様。


『みなさん、どうもご苦労様でしたわ』

『『『はっ! 失礼いたします!』』』


 彼らのあまりの落胆ぶりに、ティトゥが同情してしまったようだ。

 彼女は馬車の中から騎士団員達に労いの言葉をかけた。

 途端に元気になる騎士団員達。現金なものである。

 これにはナカジマ騎士団員達も苦笑を浮かべている。


 ナカジマ騎士団はこの冬に帝国軍との戦争があった時に、僕達が王都騎士団から引き抜いた者達だ。

 つまり、王都騎士団員は彼らのかつての同僚にあたるのである。

 昔の同僚の姿に色々と思う所があるのだろう。


 ナカジマ騎士団が門を開けると、馬車は屋敷の敷地内へと入って行った。




 屋敷の玄関で待っていたのは、聖国メイドのモニカさんを始めとするナカジマ家のメイドのみなさん。それと見覚えの無い使用人達だった。

 モニカさんがいつもの人好きのする笑顔を浮かべたままで前に出た。


『長旅お疲れ様です』

『それよりも・・・本当にこの屋敷を使っていいんですの?』


 ティトゥは驚きの表情で屋敷を見上げている。確かに立派なお屋敷だからね。

 けど、ティトゥだって今は領主だ。本当なら領地でもこれくらいのお屋敷に住んでいてもおかしくはないんじゃないかな?


『はい。マコフスキー家が手放して以来、この国の王城で管理していたと聞いています』

『・・・そう。だったらいいんですけど』


 ティトゥは屋敷を使う事に、なんだかためらいがある様子だ。


 ん? マコフスキー家? どこかで聞いた事があるような、無いような・・・。

 って、あっ! ここって上士位貴族のマコフスキー家の屋敷だったのか!


 マコフスキー家はこの国でも上位に入る大きな貴族家だ。昨年、マリエッタ王女の誘拐計画に加わったために王家の怒りを買い、現在はお取り潰し待ったなしの状態になっている。はずだ。

 どうやら財産を整理した際に、この屋敷を手放したか没収されたかしたらしい。

 王都の一等地に建てられた大きな屋敷だからね。さもありなん。


 しかし、マコフスキー家の屋敷か。

 一年前のマリエッタ王女誘拐騒ぎの際、僕はパーティーの最中のこの屋敷の中庭に着陸した。

 あの時は聖国のラダ叔母さんに言われるままに着陸したんだけど、悪い事をしてしまったなあ。

 というか、あれがこの屋敷だったのか。

 正門から入ったのは初めてだから気が付かなかった。ティトゥは良く気が付いたな。


『昔、父に連れられて、この屋敷で開かれたパーティーに来た事があったからですわ』


 そう言うと、ティトゥは少しだけ昔を懐かしむ顔になった。


 マコフスキー家は聖国の後ろ盾を得ていた事もあって、王都での羽振りが非常に良かったらしい。

 下から数えた方が早いくらいの貧乏領地なのに、貴族街に大きな屋敷を持っているのはそのせいだ。

 というか、領地の運営はほぼ代官任せで、当主一家はずっと王都で生活していたらしい。

 そうして日々政争に明け暮れていたという。パーティーもコネクション作りの一環だったようだ。

 きっと何かの機会にティトゥパパもお呼ばれしたんだろう。


 ちなみに現在は領地の屋敷で謹慎処分を受けていると聞いている。

 自分達のしでかしで聖国という最大のスポンサーを失ったのだ。今頃さぞや肩身の狭い思いをしている事だろう。

 マリエッタ王女を誘拐しようとした相手だから同情はしないけどね。


『何しろ広い屋敷です。こちらで人を雇って住めるようにしましたが、その際に口利きをしてもらった者がナカジマ様にお目にかかりたいと申しております』

『口利きを? どなたですの?』


 僕達の王都の知り合いと言えば、まず思い浮かぶのが将ちゃん事カミルバルト新国王と、彼の部下のアダム特務官だ。

 そういえば、ナカジマ家のご意見番、ユリウスさんの息子さんが今の宰相をしているんだっけ。

 屋敷の話だし、ひょっとしたら宰相府関係の人なのかな?


『トラバルト商会の前会長です』


 誰それ?


 モニカさんが言うには、トラバルト商会は王都の大手商会だそうだ。

 不動産と金融業を営んでいるらしい。つまり金貸しだね。

 いくつもの貴族家が彼からお金を借りているそうだ。


 ちなみに後日知った事だが、ティトゥパパも王都にいる時はトラバルト商会からお金を借りているらしい。

 ティトゥから話を聞いて、『ああ、あそこか』と納得していた。

 ていうか、ティトゥパパも借金なんてしていたんだね。


『当然だ。まさか馬車に金を積んで王都に来るわけにはいかんだろう』

『ハヤテなら出来ますわ』


 なる程。銀行も無いこの世界。現金は全て自分で持ち運びになる。

 そんな大金、もしも使用人に持ち逃げでもされたら大損害だ。

 ティトゥパパに限らず、貴族は王都では商会から借金をして生活し、後日、領地に戻った時にお金や特産物の取引で支払いをするそうだ。

 つまりトラバルト商会は、現代で言う所のクレジットカード会社みたいなものなんだろう。


 そしてティトゥの言う事にも一理ある。

 僕なら樽増槽を財布代わりにしてお金の持ち運びが出来るし、なんなら謎空間に収納してしまえば盗まれる心配もない。


 しかし、ティトゥパパはティトゥの言葉に首を横に振った。


『商会との繋がりは必要だよ。そして彼らにとっては金の繋がりがそのまま貴族家との結びつきの強さとなるんだ。ハヤテに頼むのは他の仕事にしなさい』

『――それもそうですわね』


 借金の額の多さが結びつきの強さ、というのもいかがなものかと思うけど、今の説明でティトゥは納得した様子だ。

 彼女も今では領主様だからね。何か思い当たる節でもあったんだろう。



『分かりました。会う事に致しますわ』

『ではそのように連絡しておきます』


 おっと、僕が考え込んでいる間にティトゥ達の話が進んでいたようだ。

 どうやらティトゥは元会長とやらに会うことにしたらしい。一体どんな人なんだろうね?


「ギャウー! ギャウー!」

『あっ! ファルコ様! 待って下さい!』


 ここでティトゥのメイド少女カーチャが大きな声を上げた。

 そして彼女を振り切って脱兎のごとく走り去る桜色の子ドラゴン。

 どうやらファル子が長話に退屈して脱走したらしい。

 カーチャは慌てているが、ハヤブサを抱いているために追いかける事が出来ずにいた。


『全く、ファルコはいつも! みなさん、手伝って頂戴』

『『『『はい!』』』』


 こうしてティトゥは屋敷に到着早々、無駄に広い敷地内を、ファル子を捜して走り回る羽目になるのだった。




 夜。旅の疲れか、ティトゥ達は早々に眠りに付いたようだ。

 馬車とはいえ、王都では大騒ぎの中を移動した訳だし、気疲れもあったんじゃないかな?

 僕? 僕は疲れ知らずの体だから。それでも流石に精神的には疲労を感じたかな。


 僕が庭でぼんやりと王都の星空を見上げていると、屋敷の門の外で誰かが言い争う声が聞こえた。

 こんな夜中に一体誰が?

 門の様子を窺っていると、門番の騎士団員が一人の青年を連れて僕の所へとやって来た。


『ハヤテ様、チースです』

『チース ナニ? シーロ』


 そう、青年はチェルヌィフ商人のシーロだった。



『この男が、いいからハヤテ様に会わせろとうるさくて』

『この門番が、屋敷の人間はもう寝ているから明日にしろって聞かなくて』


 互いを指差して文句を言い会う二人。


『ベツニ イイヨ』

『・・・本当によろしいんですか? お休みの所だったんじゃないですか?』


 門番君が気を使ってくれている所を悪いけど、僕は睡眠を必要としない体だから。


『ベツニ イイヨ』

『ホラ。俺の言った通りだろ? ハヤテ様はこういう方なんだよ。それより席を外してくれないか? こいつはハヤテ様にだけ伝えなければならない大事な話なんだ』


 門番君はシーロを睨み付けたが、何も言わずに門の外へと戻って行った。


『ナカジマ家の騎士団員殿は真面目すぎますな。袖の下を渡そうとしたらつっ返されましたよ』


 シーロは苦笑しているけど、それは君が悪いって。

 僕はシーロの迂闊な行動にすっかり呆れてしまった。


 どうやらシーロは外で門番に止められた際に、「どうぞこれで穏便に」とワイロを握らせようとしたらしい。

 それに怒った騎士団員と揉めてしまったんだそうだ。

 何を言い争っていたのかと思えば。全く。

 ティトゥの屋敷を守るナカジマ騎士団員が、ワイロなんかで融通を利かせるわけがないだろうに。


『おっと、こんな話をしに来たんじゃなかった。ハヤテ様、メルトルナ家がこの王都で何やら企んでいる様子ですぜ』


 この国の上士位筆頭ネライ家に次ぐメルトルナ家が?

 不穏な話題に、僕は緩んでいた気持ちが引き締まるのを感じた。

次回「招かれざる客達」

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― 新着の感想 ―
[良い点] モニカさんお客さんだったはずがいつのまにかナカジマ家の家宰みたいなポジションにいるけど誰も疑問に思わないのだろうか...?w
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