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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十二章 ティトゥの怪物退治編
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その14 釣り作戦開始!

 いよいよ、対巨大オウムガイネドマ、”釣り作戦”の決行日がやって来た。


『ハヤテ様、おはようございます!』

『オハヨウ』

『おはようございます!』

『ハイ。オハヨウ』


 ここは若社長バルトの所有するドック。

 浅黒く日焼けした作業員達が次々と出勤?して来た。


『おう、ドラゴン様! 昨日はよく眠れたかい?』


 お気遣いどうも。けど、僕は睡眠のいらない体なんだよね。

 ひと際元気なこの青年は、このドックのオーナーのバルトだ。

 朝夕はまだ肌寒いこの季節に、ノースリーブのシャツに日に焼けた逞しい腕をむき出しにしている。

 いかにも”ガテン系”といった感じの青年である。


『なあ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんで、アンタの背中に乗せてくれないかな?』


 バルトは重度の新し物好きで、時間が空けばこうして僕の周りをうろつき回っている。


『あの背中の透明、あれっていいよな。なあ、俺達人間にも同じ物が作れねえのかな? あれで船の甲板を作ったら明り取りが必要無くなってスゲエ事になると思うんだがな』


 確かに甲板全部が透明になったらスゴイ事になるだろうね。

 ティトゥが乗りたいと言っても、僕は断固として反対するけどね。

 だって下からスカートの中身が丸見えじゃん。


 それはそうと、僕の風防が人間に作れるどうかは・・・どうなんだろう?

 あ、いや、風防の素材であるヒシライトは人間が作った物だけど、この世界の工業化学力で作れるかどうか、となると話は別なわけで。

 叡智の苔・バラクに聞けば、製法自体は分かるかもしれないけど、産業革命もまだ始まっていないこの世界では、多分、量産は難しいんじゃないだろうか? 


『足の車輪みたいなのも独特だよなあ、これも俺達で再現出来ればなあ』


 今度は翼の下に潜り込み、主脚のタイヤを拳で叩くバルト。

 ティトゥよりも落ち着きのない男だね。全く。

 そんな風に僕がバルトを持て余していた所に、丁度ドックの工員が彼を呼びに来た。


『バルトさん。水運商ギルドの馬車が来ましたぜ』

『おっと、いかんいかん。お前ら巻き上げ機に油を差しとけよ。それと――』

『とっくに始めてますから、いいからバルトさんはお客の所に行って下さい』


 部下の工員に背中をド突かれるバルト。

 バルトは君らの社長じゃないの? と、一瞬ヒヤリとしたが、叩かれた本人は何とも思っていない様子だ。

 後で聞いた話では、バルトは今でこそ社長になったとはいえ、ついこの間まで彼ら工員に混じって普通に現場で働いていたそうだ。

 その際にはド突きド突つかれと、過激なコミュニケーションが当たり前だったらしい。


『船の修繕は危険な仕事だからな。言う事を聞かないヤツや適当な仕事をするヤツは、ぶん殴ってでも分からせとかねえと、仲間の命にもかかわるんだ』


 う~む。なんてワイルドな。なんというか、”ザ・漢の世界”って感じだね。


 さて。そんなこんなで、水運商ギルドの馬車を皮切りに、作戦に必要な道具が積まれた荷車や馬車が次々とやって来た。

 その中には昨日、鍛冶屋(ドワーフ達)に頼んだ棺桶檻もあった。


 ドワーフ達はゴツゴツした棺桶檻をトンカチで叩いてみせた。

 ゴツい棺桶檻はトンカチで叩かれた程度ではビクともしなかった。


『どうです? 言われた通りに作りましたが、こんなもんで大丈夫でしょうか?』


 棺桶檻は10個。それぞれが太い鎖でつながれている

 作った鍛冶屋によって多少サイズや形にバラツキはあるものの、注文通りにしっかりと頑丈に作ってくれたようだ。


 うん。大丈夫なんじゃないかな?


『ヨロシクッテヨ』

『そいつは良かった!』

『なんだコイツは! 見た事もねえぞ! 一体何に使うんだ?!』


 バルトは目を輝かせて棺桶檻を覗き込んでいる。

 自分達の仕事の出来栄えにドワーフ達はどこか誇らしそうだった。




 ティトゥがカーチャを連れてやってやって来たのは、丁度大量のニワトリが運び込まれている所だった。


『すごい数ですね』

『このニワトリが、お魚の代わりにお化けネドマの餌になるのですわね』


 そう。今日はこのニワトリを餌に巨大オウムガイネドマを釣り上げる予定だ。

 ティトゥは”魚の代わり”と言ったが、僕は計画の最初から餌にはニワトリを使うつもりでいた。

 昔、ネットだったかTVだったかで見た動画では、罠の中にニワトリを仕掛けてオウムガイを捕まえていたのだ。

 確か解説では、魚を餌にすると小魚達に餌を取られてしまうから、とか言ってた気がする。

 巨大オウムガイネドマが、どこまでオウムガイの習性を残しているかは分からない。

 しかし、人間を襲って食べている以上、魚しか食べない、なんて事は無いはずだろう。


 ルボルトさんの所の執事のホンザさんが、ティトゥを見つけてやって来た。

 後ろには水運商ギルドの副支部長のオミールさんを引き連れている。


『おはようございます、ナカジマ様。作戦準備は整っております』

『そのようですわね』


 ティトゥはサラリと答えたが、僕は彼女の目が微妙に泳いだのを見逃さなかった。

 随分と重役出勤だなあ、とは思っていたけど、やっぱり寝過ごしたんだな。

 ていうか、昨日の時点で「やるんじゃないかな」とは思っていたんだよ。


 どうやらティトゥは、いよいよ始まる作戦を前に、昨夜は興奮して中々寝付けなかったようだ。

 遠足の前日の小学生か君は。


『ハヤテ様に確認は頂いております』

『そう。だったら問題ありませんわ』


 僕に万全の信頼を寄せている風を装うティトゥ。

 しかし、心の中では早くこの話題を終わらせたい、と思っている事は丸わかりだ。

 付き合いの浅いホンザさんとオミールさんは騙せても、僕とメイド少女カーチャの目は誤魔化せないよ。


『そうですか。では準備にかかります』




 オミールさんの指示で、作業員達がナタでニワトリの頭をはねていった。

 そのまま大雑把な塊に切り分ける。

 血なまぐさい光景を平然と眺めるティトゥ達。

 現代日本人女性なら気分が悪くなる事間違いなしの光景だが、ティトゥもカーチャも眉一筋動かしていない。

 コノ村でも料理人のベアータがしょっちゅうこうしてニワトリをさばいているからね。

 この世界は、スーパーに行けば調理された鶏肉がパックで売っているような便利な社会ではないのだ。


 血も滴る新鮮な生肉は、それぞれ大きな麻の袋に詰め込まれると、棺桶檻の中に入れられた。


『親方、お願いします』

『おう。テメエら準備はいいな』


 鍛冶屋達は棺桶檻の蓋を閉じると、用意していたUの字のくさびを打ち込んでしっかりとロックした。


『これで怪物といえども、そう簡単にはこじ開けられねえはずだ』

『おおい! こっちの準備も終わったぜ!』


 若社長バルトが僕達の方へと手を振った。

 彼らは棺桶檻に繋いだロープが途中で絡まないように、地面に敷いてくれていたのだ。


『では、これより作戦を開始しますわ!』


 ティトゥの宣言にこの場の空気がピリリと引き締まった。

 執事のホンザさんが全員を代表して大きく頷いた。


『成功をお祈りしております』


 ヒラリと僕の操縦席に飛び乗るティトゥ。

 不安そうに主人の姿を見上げるカーチャ。


『前離れー! ですわ!』


 ババババババ


 プロペラの回転が始まると周囲から大きなどよめきが上がった。

 ゆっくりと地上移動(タキシング)を開始すると、直ぐにガクンと大きな抵抗を感じた。


『ハヤテ』

「大丈夫――だと思う」


 現在、僕の翼のハードポイントには投下用増槽が懸架されている。

 この国に来る途中、帝国のバルトネクトル公爵家で行った”カーチャ作戦”によって、投下用増槽は使用不可能な被害を負っていた。

 ――こびりついたフンや汚物の匂いが染み付いて取れなくなってしまったのだ。


 こうなってしまえば、もう荷物を運ぶのには使えない。

 僕は二度と役に立てないこの増槽に、最後の活躍の場を与える事にした。

 現在、投下用増槽には棺桶檻の鎖が巻きつけられている。


 つまり棺桶檻の運搬と投下用に投下用増槽を利用する事にしたのだ。


 棺桶檻の正確な重量は不明だが、250kg爆弾を二発、合計500kgまで懸架出来る僕に運べない重さではないはずだ。

 僕はジャラジャラと棺桶檻を引きずりながら滑走を始めた。


 ババババババ


 エンジンがうなり声を上げる。

 背後に引きずられる棺桶檻から大きな土煙が上がっている。

 予想以上の抵抗に中々スピードが乗らない。

 みるみるうちに近付いて来る波打ち際。


 その時、フッと、タイヤの下から地面の感覚が消えた。

 今だ!


 パッ!


 一瞬、棺桶檻の底が海面の波に触れ、白い水しぶきが上がった。


 あっっっぶねぇーーっ! 今のマジでギリギリだったじゃん!


 後ほんの一秒、引き起こしが遅れていたら、波に突っ込んだ棺桶檻に引っ張られて墜落していたかもしれない。

 一応、そうならないように、いつでも増槽を切り離せるように神経を尖らせてはいたが、逆にそちらに意識を取られ過ぎて高度を上げるタイミングが遅れてしまったようだ。


 僕は存在しないはずの心臓がバクバクと音を立てるのを聞いた気がした。


『さあ、お化けネドマのいる場所を目指しましょう!』


 僕の緊張を知らないティトゥが、嬉しそうに言った。


『ハヤテ?』

「・・・了解」


 わざわざ説明してティトゥを不安にさせる事も無い。

 それに説明している時間も無い。あっという間に棺桶檻の投下ポイントに着いてしまうからだ。

 僕は落ち着かない気持ちを無理やり切り替えると、低空飛行のまま目的地を目指すのだった。

次回「フィッシュオン」

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― 新着の感想 ―
[一言] 離陸した瞬間墜落する鳥人間コンテストでよくみる光景みたいにならなくてよかったw
[良い点]  いよいよ作戦開始、まさか繋いだ檻を引き摺って離陸するとは、想像以上にアグレッシブな作戦ですね。  鶏をシメるのに眉一つ動かさない、流石中世女子は見慣れてる、中世ファンタジー物では触れた…
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