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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十二章 ティトゥの怪物退治編
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その27 巨大謎虫ネドマ

 僕達は八番目に訪れた山間の町で、貴重な情報を得る事が出来た。


『ここらの話ではありませんが、帝国領側では最近、村を捨てる者達が増えているそうです』


 町長さんの話によると、ピエルカ山脈の中には小さな集落がいくつも存在するそうだ。

 元は木こりの一族が山に住みついた物だったり、村を追われた者達が仕方なく山に住み着いたりと、事情は色々とあるそうだ。

 この町はそういった山の村落との交流があるという。

 その中には、山を越えた帝国領の村もあったが、最近そういった村との連絡が取れなくなったんだそうだ。


『なんでも怪物が出たとか。実際、その噂が流れ始めた途端に、帝国領から来る者の足がパッタリと途絶えてしまったのです』

『きっと怪物のせいに違いありませんわ!』


 ようやくたどり着いた情報に、鼻息を荒くするティトゥ。


『その村の場所は分かりませんの?』

『それは流石に・・・本来ならあまりおおっぴらには言えない事ですので』


 それもそうか。その村の人達は隣国に密入国して他国の町と取引をしているわけだからね。


『とは言うものの、山に国境線が引かれているわけではありませんから。そもそも山に住む者同士は国に関係なく助け合っているようですし』


 つまりピエルカ山脈は、”国境”と言うよりも、”緩衝地帯”の意味合いが近い場所なんだな。

 ふむ。こうなってくると、実はバルム家と隣国のその何とか男爵家は、コッソリ裏で繋がっていて、互いの国に黙って相互不干渉の取り決めをしている、なんて可能性もあり得るか。


「ふうん。そんな事情があるんですわね」


 ティトゥが感心したように呟いた。


 どうやら僕は、いつの間にか自分の考えを口に出していたようだ。

 またやっちゃったか。

 ティトゥは僕の日本語が分かるようになったって、知ってたはずなのに。


「いや、今のは単なる思い付きだからね。あまり本気にしないで欲しいんだけど」

「ハヤテがそう言うなら、そういう事にしておきますわ」


 訳知り顔でほほ笑むティトゥ。

 あーもう。どうにもやり辛いったらないんだけど。


 話に置いてきぼりにされた町長さんが、不思議そうな顔をした。


『あの、今の言葉は? それに誰と話していたんですか?』

『お邪魔しましたわ。カーチャ、行きますわよ』

『あっ、はい!』


 ティトゥは一方的に町長さんとの会話を打ち切ると、メイド少女カーチャを連れて僕の操縦席に飛び乗った。


『前離れー! ですわ!』


 ティトゥのかけ声に慌てて道を開ける野次馬達。

 エンジン音と共に機首のプロペラが回転を始めると、彼らの間からどよめきが上がった。


『この辺りの山を探しましょう。きっと村を襲ったネドマがいるはずですわ』


 こうして僕はテイクオフ。

 野次馬達からの大きなどよめきを背に、ピエルカ山脈へと向かうのだった。




 ピエルカ山脈を越えて帝国領に入った僕達だったが、その調査は難航した。

 確かに山の中に村は発見出来たのだが、山の斜面に作られた小さな村には、僕が着陸出来るスペースが見つけられなかったのだ。

 それに――


『この村もお化けネドマにやられているみたいですわ』


 そう。村は既に襲われた後だったのだ。

 この村で既に四か所目。どこの村も家は一軒残らず潰され、小さな畑は荒らされ、周囲の木は乱暴に薙ぎ倒されていた。


『村の人達はみんな食べられちゃったんでしょうか?』

『それは・・・ いえ、無事に逃げられた人だっていますわよ! きっと!』


 元はマチェイの村娘だったカーチャには、この村の惨劇は他人事には思えないのかもしれない。

 悲しそうな表情を浮かべて沈み込んでいる。

 そんなカーチャにかけられたティトゥの言葉は、明らかに彼女を励ますためのものだったが・・・意外と可能性は高いかもしれないよ?


「どういう事ですの? ハヤテ」

「ええと、さっきの町の町長さんですら、怪物の噂を知っていたんだよね。だったら当事者である村人達はとっくに知っていたんじゃないかな。

 こんな山の中の小さな村だよ? 武器も人手も足りないだろうし、柵だってお世辞にも頑丈とは言えないよね。そんな場所で怪物から家族を守るのはおぼつかないと思わない?

 だったら、村人全員で逃げ出して、どこか安全な場所に避難していてもおかしくないと思うんだけど」


 僕の言葉にティトゥは小首をかしげた。


「安全な場所って―― この山にそんな場所があるんですの?」

「う~ん。例えば山を下りて麓の大きな町に逃げ込むとか? 町なら防衛のための兵士もいるだろう?」

「! それですわ!」


 ティトゥから今の話の説明を受け、カーチャの表情がパッと明るくなった。


『それなら村の人達は無事なんですね?!』

『きっとそうに違いありませんわ!』


 嬉しそうにする少女二人。

 しかし、僕は自分で言っておきながら、イヤな予感がしてならなかった。


 もし、この辺一体の村人が残らず山から逃げ出していたとする。

 人間という獲物を失った怪物はどうするだろうか?

 もし、怪物が村人を諦めずにその後を追っていた場合。

 村人の行動は、怪物を里に誘導してしまった事になるのではないだろうか?


『マチ。ムカウ』

『麓の町に向かうんですのね』

『分かりました』


 僕は自分の予感が外れてくれる事を願いながら、西に機首を向けるのだった。 




 世の中、悪い予感程、当たってしまうものらしい。

 眼下には怪物に襲われたと思わしき村が、哀れな姿を見せていた。

 地面の抉られたような窪みや、薙ぎ倒された田畑から推測するに、怪物はかなりのサイズのようだ。


 やはりこの怪物も、巨大オウムガイネドマ同様、ネドマが例の赤い石を取り込んだことで巨大化したものだろう。

 巨大ネドマの跡は真っ直ぐに街道を南西に向かっている。

 どうやらこの先にある町を目指しているようだ。


『ハヤテ! 急ぎますわよ!』

「了解!」


 僕はエンジンをフルスロットル。

 少し飛ぶとすぐに大きな城壁が見えて来た。多分、この辺りで一番大きな町に違いない。

 そして北側の城壁が大きく崩れている。

 壁の建材の瓦礫や石が辺り一面に散らばっている様子から見て、どうやらつい最近崩れたばかりのようだ。


 その時、ティトゥが叫んだ。


『町が襲われていますわ!』

『大きいです! あれはムカデのネドマなんでしょうか?!』


 巨大ネドマは既に町の中に侵入していた。

 どうやら城壁を崩したのはヤツのようだ。

 メイド少女カーチャはムカデと言っているが、百足にしては胴体が短い。

 多分あれのベースとなったのは、以前に隣国ゾルタで僕達が遭遇した”謎虫”だ。


 去年の年末、ティトゥ達の住むミロスラフ王国にこの帝国の軍が侵攻してきた。

 僕達は隣国ゾルタのオルサーク家と協力し、国境の砦で彼らの撃退に成功した。

 帝国軍は国に引き上げたが、その道中で彼らは謎の巨大な虫に襲われたのだ。


 ティトゥも知らなかったその虫を、僕は仮に”謎虫”と呼んでいる。

 その謎虫の正体は、今回の旅で虫型のネドマという事が判明していた。


 あの時の謎虫はあれほどの大きさではなかった。

 せいぜい体長3~4m程度。羽を広げた幅でも5mくらいだったはずだ。

 それに比べて、あの怪物はどう見ても100mはありそうだ。

 もしアイツが、あの時の謎虫が生んだ卵から孵った個体だとしたら、やはり赤い石を取り込んだ事で巨大化したに違いない。


 あっ。ひょっとして巨大化したから飛んでいないのか?


 確か、地球で最大の空飛ぶ生き物はコンドルだったと思う。

 アンデス山脈に住むコンドルは、体長1m程。翼の大きさも3m程だったはずだ。

 白亜紀の翼竜にはもっと大きな物がいたはずだが(※ケツァルコアトルス 体高5m、翼を広げた大きさは12mに達したと考えられている)、それでもあの巨大ネドマには全然かなわない。


 おそらくヤツは、巨大化してしまったが故に羽根が自重を支えられる限界を超え、飛行能力を失ってしまったんだろう。

 もし、あんな化け物が羽根を得て大陸中を自由に飛び去っていたら、探し出す事も困難だったはずだ。

 僕達的には助かったと言えるのかもしれない。


『イチド オリル』

『双炎龍覇轟黒弾を積むんですわね』

『急いでください。町の人達が襲われています』


 そうそう、その何とか弾こと250kg爆弾ね。

 カーチャの焦りも分かるが、僕の仕様上、この機体(からだ)は一度エンジンを切らないと爆弾を取り出せない。

 もどかしいがそういうルールな以上は仕方が無いのだ。


 僕は町の外の街道に降りると急いでエンジンをカット。爆弾を懸架すると再びエンジンをかけた。


『お化けネドマは真っ直ぐ町の南に向かっていました!』

『あれは! 逃げ遅れた人達ですわ!』


 巨大謎虫ネドマの進行方向、町の南側の門には逃げ遅れた人達が大勢集まっていた。

 どうやらヤツは彼らに狙いを定めたようだ。


 この時、僕の通信機から例のノイズが流れ始めた。

 やはりヤツは例の赤い石を持っているらしい。


 マズい。これで僕の存在がヤツに気付かれた。


『アンゼンバンド!』

『もう締めていますわ! 行って頂戴、ハヤテ!』

 

 悠長に爆撃進路を取り直す時間的余裕はない。一か八か。このまま一気に突っ込むしかない。

 ほぼ水平爆撃になるため、命中精度は落ちるだろうがやむを得ない。

 けど、仮に爆弾を外したとしても、対巨大オウムガイネドマ戦で20mm機関砲がヤツらに通じる事は分かっている。

 謎虫といっても、体が鋼鉄製の装甲板に覆われている訳じゃない。

 キチン質の外骨格程度では、20mm機関砲の銃弾を防げはしないはずだ。

 ならば反復攻撃で仕留める事が出来る。と思う。


 通信機からのノイズは益々大きくなっていく。

 完全に気付かれているはずなのに、巨大謎虫ネドマは僕の事などそっちのけで町の人達に襲い掛かろうとしている。

 一体どういうつもりなんだ?


 困惑する僕の視線の先で、ようやくネドマはこちらに振り返った。

 けどもう遅い。


 僕は十分に目標まで近付いた上で爆弾を投下した。

 250kg爆弾は糸に引かれたように一直線に巨大謎虫ネドマに吸い込まれた。


 どうだ?


 ドド―――――ン!!


 大きな爆発音が響き渡った。

次回「さらばチェルヌィフ王朝」

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― 新着の感想 ―
[一言] 時間を掛けて飛ぶ方面にも魔力を振り向けていたら、本当のドラゴンの様に飛行する事も可能だったのかも、通常の魔核でも人を襲う大型虫型ネドマが飛行できたぐらいだし
[良い点]  遂に王朝編も終わるのかな、ネドマ退治したとは言え、基本的には他国の事件で第三者だったこの章は、異国への大旅行編でしたね。  日本語ラーニングと言う望外なプレゼントを得られ、うるさい監督…
[良い点] ついにナカジマ領に帰るのか...長い旅路だったね。蕩児たちの帰宅ってとこだね、銀英伝的にいうとw [一言] 帰り際に帝国と王朝の対峙してる上空を通過するだけで帝国兵がなだれをうって逃げ出し…
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