その25 大岩爆破
この廃墟の町の特徴物とも言える丸い大岩。
直径は優に100mを超えている。
確か東京ドームの直径が250mくらい(※約244m)だったと思うので、その半分くらいか。
かなりの大きさだ。
長年の風雨にさらされたせいか、やや縦に潰れた形になっている。
さて、この大岩。
最初はこの町の人達が何らかの理由で加工したものだと思っていたけど、ティトゥ調べによるとどうやら天然物である可能性が高いらしい。
周囲を高い山で囲まれているがことから、ひょっとしたらどこかの山の上から転がり落ちて来たのかもしれない。
コロコロ転がって――という可愛いサイズじゃないか。ゴロンゴロンと転がって、町の外に開いていた穴にジャストフィットしたんじゃないだろうか?
そもそもなんで町の外にそんな大穴が開いていたのか。
僕はその秘密を知りたいと思ったのだ。
『ダメですね。大岩が邪魔でどうにもなりません』
水運商ギルドのマイラスが、お手上げ、といった感じで首を振った。
『マイラスの所の発掘隊が来てからじゃないと人手が足りないかしら?』
『いや、何人かかろうと、流石にこのサイズの大岩を動かすのは無理ですよ』
ティトゥが腕組みをして大岩を見上げた。
何でも人力のこの世界じゃ、このサイズの大岩には手も足も出ないのか。
いや、流石に元の世界の重機でも、これほどの大岩を動かす事は出来ないかもしれないね。
ふむ。元の世界か。
こんな時元の世界なら、岩に穴を開けて、ダイナマイトを突っ込んで爆破するんだろうな。
幸い遺跡でもなんでもない自然の岩みたいだし、少しくらい削っても問題無いよね。
『ティトゥ』
『どうしたんですの?』
問題はみんなに僕の考えがちゃんと伝わるかどうかだけど・・・
そこは努力してみようか。
僕が考えた方法はダイナマイトによる発破作業――は、この世界にまだダイナマイトが発明されていないので無理として、その代用品として250kg爆弾を使うというものだ。
『つまり、岩の下に”双炎龍覇轟黒弾”を埋めておいて、そこにハヤテがもう一つの”双炎龍覇轟黒弾”をぶつけて爆発させると言うんですのね?』
ああ、久しぶりに聞いたね、その何とか黒弾って名前。
爆弾の名前はともかく、僕の言いたい事はその通りだよ。
『それで岩を破壊出来るんですの?』
さあ? けど、少しでも岩が崩れれば、そこから地面に開いた穴を調べられるんじゃないかな?
ダメならまた次の機会に続きをすればいいだけだし。
どうせ僕の爆弾は一日もあれば回復するんだからさ。
『分かりましたわ。マイラス。お願い出来ます?』
『ええと、岩の下に穴を掘ってその双炎龍覇轟黒弾を埋めればいいんですね?』
君スゴイね! 一度でティトゥ命名の中二単語を覚えちゃったんだ?!
僕はマイラスの能力の高さ――能力の無駄遣い? に驚いてしまった。
実はマイラスは水運商ギルドの中でもかなりのやり手なのかもしれない。
時々見せる手際の良さからもあり得る話だと思われた。
『ええと、私がどうかしましたか? ハヤテ様』
僕の視線を感じたのか、マイラスは落ち着かない様子だ。
『どうせまた変な事を考えているに違いありません』
『いつものハヤテらしいですわ』
ちょ、君達それって酷くない?
少女達のいわれのない言いがかりに、僕は憤慨するのだった。
250kg爆弾の重量はその名の通り250kg。
そんな重量物を大岩の近くまで運んでもらうのも気の毒なので、出来るだけ岩の近くまで近付こうと思う。
僕はゆるゆると大岩のそばまで地上移動した。
改めて近くで見ると馬鹿げた大きさだ。
僕は大岩ギリギリまで近付くと、一度エンジンを切って爆弾を懸架。
片方の爆弾を切り離した。
ドスン
重い音を立てて砂の上に爆弾が落ちる。
大丈夫かな? 衝撃で信管が壊れたりしていないよね?
『こんなに大きいんですか?』
250kg爆弾の実物に、汗だくになりながら岩の下に穴を掘っていたマイラスが驚いた。
本当なら岩に穴を開けて埋め込んで欲しい所だけど、ここにはろくに道具も無い以上、贅沢は言えない。
岩の下に埋めるだけでも十分だろう。
ティトゥ達は全員で苦労して爆弾を転がして穴に収めた。
『メジルシ』
『この布を使いましょう』
マイラスは大きな白色の布を広げると杭で地面に打ち込んだ。
これで準備は完了だ。
後はこの目印目掛けて爆弾を投下すればいいだけである。
『では行きますわよ。マイラス、先に乗って頂戴』
『あっ、はい』
て、君ら僕に乗るつもり?
・・・まあいいか。
もしこの穴の正体が僕の予想通りの物なら、穴に充満した可燃性のガスが爆弾の爆発に引火する恐れもある。
火がつくくらいならいいけど、大爆発でも起こったら危険だ。
それなら最初から僕に乗っていて貰った方が安全だろう。
僕はティトゥとマイラスに安全バンドを確認してから地上移動。
さっきの場所に戻るとエンジンをブースト。
空へと飛び立つのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
マイラスはハヤテが何をしようとしているのか、理解していなかった。
ただ、ハヤテが大岩に攻撃をしようとしている事だけは何となく分かっていた。
のんびり屋のハヤテにしては珍しく、何度もみんなに注意するように訴えていた。
どうやら今からかなり危険な攻撃を行うつもりのようだ。
マイラスは緊張にゴクリと喉を鳴らした。
バババババッ
ハヤテは勇ましいうなり声を上げると地面を疾走。空へと舞い上がった。
尻がムズムズするような浮遊感は独特なものだ。
ヴーン
ハヤテが大きく機首を天に向けた。
『バンド ヨロシイ?』
『ちゃんと締めていますわ』
『だ、大丈夫です』
『あの、私は?』
『私がしっかり抱きしめておきますわ』
ハヤテはゆっくりと旋回すると、爆撃進路を見定めていた。
いつもにない彼の緊張した気配に、操縦席の中の三人も固唾をのんでその時を待った。
『ハジメル チュウイ』
『りょーかい、ですわ』
『は、はい。分かりました』
『り、りょーかい、です』
落下に伴う浮遊感と共に地面がせり上がって来る。
みるみるうちに近付く大地。
マイラスはイスに固定された狭い視界の中、恐怖を堪えてその景色に見入っていた。
やがて視界いっぱいに大岩が広がると――
ゴン
小さな音と共にハヤテの機体が僅かに浮き上がった。
ハヤテはフラップを展開すると水平飛行に移った。
そのまま大岩の上空を飛び越える。
次の瞬間。
ドドーン!
背後で大きな爆発音が上がった。
『ナカジマ様、今のは?!』
『ハヤテの攻撃が命中したんですわ!』
興奮に頬を染めて振り返るティトゥとは逆に、ハヤテはどこか戸惑っている様子だ。
「あれ? 原油の可燃ガスに引火して、もっと派手な爆発が起きると思っていたけど・・・ 思っていたより岩が硬かったのかな? ――あっ」
『あっ』
後ろを振り返っていたカーチャは、ハヤテと同時に大岩の変化に気が付いた。
大岩は相変わらずそこに存在していた。
ただしその形はさっきまでと大きく変わっていた。
何とも言えない微妙な空気が操縦席内に立ち込めた。
『岩が割れちゃいました』
『はあっ?!』
胴体内補助席でただ一人だけ背後が見えないマイラスが目を剥いて驚いた。
『割れたってどういう意味です?! 今のって大岩の話ですよね?!』
『言葉の通りの意味ですわ。ハヤテ。もう安全バンドを外してもいいですわよね?』
『・・・ヨロシクッテヨ』
どうやらハヤテも戸惑っている様子だ。
マイラスが安全バンドと格闘している間に、ハヤテは大きく旋回した。
やがてマイラスの目にも大岩の姿が映った。
――巨大な大岩はその中央からパッカリと二つに割れていた。
『お・・・大岩が割れている!!』
『だからさっきからそう言っていますわ』
マイラスの叫び声にティトゥが面倒臭そうに答えた。
次回「黄金都市リリエラの真実」