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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十二章 ティトゥの怪物退治編
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その17 蒼穹逆落とし

 釣り作戦の餌となる仕掛け、棺桶檻をポイントに投下した後、僕はデンプションから南に下った丘の麓に着陸していた。

 ここからは丘が邪魔してデンプションからは完全に死角になる。

 巨大オウムガイネドマからも僕の姿は見えないはずである。



 僕とティトゥがボンヤリと時間を潰している所に、一台の馬車がやって来た。

 最近ティトゥ達が使っている、執事のホンザさんが用意してくれたあの馬車だ。


 御者が馬車のドアを開けると、申し訳なさそうにしながらメイド服の少女が降り立った。

 ティトゥのメイド少女カーチャだ。


『す、直ぐにお茶の仕度をしますね!』


 流石はホンザさんが準備してくれた馬車。簡易なイスやテーブル、それにお茶の道具一式が備え付けられているようだ。

 カーチャは御者のおじさんに手伝ってもらいながらお茶の準備を始めた。

 ティトゥはどこか手持ち無沙汰にしている。

 どうせヒマをしているなら、この機会に、カーチャからお茶の淹れ方を教えて貰ったらいいんじゃない?


 さて。こうして仕掛けは投下したものの、いつネドマがかかるかは分からない。

 僕達はこうして気長に待つ事しか出来ないのだ。

 いやまあ、釣りとはそういうものなのかもしれないけど。

 僕って釣りの経験は無いんだよね。


 お茶が出るのをのんびり待っていると、騎士を乗せた馬が走って来た。

 竜 騎 士(ドラゴンライダー)部隊所属の騎士だ。

 随分と慌てているようだけど、まさかもうネドマが釣れたとか?


『怪物がかかりました! 現在、現場では全員総出で巻き取り機に取り付いています!』

『! ハヤテ!』


 そのまさかだった!


 どうやらバッチリ入れ食いだったようだ。

 慌ててテーブルと椅子を片付け始めるカーチャと御者のおじさん。

 ティトゥはヒラリと僕の操縦席に乗り込んだ。


『サルート様には?!』

『別の者が知らせに走っています!』

『分かりましたわ! 前離れー! ですわ!』


 僕は翼の下に250kg爆弾×2を懸架。エンジンをかけると地上走行(タキシング)へと移った。

 ティトゥはカーチャに叫んだ。


『お茶はお化けネドマを仕留めてから頂きますわ!』

『お気を付けて!』


 カーチャの言葉にティトゥはまるで本物のパイロットのように敬礼を返した。

 陸軍式の完璧な敬礼だ。

 てかティトゥ。君、一体どこで覚えたの?

 敬礼と一口で言っても各国の軍隊で様式は異なる。

 手の角度、指を付ける位置、手のひらを見せるか見せないか、等々。

 例えば日本では敬礼は絶対に右手で行う。左手での敬礼はあり得ないのだ。もし右手に武器を持っていた場合、左手に持ち替えて右手で敬礼をしないと、上官にぶん殴られてしまうそうだ。

 勿論ティトゥの敬礼も右手で行われていた。


『ハヤテ! 離陸準備よーし! ですわよ!』

「えっ? あ、うん。離陸準備よーし! 離陸!」


 ティトゥにせかされながら僕はエンジンをブースト。

 タイヤが地面を切ると、フワリと空へと浮かび上がるのであった。




 僕は大きく南に飛びながら高度を上げていった。

 デンプションの港町からは離れてしまうが仕方が無い。

 巨大ネドマは僕の姿を見ると海底に逃げてしまうからだ。


 最大速度をもって、逃れようのない一撃を食らわせなければダメなのだ。

 そのためには低空で真っ直ぐ近付いていてはダメだ。

 上空からの逆落とし。

 急降下爆撃を狙うしかない。


 急降下からの引き起こしはティトゥの体に大きな負担をかけてしまう。

 正直言って、僕は彼女には地上に残っていて欲しかったのだが、ティトゥはガンとして譲らなかった。


 ・・・まあ、レフド叔父さんを乗せて絶叫ツアーで飛んだ時は大丈夫だったし、あの時よりも高度を控え目にすれば大丈夫かな。


 という訳で現在、高度二千メートル。あの時は確か五千メートルを超えてんだっけ。今回はまあこのくらいでもいいだろう。


『イク』

『了解ですわ!』


 僕は翼を翻すと、ネドマの待つデンプションの港町へと向かうのだった。



「見えた!」

『お化けネドマですわ』


 完全封鎖され、船一隻浮かんでいない静かなデンプションの海。その海岸線近くに異物が一つ存在していた。

 巨大オウムガイネドマだ。

 釣り作戦は今も順調に進行中のようだ。


 後は僕がアイツに爆弾を命中させるだけだ。


 僕の心に唐突に不安が湧いた。


 もしも、この攻撃が外れたら。

 もしも、250kg爆弾がアイツに通じなかったら。

 もしも、途中で気付かれて、攻撃前に海中に逃げられてしまったら。

 もしも、アイツが僕の知らない防御手段を持っていたら

 もしも、僕が、もしも、アイツが、もしも、攻撃が、もしも、もしも・・・


『ハヤテ。あなたと私なら絶対に大丈夫ですわ』

『ティトゥ・・・』


 僕の不安を感じたのだろうか。ティトゥがそう言って僕の計器に触れた。

 彼女の手のひらから伝わって来る温かさが、僕の緊張を解きほぐしてくれた。

 僕とティトゥは二人で竜 騎 士(ドラゴンライダー)

 成功は二人の成功。ティトゥに成功をプレゼントするためにも、ここで怖気づいてはいられない。


『アンゼンバンド』

『勿論、締めていますわ!』


 僕は眼下の巨大ネドマを睨み付けた。

 どうやら相手は釣りの仕掛けに気を取られるあまり、僕の接近に気が付いていないようだ。

 いける!


「行くよ! ティトゥ!」

「蒼穹逆落とし! ですわ!」


 僕は機首を下げると急降下(ダイブ)

 上空から巨大ネドマへと襲い掛かった。   




 まるで垂直降下のような光景だが、実際には急降下(ダイブ)角度は60度を超えない。

 これ以上角度が深いと、翼が揚力を失って機体を引き起こせなくなるからである。


 しかし、乗っているティトゥの体感では、墜落しているようにしか思えないのだろう。

 限界まで目を見開き、恐怖に声も出せずにいるようだ。

 彼女に声をかけてあげたい所だが、みるみる近付いて来る海面がそれを許さない。

 今、ここで集中を切らすと爆撃進路がずれてしまう。

 呼吸をするのもはばかられるような(※僕の体は呼吸をしないんだけど)緊張感が、僕を包んでいた。


 僕の存在に気付いたのだろう。

 巨大ネドマが必死に沖に逃げようとしている。

 しかし、浅瀬に乗り上げてしまっているらしく、触手をジタバタと動かすばかりでほとんど体は動いていない。

 これなら現在の爆撃進路でいけそうだ。

 決める・・・ 今だ!


 僕は250kg爆弾を切り離した。

 重量物が消失した事で飛行進路がブレそうになるのを、舵の操作でグッとこらえる。

 安定するかしないかのタイミングで無理やり機首を引き起こす。強烈なGにティトゥが『うぐっ』と息を詰まらせた。

 彼女の事は心配だが、今は機体のコントロールに集中しなければ。


 こうして僕が水平飛行へと移ったその瞬間――


 ドドーン!!


 僕の背後で大きな水柱が上った。




 僕が投下した二発の250kg爆弾は巨大ネドマに命中。大きな水柱を立てた。

 問題は何処に命中したかだ。

 最悪、二発ともヤツの強固な殻に阻まれて、本体にはダメージを負わせられなかった可能性もある。


 一刻も早く確認したいが、先ずはティトゥからだ。

 僕ははやる気持ちを抑えながら彼女に呼びかけた。


『ティトゥ。ティトゥ』

『だ、大丈夫ですわ』


 ティトゥは大きくため息をついた。


『ちょっと息が詰まっただけですわ。それよりもお化けネドマはどうなりましたの?』


 キョロキョロと周囲を見回すティトゥ。

 ネドマは――


『! やっつけたんですわね!』


 ティトゥの見つめる先。海岸近くでは、巨大オウムガイネドマが力を失ってグッタリとしおれていた。

 二発の爆弾は一発が入り口の殻近くの地面に当たり、もう一発が本体を直接捉えたようだ。

 殻の入り口は欠け、大きなヒビが入っているのが見える。

 そして本体に当たった爆弾は、ネドマの体の左、三分の一ほどを大きく抉り取っていた。


 流石にこれでは生きていないだろう。


 僕達は巨大オウムガイネドマを倒したのだ。

次回「ネドマの死体」

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― 新着の感想 ―
[一言] 海上自衛隊の啓礼は相手に手の内を見せないって意味で掌を相手側に向けないって教育隊でみっちり指導されたな~
[気になる点] 一見倒したっぽいけど魔力の核が無事なら再生したりするのでは...? [一言] やったか?
[良い点]  手を額に当てる敬礼自体は、元々騎士が上官への礼儀で顔を見せる為に兜のシャッターを開ける仕草の名残りらしいですから、正に中世な世界に生きるティトゥ達にとっても違和感無く敬礼として受け入れら…
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