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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第九章 ティトゥの帝国外遊編
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その8 ベネトン河

 バルトネクトル公爵家の屋敷に到着した僕の前に現れたのは、チェルヌィフ商人のレオミールの使い走りの青年と、この領地の騎士団団長の(それがし)さん。


 え~と、商人はフリップで、団長はベルラーク団長だったっけ。


『河賊の潜伏先の情報を教えて欲しいですわ』

『・・・それが分かれば(それがし)達も苦労はありません』


 ティトゥの最もな要求に、これまた最もな返事を返す(それがし)団長。

 しかし情報も何もなしか。困ったな。


『ハヤテ』


 ティトゥも困った顔で僕を見上げた。

 ふむ。仕方ない。


『トブ』

『『『『『喋った!』』』』』


 驚く団長達。てか君達、ここの家令の白髭お爺ちゃんから僕が喋るって聞いてなかったのかな?


 情報が無いなら先ずは現地に向かう。

 現場百遍。捜査は足で。刑事(ドラマ)の基本ですよ。


『そうですわね。こうしていても仕方ないですわ。飛び回って地形を把握しておかないと』


 ティトゥもやる気満々だ。

 去年の夏の海賊退治の時も、この前の帝国軍との戦いの時も、僕は事前に飛び回って現場の地形を確認していたからね。

 どうやらティトゥもすっかり僕のやり方を覚えて来たみたいだ。


 ティトゥの負担を軽くするためにも、僕に航空写真を撮影する能力があったらいいんだけどなあ。

 地上と無線で交信出来なかったりと、僕の能力は少しもの足りなくて、どうにももどかしい思いをしてしまう。

 僕が転生したのが四式戦闘機”疾風”ではなく、偵察機”彩雲”あたりだったらもっとその辺が充実していたのかもしれないのになあ。


 僕がそんな事を考えている間に、ティトゥはヒラリと翼の上に飛び乗った。


『マ、マリミテ様お待ちをっ!』


 ・・・

 ・・・はっ。

 ティトゥ、商人君が君の名前を呼んでるよ。


『・・・そういえば、私の名前でしたわ』


 どうやら僕だけではなく、ティトゥも今の自分の名字を忘れていたようだ。

 自分の主人に少し呆れ顔のメイド少女カーチャ。 


『コホン、何ですの?』

『闇雲に飛んでいても時間ばかりかかって何も見つかりません。最近河賊の被害があった場所に向かわれてはどうでしょうか?』


 商人君の言葉に(それがし)団長が顔をしかめた。

 この提案がお気に召さない様子だ。彼としては外国の貴族の娘に自分達の恥を晒すようで気乗りしないのだろう。


 それはそうと商人君の考え方は分かるけど、どうせ川の端から端まで見て回るつもりだしなあ・・・

 心配してくれる気持ちは嬉しいから何とも言い辛い。

 ティトゥもそう思ったのだろう。ちょっと考えてカーチャに目をやった。


『それもそうですわね。・・・カーチャ。あなたそこの、え~と、そこの方から話を聞いておいて頂戴』

『えっ? あ、分かりました』


 カーチャは自分も一緒に行くつもりだったのか、ティトゥの指示に慌てて答えた。

 まあカーチャを膝の上に乗せていたらメモも取れないからね。

 ましてや、どれだけ時間がかかるか分からない索敵に、酔いやすいカルーラは連れて行けないし。

 ティトゥだけで行く方が効率が良いんじゃないかな。


 ティトゥの言葉に戸惑っているのは商人君も同じようだ。

 今もキョトンとした顔でこちらを見上げている。


『えっ? えっ? 何で?』

『ご本人がああおっしゃっているのだ。お前は自分に求められた仕事をするがいい』


 少し機嫌を取り戻した(それがし)団長が商人君を諫めた。

 そういう事だから少し離れてくれるかな。


『前離れー! ですわ!』


 ティトゥの掛け声に慌てて距離を取る団長達。

 屋敷の中でこっちの様子を窺っていた使用人達まで下がったのはご愛敬だ。

 君らどれだけ僕が暴走すると思ってんの?


『ハヤテ!』

「点火!」


 ババババババ!


 エンジン音を響かせながら僕は地上を走行(タキシング)


『おおお・・・』


 屋敷のみんなのどよめきを集めながらゆっくりと滑走距離を取った。


『では行って参りますわ!』


 座席のティトゥが安全ベルトを締めたのを確認すると僕は風防を閉めてエンジンをブースト。


「離陸!」


 屋敷の庭を疾走するとフワリと宙に浮かんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「うわあああああっ!」


 屋敷の中を歓声とも驚きとも付かないどよめきが包んだ。

 ハヤテは真っ直ぐに青空に駆け上がると大きく機体を傾けて旋回。

 二度ほど大きく屋敷の周囲を回ると北の空へと飛び去って行った。


 ちなみにこの世界でハヤテは唯一の飛行機となる。共に編隊飛行をする列機はいないため、わざわざこの場で旋回をする必要はない。

 単にハヤテの趣味というか、「戦闘機はこうだろう」というこだわりに過ぎない。

 そして誰もその事実を指摘する者がいないため、ティトゥも何となく「空を飛ぶ時はこうするものなのだろう」と思い込んでいた。

 こうしてまた一つ、この世界に誰に迷惑をかける訳でもない勘違いが築かれていくのである。


「やっと行ってくれたか」


 ベルラーク団長は小さくため息をこぼした。

 しかしその呟きはあまりに小さく、彼の直ぐ後ろに立つ隊員達の耳にすら届かなかった。


「あの、さっきの話ですが・・・」


 メイド少女カーチャの言葉に、若手チェルヌィフ商人のフリップがチラリと団長の方を見た。

 団長はいかめしい顔を崩さずに小さくコクリと頷いた。


「屋敷の応接間を使うがいい。直ぐに準備させよう」


 フリップはホッと表情を緩めると、二人の少女を案内して屋敷の中に入って行った。

 三人の姿が屋敷の中に消えると、背後の部下が団長に囁きかけた。


「・・・団長殿、よろしいんですか? あのような素性も知れぬ輩を屋敷に入れたりして」


 部下の心配も分かるが、そういう威勢の良い言葉はドラゴンが立ち去る前に言って欲しい物だ。

 団長は内心の苛立ちを隠して言った。


「かまわん。ボルドー様からの指示があるまでは現状維持。そういう命令だ。マリミテ様は外国の客人。ドラ――翼馬はその馬車、乗馬? そういう扱いとなる。ただし絶対に翼馬からは目を離すな。何かあれば俺かボルドー様に直接連絡しろ。分かったな?」


 団長の指示に部下達は顔を見合わせた。

 目を離さないも何も、翼馬は既に空の彼方である。

 翼でもなければ、いや、仮に翼があったとしてもあの速度に付いて行く事は出来ないだろう。


 彼らの戸惑いが伝わったのか、団長の機嫌がみるみるうちに悪くなった。


「命令を復唱せんかっ!!」

「はっ! ボルドー様の指示があるまでは現状維持! マリミテ様は客人! 翼馬からは目を離さず、連絡は直接団長殿かボルドー様に行います!」

「よし! 行動に移る事を許可する!」

「はっ!」


 キビキビとした動きで走り去る団員達。

 団長は彼らの背中を見送りながら、シクシクとする胃の痛みに本日二度目となるため息をこぼすのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『大きな川ですわ!』


 眼下の光景にティトゥは大きなため息をついた。


 確かに大きな川だ。N〇Kで見た中国の長江や黄河を彷彿とさせる景色だ。

 黄色く濁った川を何艘もの船が行き来している。

 船で行く人にとっては、この川は元の世界の高速道路みたいなものなのかもしれない。


『ハヤテでランピーニ聖国に行った時にも思いましたが、こういった光景を見ると、”いかにも外国に来た”という感じがしますわ』


 あ~、その感覚は分かるなあ。

 旅行のだいご味ってそういう経験にあるんじゃないかな。

 見た事の無い景色を見て、異文化に触れて。


 ティトゥはこの世界ではなかなかな国際派に入るんじゃないかな?

 いずれ旅行記を書いたら、ベストセラーになるかもよ。


 しばらく雄大な光景を眺めていた僕達だったが、ここには観光に来た訳じゃない。

 名残惜しいけどやらなきゃいけない事はやらないとね。


『準備おーけーですわ』

『ヨロシクッテヨ』


 僕達は河沿いの簡単な地図作りに取り掛かったのだった。



 地図作りと言っても今回は特に難しい話じゃない。

 川の側に作られた町と村をメモしていくだけだからだ。

 しかも川の対岸は別の貴族の領地だから今回はスルーで。

 僕達の調査は川の南側に限られるのだ。


『この辺は街道が交差してますわね』


 大きな町には複数の街道が合流している。

 流石は帝国。ミロスラフ王国とは大違いだ。

 んっ? あれは?


『ティトゥ』


 僕は機首を巡らせると機関砲を撃った。


『! 村が襲われていますわ!』


 そう。僕が機関砲を撃ったその先、街道から外れた小さな村に黒い煙が上がっていたのだ。

次回「前哨戦」

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― 新着の感想 ―
[一言] ティトゥに旅行記を書く才能なんてあるの…いや、そういやカーチャがいきなり死んじゃうなんちゃって未来予想図を書いてましたなw  まぁ外交的にあきらかにしていい内容かどうか甚だ不安ですが
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