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その4 月が綺麗ですね

今回の内容は、人によっては不愉快に感じる演出があります。

申し訳ありません。

 どうやらさっきやってきたアニメ兄ちゃんが例の元第四王子だったらしい。


 え? どういうこと?

 王都騎士団の人が来るって話じゃなかったの?

 それに元第四王子は、先月の戦争の時に勝手なことをやったから、彼の兄貴である将ちゃんの逆鱗に触れて王都に更迭されたって聞いたけど?


 後で僕のところに愚痴りに来た家令のオットー情報によると、戦争で失態を晒した元第四王子に対する温情としてこの任務を命じたのではなかろうか、とのこと。

 もっとも本人がそのことを理解していないようで、結構わがままし放題な感じらしいが。


 OH~! やっちまったな、この人事を考えた人。


 元第四王子が心を入れ替えて、真面目に任務をこなしてくれるとでも思ったのかな?

 いや、単に王族に対してポイント稼ぎがしたかっただけなのかもしれないね。

 どうせ自分が直接関わるわけじゃないし。

 王族には恩を売った。失敗したらそれは元第四王子が悪い。

 やれやれ。全く無責任なことをしてくれたもんだよ。


 長年苦しめられたティトゥを同じ屋敷で見続けたオットーは、心底元第四王子が嫌いで仕方がないみたいだ。

 まあ気持ちは分かるけど。

 流石に部下の前では愚痴れないので、僕のところに来たらしい。

 まあ、僕に聞かせても、僕が誰かに話すことは無いからね。そもそも言葉が通じないし。

 というか、初めて気が付いたけどオットーは僕のコトを結構好きなんだな。

 あ、BL的な意味じゃないですよ。

 レシプロ戦闘機とオジサンのBL・・・需要あるのか?

 僕が来てからティトゥも明るくなったし、屋敷の雰囲気も良くなったって感謝されたよ。

 色々と頭を悩ませていたんだね。



 今ティトゥは、体調が悪いということにして、部屋に逃げ込んでいるそうだ。

 けど、元第四王子は明日からの行程で、自分の馬車にティトゥを乗せるよう、ティトゥパパに言ってるらしい。

 ティトゥパパは、娘は体が本調子でないので迷惑をかけるわけには、と言って断ろうとしてるけど、いや、自分の馬車の方がそっちの馬車より金がかかってるから居住性がいいのだ、と言い返されたり、嫁入り前の娘が男性の前ではしたない姿を見せるわけには、と切り返すと、そもそも彼女はいずれ自分の妾だから問題ない、と言われたりと、今でも言葉の応酬が続いているらしい。


 パパ頑張れ。




 オットーが騎士団の世話をするために屋敷に戻ったことで、僕はまた一人になった。

 明日からの行程はどうなっちゃうんだろうな。

 夜空の月を眺めながら一人ぼんやりと考える。


 ・・・・・。


 ダメだな。一人になるとどうも悪い方にばかり考えてしまう。

 僕にも何かできることがあればいいんだけど。


 ガタン


 ティトゥの部屋の窓が開く音がした。

 犬が自分の主人が帰ってくる足音を覚えるように、僕もティトゥの部屋の窓が開く音が分かるようになった。

 忠犬ハヤテの誕生である。

 そのまま窓を乗り越えてティトゥが裏庭に降り立った。


『月が綺麗ね。』


 おや、ティトゥさん。このドラゴンに愛を囁くおつもりで?


 ちなみに今のはどういう意味かというと、夏目漱石が英語のアイラブユーをそう翻訳したという話でして・・・

 いや、昔インターネットで読んだ、うろ覚え知識なのです、スミマセン。


 ティトゥはこうやって夜たまに部屋を抜け出して、僕と話をしに来る。

 昼間さんざん一緒にいるんだから夜にまで来なくてもいいんだけど、僕が寂しがっているんじゃないかと心配しているようだ。

 いつもならティトゥは、そこら辺に座ったり、立ったままだったりするのだが、今日は珍しく僕のそばまでくるとそっと手で主脚をなではじめた。


 ・・・一人で部屋にいると不安になったんだな。


 さっき僕もそうだったから分かるよ。

 誰かと触れ合うことで安心する。

 そんな気持ちなんだろうね。



 ティトゥはポツポツと自分の心を話し出した。

 やはり元第四王子は彼女のトラウマみたいだ。

 自分でも自分の不安や怯えがコントロール出来ないみたいだ。


 ・・・その気持ち良く分かるよ。

 分かっているのに自分でもどうにもならない。

 「頑張れ」って言われても「頑張れない」その感じ。

 僕も地球にいたころ、仕事をクビになった後、対人恐怖症気味の引きこもりだったから。

 ひょっとしたら今、この屋敷の中で現在の彼女の気持ちが本当に理解できるのは僕だけなのかもしれない。



 この子は僕が何とかしてあげないといけない。

 僕が暗い思考の海に沈み込もうとしたその時・・・



 意外な言葉が僕の意識を引っ張り上げた。



「はあっ?! パンチラ?!」





 え~と、ティトゥさん。

 今、パンチラとおっしゃいましたか?


「パンチラ?」

『? ええ、パンチラですわ』


 オーケーオーケー。ティトゥの口からパンチラ頂きました。

 聞き間違いではなかったんだな。

 パンチラといえば、パンツがチラリの嬉し恥ずかしチラリズム。

 だが、この異世界では特にそういう意味はないようだ。

 だって息子の名前につける人がいるんだもん。

 しかも王様が。


『ネライ卿の名前はパンチラですわ』


 第四王子の名前は”パンチラ”でした!


 ぶわっはははははははははは!


 この国の言葉ではそういう意味じゃないにしても、また凄い名前を付けられたな第四王子!

 パンチラ王子。イヤな王子だな!

 まさか名前が原因で性格が悪くなったんじゃないだろうな?!

 いや、人の名前を笑ってはいけない。

 それがいくらイヤなヤツの名前だったとしても。

 あ! ちょっと待って。今凄いことに気が付いた。

 彼の名前はパンチラ。そしてネライ卿。フルネームは”パンチラ・ネライ”。


 ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!


 パンチラ狙い!

 いや、どんなミラクルだよそれ!

 絶対狙ってその家に養子に出しただろ! パンチラ狙いだけに。って上手くないよ!


 突然笑いだした僕にティトゥは困惑気味だ。

 だがゴメン、ティトゥ。なんか無理。ツボに入ってしまったよ。

 これで深刻な空気台無しだわ。




 散々笑ったせいだろうか、ティトゥは何だかご機嫌ナナメだ。

 でも笑ったおかげか一つアイデアが浮かんだ。

 やっぱり暗い顔してうつむいていても、いい考えは浮かばないね。

 これもパンチラ王子のご利益かな。

 ティトゥ、明日は僕に任せてくれ!

次回「出発前の騒動」

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― 新着の感想 ―
[良い点] パンチラ・ネライは流石にセンスがありすぎるwww
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