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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その10 広がる波紋

ふと気が付くとこの作品の文字数が1,000,000文字を超えていました。

凄いですね。ゼロが多すぎて桁が分からなくなりそうです(笑)。

ミリオン超えが嬉しかったので今日は二話更新したいと思います。

読み飛ばしにご注意下さい。

 村の若者達と別れて僕達は飛び立った。


『何だか色々とあって頭が混乱してますわ』


 ティトゥは精神的にお疲れの様子だ。

 色々な事が立て続けに起こったからね。

 どうする? 今日はもうこれくらいにしておこうか?


『大丈夫ですわ。こんな事で休んでいたらカーチャに笑われますわ』


 ティトゥのメイド少女カーチャなら、主人を心配する事はあっても笑う事は無いと思うけどなあ。

 まあ君にまだやる気があるのなら、僕はその気持ちを尊重するよ。


 こうして僕達は飛行を続け、日が西に傾く頃にはバルトネクトル公爵家の屋敷に戻ったのだった。




『お帰りなさいませ』


 僕は昼間のように屋敷の庭に着陸した。

 今度は余裕をもって降りられた事をここに明記しておく。


 バルトネクトル騎士団の(それがし)団長は、「やっぱり帰って来るんですね」と言わんがばかりの目で僕を見上げていた。

 そりゃまあ、僕らがカルーラとカーチャを置いて行くわけはないからね。


 ティトゥは早速、カーチャが商人君から聞き出した地名をメモに書き込んでいる。

 どうやら自分の記憶が確かなうちに地図を完成させてしまうつもりのようだ。


『それはこの辺一帯の地図ですね』


 商人君が目ざとくティトゥの手元のメモに目をやった。


『街道に町、これは林、こっちは川の支流ですか。この記号は? ああ、大体の距離ですか。これは凄いですね』


 しきりに感心する商人君の言葉に、(それがし)団長がギョッと目を剥いた。

 慌ててティトゥの後ろに立ってチラリチラリと彼女の手元を覗き込んでいる。


『あの、これ、後で写しを取らせて貰えませんか?』


 商人君のお願いを受けて、ティトゥは背後の団長を見上げた。


『団長が許可したら構いませんわ』


 ティトゥの返事にプルプルと首を振る(それがし)団長。

 商人君はガックリと肩を落とした。

 どうやら余程この地図が欲しかったみたいだ。


 以前のティトゥなら軽く渡していた所かもしれないけど、今は彼女も領地を預かる身だからね。

 領地の地図を軽々しく人に渡しちゃいけないと分かっているのだ。


 じゃあ自分が他の領地の地図を作るのはいいのかって?

 良くはないけど、今回は必要なんだから仕方が無い。

 作戦を立てるにしても地図も無しじゃ話にならないからね。


『どうかしらハヤテ』


 ティトゥは出来上がった地図を僕の所に持って来た。

 うん。いい感じなんじゃないかな。


『タイヘン、コノマシュウゾンジマス』

『だったらいいんですわ』


 僕の返事にティトゥもご満悦の様子だ。

 彼女の後ろで(それがし)団長が急いで部下に指示を出している。そして大慌てで駆け出す騎士団員。


 これは翌日にティトゥから聞いた話だが、この後ティトゥ達の部屋に白髭のお爺ちゃん代官がやって来て、「どうかその地図を見せて貰えないだろうか?」とお願いして来たんだそうだ。

 ティトゥが快く見せてあげると、代官の顔はみるみる青ざめていったそうだ。

 その後彼は「是非これはこちらに渡して下さい」と縋り付くようにティトゥにお願いして来た。

 ティトゥが「今回の件にどうしても必要だから、終わったらお渡ししますわ」と断っても、どうしても引き下がってくれない。

 結局「だったらこれはお渡ししますが、明日、もう一度同じ物を作りに行って来ますわ」と言った事で、ようやく諦めてくれたんだそうだ。

 それでも「後で絶対に渡して下さいね」「他人には絶対に見せないで下さい。帝国人が頼んでも断って下さい」と何度も念を押していたそうだ。


『これってそれ程の地図なのかしら?』

『ゾンジアゲマセン』


 僕が空から見れば一目瞭然の情報でも、この世界だと秘密にしないといけない情報なのかもね。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇


 代官のボルドーはテーブルを平手で叩いた。分厚い板で作られた高価なテーブルは彼の怒りを受け止めた。


「なんだあの女は! デタラメにも程があるだろうが!」


 ついさっき彼がティトゥに見せてもらった地図は素朴なものだった。

 彼の執務室の奥にしまってある領地の地図に比べれば、稚拙なメモ書き程度でしかない。


 しかしそこにはこの領地の主要な情報が不足なく書き込まれていたのだ。


 町から町の距離。その間に存在する村。村と町を繋ぐ街道。砦の位置に、船着き場の多い町に、街道が交差している町。


 もしこの領地を攻めようと考えている敵がいたら、どんな大金を積んででも今すぐあのメモを手に入れようとするだろう。


「マリミテ嬢がこの屋敷を離れていたのは、ほんの半日ほど。・・・たったそれだけの時間で、彼女はこの領地を隅から隅まで調べ尽くしてしまったというのか」


 それは流石にボルドーの買い被りすぎだ。

 ハヤテは必要な部分だけ――川沿いの地図しか作っていないからだ。

 だがそれ程さっき見たメモに書かれていた情報は、ボルドーにとって衝撃だったのだ。


 確かに彼は従軍していた帝国兵からドラゴンの脅威を聞かされていた。

 だからドラゴンが恐ろしい存在だとは知っていた。いや、知っているつもりになっていた。

 まさかドラゴンの力が武力のみならず、情報戦においても圧倒的なアドバンテージを誇るとは想像すら出来なかったのだ。


「いっそマリミテ嬢を亡き者に・・・ いや、それこそ最悪の悪手だ」


 彼はドラゴンが言葉を喋るところを見ている。

 ドラゴンには言語を解する高度な知能があるのだ。

 そんな彼がパートナーである少女を殺されればどうするだろうか?


 五万の帝国軍すら退ける驚異の力が怒りのままにこの地で振るわれる事になるだろう。


「ご当主様の留守を預かる私が領地を破滅させるなど、あってはならない事だ」


 この時ボルドーは最悪の可能性に思い当たってギョッとした。

 先程も言ったが、彼は当然マリミテ嬢を害するつもりはない。

 しかし今この屋敷にはドラゴン対策会議のために領地の貴族が集まっている。

 彼らのうちの誰かが、例えば酔いが回った若い貴族辺りが、衝動的にマリミテ嬢に不埒な行いをしようとしたりはしないだろうか?


「団長のベルラークを呼べ! 大至急だ!」

「はいっ!」


 主人の剣幕に、使用人は慌てて廊下へ駆け出した。

 この後ボルドーから指示を受けた騎士団団長ベルラークは、急いでティトゥ達の警護を厚くするのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここは川沿いに作られた古びた町。その一室で赤ら顔の中年男が部下の報告を受けていた。


「仲間の船が二艘もやられただと?」


 昼間、ハヤテの攻撃から命からがら逃げ伸びた河賊達は、今まで秘密の隠れ家に身を潜めていた。

 彼らは夜になって、ようやくボスのいるこの町に逃げ込んで来たのだ。


 バルトネクトル騎士団には神出鬼没と思われている河賊達だったが、実は昔からこの町を根城にしてその活動を続けていたのだった。


「相手はどこのヤツらだ? まさか帝国軍か? バルトネクトルの腰抜け野郎共とは言わねえだろうな?」


 ロクな水軍も持っていないバルトネクトル騎士団を、彼らは「船にも乗れない腰抜け」と侮っていた。

 実際はバルトネクトル家は水軍を持っていない(・・・・・・)のではなく、持つ事を王家に許されていない(・・・・・・・)だけなのだが、彼らにとってはどちらでも良い事だった。彼らは帝国の貴族をバカにさえ出来ればそれだけで満足なのだ。


「いえ、それが恐ろしい声を上げる空飛ぶ緑色のデカブツでして」

「なんだそりゃ? 俺に分かるように話さねえか!」


 ボスに怒鳴り付けられて、部下は慌てて説明を始めた。

 とはいうものの、彼にとってもハヤテは謎の存在である。

 彼の説明がどうにも要領を得ない物となったのもやむを得ない事だろう。


「・・・お前ら酒にでも酔ってたんじゃねえのか?」

「酒に酔って船を二艘も沈めるもんですか! 本当にそんな化け物がいたんですよ!」


 部下の言葉も最もだ。しかし船程の大きさの空飛ぶ化け物など、ボスの想像力では頭に思い描く事すら出来なかった。


「まあいい。そのうちその化け物もどこかに行ってしまうだろう。念のためしばらく大人しくしておくように部下には言っておけ」

「・・・へい」


 帝国軍の敗戦からこっち、少し派手に暴れ過ぎている。帝国軍が本腰を上げて河賊の討伐に乗り出さないように、ここらで大人しくしておいてもいいだろう。

 ボスはそう判断した。


 しかしボスは部下達の性格を良く分かっていなかった。


 彼らは仲間から化け物の話を聞くと、「そんなバカげた話があるもんか。だったら俺がその正体を暴いてやる」と、我先にボスの命令を破って行動を始めたのだ。

次回「河賊戦」

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― 新着の感想 ―
[良い点] メチャクチャ面白いです。 [気になる点] >>じゃあ自分が他の領地の地図を作るのはいいのかって?良くはないけど、今回は必要なんだから仕方が無い。 公爵家が困ってるのは事実でも正式に依頼を…
[良い点] それだけたくさんよくかけるな…と思います。自分の中でなんとなく書きたいことがあってもそれを実際文章にするのはなかなか難しいことですから。2回目の更新もお待ちしておりますw [一言] なむ……
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