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その2 出発延期

 今度王都で先月の戦いの戦勝式典が開かれるという。

 僕もその式典にお呼ばれされたのだが、さすがに飛んでいく訳にはいかないらしい。

 そこで僕も王都まで馬車で行くことが決まったが、そこからが大変だった。

 当然僕が乗れるサイズの馬車なんてない。

そこで、大型の荷車を用意して藁を積み、その上に僕を乗せるというアイデアが出た。


 で、その荷車なんだけど・・・


『小さすぎですわ。』


 そう、僕の全長は約10m。流石にそんな巨大な荷車はないのだ。


『前半分だけ乗せるのはどうでしょうか?』

『そうね・・・試してみましょう。』


 家令のオットーの指揮のもと、手伝いに呼んだ村人数名で苦労して僕の前半分だけを荷車に乗せたのだが・・・


『後ろを引きずっていますわ。』

『・・・そうですね。』


 飛行機の尾部が地面に当たり、引きずられる状態になってしまった。


『後ろの小さい足は・・・届いていませんね。』


 まあ、確かに。僕の尾輪は極端に言えばおまけ(・・・)みたいなものだからね。


 四式戦(ぼく)の尾部には尾輪と呼ばれる小さなタイヤが付いている。

 レシプロ戦闘機は、地上では前に付いている2本の主脚と後ろに付いている尾輪の三点で機体を支える。

 そして、レシプロ戦闘機というのは、機体の一番前に載せているエンジンが最重量パーツで、その重量はほぼ二本の主脚によって支えられている。

 そのせいもあって、初期の戦闘機は太っとい足が付いているのだ。


 ちなみに、四式戦のような引き込み脚が採用されたのは、日本ではゼロ戦が最初だ。

 ゼロ戦の開発の苦労については、開発者本人が名著「零戦 その誕生と栄光の記録」で語っている。

 日本で最も有名なアニメーション制作会社が、彼をモチーフにアニメ映画を作ったことでも有名だ。

 僕は四式戦の身体だが、やはりゼロ戦は日本を代表する戦闘機だと思う。 


 さて、話を戻すと、レシプロ機は前二本の脚でエンジンの重さを支えているのだが、当然二本足ではバランスがとれないので、後ろにちいさなタイヤを付けて、三点で支えてバランスを取っている。

 これによって、機首を上に向けた、レシプロ機独特の駐機スタイルになるのである。


『前後ろを逆にしてみましょうか?』

『頭に血が上らないかしら?』


 その心配はないけど、今度はプロペラをこする心配があるなあ。



 結局、後ろ向きに乗せるとやはりプロペラが地面に付くことが分かり、どうしようもなくなったところ、もう一台小さな荷車を調達して、尾部はそれに乗せることで片が付いた。


 いやあ、いろいろと大変だったよ。


 手伝ってくれた人達にはお給金と、ご褒美としてティトゥから、龍甘露こと水あめが振る舞われる事になった。

 一口サイズの怪しい塊に、最初は警戒していた村人だったが、口に入れてからはみんな驚いて歓声をあげていた。

 その様子を見て、なぜか誇らしげに胸をはるティトゥ。

 そして村人を羨ましそうに見ているカーチャ。

 カーチャ、水あめ大好きだからね。




 さて、そんなわけでいよいよ王都に向けて出発する当日。

 朝から屋敷の裏庭には、先日も手伝ってくれた村の人達が集まっていた。

 みんなニコニコして嬉しそうだ。

 よほど水あめが好印象だったみたいだね。


 Web小説で異世界転生した主人公がメシ無双をするのは定番ネタだけど、なるほど、彼らはこんな気持ちだったんだな。

 文字通りの飯のタネを何か他に思い出せないだろうか?

 こんなことなら、大学時代にサボらずにちゃんと自炊しておけば良かった。

 しかし、家令のオットーは遅いな。



 オットーが屋敷から出て来たのはそれから1時間も経ってからのことだった。


『出発の延期ですか?』

『ああ。三日後に延期された。三日後に都合のつかない者は、帰る前に私に言っておいてくれ』


 村人達は僕を乗せる荷車を仕舞い終えると、ゾロゾロと屋敷から出ていった。

 ちゃんと半日分のお給金は出たせいか、文句を言う人はいなかったみたいだ。

 まあ封建社会で、貴族の使用人に文句を言う村人なんていないだろうけど。

 いたらそいつは多分転生者だな。間違いないね。


 何だか屋敷の雰囲気も微妙な気がする。肩透かしを食った感じとでもいえばいいのか。

 僕の様子を見に来たティトゥも、狐につままれたような顔だった。

 ちなみに今日のティトゥの服はよそ行き用のドレスだ。

 王都で着るドレスはまた別に新調したらしい。


 ドレスは何年かで流行が変わるので、女性はこういう大きなイベントがあるとドレスを新調するんだそうだ。

 で、以前のドレスは仕立て直して、よそ行き用のドレスにランクダウンされる。

 つまりよそ行き用のドレスというのは古いドレスのことなのだ。

 だから今ティトゥが着ているよそ行き用のドレスは、一つ前のイベントの時に彼女が新調したドレスだ。

 じゃあ、今までよそ行き用に使っていたドレスはどうなるのかというと、そのまま予備として着替えに使うか、よく仕えてくれた使用人にご褒美としてあげるんだそうだ。

 もちろんお金を工面するために、出入りの商人に売ることもあるらしい。


『なんでも王都から迎えの者が来るそうですわ』


 今朝いきなりそういう連絡が入ったらしい。

 その人と合流してから出発することになったので、急きょ出発が延期になったのだという。

 ティトゥは僕にそう告げると、普段着に着替えるために屋敷に戻っていった。


 三日後か。

 なんだかこういう待ち時間って手持ち無沙汰になるよね。何かをするにも中途半端な感じだし。


 結局その三日間、僕は料理人のテオドルと、メシ無双ネタが何かないものかと実験を繰り返した。

 結論を言ってしまうと上手くいかなかったのだが、テオドル的には良い刺激になったみたいで非常に喜んでいた。

 う~ん、残念。

 まあ、素人の思い付きがそんなに簡単に上手くいくわけはないか。




 それから二日後の昼過ぎ。屋敷の門のあたりが何やら騒がしくなった。

 たまたま僕の周りには誰もいなかったので、何がおきているのか分からない。

 ヤキモキしながらじっとしていると、ガヤガヤとこちらに向かってくる声がする。


『これが噂のドラゴンか!!』


 集団の先頭の・・・なんだろうね、アニメキャラみたいな恰好をした男が叫んだ。

 凄いテンションだね。まるで子供のように目を輝かせている。

 マチェイ家長男のミロシュ君といい勝負だ。

 まあ、こっちは20代半ばほどのいい年をした兄ちゃんなんだが。


 そんなアニメ兄ちゃんの後ろに控えているのは、多分王都騎士団の人達だろう。

 戦場で将ちゃんこと将軍閣下のそばにいた人達も、同じ格好をしていたような気がするしね。


 彼らも僕を見て喜んでいるが、アニメ兄ちゃんほどのテンションではない。

 何というか、また会えて嬉しい。といった柔らかな感じだ。

 あの時、味方陣地にいた人達なのかもしれない。

 この人達はアニメ兄ちゃんを護衛してきたのだろうか?

 彼らを案内してきたのが家令のオットーではなく、ティトゥママであることを考えても、アニメ兄ちゃんは結構偉い立場の人なのかもしれない。


『ええ。娘が契約を交わしたドラゴンですの』


 ティトゥママの説明にアニメ兄ちゃんは眉をひそめた。

 テンションもだだ下がりだ。

 なんか極端な人だな。

 ティトゥママがキライなのかな?

 というか、ティトゥはどうしたんだろう?

 こういう僕関係の時は、彼女が率先して案内してきそうなものだけど。


『飛ばしてみせろ。コレは飛ぶのだろう?』


 コレ扱いはカチンときたが、まあ、飛行機をコレと呼ぶのはそんなにおかしな話ではない。

 むしろこの屋敷の人達が、僕に良くしてくれすぎなんだろう。

 ティトゥのドラゴンというので良いイメージを持たれているのかもしれない。


『娘が乗らなければ飛びませんので』


 ティトゥママが申し訳なさそうに言った。

 そんな事実はないけど、ティトゥママがあえてこの場でそう言うのなら、何かしら事情があるのだろう。

 ていうか、この状況は一体何なんだろうね?

 誰か僕に説明して欲しいんだけど。


 するとそこに家令のオットーが現れた。

彼はロクにこちらも見ずに深々と一礼した。


『湯の準備ができました。皆様旅の疲れを落とし下さい。食事の用意もすぐにできますので、それまでは部屋でおくつろぎ下さい』


 お辞儀したまま、一息にそう言うと、やはりこちらを見ないように顔を上げながら屋敷の方へと振り返った。

そして、『こちらへどうぞ』とこっちを見ずに案内を始めたのだ。

 余程彼らと顔を合わせたくないようだ。


 明らかにいつもと違うオットーの様子に僕は戸惑った。

 しかし、騎士団の人達は日頃の彼を知らないので特に何とも思わなかったみたいだ。

 口々に『ありがたい』とか『夕食までに何か軽く摘まめる物は無いかな』などと言いながら、正面玄関の方へと歩いて行った。

 軽く自分の発言を流される形になったアニメ兄ちゃんは、不満気に『フン』と鼻を鳴らした。

 しかし、ここで揉めるつもりはないのか、それとも最初からそれほど僕には興味が無かったのか、割と素直にみんなの後に付いて行った。

 ティトゥママが僕に軽く手を振ってからこの場を去ると、裏庭には僕が一人残された。


 状況に付いていけない僕は、誰にも説明されないままモヤモヤとした気持ちを抱えるしかなかったのだった。

次回「動揺するマチェイ家」

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