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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その16 河賊の最後

 今日何度目かになる港町レーヴェへと到着した僕は、早速汚物をばら撒くために空から物色を開始した。


 ・・・とはいうものの、もう結構な範囲に巻き散らかしているからなあ。


 町は僕の姿に怯える人達によってパニックになっている。

 ランピーニのメイド貴族モニカさんが好きそうな光景だね。

 僕はどうかって? 心が痛んで仕方が無いよ。けど彼らの中にはきっと河賊の関係者がいるに違いない。見分けが付かない以上、全体責任でいくしかないのだ。

 恨むならその人達を恨んで欲しい。って、無理だろうなあ。


『船が動いていますわ!』


 ティトゥの指摘を受けて、僕は港へと機首を向けた。


 確かに。


 この混乱の中、何艘かの舟が一塊になって桟橋を離れようとしている。

 ていうか――


『昨日村を襲った船が混ざっていますわ』


 そう。彼らの半数程は村を襲った船だったのだ。

 どうして分かるのかって? 20mm機関砲で空けた穴が見えるからだよ。

 どうやら昨日僕が沈め損ねた船は、みんなこのレーヴェに逃げ込んでいたようだ。


『きっとみんな河賊に違いありませんわ』


 乱暴な結論のようだが、僕もティトゥと同意見だ。

 もし無関係な船が混ざっていたら申し訳ないけど、運が悪かったと思ってもらう他ない。


『アンゼンバンド』

『もう締めてますわ。行って頂戴、ハヤテ!』


 僕は一度彼らの頭上を越えて前に出ると旋回しながら上昇。

 そこから急降下攻撃に移った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 最初にハヤテに狙われたのは、昨日沈められかけた船だった。

 全部怪しい船とはいえ、流石にハヤテも確実に河賊の物と分かっている船の攻撃を優先したのである。

 恐ろしいうなり声を上げて迫るハヤテの巨体に、船の上の河賊達は騒然となった。


「も、もうダメだ」

「馬鹿野郎、簡単に諦めるな! 川に飛び込むんだ!」


 腰を抜かした男を別の男達が背後から抱えて一緒に川に飛び込んだ。

 ドラゴンの恐怖にヘタレていても、そこはベネトン河の水で産湯をつかった土地の男である。

 危なげなく泳ぎ始めると慌てて船から遠ざかった。


 こうして誰もいなくなった河賊の船にハヤテの20mm機関砲が襲い掛かった。


 ダダダダダダッ!


 小気味の良い連射音と共に船尾に木屑が舞い上がった。


「船が・・・」

「ひえっ!」


 ハヤテは彼らの頭の上を踏みつけるように上空を過ぎ去ると大きく旋回。

 次の獲物の物色を始めた。


 彼らが見守る中、被弾した船はゆっくりと後ろに傾くと少しずつ川に沈み始めた。

 どうやら船底に穴が空いて浸水し始めたようだ。

 男の一人が近くの船に向けて泳ぎ始めた。


「おおい、助けてくれ!」

「馬鹿よせ! 今度はそっちの船が狙われているぞ!」


 それは無傷の船だったが、河賊が向かったという事は河賊の船という事だ。少なくともハヤテはそう判断した。

 ハヤテはヒラリと翼を翻すと急降下。

 先程同様、舵のある船尾を狙うつもりらしい。


 船の河賊達は慌てて川に飛び込んだ。


 その中には河賊のボスの姿もあった。

 どうやらこれはボスの船だったようだ。


 ダダダダダダッ!


「俺の財産が! チクショウ、あの化け物め! 一体俺に何の恨みがあるんだ!」

「お頭!」

「チッ・・・こうなりゃ仕方がねえ。オウ、残りの船がアイツを引きつけている間に逃げるぞ!」


 ボスは手下を引き連れると、さっき出て来た港町に向かって泳ぎ始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その夜。港町レーヴェの漁業ギルド長は自宅に遅い帰宅をした。

 ギルド長を辞める話は職員には告げたものの、今日はドラゴン騒動で町はそれどころではなかった。

 明日からは関係者への通達と後任への引継ぎの書類仕事が待っている。

 しばらくはこうして夜遅くに帰る生活が続くだろう。


「もう寝ているのか?」


 家の中は真っ暗だった。

 自分が帰ったというのに、家族どころか家の下人すら出迎えないのはおかしい。

 不穏な気配にギルド長の体がこわばった。


「おい、誰かいないのか? どうした? 誰か返事をしろ」


 その時、家の奥で物音が聞こえた。

 彼が書斎としている部屋だ。

 ギルド長は明かりを手に慎重に家の奥に足を進めた。



 ゴクリ。


 ギルド長は緊張に喉を鳴らすと書斎のドアを開いた。

 部屋が明かりに照らされた。

 とはいえ完全に開け放たれた窓から月明かりが入っていたため、明かりが無くても部屋の中の様子は十分に分かったのだが。


 派手に家探しをした後なのだろう。家具は破壊され、部屋は足の踏み場もない程荒らされていた。

 しかし、そんな部屋の惨状よりもギルド長の目は部屋の奥、彼のデスクに座った赤ら顔の男に吸い寄せられた。


「船長・・・」

「おう。邪魔しているぜ」


 船長――河賊のボスとは昼間物別れに終わったばかりである。

 予想外の再会に、薄暗い明かりの中でもそれと分かる程ギルド長の顔色が青ざめた。


 ボスは座っていた机から降りると長柄の斧を肩に担いだ。


「わ、私を殺しに来たのかね?」

「ん? ああ。みっともねえ話だが、状況が変わっちまってな」


 船と一緒に財産を川の底に沈められてしまったボスは、何人かの手下と一緒に港町レーヴェに泳ぎ着いた。

 他の町にいくらかの金銭は隠し持っているものの、今は先立つものが足りない。

 ボスは不足分をギルド長の家から拝借する事にしたのである。


「まあこういう時のためにテメエを肥え太らせてた訳だしな」


 そう言うとボスはかたわらに置かれた大きく膨らんだバッグをチラリと見た。


「・・・ならそれで十分だろう。私の家から出て行ってくれ」

「お頭、家の者の始末は終わりました!」

「おう」

「何だって?!」


 廊下から聞こえた男の言葉にギョッとするギルド長。


「私の家族に何かしたのか?!」

 

 お頭は目の前で震えるギルド長を見て満足そうな笑みを浮かべた。


「俺はお前に対して殺しの誓いを立てた。河賊は誓いを必ず果たす。本当はもっと先、テメエが自分の行いを後悔してから殺すつもりだったが、あのくそったれなドラゴンのせいでそうも言っていられなくなっちまった。だがその様子ならまあまあ効果はあったようだな」

「この悪魔め!」

「ほざけ!」


 ギルド長はお頭が斧を振りかぶるのを見て、悲鳴を上げて逃げ出した。

 その背中にお頭の振るう斧が振り下ろされた。

 肉を断つ鈍い音が部屋に響いた。


「グアッ!」

「今更何を言ってやがる。その悪魔と契約したのはテメエ自身だろうが!」


 お頭はギルド長の溜め込んだ財産を奪うと、手下を引き連れて夜の町に消えた。

 翌朝、ギルド長の家から物音一つしない事に訝しんだ近所の主婦が家に入って、この凄惨な殺戮現場を発見した。

 家の者は家族から下人の夫婦に至るまで全員惨殺されていた。

 町の代官は派手に家探しされた跡から、ドラゴンの騒ぎに紛れた大掛かりな強盗団の仕業と判断、捜査を開始したが犯人にたどり着く事は出来なかった。


 夜陰に乗じて町を出たボス達はそのまま別の町に潜伏した。

 しかしその町にも半年もしないうちに、バルトネクトル騎士団の調査の手が回る事となる。

 自分の最期を悟ったボスは、取り押さえに来た騎士団を相手に大立ち回りを演じた末、切り殺されてその命を落とす事になる。


 領内最大の河賊の崩壊により、バルトネクトル公爵領における河賊の被害はこの年を境に年々減少していく事になるのだった。

次回「東へ」

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