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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その12 港町レーヴェ

 ティトゥと共にパトロールに出た僕は、昨日の村が河賊達から襲撃を受けているのを見つけた。

 村人が襲われているのを見た僕は咄嗟に河賊に攻撃を開始したのだった。



 僕は河賊達に向かって機銃を一掃射。

 彼らの頭上を越えると高度を取った。


 本来であれば、攻撃の後は速度を落とすような機動はするべきではない。

 攻撃の瞬間から攻撃直後にかけては、戦闘機にとって最も危険な時間だからだ。

 パイロットは射撃に集中するため、どうしても周囲に対する警戒がおろそかになってしまう。

 そして命中精度を上げるためには直進飛行をする必要があるため、未来位置が読まれやすいのだ。


 とはいえこの世界には飛行中の僕を攻撃、ないしは迎撃する手段は存在しないようだ。

 ここは思い切って効率重視でもいいだろう。


『やっつけたかしら?』


 ティトゥが後方に振り返った。

 どうだろう。多分命中したと思うけど。


 僕は苦い思いが胸を満たすのを感じた。


 僕の武装は人間に対しては明らかなオーバーキルだ。

 命中すれば簡単にその命を奪ってしまう。

 そして相手は僕に対して攻撃どころか抵抗すら出来ない。

 これでは戦いではない。ただの人殺しだ。


『ハヤテ』

『・・・フネ。ムカウ』


 今はくよくよと悩んでいても仕方が無い。

 こうしている間にも状況は刻々と変化している。

 一度始めた以上、もう立ち止まっている時間は無いんだ。


 僕は翼を翻すと今度は河賊達の船に狙いを付けた。



 四式戦闘機に搭載されている20mm機関砲の徹甲弾は、貫通力があり過ぎて木造の河賊船など簡単に貫通してしまう。

 そしてちょっとした穴なら直ぐに塞げるみたいで、航海に支障はないようだ。

 かといって、何度も往復して船が蜂の巣になるまで弾を撃ち込むというのは現実的ではない。

 そもそも僕は、そんな数の弾丸を積んでいない。つまりは闇雲に撃っても効果は無いのだ。


 だったらどうするか?


 船には船尾に舵が付いている。帆の角度を変えてもある程度は進行方向をコントロール出来るだろうが、それではあまりにも風任せだ。

 つまりは船尾を集中して狙って舵を壊してやればいいのだ。

 そうすれば船は操作が出来ずに漂流する事になる。

 運が良ければ破孔から浸水して沈没するはずだ。

 実際、昨日僕が沈めた二艘はそうやって沈没させたのだ。


 僕は河賊船に対して攻撃を繰り返した。

 しかし、河賊達は僕の攻撃の隙を突いて果敢に船を出航させた。

 彼らの勇敢さに僕は驚かされた。

 いや、きっと彼らも必死だったのだろう。

 結局、五艘中一艘が沈没、二艘が舵をやられて漂流、二艘の逃亡を許してしまった。


 やられた船からは河賊達がバラバラと川に飛び込んだ。

 僕が上空を飛ぶと彼らは慌てて川に身を沈めた。

 そうすると黄色く濁った川の水は彼らの姿を完全に覆い隠してしまう。

 もちろん沈んだ場所は分かっているので、そこに弾丸を撃ち込めば命を奪う事は出来るのだろうが・・・


 僕にはとてもそこまでする気持ちは起こらなかった。

 甘いと言われても仕方が無いが、やはり人殺しには抵抗がある。

 逃げる相手を背中から撃つようなマネはどうしても出来なかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテが河賊船を追って村を離れると、今まで家の奥に隠れていた村人達が外の様子を見るために家から出て来た。


「村長! 大丈夫ですか?!」


 村人達は背中から血を流してうめいている村長のそばに集まった。


「止血を! 誰か傷薬を持っていないか?!」

「それなら家に残っていたはずだ」


 村長の手当てが進む中、頑固そうな初老の男が遠くに見えるハヤテの姿を憎々しげに睨み付けた。


「あいつのせいでまた河賊達がやって来た。せっかく昨日、河賊のヤツらに食糧を差し出したのに全部台無しだ」


 男の言葉に同意したのだろう。何人かの村人が不満そうな表情を浮かべた。


「俺達が大人しくしていればヤツらは理不尽を働かない。本当にいい迷惑だよ」

「本当にそうか?」


 一人の若者が男の前に立った。昨日ハヤテ達に頭を下げたあの青年だ。


「本当にそう思っているのか? 村長のあの姿を見てもそう言えるのか?」

「何だとグレド。お前俺に文句でもあるのか?」


 グレドと呼ばれた青年は周囲を見渡すと村の女達に取り囲まれた若い女性を指差した。


「ヴルスは危うくあいつらに乱暴されそうになったんだぞ。それでもヤツらは理不尽じゃないと言うのか」


 村の女達からの無言の視線を受けて男は思わず鼻白んだ。

 男は声を荒げるとグレドに詰め寄った。


「お前俺達に食わせてもらった恩を忘れたのか! 俺達が苦労して働いたから今のお前らがいるんだろうが!」


 男の態度は単なる逆切れだ。

 立場が悪くなりそうな空気を察して、居丈高に怒鳴りつける事で相手を引かせようとしているのだ。

 実際に女達は怯えて男から目を反らしている。

 しかしグレドは一歩も引かなかった。


「それとこれとは話が別だ。それに俺達はあなただけに養われて来た訳じゃない。自分が全員を代表するような口ぶりは止めてくれ」

「何だと! どの口がそんな生意気を言いやがる!」


 激昂した男がグレドに掴みかかった。

 しかしそれでもグレドは男から目をそらさない。

 今にも殴り合いが始まりそうな二人に割って入ったのは大人しそうな村人だった。


「もう止めて下さい。グレドも引くんだ」

「父さん――」

「おいアルバ! お前の息子はどうなってんだ! お前どういう育て方をしてやがる!」

「ログさんも止めて下さい。今のはアンタが悪い」


 日頃は大人しいグレドの父の険しい表情に男は訝しげな表情を浮かべた。


「確かにこの村はあなた達のものだった。しかし、今では私達が村の中心だ。いつまでも自分達のもののように言わないで欲しい」

「なっ・・・ 何だとアルバお前・・・」


 この言葉に成り行きを見守っていた年長の村人達の間に険悪なムードが立ち込めた。


「私達の村だ。村の方針は私達で決める。それが不満ならあなた達には出て行ってもらうしかない」

「暴言だ! 生意気を言うなアルバ!」

「お前、ワシらを追い出そうと言うのか?!」

「そんな身勝手は許さん・・・ぞ?」


 村の年長者たちは激昂したが、思っていたよりも周囲の反応が冷ややかな事に驚き、その言葉は尻すぼみに終わった。

 そう。連日の河賊の無法な行いに村人達の我慢も限界に来ていたのだ。


「もうよせ」

「村長、無理をしては――」


 村長は額にびっしりと汗を浮かべながら体を起こした。


「流石に私も今日の河賊のやりようには怒りを感じている。今までは何を要求されても黙って彼らに従っていたが・・・覚悟を決める時が来ているのかもしれん」

「村長、そんな・・・俺はただ」

「みんな私の家に集まってくれ。村人全員の意見を聞きたい。今後この村はどうしていくべきか。もちろんグレドの意見も必要だ」


 グレド少しうろたえて父親に振り返った。


「父さん俺は・・・」

「いいんだ。いずれ遅かれ早かれこうなっていただろうよ。お前達がいいようにやりなさい。いずれはここはお前達の村になるんだから」


 父親の励ましを受けてグレドは力強く頷いた。



 こうして村人全員の意見を元に、この村は今後河賊から一切手を切る事に決まった。

 河賊達はやり過ぎてしまったのである。


 河賊からの報復に備え、村は河賊の情報を渡す事を条件にバルトネクトル公爵家に庇護を求めた。

 代官のボルドーは彼らの要請に応えて村に騎士団の詰め所を設け、河賊の締め付けに乗り出すのだがそれは少し先の話となる。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『あの町はレーヴェ。古くからある港町ですわね』


 河賊船のうちの一艘が逃げ込んだのは河口にある小さな港町だった。

 ティトゥが昨日作った地図を見ながら情報を確認している。

 しかし、こんな所から河を遡っていたのか。この河賊は案外大物なのかもしれないぞ。


『ハヤテ! あそこ!』


 ティトゥが指差す先には、他の船に紛れるように停泊している一艘の船が・・・

 あれは!


『ハヤテが空けた穴が見えますわ! きっと昨日逃がした河賊の船ですわ!』


 忘れもしないその姿――と言う程は覚えて無かったけど、それはともかく、僕があちこちに空けた穴は隠しようもない。

 間違いない。あれは昨日の河賊の船だ。

 そしてさっき逃げ込んだ河賊の船。


 ここはひょっとしたら河賊の本拠地なんじゃないだろうか。

次回「カーチャ作戦」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時代をつくるのは老人ではない!(某赤くて三倍な人) [気になる点] 久々にわけのわからない次回予告きたw
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