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その6 裏庭の茶番

『よろしいでしょうか。ネライ卿。』

『はわわっ?!』


 はわわ元王子と化したパンチラ元王子が、ティトゥパパの声に我に返った。

 君、ちびってないよね? かなり放心してたみたいだけど。


『どうやら娘のドラゴンは、自分が娘から引き離されてどこかに連れて行かれるのではないか、と警戒しているようです』

『そんなはずは・・・!』


 ティトゥの声をパパは手を上げて遮った。

 ティトゥパパ、ナイス判断。


『その証拠に、こうやって娘がそばにいると大人しくしています』


 そこに騎士団の髭モジャおじさんが声をかけた。


『しかし、ドラゴンは我々の言葉が分かると聞きましたが?』

『ええそうです。ちゃんと事前に彼には今回の王都行きのことも伝えています』

『ならばなぜ?』


 ティトゥパパは顎に手をやり、考え込んでいる風を装った。

 多分もう答えは出てるけど、皆に現状を理解してもらうための時間を取っているんだな。

 こういう所は年の功だよね。


『恐らく我々と彼とでは、人間の世界の常識が異なっているためでしょう』

『というと?』

『我々は王都がこの国の中心であり、マチェイがその一部であることを誰でも知っています。

 しかし、彼にはマチェイが中心で、王都は単に知らない場所でしかないのでしょう。

 以前は娘が共に行くから大人しくしていましたが、今日は娘がいないところで彼を拘束しようとしたため、不安にかられて暴れたものと思われます』


 うんうん。さすがティトゥパパ。僕の言いたかったことをよく言ってくれたよ。


『ならば、そのケダモノに言い聞かせよ!』


 パンチラ元王子がティトゥパパに噛みついた。

 ティトゥの頬が怒りに朱に染まった。


『いえ、こうなっては私の言葉を信じてもらえるかどうか』

『ではどうやって出発するのだ! お前達のドラゴンだ、早くなんとかしろ!』


 なんとかしろと言えばなんとかなると思っているのかね、このボンボンは。

 ティトゥパパは困ったように、僕とティトゥを見た。


『ではこうしましょう。娘にはドラゴンが暴れないよう、そばにいさせます。幸い彼の背中には娘の乗れる鞍があります。道中もそこにいればドラゴンも大人しくしているでしょう。』


 ティトゥがパッと満面の笑みをたたえた。

 しかし、道中はティトゥと同じ馬車で移動しようと思っていたパンチラ元王子には、そんな意見は認められるはずもない。


 彼はとっさに難癖を付けようと口を開いたが、『それがいいですね。時間も押していますし』と、髭モジャおじさんに言われて黙り込んだ。

 自分に代案が無いのだ、ここでごねても出発が遅れるだけ、それが分かるくらいの分別はあったようだ。


 パンチラ元王子は、それでもつま先で地面を蹴っ飛ばすようにして裏庭から去って行った。

 慌てて追いかける数名の騎士団員。彼らは今日のパンチラ当番の人だろう。

 パンチラ当番。なんだか卑猥な言葉だ。


『後はお任せください。支度ができたらお呼びしますので』

『分かりました。我々は自分達の準備をしております』


 おじさん達の会話でこの場は終了。

 髭モジャおじさんを見送ったティトゥパパがティトゥのところに来た。


『お父様――』

『全く。二人とも、こういうことをするのなら、事前に相談して欲しかったよ』


 こっそりと娘に囁き、ため息をつくパパ。意味が分からずにきょとんとするティトゥ。

 そう、これは僕が仕組んだ狂言――いや、茶番(・・)だ。

 ティトゥパパは僕の思惑に気が付いて、アドリブで合わせてくれたのだ。


 日頃から僕を観察していたティトゥパパは、いつもの僕ならありえない行動に、何か考えがあると察したのだろう。

 もちろん僕のすることはティトゥのためを思っての行動だ。

 そこに気が付けば、後はティトゥにとって良い結果になるように考えを持っていけばいい。


 本当は家令のオットー辺りが気が付くんじゃないかと思ってたんだけど・・・

 彼は僕が思っていたより熱血漢だったようだ。自分で行動に出るとは思わなかったよ。


『さあ、みんな話を聞いたね。娘がいれば大丈夫だから、作業の続きを頼むよ』


 そう言うとティトゥパパは自分の支度のために屋敷に帰って行った。

 こうしてこの茶番は幕を閉じた。

 今日のパパはカッコイイよ。




 ゴトゴトと荷車に揺られ、ヨーロッパ風の村を行く四式戦闘機。

 う~ん、実に牧歌的だ。

 遠くで子供達が手を振る姿が見える。

 そういえば以前に話に出たメイド長の孫ってどんな子なんだろう?

 あの中にいるんだろうか。


 生前?の僕は平凡な外見だったせいか、女の子が自分を着飾ったり、携帯で自撮りしたりする気持ちが理解できなかった。

 でもこの身体になってからは女の子達の気持ちが分かるようになった気がする。

 今の僕は凄く絵になっている。

 ぜひ、情景王・山〇卓司先生のジオラマで見てみたいものだ。


 僕の操縦席にはティトゥの姿がある。

 特徴的なレッド・ピンクのゆるふわヘアーは、つばの広い貴婦人が被るような帽子に隠れて見えない。

 そういえばもう夏になっているのかな?

 最近カーチャのメイド服も半袖になっていたし。

 風防は解放しているけど、帽子があっても熱中症になりそうだ。

 こまめに水分補給を呼びかけよう。


 いくら僕の身体が藁の上に載せられているといっても、そもそも路面の状態が悪いので、結構振動を拾う。

 ティトゥは『馬車の中も大して変わりませんわ』って言ってたけど、お尻の方は大丈夫だろうか。

 腰を悪くしなければいいけど。


『ハヤテ。ありがとうございました』


 僕はティトゥの声に我に返った。

 その碧眼は真っすぐに僕を見ている。

 いや、お尻なんて見ていませんでしたよ?


『あなたはなぜ、こんなにも私に良くしてくれるの? 私はあなたに何もしてあげられないのに・・・』


 ふむ。ティトゥさんは僕に助けられたことで、逆に不安になっているご様子だ。

 まあ、昨日からティトゥはずっと不安に駆られていたわけだから、そこから解放されたからと言ってすぐに気持ちは切り替えられないよね。

 しかし、なぜと聞きますか。

 う~ん。まあ、どうせ言葉が通じないからいいか。


「君のコトが好きだからだよ」


『私もあなたのことが大好きですわ』



 は?



 ティトゥは『少し眠りますわ』と言って、帽子を目深に被って目を閉じた。

 その口は笑みを浮かべている。

 それを見た僕は事情を察した。


 ・・・からかわれた。


 まだ少女と言ってもいい年齢の女の子に手玉に取られるとは・・・

 僕、中身は成人男性なんだけどな。

 やっぱり女の子って分からない。

次回「のどかな道中」

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