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その11 金策

気が付いたらブックマーク数が800件に達していました。

いつも応援ありがとうございます。

記念に今日はもう一話更新したいと思います。

今朝の更新分をまだ読まれていない方は、読み飛ばしにご注意下さい。

 ティトゥにブラッシングをしてもらった翌日。僕は来客を迎えていた。


『私はチェルヌィフ水運商ギルドのマイラス。高名な竜 騎 士(ドラゴンライダー)のお二方にお目にかかれて光栄に存じます』


 ひょろりと背の高い、どこかくたびれた感じのする男だ。

 水運商ギルドというのが何なのかは知らないけど、名前から察するに多分、船での貿易か何かに関するギルドなんだろう。

 そんなギルドの人間が、なんでこんな砂漠の町に来たんだろうか?


 ティトゥも不思議に思ったようだ。 


『どうして水運ギルドのあなたが、砂漠の町にいるんですの?』

『いえ、確かに水運商ギルドは主に水運を商売にさせて頂いておりますが、船以外の商いをしていないという訳ではないのですよ』


 なるほど。日本でも企業グループはいくつもの業種の会社を傘下に入れていたりするからね。

 水運商ギルドも稼ぎ頭が水運というだけで、様々な商売を手広くしているんだろう。


『それで今日は何の用ですの?』

『ナカジマ様は王都で我々の手形を使用されたそうで。何かお役に立てる事がないかとこうしてお伺いした次第でございます』


 ああ、そういう事ね。

 ティトゥがチェルヌィフ商人のシーロから預かった、チェルヌィフ商人ネットワークの手形。

 帝国でも便利に活用させてもらったあの手形を、ティトゥはこの国でも使っていたらしい。

 それを知ったマイラスが御用伺いにやって来た。といった所か。

 わざわざご苦労様。でも今は特に困ってはいないかな。


『今は特に困ってはいませんわ』

『・・・さようでございますか』


 少しがっかりするマイラス。

 気の毒だけど・・・どうしよう。何か頼める事は無いかな。



 結局何も思い付きませんでした。

 マイラスは二三日この町に留まるという。


『その間に何か御用が出来ましたら是非お声をかけて下さい』

『分かりましたわ』


 多分何も無いと思うけどね。

 そう思った次の日。僕達はマイラスを呼び出す事になるのだった。




『金策ですの?』

『そう。何か思い付かない?』


 カルーラの相談にティトゥは細い顎に指を当てた。


 金策といっても、カルーラのカズダ家がお金に困っているという訳じゃない。

 いやまあ、お金がありあまっているって話でもないだろうけど。


 お金が無いのは、この間町にやって来たイムルフ少年のサルート家だ。

 カズダ家は彼らから借金の打診をされていたんだそうだ。



 クーデターで殺された父親の敵討ち。

 そのための協力を仰ぐべく、レフド叔父さんと一緒に派閥内の部族を渡り歩いていたイムルフ少年だったが、実は軍資金集めに奔走していたらしい。

 どうやら彼らは軍を起こす資金が不足しているようだ。

 どうりでのんびりと根回しをしていると思ったら、先立つ物が不足していたんだね。


 でもイムルフ少年のサルート家は六大部族の筆頭なんだよね。なんでお金がないわけ?


 昨年の夏、聖国の沿岸では例年になく海賊の活動が活発化して、商船の航路に大きな被害が出た。

 僕らも関わったマリエッタ王女の指揮する海賊掃討作戦で、沿岸の海賊は粗方退治されたけど、春先から夏場にかけて出た被害だけでもバカにならなかったようだ。


 さらにここで例の”ネドモヴァーの節”が追い打ちをかけた。

 軍によって港が押さえられ、海上運輸がストップしてしまったのだ。

 ネドモヴァーの節は秋から冬にかけて続き、その間、チェルヌィフの港町は全て封鎖され、港は軍の管理下におかれ、商船は沖に出られなくなってしまった。

 冬になり、ようやくネドモヴァーの節が終わると、今度は北方の港が氷に閉ざされ、物理的に使用不能になってしまった。


 つまり、昨年この国ではほぼ一年間、商船活動がろくに行えなかったという事になる。

 港町を持つ領地を中心とする帆装(はんそう)派は、基盤となる海運業による収入に大きなダメージを負ったのだ。


 船を動かさなくても、痛んだ船の修理や港の施設の修理修繕費なんかは当然発生する。

 そんな必要経費もボディーブローのように、じわじわと彼らの懐にダメージを負わせていったのだろう。


 そして氷も解けて春になり、今年の貿易が始まった。

 この国で商品を買い、船に積んで外国に行って売り捌き、得た代金であちらの商品を買って国に持ち帰って売る。

 帆装(はんそう)派は丁度商品を満載した船を送り出したところなんだそうだ。


 そんな最中、王城でクーデターが起こった。


 国王代行のクリシュトフ・サルートは討ち取られ、その息子イムルフ少年が新たに当主の座に就いた。

 しかしサルート家は――というよりも帆装(はんそう)派の部族は、大半の資金を今年の経済活動に回したばかりで貯えが不足していた。


 こうしてイムルフ少年達は、金策のためにあちこち奔走する羽目になったのだ。


 なんでわざわざ砂漠の中までカズダ家を訪ねて来たのかと思っていたけど、そういった事情があったんだね。



 てか、ネドモヴァーの節ってそこまでしてやらなきゃいけない訳?

 去年の国王代行は帆装(はんそう)派のサルート家だよね。

 懐に余裕が出来るまで、ネドモヴァーの節の開始を延期するわけにはいかなかったんだろうか?


 僕の疑問にカルーラはかぶりを振った。


『無理。ネドマは待ってくれない』


 おっと、また出ました”ネドマ”。

 レフド叔父さんが僕を見て言ってたよね。『コイツがネドマを屠ったドラゴンだと聞いているが本当か?』って?

 ネドマって一体何なのさ。


『ネドマは海を渡った先の魔境に棲む生物。この大陸にはいない生き物』


 カルーラの説明によると、ネドマはこの国から東に海を渡った先にある、魔境と呼ばれる大陸固有の生物の総称らしい。

 総じてネドマは大きくて、獰猛で、肉食なんだそうだ。

 この大陸にはいない生き物で、色は概ね黒色。体に”魔核”と呼ばれる謎の器官が存在しているのが特徴だという。


 ネドマは普段、彼らの生活圏である大陸から外に出る事は決してない。

 けど、何年かに一度、彼らの活動が活発化した際には、海を渡ってこちらの大陸を目指して来るそうだ。


『ハヤテ様はネドマを倒したと聞いている』


 僕が? レフド叔父さんも同じような事を言ってたけど、僕はそんな生き物に心当たりは無いんだけど。


『! きっと隣国ゾルタで倒したあの虫の事ですわ!』


 ・・・

 ・・・あ。

 ああ、そういやあったね、そんな事。


 今年の初め。僕達が帝国の南征軍を撃退した後の事だ。

 隣国ゾルタの王都の割と近くで、国に引き上げようとしていた帝国兵を襲った黒い謎の虫がいた。

 例えていうなら「風〇谷のナ〇シカ」の腐海の虫のような奇妙な生き物で、体長は3m以上。

 ちょっとあり得ない程巨大な謎虫だった。


 確かにあの時、僕は20mm機関砲でアイツをやっつけたけど、あれがネドマだったんだ。

 マジで? ネドマってあんなモンスターみたいな生き物なわけ?


『今までのネドマはみんな海の生き物だった。虫のネドマはハヤテ様が倒したのが初めて』


 カルーラの説明によると、今まで観測されたネドマは、みんな海洋性の生物だったらしい。

 彼らの生息域である魔境とこの大陸の間には大海が広がっているため、海で生息するネドマしか渡って来られなかったようだ。

 

 バレク・バケシュはどういう原理か、ネドマの活動が活発化する兆しを察知出来るらしい。

 彼がカルーラ達を通じて王家に警告を発すると、王家は”ネドモヴァーの節”を宣言する。

 ネドモヴァーの節は、付近の海域からネドマを根こそぎ根絶するまで続けられるんだそうだ。


 なるほど。何となく事情は分かった。

 例えて言うなら、ネドマはタチの悪い外来種みたいなモノなんだな。


 外来種とは、人間の活動によってやって来た、本来その地域に生息しない植物や生き物の事を言う。

 日本でも国外から運び込まれた動植物が、元々の在来種の生息域を圧迫したり、天敵がいないためにやたらと繁殖して生態系を荒らしたりと、様々な問題を引き起こしている。

 転生者のバレク・バケシュは当然その事を知っているはずだ。

 だから王家と協力して、水際でネドマの侵入を阻止しているんだろう。


 そして、どこかカルーラに危機感が欠けているのも納得出来た。

 カルーラはバレク・バケシュに言われたからやっているだけで、外来種の被害を本質的には理解出来ていないんだ。

 いやまあ僕がどれだけ知っているのか、って話でもあるけど。

 それでも、ペットとして持ち込まれたアライグマが野生化して問題になったり、ブルーギルやブラックバスが繁殖した琵琶湖で、外来魚のキャッチ&リリースが禁止になっている事くらいは知っている。

 毒を持つセアカゴケグモも有名な外来種だ。


 てか、ネドモヴァーの節って何らかの祭事じゃなかったんだな。

 なんでチェルヌィフ商人のシーロはこの事を知らなかったんだろう?


 いや、地元の人間の感覚って案外こんなものかもしれない。

 僕だって地元のお祭りが、何を目的にした何の祭りで、なぜこんな風習があるのかなんて全然興味が無かったし。

 ましてやこの国の国民には、カルーラ達小叡智(エル・バレク)の事や、バレク・バケシュの存在は伏せられているはずだ。

 ネドマの事も、「たまに海に現れるちょっと変わった生き物」くらいの感覚でしかなかったのかもしれない。


『多分そうだと思う。いつも商船航路に被害が出る前にネドマは退治されているから』


 なるほど。今まで特に事故も被害も無いなら、ネドマがどれだけ危険な存在か誰も知らないのも頷ける。

 それはそれで安全対策的にどうかと思うけど、ネドマの存在を察知するバレク・バケシュがいるから、現状はそれでも問題無いのかも。

 うかつに情報を広めて、もしこの国の安全性が疑問視されでもしたら、誰もこの国と取引をしてくれなくなってしまうかもしれないしね。


『それで金策の方法だけど』


 おっと、そういえばそんな話をしてたんだっけ。

 思わぬネドマの情報に、最初の話をすっかり忘れてた。


『お金を出す事は出来るけど、ウチもそれほど貯えがある方じゃない』


 言い辛そうにするカルーラ。そりゃまあ、ここは砂漠の小さな町だからね。

 貯えといってもたかが知れているんだろう。


 ふむ。しかし金策か。


 カルーラとしてはイムルフ少年のサルート家に協力がしたいらしい。

 それは家同士の複雑なしがらみ、という面もあるのだろうが、それよりも現在、ベネセ家に王城が占拠されているのをどうにかしたいようだ。

 小叡智(エル・バレク)の彼女は、今も王城で囚われの身となっているバレク・バケシュが心配で仕方が無いのだろう。


『こうして私達だけで考えていても埒が明きませんわ。お金の事なら商人に相談するのが一番ですわ』


 なるほど。領主一年生のティトゥだが、商人の使いどころをちゃんと学んでいるようだ。

 餅は餅屋。お金の事は商人に相談するのが一番だろう。


 こうして水運商ギルドのマイラスが呼び出される事になるのだった。

次回「砂漠の黄金都市伝説」

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― 新着の感想 ―
[良い点] お、1日2更新とは嬉しいですね。 [気になる点] 原油とれるなら売ればいいんじゃね?と思ったけどまだ船が帆船の時代では需要もないような気もする。
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