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その14 五百年前

 惑星リサール。

 僕の故郷、地球とは異なる世界に存在するこの惑星。

 この星はまるで写し鏡のように、非常に地球に似ていた。

 ユーラシア大陸に相当する大陸があり、アメリカやアフリカに似た大陸がある。

 地球と同じような人類が生まれ、地球の人類とよく似た歴史をたどって文明を発展させていた。


 今から五百年ほど前。

 惑星リサールの文明も、大体、その頃の地球の文明と同程度にまで発展していた。

 地球で言えば16世紀。ヨーロッパでは大航海時代。日本で言えば戦国時代。

 この星の人類もほぼそんな感じで繁栄していた。


 だがある日。突然の変化がこのリサールを襲った。

 魔法を媒介する新しい素子、マナの誕生である。



 宇宙には、我々を構成する物質以外の”質量”が存在している。

 それらはダークマターと呼ばれている。

 ダークマターは僕達人類の知る物質には干渉しない。なんと光にすら反応しない不干渉の物質である。

 ちなみに、僕達の知る通常の物質は、質量で言えばこの宇宙全体の5%に過ぎない、とも言われている。


 観測すら困難なそのダークマターの中に、変位しやすい不安定な元素があった。

 この元素を仮に”作用素”と呼ぶ事にしよう。

 ダークマターとして、宇宙全体に蔓延するこの”作用素”。

 コイツはエネルギーを吸収する事で、別の形の元素に変位する事があるのだ。


 この変位した元素を、魔法元素”マナ”と呼ぶ事にしよう。

 マナの特徴はまた後で説明するとして、今、ここで大事なのは、マナは僕達の知る物質に干渉する事の出来る”通常の元素”である、というところだ。

 つまり作用素は、エネルギーを受けて変位する事で、ダークマターから通常の元素となる、というわけだ。


 ある日。この惑星リサール上で作用素の変位が、大量に発生した。

 原因は不明。

 その空間内に存在していた大量の作用素が、一度にマナに変位した。

 本来であれば、これらのマナは直ぐに元々存在していた物質と反応して、エネルギーになって消えたはずである。

 なぜなら変位したばかりのマナは励起状態――高エネルギー状態にあり、周囲の物質と反応しやすいからである。


 ただし、この時はその量があり得ない程膨大だった。


 大量発生したマナは、その直後に大量の物質と反応した。

 その結果、核爆発を超える大爆発が起きてしまったのだ。




 その被害は甚大だった。


 爆発現場は地球で言えばユーラシア大陸のほぼ中央。

 惑星リサールではヒマラヤのような巨大な山脈が連なっている場所だった。


 この大爆発の結果、大陸は真ん中から吹き飛び、残された大地は二つに千切れ、ティトゥ達が住むこの大陸と、今は魔境と呼ばれている東の大陸とに分かれる事になった。


 だが、被害はそれだけにとどまらなかった。


 本来であれば、即座に消滅するはずのマナが、惑星上の大気に残ってしまったのだ。

 あまりに大量に発生し過ぎたせいで、消滅しきれなかったマナがエネルギーの低い基底状態に達し、物質として安定してしまったのである。


 大気中の大量のマナは、この惑星に住む生き物にとって、極めて危険な”毒”と化してしまった。


 突如惑星を襲ったこの環境の激変に、耐えられなかった数多くの生き物達が命を失った。

 この時絶滅した種も多かったようである。


 当然、人類もその例外では無かった。


 多くの人達がマナに順応出来なかった。

 彼らは苦しみの中、命を失い、人類の総人口は激減した。

 しかし、人類を襲った悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。


 大爆発による惑星の気候の変動。

 いわゆる”核の冬”の到来である。



 爆発によって成層圏まで噴き上げられた粉塵は太陽光を遮り、10年にも及ぶ長い冬の時代をもたらした。

 この大災害と、それに続く厳しい環境変化で、全ての人類は死に絶えた――かに思われた。


 だが、それでも人類は滅んではいなかった。

 僅かに残った人類は安全な土地を探して身を寄せ合い、僅かな食べ物を分け合い、やがて登場した偉大な指導者の下に一つの国家を築いた。


 この国の名こそ”大ゾルタ帝国”。


 かつてこの大陸を支配した大帝国の誕生である。



 大ゾルタ帝国において、言葉と文字は統一されていた。

 これはこの国が真の人類救済を目指していたからに他ならない。

 人種の違いや言語の壁は、今の厳しい時代に、人間同士が助け合って生き抜くための、足かせにしかならなかったからである。


 同じような理由で宗教も廃止された。

 とにかく大ゾルタ帝国では、徹底して人を隔てる原因を排除していったのだ。

 そうしなければ生き残れない。そんな厳しい時代だったのである。


 この時の徹底した統一化で、多くの優れた知識や、思想、哲学、技術が失われた。

 今まで使っていた言語を捨てるという事は、今まで書かれて来た書物を捨てるという事に他ならないからだ。

 厳しい時代を生き残るためとはいえ、こうして失われた知識は、後の人類の文明の発展を大きく停滞させる原因となってしまった。


 僕がこの世界に転生して以来、ボンヤリと疑問に感じていた事がある。

 それはこの世界の科学が未発達過ぎるという点だ。

 特に航海技術の未熟さは目に付いていた。

 この惑星リサールでは、一度全滅寸前まで人類の人口が減った弊害で、今でも国土の広さに対して人間の数が割と少ない。

 そのため危険を冒してまで、新天地を探して外洋に出る機会が少なかったのだろう。


 火薬や印刷技術が見当たらないのも不思議だった。

 けどそれも、この時の知識の断絶で全て失われてしまった、と考えれば理屈は通る。


 そして、ティトゥ達が大ゾルタ帝国以前の歴史を知らないのも当然だ。

 みんなは大ゾルタ帝国が、それ以前の歴史を抹消したと思っているみたいだけど、実際は人類の歴史が失われた焦土の上に帝国は誕生していたのだ。




 この惑星リサールの人類の歴史を激変させたマナの大爆発。

 今度はその原因となったマナについて、少しだけ説明しなければならない。

 

 マナは今では極当たり前にこの惑星の大気中に溢れる高エネルギー元素である。

 内包するエネルギーは大きいが、それ単体では不思議と安定している。

 かつての大爆発は、誕生したばかりで励起状態にあった事と、一ヶ所に大量に発生した事による高密度状態におかれたためである。


 マナは物理法則に従うが、自然界の四つの力、重力、電磁気力、強い力、弱い力、に次ぐ第五の力と考えた方がすんなりいくかもしれない。

 名前を付けるなら”魔法力”だろうか?


 マナは基本的にはこの魔法力にしか反応しない。

 しかし、今までマナが存在しなかったこの惑星には、魔法力を制御する方法も無ければ、それを利用する生物もいない。

 いや、いなかった。


 いち早くそれらに対応したのが、チェルヌィフから遠く東の海の先にある”魔境”に棲む、”ネドマ”という生物なのだ。


 ネドマは体内に”魔核”と呼ばれる特殊な器官を持っている。

 彼らはその魔核によって大気中のマナを操り、魔法力を行使する。

 つまりは、”魔法を使う事が出来る”のだ。


 僕達が以前に見た黒い”謎虫”。

 あれも魔法を使う事で、虫のくせにあれ程の大きさの体を維持していたのだ。


 つまりネドマは、この惑星の変化に適応した、進化した次世代の生物、という事になる。


 なら、人類はいずれ彼らによって淘汰されるべき古い種なんだろうか?

 いや、違う。人類も新たな環境に適応するべく、その体内に魔核と同様の働きをする部位を発達させていたのだ。


 それは大脳の一部で、その発達は個人差が大きい。

 しかし、今では生まれつき誰もが必ずその機能を持っている。

 というよりも、今の人類は、この能力で五百年前のマナの増加に適応出来た人間達の子孫なのだ。


 カルーラ達小叡智(エル・バレク)は、バラクによって”魔法が使えるように魔法力を開花させられた存在”である。

 先程僕がバラクから受けた”直接リンク”。

 あれにより対象の大脳は魔法力による刺激を受け、魔法の使用方法を学ぶ。

 まだ脳の成長が未発達な6歳以下の子供の方が、魔法力の影響を受け入れやすい。

 カルーラ達が子供の頃に小叡智(エル・バレク)に選ばれた理由がそれである。


 ちなみに、カルーラはバラクから日本語を与えられたと思っているようだが、実は違う。

 彼女は自分達の魔法で僕の日本語を、自分達にも分かる言葉に翻訳して理解しているのだ。

 つまり彼女達は無意識に”翻訳”の魔法を使っているのである。


 小叡智(エル・バレク)に選ばれるのは大脳の魔法力が発達した者だけ。

 当然だ。

 ”翻訳”の魔法が使えなければ、日本語しか喋れないバラクの言葉は理解出来ないからだ。

 カルーラ達は、たまたま他人より魔法力が強かったから小叡智(エル・バレク)に選ばれた、というわけだ。

 

 こうして惑星リサールでは次世代の生物ネドマが誕生。そして人類を始めとした既存の生物も次々とこの新たな環境に適応していった。


 そんな進化の引き金となったマナ。


 そのマナそのものから発生した、全く新たな生物が誕生した。


 いわば”魔法生物”と呼んでもいいその存在。

 だがそれは生物では無かった。

 生物としての形はあっても、それには生物としては欠かせない”意識”が無かった。

 虚ろな器だったのだ。

 あるいは、”魔法生物の種”と言い換えてもいいかもしれない。


 何だか不思議な話をしているようだが、魔法に僕らの常識を当てはめても頭が混乱するだけだ。

 ここはそういうものだと割り切って聞いて欲しい。


 ある日、その”種”は意思を得た。

 いや、それは意思とは言えない意思だった。

 別の世界、別の宇宙、地球という惑星のスマートフォンという存在。


 そう。スマホの中のAI、音声認識アシスタント・バラクが、世界の壁を越えてこの器に宿ったのだ。

次回「ハヤテの誕生」

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― 新着の感想 ―
[一言] 寿命が短くて繁殖力が高い水棲生物や昆虫は ネドマってマナに対応した生物の発生には有利ですね ハヤテもおにぎりはマナから生成していたんだろうな
[良い点]  把握出来たか怪しくもあるけど、文明がいっぺん振り出しになったと言うより、言語統一の過程で多くを失った感じなのかな。  四式戦の中で唯一閑話でもないのに、どこか浮いた感じの話だった、人食…
[良い点] …なんだか巨大隕石の衝突で恐竜が絶滅したみたいな話になってますな。 [一言] ハヤテも傷の自動修復や燃料武器の自然回復という魔法っぽい力を使ってますしまぁ魔法生物だといわれればそんな感じや…
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