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その6 イムルフ・サルート

 カルーラの実家のあるオアシスの町ステージ。

 そこを訪れた少年当主イムルフ・サルートとその叔父レフド・ハレトニェート。

 彼らの僕に対する突然の召し上げ宣言に、ティトゥの怒りが爆発した。


『もうこんな国にはいられませんわ!』

『そこをなんとか! 話し合いで解決をお願いします!』


 額に脂汗を浮かべて必死にティトゥを押しとどめているのは、カルーラのお兄さんであり、ここの当主のエドリアさん。

 娘ほど歳の離れた少女相手に拝み倒す姿が非常に痛々しい。

 その背中にはどこか中間管理職の悲哀を感じさせる。


 やはりこの人はナカジマ家代官オットーの系譜に連なる苦労人キャラだったか。


 僕は密かに納得した。


『そもそもドラゴンという高貴な存在を人間の好きに出来るという驕りが許し難いですわ!』


 ティトゥが僕の代わりに怒ってくれるのは嬉しいけど、それって君の脳内設定だからね。

 僕は高貴な生まれでも何でもない先祖代々のド平民だから。この体だって元はハ〇ガワの1/32スケールのプラモデルだから。

 定価で言えば4千4百円(+消費税)でしかしないから。


 ティトゥのメイド少女カーチャは困った顔をしてティトゥの後ろに立っている。

 とはいえ、どうやら彼女も今回の一件は腹に据えかねているらしい。

 主人を止める気はさらさらないようだ。


 こうして二人が揉めている中、馬に乗った人達がやって来た。

 彼らの先頭にいるのは灰色(グレー)の髪の少女。

 カルーラだ。

 てか、カルーラって馬に乗れたんだね。

 日頃のおっとりとした雰囲気とのギャップのせいか、やけにカッコ良く感じる。

 なんだか見直したよ。


 カルーラの後ろに続くのはこの騒動の原因を作ったレフド叔父さん。

 それと彼の甥っ子にあたるサルート家の当主イムルフ少年。

 後は二人の護衛の騎士団員かな。


『ナカジマ様、落ち着いて』

『これが落ち着いていられますか!』


 ティトゥはカルーラの制止を振り払ってレフド叔父さんの前に立った。

 ティトゥに真っ向から睨み付けられてやや鼻白むレフド叔父さん。

 慌ててイムルフ少年が二人の間に割って入った。


『叔父上。私が思うに今回の一件は、一方的にドラゴンを召し上げようとした我々に落ち度があると思う。外国の貴族に自分の愛馬が取り上げられようとしたのだ。こちらのナカジマ嬢が怒られるのも――』

『愛馬?! ハヤテは馬ではありませんわ! ハヤテはドラゴンなのです! それに私達は神聖なる契約で結ばれたパートナーなのですわ! 馬と騎手の関係と一緒にしないで下さいまし!』


 おおう・・・ティトゥがここまでガチ切れしたのを見たのは初めてかもしれない。

 六大部族の二人の当主を前に一歩も引かないどころか、逆に頭ごなしに怒鳴り付けてるんだけど。

 この二人ってアレだよね。ミロスラフ王国で言えばティトゥより格上の上士位貴族の当主クラスだよね。

 しかも相手は大陸最大の大国、チェルヌィフ王朝の貴族。

 半島の小国であるミロスラフ王国の貴族とでは、同じ貴族でも月とスッポン。大人と子供くらいの差があるんじゃないかな。


 これって怒らせたらヤバイ相手なんじゃないの?

 

 僕はハラハラが止まらなかった。

 どうしよう。いざとなったら20mm機関砲をぶっ放して、彼らがひるんだ隙にティトゥとカーチャをさらって逃げ出そうか。

 二人は僕の考えに気が付いてくれるかな?


『・・・イムルフのいう事にも一理ある、か。俺も気が()いていたのだ。許せ』


 どうやらレフド叔父さんは話の通じない横暴な貴族ではなかったようだ。

 僕はひとまずホッと胸をなでおろした。




 イムルフ少年は現在、兵を起こそうとしているらしい。

 目的はもちろん父親の敵討ち。今も王城を占拠しているベネセ家当主エマヌエル・ベネセの討伐だ。

 現在はそのための根回し――というか他家の協力を得るために有力部族の間を回っている最中なんだそうだ。


 ていうか当主を引き継いだばかりなのに、自分の領地を離れて大丈夫なんだろうか?


『元々領地の仕事は家令と代官が行っていましたから』


 ああ、なるほど。そういえば亡くなった前当主は今は領地を離れて王都で国王代行を務めていたんだっけ。

 国王代行の任期は三年間。

 それだけの期間自分の領地を離れるんだ。そりゃあその間ちゃんと領地が回るように万全の手配はしているよね。


『確かにこの時期、当主を引き継いだばかりの私が外に出るのは危険かもしれません。周囲からも反対されました。しかし私は父の無念を思うと居ても立っても居られず、何か行動を起こさずにはいられなかったのです』


 何とも無茶な。と思わないでもないけど、この辺りはイムルフ少年の所属する帆装(はんそう)派の勢力範囲に含まれるんだそうだ。

 それにイムルフ少年は戦車派のレフド叔父さんと一緒に行動している。

 だからベネセ家が、同じ戦車派のレフド叔父さんを完全に敵に回すような行動を取るとは考え辛いんだそうだ。


 それはそうと、僕はさっきから一点、地味に気になっている部分があるんだけど。

 ねえカルーラ、代わりに聞いてくれないかな?


「何? 飛行機さん。・・・そう、分かった」


 僕とカルーラの会話に興味深く聞き耳を立てるイムルフ少年達。

 どうやら僕が喋る事は、事前にティトゥ達から聞かされているらしい。

 それでも喋る謎のデカブツに驚きは隠せないようだが。


『ハヤテ様はサルート様の叔父上がなぜサルート家ではなく、ハレトニェート家の当主なのか不思議に思っている』

『・・・俺はハレトニェートの入り婿なのだ』


 どこか言い辛そうに答えるレフド叔父さん。

 ああなるほど。あまり聞かれたくない話だったみたいね。

 入り婿には入り婿の、人には言えない苦労があるんだろう。

 そして領地の経営は実家の奥さんと、代々ハレトニェート家に仕える家令が行っているんだそうな。

 そりゃあ肩身が狭いよね。

 なんかゴメン。


 イムルフ少年は気まずくなった空気を誤魔化すように僕に振り返った。


『そ、そんな訳で私達は兵を集めるべく他家を回っていた所だったのです』

『町の商人に、数日前からこの町に世にも珍しい生き物が留まっていると聞いたのだ。何でもそれはネドマを屠ったドラゴンだと言うではないか。実際に見てみれば、なるほど威風堂々たる佇まいだ。これをイムルフの乗馬――乗竜? にすれば敵味方に与える士気は計り知れない。どうだろう、このドラゴンを是非我々に譲ってくれないだろうか?』 


 なるほど。レフド叔父さんが、決して虚栄心や珍し物欲しさに僕を召し上げようとした訳で無いのは分かった。

 だからといって、はいそうですか、と彼らの物になってやる気はないけどね。


『だからハヤテは私のパートナーであって、私の所有物ではないのですわ。譲る譲らないといった話では無いのですわ』


 そうそう、言ってやって下さいティトゥさん。


『それにハヤテは女性しかパートナーにしないのですわ!』


 うおい! なんだよその設定! 人をエッチなドラゴンみたいに言わないで欲しいんだけど!

 カーチャも頷いていないで、ちゃんと主人の間違いを正そうよ!

 

 ティトゥの言葉に少し考え込むレフド叔父さん。


 ちょ、まに受けないで欲しいんだけど。

 今のはティトゥの脳内設定だから。


『つまりドラゴンの所有者になるにはパートナーになるしかないと?』

『パートナーは決して所有者という訳ではないですけど、ええ。そういう事になりますわね』

『叔父上?』


 レフド叔父さんは僕を見上げるとアゴ髭をさすった。


『なるほど分かった。それで、ドラゴンにパートナーとして認められるにはどうすれば良いのだ?』

『お、叔父上! まさかご自分で試されるおつもりなのですか?!』


 驚く周囲を見回してレフド叔父さんはニヤリと笑った。


『これでも気性の荒い馬を乗りこなすのは得意な方でな。ましてや今回の相手はドラゴン。伝承の中でしか語られない存在が人間相手にどのような試練を課して来るのか。それを知るだけでも面白いではないか』


 ティトゥが『だからいちいちハヤテを馬に例えるのは止めて下さいまし!』とプンスとむくれている。

 そして挑戦的な態度で僕を見上げて来るレフド叔父さん。

 あれは、ティトゥのような少女がクリア出来た試練ごとき、自分ならいともたやすく達成してみせる、という自信に満ちた目だね。


 いいでしょう。その挑戦受けて立ちましょう。


「カルーラ。僕の言葉をあの人に伝えてくれないかな?」

「構わないけど・・・本当にいいの飛行機さん?」


 僕だってパートナーのティトゥが軽く見られては面白くない。

 ここは彼の実力がどれほどのものか、存分に試させてもらうとしようか。 

次回「ドキドキ絶叫ツアーへようこそ」

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― 新着の感想 ―
[一言] カーチャ:(ハヤテ様またアレをやるのか…コックピット掃除するの大変なんですよ!!)
[一言] ティトゥ、珍しくマジギレするの巻。 マリエッタ王女の時は本当に例外だったんですね。 確かにハヤテの力なら、いざとなれば力づくでクーデターを起こしたベネセ家一派を鎮圧することも 出来ないでは…
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