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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十二章 ティトゥの怪物退治編
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その15 フィッシュオン

 いやあ、危ない所だった。

 僕は文字通り肩の荷を下ろしてホッと一息ついていた。


『後はお化けネドマが餌に食い付くのを待つだけですわね』


 ティトゥが背後を振り返りながら呟いた。


 デンプション港の沖合に現れた巨大オウムガイネドマ。

 港に出入りする船を襲い、人間を捕食するこの怪物を退治するべく、みんなの力を結集した”釣り作戦”が開始された。


 しかし、まさか濡れたロープがあれほど重いとは思わなかったよ。


 巨大ネドマを釣り上げる餌となるニワトリ。その肉が入った棺桶檻10個。

 それらの重量は結構なものとなったが、僕にとってはそれ程のものではなかった。

 なにせ僕は最低でもハードポイントに250kg爆弾を二個懸架出来る訳だからね。

 単純計算で、棺桶檻一個あたり50kgでも余裕となる訳だ。


 などと簡単に考えていたのだが・・・

 うかつにも僕は、棺桶檻に繋がれたロープの重さを、全く計算に入れていなかったのだ。


 水運商ギルドの副支部長のオミールさんが準備してくれた、ネドマの巣までのロープの長さは約2000m。

 水に浸かったロープを引きずりながら飛ぶのが、あれほど辛いとは想像もしていなかったよ。

 正直言って最後の方は本当にヤバかった。

 フレームはギシギシと悲鳴を上げるし、揚力は失われて失速しかけるしで、ギリギリもいい所だったのだ。

 こんな事なら棺桶檻の数を半分にしとけば良かった。


 後悔しても後の祭り。

 この四式戦闘機の機体に転生して以来、あれほど「もう無理かもしれない」と弱音を吐きかけたのは初めてだったんじゃないだろうか。


 でも、頑張った甲斐があって、大体狙い通りの場所までは運べた。

 後はティトゥが言った通り、巨大ネドマが餌に食い付くのを待つだけだ。


『もし、一度でダメでも何度も繰り返せば良いだけですわ!』


 ・・・ああ、その可能性があるのか。

 あれをもう一度・・・やる、のか? やれる、のか?


 いや、これ以上深く考えるのはよそう。

 今は上手く行く事を信じよう。

 念ずれば通ず。

 かつて燃える闘魂も言っていた。「出る前に負けること考えるバカいるかよ」と。

 行けば分かるさ! 元気ですかーっ! ダーッ!


『ハヤテ?』


 僕の謎テンションにティトゥが不思議そうな顔をした。


『ミナミ。ムカウ』

『そうですわね。予定通り私達は南へ向かいましょう』


 僕がこうして上空を飛んでいる限り、巨大ネドマは決して海底から姿を現さない。

 ヤツを油断させるためにも、僕は一旦姿を隠すことに決めているのだ。


 ここまではどうにか計画通り。

 このまま上手くいってくれればいいけど・・・


 ――もし、上手く行かずにもう一度飛ばなければいけなくなったら、今度は棺桶檻の数を半分に減らして貰おう。


 僕は密かに心に誓った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 またあの憎いヤツ(・・)が来ている。


 それ(・・)は冷たい海底で身じろぎをした。

 あの時受けた痛みをそれ(・・)は忘れていなかった。

 ヤツ(・・)の攻撃で失った触手はまだ再生していない。


 それ(・・)は空腹に耐えかねて、イライラと触手を蠢かせた。


 派手に食い荒らしたせいだろう。最近では周囲の魚もめっきり減っていた。

 そろそろ縄張りを変えるべきなのかもしれない。


 それ(・・)は遠くの陸地を見た。

 あそこには彼の餌となる地上の生き物が無数にいる。

 獲物はおかしな形の木に乗って頻繁に海の上を移動する。


 何のつもりか知らないが、それ(・・)にとってみれば、ご馳走がお皿に乗って来るのも同然だ。

 ちょっと体をぶつけてやれば、獲物は呆気なく海に投げ出されて無防備になった。


 つまり、それ(・・)にとってこの場所は、待っていれば勝手に獲物が通る恰好の餌場なのだ。


 しかし――


 それ(・・)は再び海の上、空の上へ、ヤツ(・・)の気配へと意識を飛ばした。


 先日の食事はヤツ(・・)が邪魔したせいで、ろくに腹を満たす事は出来なかった。

 忌々しい事にヤツ(・・)は、それ(・・)が獲物を捕らえようとする度に、狙いすましたかのように陸を飛び立つのだ。


 全く腹立たしい事この上ない。


 怒りでそれ(・・)の触手が激しく海底を叩いた。

 少しの間上空を旋回していたヤツ(・・)は、急に進路を南に変えると遠くへ離れていった。

 今までヤツ(・・)は、毎回必ず、元来た方向へと戻っていた。

 いつもにないヤツ(・・)の行動に、それ(・・)は小さな戸惑いを覚えた。


 しかし、その戸惑いは長くは続かなかった。

 海水に漂う豊潤な血の匂いがそれ(・・)を惹き付けたのだ。

 それ(・・)はもっと良く確認しようと、海底から体を起こした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 海上を旋回していたハヤテの姿が南へと消えた。

 どうやら予定通り、餌の入った檻をポイントに投下出来たようである。


 その事を確認すると、サルート家執事のホンザは、船舶ドックの若社長バルトへと振り返った。


「バルト」

「おうよ! 任せて下せえ! テメエら準備はいいか?!」

「「「「おう! ソーレ!」」」」


 ロープに取り付いた工員達が、一斉にロープを引っ張り始めた。

 ハヤテがこのドックを作戦の場に選んだ理由の一つ、大型巻き取り機がギシギシと音を立てて動き始める。


 巻き取り機は、船を海から引っ張り上げる装置だ。

 巨大な滑車を組み合わせる事で、重い大型船すら人力で引き揚げる事が可能なようになっている。


「「「「ソーレ! ソーレ! ・・・よーし! ストーップ!」」」」


 ロープのたるみが取れ、真っ直ぐになった所で巻き取りが止められた。

 ギルドの副支部長オミールが執事のホンザに向き直った。


「どうしましょうか?」

「どうしましょうとは? 作戦ではこのまま怪物が餌に食いつくのを待つ事になっていたはずですが?」


 オミールは少しためらいながら説明した。


「私もそれでいいと思っていましたが・・・ 怪物は船に乗った人間を襲いました。ならば動かない餌に食いつくでしょうか?」

「なる程。生餌しか食べない生き物もいますからな。怪物がそうでないという保証は無いわけですか」


 海の生き物の中には、海底に沈んだ死体を漁って食べる習性のものもいれば、生餌にしか食い付かないものもいる。

 巨大オウムガイネドマの習性は分からないが、オミールの懸念するように、動く獲物にしか反応しないというのもあり得る話だ。


「少しずつ巻き取りませんか? そうすれば、怪物からは負傷した獲物が海底を這っているように見えるかもしれません」

「・・・そうですね。バルト! いいですか?!」

「おお、任せてくれ! おい、聞いたかテメエら?! 今からゆっくりと巻き取るぞ!」

「「「「おう! ソーレ!」」」」

「ゆっくりだぞ! ・・・ソーレ! もっとゆっくり! ・・・ソーレ!」


 ホンザ達は再び沖合を見つめた。

 船一隻浮いていない海は波も穏やかで美しく、とてもこの海底に人食いの化け物が潜んでいるとは思えなかった。


 その時、巻き取りを開始していた作業員達の手が止まってしまった。


「おい! 何をしていやがる! 手を休めてんじゃねえよ!」

「いえね、バルトさん。巻き取り機が動かなくなってしまったんですよ」


 そうだそうだと同意する作業員達。

 バルトの額に青筋が立った。


「ふざけんな! テメエら、巻き取り機は万全にしとけと言っておいただろうが! コイツは作戦の(かなめ)なんだぞ! 俺達が恥をかくだけで済むとでも思っていたのか?!」


 ギシッ!


 バルトが叫んだ途端、ロープが大きな音を立てて軋んだ。

 突然の出来事に息を飲む男達。

 ピンと張張り詰めたロープはそのまま大きく左右に暴れた。


 いち早く我に返ったオミールが叫んだ。


「違うぞバルト君! これは巻き取り機の故障じゃない! 怪物だ! 怪物が餌に(・・・・・)食らいついた(・・・・・・)んだ(・・)!」

次回「あれが”双炎龍覇轟黒弾”」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 双炎龍覇轟黒弾が再びタイトルにw  章を跨いで長らく対峙してきた巨大ネドマともいよいよ決着へ  このまま一気に決着か、それとも想定外なアクシデントが発生するのか、既に賽は振られている  …
[良い点] 釣りか...去年やってた放課後ていぼう日誌ってアニメは結構好きでしたね。リアルで釣りはもう三十年くらいはやってないなぁ...
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