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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その9 前哨戦

 河賊の退治に来た僕達は、早速、現地の様子を見に飛んだ。

 そんな僕達の見下ろす先に黒い煙が立ち昇っていた。


『! 村が襲われていますわ!』


 そう。街道から外れた小さな村に黒い煙が上がっていたのだ。


『ハヤテ!』


 ティトゥに指示されるまでもなく、僕は村へと向かっていた。



 上空から見下ろすと男達が何かを船に積み込んでいる。

 船は三艘。大きな河で使う船だけあって、ちょっとした大きさだ。

 弁才船(べんざいせん)みたいな船、と言って通じるだろうか?

 時代劇で良く見る、大きな帆が張られた中型の船だ。

 この川ではあちこちに浮かんでいるタイプの船である。


 男達の人数は二十人程だろうか?

 村人の姿は見当たらない。

 まさか全員ヤツらに殺されてしまったのか?

 最悪の予感に僕の背筋が凍り付いた。


『村人はみんな家に逃げ込んでいるみたいですわ』


 ティトゥが村を見下ろして呟いた。


 どうやら村人はみんな家に引きこもって身を守っているらしい。

 言われてみれば、村人の姿はともかく死体すら見当たらないのは不自然だ。

 どうやら僕の早とちりだったらしい。


『アンゼンバンド』

『もう絞めていますわ。行って頂戴、ハヤテ』


 ティトゥに一声かけて僕は急降下。河賊の船に襲い掛かった。




 まさかいきなり戦闘になるとは思わなかったので、250kg爆弾の用意はしていなかった。

 とはいえこの川の船は外洋船に比べれば随分と小さい。250kg爆弾ではオーバーキルだろう。

 貫通して川底の泥に埋まって不発弾になるかもしれない。

 まあ船底に穴が開けば船は沈むだろうからそれでもいいのかもしれないけど。

 でも二発しかない爆弾をそんな使い方をするのは勿体ない。

 20mm機関砲の破壊力で十分足りるだろう。


 僕の飛行音に気が付いたのだろう。

 河賊(多分)の男達がこちらを見上げてギョッと体をこわばらせた。

 中には持っていた樽を足の上に落としたのか、足を押さえてピョンピョンと飛び跳ねているヤツもいる。

 どこにでもドジなヤツはいるもんだ。


 僕は彼らの頭上を飛び越えると、村の外、停泊中の河賊船に狙いを定めた。


 ドドドドドド


 四門の機関砲が同時に火を噴いた。

 真っ赤な火柱が吸い込まれるように先頭の船に着弾。パッと木屑が舞い上がった。

 船に荷物を積み込んでいた男達が慌てて川に飛び込んでいる。


 僕は船の上空を通過。

 船は・・・一見何の変化もないように見えるな。


『失敗かしら?』


 どうだろう。若干喫水線が下がっているようにも見えるけど・・・

 念のために再度攻撃したいところだが、河賊の船はまだ二艘が無傷で残っている。

 ひとまずはそちらを攻撃した方がいいだろう。


『ベツノフネ。コウゲキ』

『りょーかい、ですわ』


 僕は大きく旋回すると次の獲物を狙った。




 結局、僕は河賊の船を逃がしてしまった。

 三艘中、二艘は沈める事に成功したが、残りの一艘に逃げられてしまったのだ。

 ちなみに逃げ延びたのは最初に攻撃したあの船だ。

 やはりあの時に致命傷を与える事は出来なかったようだ。

 けど攻撃の要領は掴んだ――と思う。

 次の機会があれば今度こそ沈めてやろう。


 追いかけていけば止めを刺す事も出来たと思うけど、この川は船の往来が激しい。

 ティトゥに無関係の船を巻き込んでしまう可能性を指摘されて諦めたのだ。

 どのみち僕一人では彼らを全滅させることは不可能だ。

 今日のところは彼らを追い返して村を守れただけで良しとしよう。


 こうして僕達の河賊との前哨戦が終わった。

 この時の僕はそう考えていた。




『なんてことをしてくれたんだ!』

『余所者は手を出すな! これは我々の問題だ!』


 村の様子を心配して村の外に着陸した僕達を待っていたのは、村人達からの怒声だった。

 彼らは僕の姿に怯えている様子だったが、それでも文句を言わずにはいられなかったようだ。


『みなさん、落ち着いて頂戴!』

『女? あんた女だてらにそんなものを乗り回して俺達をどうするつもりだ?!』


 僕に乗っていたのが可憐な少女だと知って、村人達は益々いきり立った。


『とにかく早くここから出て行ってくれ! そしてもう二度とこの辺に来ないでくれ!』

『わ、分かりましたわ。直ぐに出ていきますわ』


 ティトゥが大人しく言う事を聞いたからだろう。村人達はこっちを睨みながら下がって行った。


『どういう事かしら?』


 そうだね。まさか助けたはずの村人達からこんな風に言われるなんて思わなかった。

 彼らから一方的に敵意を向けられてティトゥはショックを受けた様子だ。


 村人達が見守る中、僕はエンジンをかけると空に舞い上がるのだった。


 空に舞い上がった僕は少し大回りをした後、寂れた街道に着陸した。

 さっきの村から少し離れた場所である。

 しばらく待っていると、村の方から三人の若者達がやって来た。

 彼らの先頭に立つ若者が僕達に頭を下げると、残りの二人も彼に従って頭を下げた。


『村を助けてくれて感謝します。そして村の年寄り連中があなたに失礼な事を言ってすみませんでした』




 あの時、村人達がティトゥに詰め寄っていたけど、それは比較的年齢の高い大人だけで、若い村人は何も言わずに気の毒そうな顔で遠巻きに僕達を見ていただけだった。

 そんな中、今、頭を下げた彼が何度もこの場所を指差していたのだ。

 彼の表情を見て何かあると感じた僕は、渋るティトゥを説得してこの場に着陸したのだった。


『・・・理由を説明して頂けますの?』

『はい。あれは年寄りだけの意見で、決して村の全員の考えではありません。俺達はあなたに感謝しています』


 彼の話をまとめるとこうだ。


 この辺りでは昔からずっと豪族の私兵による略奪行為が常態化していたらしい。

 その後、彼らの親の時代に、この辺りはミュッリュニエミ帝国の支配地域に組み込まれる事になった。


 彼の親世代が言うには、税さえ納めていれば安全な今の方が昔よりもずっと過ごしやすいとの事だ。


 僕達にとっては迷惑国家でしかない帝国だが、この土地に住む人にとっては法と秩序を持ち込んだ有難い存在でもあったようだ。


『けど、年寄り連中は今でも自分達の土地を支配した帝国を恨んでいます。だから河賊には何をされても逆らわないし、余所者には辛くあたるんです』


 今では河賊と呼ばれる彼らだが、元はこの土地の豪族の私兵――土地の軍隊だったそうだ。

 時代の変化を受け入れられない年長者は、彼らに支援する事で帝国に対して反意を示しているのだろう。仮にそれが河賊の横暴を許すという形であったとしても。


『だが年寄り連中は勘違いしている! あれは私兵じゃない。河賊だ! だが頭の固いアイツらは俺達の言葉を聞こうともしない!』


 怒りに顔を朱に染める若者達。


 あーなるほど。つまり現在この土地は世代によって三つの派閥に分かれているんだな。


 村の年長者で、昔からこの土地で生まれ育った人達であり、後からやって来た帝国の支配が絶対に許せない派。

 彼らは、自分達村人は豪族の私兵に略奪を受けるのが当たり前だと思っている。

 さっき僕達に怒鳴り込んで来たのはこの人達だ。


 次に比較的若い親世代。昔を知っているが、それはそれで帝国の支配を受け入れている派だ。

 彼らにとって豪族の私兵による略奪はあくまでも子供の頃の恐ろしい思い出でしかない。

 自分達の子供をあんな恐ろしい目には遭わせたくない、とか思っていそうである。

 だからといって、年長者には頭が上がらない。

 穏健派と言い換えてもいい。


 最後に彼らのような若い世代。この土地が帝国の支配下になってから生まれた世代だ。

 彼らは積極的に帝国の支配を受け入れている派だ。

 あるいは河賊の略奪を絶対に許せない派と言ってもいい。


 現在この三派閥の力は年齢順に上から並んでいる。

 当然上の年齢から順番にお亡くなりになる訳だから、そのうち力関係は逆転するはずだ。

 しかし、目の前の彼らの様子を見る限り、そうなる前に耐えきれずに暴発しそうである。


 というより、はたから聞いていても年長者の主張には無理があり過ぎる。

 さっき彼らが言ったように、今の河賊はもうかつての豪族の私兵とは言えない。

 豪族ごとき小集団にこの土地を帝国から取り返す能力があるとは思えないからだ。

 そして統治者の能力に欠ける野良の武装集団は軍隊ではなくただの賊であり、国家に対するテロ集団だ。

 村人達が無抵抗なのをいいことにうまい汁をすすっている寄生虫でしかない。


 年長者はかつての枠組みにとらわれ過ぎて、時代の変化に付いていけなくなっているのだろう。

次回「広がる波紋」

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