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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十二章 ティトゥの怪物退治編
368/782

その20 完全勝利

いつもこの作品を読んで頂きありがとうございます。

総合評価が4000ptに到達したのを記念して、昨日と今日は二話、朝と夕方に更新しています。

読み飛ばしにご注意下さい。

 くそっ! 間に合え!


 250kg爆弾を食らって死んだと思われた巨大オウムガイネドマは、まだ死んでいなかった。

 沖に逃げようとする巨大ネドマの進路の先には、入港して来たばかりの大型船の姿が見える。

 ほんの数分で衝突してしまうだろう。

 その前に、何としてでもネドマに追い付いて、止めを刺さなければならない。

 せめて攻撃さえ当てられれば、ひるんで止まるかもしれない。


 タイミング的にはギリギリか?


 いつもよりもスピードが乗らない。

 プロペラに波のしぶきがかかる程の超低空飛行をしているせいだ。

 当たり前だが大気圧は海抜ゼロmに近付く程高い。つまり、低空は空気の密度が高いのだ。

 僅かな差だが、高速で飛ぶ戦闘機にはその空気抵抗の差が馬鹿にならない。

 かと言って高度を上げる時間は無かった。今はこのままやるしかない。

 

 ティトゥも固唾をのんで前方を見つめている。

 大型船も巨大ネドマに気付いたのだろう。ゆっくりと回頭を始めたが、その動きは絶望的に遅い。

 このままではぶつかる。


 ダメか?!


 僕が諦めかけたその瞬間。信じられない事が起こった。


 突然、巨大ネドマが大きな声を上げると身をよじったのだ。

 ネドマの僅かに残った触手は騎士団の男を捕まえていた。


 まだネドマから振り落とされていない騎士団員がいたのか?!

 しかし、ネドマは一体どうしたんだ?!


 疑問を感じていたのは僅か一秒程だった。

 泳ぎを止めたネドマの姿はみるみるうちに大きくなっていった。

 攻撃するなら今しかない!


 ドドドドドドド!


 僕の20mm機関砲が火を噴いた。

 巨大ネドマの触手が根元から千切れ、ヒビの入っていた”ずきん”が砕け、弾丸で抉れた内臓が弾け飛んだ。


 ギャアアアアアッ!


 ネドマは断末魔の悲鳴を上げて痙攣した。

 僕はネドマの悲鳴を浴びながら上空を通過。大型船の後部を掠めるようにして外海へと抜けた。


 驚いた船員が船から転がり落ちそうになっていたが、大丈夫だっただろうか?


『やっつけたんですの?!』


 ティトゥが背後を振り返った。

 手応えは十分にあった。――と思う。

 しかし、相手は250kg爆弾を食らっても死ななかった化け物だ。油断は出来ない。


 僕は焦る気持ちを抑えながら大きく旋回した。

 海面が近すぎて小回りが利かなかったからだ。いつもの感覚で機体を傾けると、翼端を波頭にぶつけかねない。


 果たしてネドマは・・・ピクリとも動いていなかった。

 今度こそ止めを刺せたのか?

 僕は注意深く観察を続けながら、ネドマの周囲を大きく旋回した。


『さっきの人は救助されたみたいですわね』


 ティトゥの声にハッと周囲を見回すと、大型船から降ろされた小舟が、波間に漂う騎士団員を助けている所だった。

 騎士団員はグッタリとして動かないが、特に外傷は見当たらなかった。

 気を失っているだけかもしれない。

 無事でいてくれればいいけど・・・


 こうして僕はしばらくネドマの様子を伺っていた。

 二~三度、機関砲を撃ち込んでもみたけど、ネドマは何の反応も示さなかった。

 ここでようやく僕は確信した。


 僕達は、遂にこの怪物を倒す事が出来たのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテは知らなかったが、巨大オウムガイネドマはハヤテの体を作るのに使われなかったマナの塊、”赤い石”を取り込む事で、自らの”魔法力”を強化していたのだ。


 かつて地球上には恐竜や巨大昆虫など、現代よりも大型の生き物が数多く生息していた。

 彼らが大型化した理由の一つとして、当時の地球が今よりも空気中の酸素濃度が高かった事が上げられている。

 つまり、酸素の濃度が高い分だけ、体に酸素を取り込む仕組みにコストをかけなくても済んだ、のだ。


 今回のオウムガイネドマは、強化された魔法力を使って体を高酸素状態に保っていたものと思われる。

 こうして余ったエネルギーを体の成長に使ったために、短期間であのような巨体にまで成長する事が出来たのだろう。


 その成長の核とも言える赤い石を、老騎士ローヴがネドマから剝ぎ取った。

 ハヤテの攻撃は、確かにネドマに止めを刺したのだが、もし仮にあのまま逃げられていたとしても、おそらく近日中にネドマは死んでしまっていただろう。

 赤い石はオウムガイネドマにとって、魔法力のブースターであり、巨体を維持するための生命維持装置の役目を果たしていたからである。

 オウムガイネドマは極限まで肥大化した巨体があだとなり、今や、魔法力のブーストがなければ生きる事すら困難な体になっていたのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 という訳で僕らは若社長バルトのドックへと戻って来た。


 今度こそ止めを刺した、とは思うけど、みんなとも相談の上で、しばらくはこのまま様子を見る事になった。

 さっきは油断して危うく逃げられそうになったからね。仕方が無いよね。


 明日までこのまま海上に放置して、それでも動きが無ければ、陸に引っ張り上げる予定だ。

 もし仮にネドマが完全に死んでいなかったとしても、陸にさえ上げてしまえばもう逃げ場は無い。

 最悪、放置しておけば干からびて死んでしまうだろう。

 オウムガイはヤドカリと違って、殻を捨てて逃げる事は出来ないからね。

 自分の巨大な殻がヤツの命取りとなるわけだ。


 代官のルボルトさんがティトゥに労いの言葉を掛けてくれた。


『ご苦労だった。今夜は俺の屋敷で(・・・・・)ゆっくりしてくれ』

『いえ、いざという時に備えて港の近くに宿を取ります(・・・・・・)わ』


 ティトゥの返事にルボルトさんのまなじりが上がった。


『だから! お前はなんでそんなに俺の屋敷を嫌うんだ!』

『だから! あなたはなんでそんなに私をお屋敷に招待したがるんですの!』


 いや、僕に言わせて貰えば、君らはどっちもどっちだと思うよ。


 主人同士のいつものやり取りに、呆れ顔の執事のホンザさんとメイド少女カーチャ。

 けど、ルボルトさんには悪いけど、僕も念のためにこの場で待機しておきたいかな。


『! ほら! ほら! ハヤテもこう言ってますわ!』

『・・・前から思っていたが、ハヤテはそこまで賢いのだから、お前が乗らなくても前もって命じておけば普通にやるんじゃないか?』


 あっ。それを言っちゃいますか。

 実際にはルボルトさんの言う通り、ティトゥは別に僕を操縦している訳じゃないんだけど、あ~あ、それを言っちゃうのか~。


『ナ、ナカジマ殿?』

『・・・宿に向かいますわよカーチャ!』


 完全にへそを曲げたティトゥは、ルボルトさんの制止を振り切って歩き去った。

 慌ててティトゥに付き従うカーチャ。

 ティトゥ、完全におこ(・・)である。どうすんの? これ。


『あんなに怒るような事か?』

『――今のは旦那様がよろしくなかったかと存じます』


 執事のホンザさんの最もな指摘に、口をへの字に曲げるルボルトさん。

 ホンザさんはなおも、『ついこの間も奥方様に対して』とか『お嬢様に対しても先日』などと、次々と追撃する。

 彼なりに色々と溜まっていたものがあったようだ。


 どうやらルボルトさんは女性との付き合い方が下手なタイプの人間らしい。

 気を使えないというか、女性の心にニブいというか。


 仕事は出来る人なのにね。

 まあ、弱点の無い人間なんてこの世にはいないから。あまり気に病む必要はないと思うよ。


 ホンザさんに叱られてしょげるルボルトさんに、僕はホッコリした。

 ルボルトさんは恨めしそうな目で僕を見上げた。  


『・・・ハヤテよ。俺に何か言いたい事がありそうだな』

『トクニ、ゴザイマセン』


 僕の返事に、ルボルトさんは苦虫を嚙み潰したような顔になるのだった。




 この日、ティトゥに置いていかれた僕はこのままドックで夜を明かした。

 月明かりの下、沖合に浮かぶ巨大ネドマはどこか幻想的で、「これぞいかにも異世界」といった感じだった。

 転生してから一年も経って、今更、異世界を感じるのもどうかと思うけど。


 結局、ネドマはあのまま息を吹き返す事は無かった。

 翌日、再びドックを訪れたルボルトさんの指示の下、巨大ネドマの引き上げ作業が開始された。


 ドックの外には、町中の人間がこの場所に集まっているんじゃないの? と思う程の黒山の人だかりが出来ていた。

 みんな作業の開始を今か今かと待ちわびている。

 ちゃっかり物売りが現れて、あちこちで飲み物を売り歩いているのが、いかにもチェルヌィフ風、といった所である。

 僕もいい加減、この国の国民のノリが分かって来たよ。


 騎士団員達がボートでネドマの殻に取り付き、ロープを掛けると、昨日も大活躍だった(らしい)大型巻き取り機がネドマを引き寄せ始めた。


『『『『『ソーレ! ソーレ! ソーレ! ソーレ!』』』』』


 男達の掛け声と共にジリジリと近付いて来る巨大ネドマ。


コロ(・・)を嚙ませろ! 陸に引っ張り上げるんだ!』


 若社長バルトの指示で次々と丸太が並べられた。


『『『『『ソーレ! ソーレ! ソーレ! ソーレ!』』』』』


 巨大ネドマの重量にミシミシと音を立てる丸太。

 ここが最後の踏ん張りどころと、顔を真っ赤にしてロープを引っ張る男達。

 何と言うか、男祭り? そのうちネドマ祭りなんて出来そうな感じだね。

 このダイナミックな光景に、海岸に押し寄せた野次馬達からも大きな歓声が上がった。


 やがて巨大ネドマの体が完全に海から出た。

 殻に溜まった海水が滝のように流れ落ちる。


 ここまでされてもネドマはピクリとも動かない。

 本当に死んでいるようだ。


『私達、本当にこんなに大きな怪物を倒したんですのね』


 ティトゥがネドマを見上げて感慨深そうに呟いた。


 ここまでくればあと一息。

 執事のホンザさんの指示で騎士団員達も加わって、引き上げ作業は一気に進んだ。

 良く見れば、お調子者の野次馬が何人も飛び入り参加しているようだ。


『『『『『ソーレ! ソーレ! ソーレ! ソーレ!』』』』』


 やがてネドマは完全にドックの中に引き上げられた。


 騎士団がネドマを取り囲む中、代官のルボルトさんが全員を見渡して言った。


『みな良くやってくれた! 今、この時をもって非常事態宣言を解除する!』

『『『『『おおおおおおおおっ!!』』』』』


 こうして、デンプションの港町を襲った怪物騒ぎは、人間側の完全勝利で幕を閉じたのであった。

次回「末期の水」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >大型船の後部を掠めるように~ ちょっと気になったんですけど、ココ後部で良いんでしょうか? 船は入ってきてたんですよね? オウムガイに気づいてハヤテが駆け付けるまでの間に既に180度回…
[一言] ネドマ同士で魔核を奪い合って魔力を強化する種が現れたらオウムガイネドマの様な化け物も増えて行ったりするのかな
[良い点] 四話連続投稿、有難う御座います!  災厄に打ち勝って非常事態宣言解除、現実も早くそうなって欲しい物です。  初代ウルトラマンには、地球を守るのは異星人のウルトラマンではなく、あくまで地…
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