その12 砂漠の黄金都市伝説
ブックマーク数800件到達記念に、昨日は二話更新しました。
昨日夕方の更新分をまだ読まれていない方は、読み飛ばしにご注意下さい。
僕達はカルーラから相談を受けた金策のため、水運商ギルドのマイラスを呼び出した。
『・・・金策ですか』
カルーラから大雑把に事情の説明を受けたマイラスは、「困ったな」といった表情を浮かべた。
『困りましたな。申し上げ辛いですが、このステージの町の経済規模では、どう手を尽くしても短期的な増収は見込めないかと』
そこを何とか。
と言いたい所だけど、マイラスは明らかに気乗りしない様子だ。
まあどう考えても、面倒ばかり大きくて見入りの少ない話だからね。
商人としての彼の琴線に触れないのだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はため息を吐きたい気持ちを懸命に堪えていた。
昨日の今日の呼び出しに、一体どんな話を聞かせてくれるのかと思って来てみれば、金策の相談と来たものだ。
まあ商人相手に妥当な相談と言えなくもないが、正直この町は規模としてはかなり微妙だ。
オアシスがあると言っても、地理的に特に重要な位置にある訳でもなく、特産品がある訳でもなく、目立った産業がある訳でもない。
極々普通のこじんまりとした田舎町に過ぎない。
商売人の目で見て”艶が無い”のだ。
そんな町だからこそ、ここの当主は隊商派でくすぶっているのだろう。
ましてや俺に相談を持ち掛けて来たのは、この土地の当主ですらない。
女の身で町をどうにかしたいと思う気持ちは立派なのかもしれないが、ただの貴族の娘と商売の話をしてもこちらには何の利益も無い。
なぜならこの娘は領地に関する何の権限も持ち合わせていないからだ。
せめて次期当主となる長子でないと、商売の話にならない。
まあそれでも、この町から上がる利益を考えれば割に合う話とは思えないが。
期待はずれか。
とはいえ最初から予想出来た事だ。
確かに昨日、初めてドラゴンを見た時には年甲斐もない興奮してしまったが、所詮彼らは半島の小国の地方当主とその乗馬?に過ぎない。
自国では竜 騎 士などと大層な名で呼ばれているらしいが、大方この見た目で名前だけが先行しているのだろう。
小人ほど見栄を張りたがるものだ。
大方、珍しい生き物を手に入れたんで、そいつを伝説のドラゴンになぞらえて、つまらん虚勢を張っているのだろう。
伝説――そういえば砂漠には、そんな虚飾にまみれた有名な伝説があったな。
「そういえばこの辺りには大昔、砂漠に埋もれた黄金都市の伝説があるそうですね。その都市でも見つかれば、ひょっとするとお宝が眠っているかもしれませんよ」
昔、隊商の商人から聞いた話だ。
いかにも大衆が好みそうな与太話だ。
勿論本気で話した訳じゃない。会話のアクセント、ちょっとした軽口のつもりだった。
それがまさかこんな展開になるとは・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇
『そういえばこの辺りには大昔、砂漠に埋もれた黄金都市の伝説があるそうですね。その都市でも見つかれば、ひょっとするとお宝が眠っているかもしれませんよ』
『黄金都市ですの?!』
砂漠に埋もれた伝説の黄金都市? なにそのカッコいい話。
もっと詳しく説明してくれないかな?
カルーラは知っている話なのか、「ああ、あれね」とばかりに軽く受け流している。
いやいや、そこはもっと食い付いていこうよ。
失われた黄金都市なんてロマンじゃない?
ぶっちゃけ、カルーラには悪いけど、僕は今回の話が上手くいくとは最初から思っていなかった。
これでも一応、領地運営に四苦八苦しているティトゥを見て来たのだ。
都合良くこの領地からお金が発生するような話があるとは思えなかったのだ。
そんな僕の考えは、マイラスの態度を見て、すぐに確信に変わった。
水運商ギルドなんてスゴそうな所に所属しているマイラスが、カルーラの話に明らかに気乗りしない様子を見せていたからだ。
僕が「ああ、専門家の判断でもやっぱり無理なんだな」と、思っても仕方が無いだろう。
ここで僕は今回の件にほぼ興味を失ってしまった。
確かにバレク・バケシュは心配だけど、もっと大手の部族が出資して兵を起こす事が出来るかもしれないしね。
というか、カズダ家がかき集めるお金の額なんて、大手部族から見ればはした金に過ぎないんじゃないかな?
頑張っているカルーラに悪いから言わないけど。
『今の話、もっと教えて頂けません事?』
おっと、ティトゥが食い付いたようだ。
君もこういう話が好きそうだよね。
鼻息も荒く前のめりになるティトゥ。
逆にマイラスは腰が引け気味だ。
まさかティトゥがこれほど乗って来るとは思わなかったのだろう。
そしてカルーラは若干呆れ気味だ。
『この辺りの者なら子供でも知っている』
カルーラがそう前置きして話してくれた。
その町の名前は”リリエラ”。
遥か太古。大ゾルタ帝国がこの大陸を統一するより以前に栄えていた古代都市である。
リリエラは大陸中のあらゆる富を独占していた。
隊商は街道に列をなし、町にはあらゆる美食と贅沢品が溢れ返り、この町で手に入らない物はない、とまで言われたそうだ。
富は富を生み、町は財宝で埋め尽くされた。
やがて誰からともなくこの町は”黄金都市”と呼ばれるようになったという。
”黄金都市リリエラ”の誕生である。
『しかし、町の繁栄はある日突然終わりを告げた』
突如、天変地異が町を襲ったんだそうだ。
町はあっけなく崩壊してしまう。
生き残った者達も町を棄て、黄金都市はあっという間に寂れてしまったそうだ。
じきに街道も砂漠の砂に埋もれ、町は地図からも完全に消滅してしまった。
かつての栄光は歴史の彼方。今は伝説にその名を残すのみ。
これが黄金都市リリエラの伝説だ。
実際は今の話を基本にして、色々な派生した話があるそうだ。
とはいえ、どの話でも大筋は今の流れをなぞっているらしい。
『ただの伝説。親が子供に聞かせる夢物語』
カルーラの言葉から察すると、彼女も幼い頃に両親から今の話を聞かされたクチのようだ。
ふむ。ただの伝説ね。
『ハヤテ様? ナカジマ様?』
トロイア遺跡を発見したドイツのシュリーマンの逸話を知らない者はいないだろう。
シュリーマンは幼少のころにホメーロスの『イーリアス』を読んで感動した。
大人になった彼は遺跡の発掘を続け、やがては『イーリアス』に書かれていた伝説の都市、トロイアを発見する事になるのだ。
伝説や物語が本当にあった事とは限らない。
しかし、中には実際にあった事件や土地がモチーフになって作られた伝説だってあるのだ。『イーリアス』に書かれたトロイアの町のように。
だったら黄金都市リリエラだって実在していたかもしれないじゃないか。
『伝説の黄金都市。・・・決めましたわ!』
ティトゥが握りこぶしを作って立ち上がった。
『ハヤテ! 私達でその都市を見つけましょう!』
僕を見上げて宣言するティトゥ。
うん、まあ、君なら多分そう言うと思っていたよ。
君に言われるまでもなく、僕もすっかりその気なんだけどね。
『ヨロシクッテヨ』
『喋った?!』
『待って。今の話はただの伝説だから』
妙にノリノリな僕とティトゥ。
そして慌てるカルーラ。
それはそうと、僕はマイラスの前では喋ってなかったっけ?
何だか今更驚いているみたいだけど。まあいいか。
この後、カルーラは延々僕達を説得しようとしたけど、一度やると決めたティトゥの決意は覆らなかった。
いやまあ実際、当てのない金策よりこっちの方が面白そうだし。
こうして急遽、僕とティトゥの黄金都市探しが決まったのだった。
次回「伝説の都市を探して」