表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/782

その16 砂漠の遭難者

視界があまりに短いのでは、とのご指摘がありましたので、前回分を書き直しさせて頂きました。

ストーリーの大筋に変化はないので、そのまま読み進めて頂いても問題はありません。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

◇◇◇◇◇◇◇◇


 砂漠を行く小規模隊商(キャラバン)

 彼らは今、命の危機を迎えていた。



 隊商(キャラバン)リーダーはラクダを進めると、隊の先頭を行く中年の案内人(ガイド)に尋ねた。


「まだ町は見えないか?」


 ラクダの背に揺られながら、案内人(ガイド)は日に焼けた顔を申し訳なさそうに歪めた。


「近くまで来ているのは間違いないと思うのですが・・・ 申し訳ありません」


 彼らの隊商(キャラバン)は、本来であれば三日前にオアシスの町ステージに到着していたはずである。

 それがなぜこんな場所をさまよっているのか?

 彼らは六日前から隊商(キャラバン)道を見失い、遭難している最中なのだ。



 原因は、案内人(ガイド)が熱を出して倒れた事に端を発する。

 荷物に紛れたサソリに刺されたのだ。

 サソリは物陰を好む習性がある。どんなに注意深くしていても、いつの間にか人の靴や荷物の隙間に入り込んでしまうのだ。

 案内人(ガイド)が刺されたサソリは毒性の強い種類だったらしく、彼は半日ほど寝込んでしまった。

 そのため隊商(キャラバン)の行程は半日遅れる事になった。

 いや、本来であれば半日で済むはずであった。


「馬鹿な! たった一人のために、こんな砂漠のど真ん中で半日も立ち往生など出来るものか!」


 隊商(キャラバン)のオーナーは声を荒げて怒り狂った。


「しかし、案内人(ガイド)無しでは進めません」

隊商(キャラバン)道を行くだけだろうが! 直ぐに出発しろ! ワシは何度もこの道を往復している。そもそも案内人(ガイド)などやとう必要など最初からなかったのだ!」


 隊商(キャラバン)の編成は隊商(キャラバン)リーダーに一任されていた。

 この案内人(ガイド)を雇ったのも彼である。


 彼はオーナーに砂漠を案内人(ガイド)無しで進む危険性を懸命に訴えたが、雇い主を翻意させる事は出来なかった。

 こうして隊商(キャラバン)は出発する事になった。


 運の無い時には悪い事が重なるものである。

 一時(いっとき)(二時間)もしないうちに、彼らは砂嵐に遭遇してしまった。

 本来であれば案内人(ガイド)が砂嵐の予兆に気が付き、無事にやり過ごせるように隊商(キャラバン)を導いていただろう。

 しかし、その案内人(ガイド)は現在、荷台の上で寝込んでいる。

 目に見える距離に砂嵐が近付くまで、誰も気が付く事は出来なかった。


 幸い、彼らはギリギリで砂嵐を回避する事に成功した。

 しかしここからが、本格的な不幸の始まりだった。

 誰も気が付かないうちに、彼らの隊商(キャラバン)隊商(キャラバン)道から大きく外れてしまっていたのだ。



 最初に事態に気付いたのはやはり案内人(ガイド)だった。

 夜になって体を起こせるようになった彼は、星の位置と地形を照らし合わせて、現在の位置が隊商(キャラバン)道から大きく外れている事に気が付いたのだ。


「そんな! どうにかして隊商(キャラバン)道には戻れないのか?」

「正確な場所が分からない状況ではちょっと・・・ しかし、隊商(キャラバン)道から外れた位置は大体見当が付きます、そこまで戻れば隊商(キャラバン)道を見つけられると思います」


 案内人(ガイド)の意見はオーナーによって却下された。

 たかだか半日の遅れを許せない彼が、元の場所まで戻るなど許可するはずもなかったのだ。


「・・・どうにかならないか?」

「・・・やってみます」


 こうして彼らの無謀な挑戦が始まった。




 既に水の備蓄は無い。

 ギリギリまで切り詰めたものの、流石に三日分もの水は余分に持ち込んでいなかったのだ。

 ラクダの体には、大量の水を摂取して血液中に溜め込んでおく機能がある。

 だからラクダの方はまだしばらくもつはずだが、人間はそうはいかない。


 もう丸一日以上、誰も一滴の水も口にしてはいなかった。

 既に全員に脱水症の症状が出ている。

 焼けつくような暑さにも関わらず汗は出ず、体には熱がこもり、頭は熱にうなされたように朦朧としている。

 ラクダの背に揺られているだけでも彼らの体力は大きく奪われていた。

 この事態を招いたオーナーは真っ先に倒れて、荷台の上に日よけを作って横になっている。

 最初の頃は周囲に当たり散らしていたが、今では口を開く事もなくなっていた。


「まさか既に町を通り過ぎているなんて事はないよな?」

「そんな事はありえません。・・・そのはずです。違うはずなんだ」


 案内人(ガイド)はずっと周囲を見回している。

 その姿に、隊商(キャラバン)リーダーもつられて周囲を見回した。

 何日も前から見慣れた岩ばかりの景色だ。

 自分達がどこにいるのか。いや、本当に前に進んでいるのかどうかすら不安になる風景だ。

 なんら変わり映えのしない景色がそこには広がっていた。


 隊商(キャラバン)リーダーは力無くラクダの手綱を引くと、隊の後方に戻ろうとした。

 そんな彼の耳に案内人(ガイド)の呟きが届いた。


「――あれは何だ?」


 案内人(ガイド)は空の一点を凝視している。

 イヤになる程青い空には雲一つ見あたらない。


 いや、確かに何かが見える。


 最初は小さな虫かと思った。

 しかし、虫はあんな風に空の一点に留まらない。

 その時ヴーンという耳慣れないうなり声が届いて来た。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日は探索二日目。

 と言っても、ティトゥとも相談して今日はお休みという事にした。

 初日は頑張りすぎたらしく、ティトゥは随分とお疲れの様子だったからね。


 せっかく休みにしたんだから、カルーラのお屋敷でのんびりしていればいいのに、ティトゥは今日も僕と飛びたがった。

 あまりにごねるので仕方なく、少しだけ辺りをひと回りする事にした。


 そんな感じで軽く飛ぶつもりが、結局、興が乗ってついつい南の海岸の村まで飛んでしまった。

 何のために休息日にしたんだろうね。


 てなわけで、あと少しでオアシスの町ステージに到着、という所で、僕達は砂漠を行く隊商(キャラバン)を見つけた。

 ラクダに乗った5~6人程度の小さな隊商(キャラバン)だ。


 僕達は彼らに接触してみる事にした。

 丁度近くに着陸出来そうな広場もあったし、ティトゥの休憩がてら、彼らにこの辺の話を聞いてみようと思い立ったのだ。

 幸いカルーラから借りたお金がまだ残っている。

 情報料として彼らから何か買ってもいいかもしれない。



 広場に着陸した僕を彼らは警戒している様子だ。

 ティトゥは風防を開けると外の気温に眉をひそめた。


『・・・暑いですわ』


 だろうね。

 100m上昇するごとに気温は約0.6℃下がるという。

 さっきまで飛んでた上空2000mと、地上との気温差は約12℃となる。さぞや暑いと感じるだろう。

 ひょっとしてティトゥが今日も僕に乗りたがったのは、昼間の暑さにうんざりしていたからかもしれない。


 最初は僕の姿に警戒していた隊商(キャラバン)の人達だったが、ティトゥの姿に安心したようだ。

 恐る恐る僕に近付いて来た。


『あんたは一体・・・』

『それよりも話を聞かせて欲しいのですわ』


 僕達が知りたいのは黄金都市リリエラの情報だ。

 砂漠を行き来する隊商(キャラバン)の人なら、何か耳寄りな情報を持っていないだろうか?


『リリエラ? あんなものを探しているのか?』


 どうやら彼らは何も知らないみたいだ。

 それどころか呆れられてしまった。まあ最初からそれほど期待していたわけじゃないけどね。


『知らないならいいですわ。お邪魔しましたわ』

『ま、待ってくれ!』


 ティトゥが風防を閉めようとすると、リーダーっぽい男が必死に彼女を呼び止めた。


『水を! 水を分けてくれないか?! 相場の三倍払ってもいい!』

『水ですの?』


 ティトゥは困った顔になった。

 彼女の気持ちも分かる。

 僕の機内にはティトゥの水筒があるにはあるが、当然彼女の分しかない。

 ここにいる全員で分けたら一人当たりコップ半分にもならないだろう。

 水に困っているのなら、そんな中途半端な量を売ってもかえって迷惑にならないだろうか?

 彼女はそう考えたのだろう


『残念ながら持ち合わせがないんですの。他のものでよろしいかしら?』

『・・・いや、水以外は別に』


 隊商(キャラバン)の人達がにわかに殺気立った。

 足元を見て値段を吊り上げようとしている、とでも思ったのかもしれない。

 どうやら彼らはかなり深刻な水不足に悩んでいるようだ。


『水はないけどヤシの実ならありますわ』

『だから水以外は――えっ?』

『ハヤテ』

「了解」

『『『『『喋った!』』』』』


 ハイハイ、喋りますよ。それが何か?

 僕はティトゥの言葉に応じて胴体左の扉を開いた。

 ティトゥはヒラリと飛び降りると穴の中に上半身を突っ込んだ。

 

『よっこいしょ。お、重いですわね』


 彼女が引っ張り出したのは植物で編んだ大きな籠だ。

 中にはまだ青いヤシの実が山ほど詰め込まれている。

 海岸の村でカルーラ達へのお土産に買ったものだ。


『なっ! ヤシの実だ!!』

『さっき私がそう言ったじゃありませんの』


 ティトゥがムッと唇を尖らせた。

 男の声を聞きつけたのだろう。荷車の上から商人風の男が転がり落ちて来た。

 商人は震える手で懐からお金の入った袋を取り出して叫んだ。


『ヤシの実だと! 全部買うぞ! 売ってくれ!』

『構いませんわよ』


 どうせお土産に買って来たものだしね。

 リーダーはティトゥから籠を受け取るとヤシの実を部下に分け与えた。


『よこせ! 早く! 何をしている!』


 リーダーがナイフでヤシの実に穴を空けると、商人はヤシの実をひったくった。

 彼らが全員、満足いくまでヤシの実のジュースを堪能し終えるまで、僕達はぼんやりと待たされるのだった。 

次回「謎の巨石」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] フィルター大丈夫かな。 さすがに日本にはアフリカ戦線仕様の機体は無かった気がする。 [一言] 遺跡が砂に埋まってなければいいなあ。
[良い点] クーデターなんて気にせず黄金郷へロマンを求めるティトゥはいつも行動理念がぶれないので素敵です。 [一言] ブックマーク800越え、おめでとうございます。もうすぐ300話の大台も達成しそうで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ