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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その11 河賊戦

本日は文字数ミリオン超えを記念して二話更新しています。

読み飛ばしにご注意下さい。

 翌日。朝食を終えたティトゥ達が僕の下にやって来た。

 何も異常はないみたいで僕はホッとした。


 いや、少しだけ心配だったんだよ。

 僕達にとって帝国って敵国みたいなものじゃない?

 まあ相手からすれば、ミロスラフ王国なんて敵対していると言うにも値しない小国なんだろうけど。


『それで今日はどうするんですの?』


 そうだね。昨日空から見て大体の感じは掴めたと思う。

 だから今日はパトロールが主体になるかな。

 その過程で昨日逃げられた河賊の船を探そうと思う。


『どんな船だったかしら?』


 う~ん。僕も自信がないけど、大体の形は覚えているし、船体に20mm機関砲の穴が空いているから見れば分かると思うよ。


『けど船を見つけても今日も河賊達が乗っているとは限りませんわよ?』


 まあそうだろうね。というか壊れかけた船なんて普通に考えれば使っていないんじゃないかな。


『だったら何で―― 』

『あっ! 分かりました!』


 カーチャがはたと手を打った。


『壊れた船は危なくて使えませんよね? けど、まだ動かせるならどこかで修理をしているはずです!』

『なるほど。河賊はその町に潜んでいるか、あるいはその町が河賊の基地になっている可能性がある』


 そういう事。

 何でも手作業のこの世界で船は高価な乗り物だ。――いや、元の世界でもそうなのかもしれないけど。

 だから昨日の河賊達がまだまだ使える船をそこらに乗り捨てていくとはちょっと考え辛い。

 きっと直してもう一度使おうとするだろう。

 そして素人大工で船の修理は出来っこない。というかそんな船、僕なら怖くて乗れやしない。

 つまりそこが彼らの拠点か、重要な協力者という事になるはずだ。


『なるほど。十分にあり得る話です』


 ティトゥ達に付いて来ていた(それがし)団長が、思わず、といった感じで唸り声を上げた。

 その様子を見てティトゥも自信が付いたのだろう。僕を見上げて力強く言った。


『ならその方針で行きましょう』


 ちなみにこの時僕は今日の飛行は空振りに終わる可能性も覚悟していた。

 流石に二日連続で河賊が暴れている場面に出くわすとは思えないし、無数の船の中から昨日の船を見つける自信は無かったからだ。

 けどこのまま屋敷の庭でじっとしてもどうにもならない。

 犬も歩けば棒に当たる。宝くじはまずは買わないと当たらない。そう考えてパトロールに出る事にしたのだ。


 だからまさか、いきなり当たりクジを引き当てる事になるとは思わなかったのだ。




『昨日の村から煙が上がっていますわ!』


 パトロールを始めて直ぐに僕達はその異常に気が付いた。

 昨日僕達が河賊を追い払った村――え~と、何て名前の村だっけ? まあいいや、昨日の村から昨日と同じように黒煙が上がっていたのだ。


 まさか二日連続であの村が襲われているのか? そんな馬鹿な。


『また河賊・・・ではないんでしょうね』


 ティトゥも半信半疑のようだ。そりゃそうだよね。

 そしてあまり気が乗らない様子だ。

 昨日は村の人達から随分と敵意を向けられたからね。

 事情は判明したものの、あまり関わり合いになりたくはないんだろう。


『・・・けど放ってはおけませんわ。ハヤテ』

「了解!」


 君ならきっとそう言うと思っていたよ。

 僕は翼を翻すと村を目指した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 村には五十人程の男達が集まっていた。

 例の河賊達だ。

 彼らは今朝、五艘の船に分乗して村にやって来ると、思い思いに村を物色し始めた。

 村人達は家の奥で家族で身を寄せ合って、無事に嵐が過ぎ去るのを願っていた。


 河賊のリーダー格の男に村長が縋り付いた。


「もうお帰り下さい! 食べ物なら昨日差し上げたはずです!」

「んなモンはどうでもいいんだよ! 俺達は昨日の化け物に用があるんだよ!」


 リーダーの言葉に別の河賊が「本当にそんなヤツがいればな!」と返した。

 男達の間に野卑な笑い声が生じた。


「あれはこの村とは何の関係もありません! 私達だって知らないんです!」

「口ではどうとでも言えるよな」

「そこらに隠してんじゃねえか? 例えばココとかよ!」


 男の一人が剣を振り回して手近な柵を壊した。

 驚いた家畜が悲鳴を上げて柵の中を逃げ回った。


「ギャハハハハッ! ブタ小屋じゃねえかバーカ! こっちに決まってるぜ!」

「よっしゃ! 誰が最初に見つけるか競争だ!」


 河賊達は思い思いに村を破壊し始めた。


「誰か小屋に火を着けろ! 煙を見て化け物がやって来るかもしれねえぞ!」

「やめてください! 化け物なんてどこにもいません!」

「うるせえ! テメエは黙ってろ!」


 河賊の男は、なおもリーダーに縋り付く村長を剣で薙ぎ払った。

 村長は背中をパックリと切られると悲鳴を上げて地面に転がった。


「おい、こっちにいい女がいたぞ!」

「おっ、化け物退治の前の景気付けだ! いっちょ頂く事にしようぜ!」

「ヤリすぎで腰を抜かして戦えないなんて抜かすなよ!」


 女の悲鳴と男達の下卑た笑い声が村に響き渡る。


「?! おい、待て。何か変な音が聞こえないか?」


 この喧噪の中、一人の河賊がふと周囲を見渡した。

 男の様子に周囲の仲間達の動きが止まる。


「何だこの音は? どこから聞こえて来る?」

「空だ! 何かがこっちに向かって来るぞ!」


 目ざとい男が空の一点を指差して叫んだ。


「まさかあれがヤツらの言っていた化け物なのか?」


 河賊達が固唾をのんで見守る中、空に浮かんだ点はみるみるうちに大きくなっていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『村が襲われていますわ!』


 ティトゥが驚きの声を上げた。

 確かにビックリだ。まさか二日連続で同じ村が襲われるなんて思わなかった。

 この村はよほど河賊に狙われやすいんだろうか?


 河賊の数は昨日の倍以上はいるみたいだ。

 船の数は五艘。こちらも大体昨日の倍だ。


 河賊達は村を荒らし回っていた所のようだ。

 小屋や柵が壊されて、地面にそれらの残骸がばら撒かれている。

 河賊に捕まっている女性もいる。攫って売り飛ばすつもりなんだろう。

 ヤツらの非道な行為に、僕の頭にカッと血が上った。


『ティトゥ!』

『ハヤテ! やって頂戴!』


 僕は大きく旋回すると村の屋根の上ギリギリまで高度を下げた。

 そのまま水平飛行に移ると彼らに襲い掛かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんだあれは?! マジで化け物がいたのか?!」


 空を飛ぶ異形の姿に河賊達は騒然としている。

 この混乱の中、捕まえられていた女性が男の拘束を振り払って逃げ出したのだが、今の彼らは気にする余裕もないようだ。

 化け物は彼らの頭上を越えて川の方へと去って行った。いや、大きく旋回して戻って来るようだ。

 どうやら彼らを獲物として狙いを付けたらしい。


「おい、マズいぞ。空を飛ばれたら俺達には手も足も出ねえ」


 仲間の指摘にリーダーは「ううむ」とうなり声を上げた。


「どうにかしてヤツを地面に引きずり下ろさねえとな」

「けどどうする? ここには弓が得意なヤツはいねえぞ」


 彼らの中には弓を持って来ている者もいる。しかし、運悪く弓を得意とする仲間は今日のメンバーの中にはいなかった。

 最も、どんな弓の名手でも、空を飛ぶ四式戦闘機に矢を命中させられる者などいないだろうが。


「おい! ヤツが襲い掛かって来るぞ!」


 化け物は低空からこちらに突っ込んで来た。

 化け物の上げる大きな唸り声が辺りを震わせた。

 慌てて逃げ出そうとする仲間をリーダーは怒鳴り付けた。


「馬鹿野郎、ビビるな! わざわざあっちからやって来るんだ! いつまでも飛ばれちゃ手も出せないが、地面に落としさえすればこっちのもんだ! 地面に引きずり下ろして全員で切り刻んでやれ!」


 リーダーにはっぱをかけられて男達の足が止まった。

 河賊の世界は舐められたらおしまいだ。ここで逃げ出したら一生仲間の物笑いの種になってしまう。

 男達は恐怖を押し殺して迫りくる化け物を睨み付けた。


 その時、化け物の首と翼にパパッと小さな光が点滅した。

 音は僅かに遅れてやって来た。


 ドドドドドドドドド


 それは破壊と殺戮を生み出す恐怖の咆哮だった。




 圧倒的な暴力。


 この日彼らは真の暴力というものを目の当たりにした。

 大きな土煙の立ち込める中、河賊達ははじかれたようにバタバタと地面に倒れた。

 この世界の者には想像も出来ないだろう。よもや化け物から放たれた弾丸が人間の体を貫通しただけでは足りず、地面に着弾して大きな土煙を上げているとは。

 ハヤテの20mm機関砲の徹甲弾は、人体のような軟標的を貫通した程度ではその運動エネルギーはほとんど損なわれないのだ。


 直撃した者は一瞬のうちに即死した。手足に被弾したものも被弾面から先を消し飛ばされてショック死した。

 とても戦闘機の機銃掃射とは思えない、恐ろしい程の命中精度である。 

 ハヤテの射撃精度は、航空電子機器(アビオニクス)で制御された最新鋭の戦闘機のそれを上回っているのかもしれない。


 ハヤテは轟音を上げて彼らの頭上を通過した。


 射撃が始まってから時間にして僅か数秒。

 しかしその短時間で、河賊の主だった者達は全員死んでいた。

 文字通りの秒殺である。


 残ったのは運良くハヤテの射線から外れていた者達と、ギリギリで逃げ出した臆病者達。

 最初の半数以下となった彼らは、大きな悲鳴を上げながら自分達の船へと逃げ出したのだった。

次回「港町レーヴェ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本当に面白いんですけど、ギリギリで逃げ出した臆病者たちとありますが、一度の攻撃で人間を数十人も殺すような化け物から逃げ出すのは臆病でもなんでもないと思います。
[良い点] 初陣の時と比べるとハヤテも強くなったもんだなぁ...としみじみ感じます(´・ω・`) しかしこの強くなったのはネームドパイロット的な感じの成長なのか機体の熟練度的なものなかのかどちらなんで…
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