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その20 戦争行為への武力介入を開始する!

「あれがこの世界の戦場。」

『この中のどこかにお父様が・・・』


 ティトゥと二人で思わず言葉が漏れる。

 ついに来てしまった。ここが戦場か。


 眼下には戦場の一大パノラマ・・・なんだろうか? これ。

 申し訳ないけどちょっとショボい。

 千対二千の戦い、と考えれば規模なりなんだろうけど、ここって異世界だよね?

 ここに来るまでは、土魔法で巨大な砦を作ってたり、謎の魔導兵器が歩兵を蹂躙してたり、使役された襲い来る魔物に対し約束された勝利の剣(エクスカリバー)が炸裂していたり、といった、もっと派手なものを想像していたんだけど・・・

 ここに広がるのは、僕らが考える割と普通の中世の戦争? といった景色だ。

 どういうことだろう?


 お互いの陣地の中に人は見えるが、前線で戦っている人達はいない。

 両軍ともお昼休みなんだろうか。

 さらに上空には一番警戒していたドラゴンの影も形もない。

 ドラゴンはいなくても、グリフォンくらいはいてもおかしくないだろうと思っていたんだけど。

 こんなに無警戒でいいのだろうか? 空から偵察し放題なんだけど。



 一応念のため再び高度を1500mまで取る。

 上空からの攻撃に備えた対空監視(もしくは監視魔法)も考慮して、本来であれば限界高度まで上げたいところだ。

 でもここはティトゥの身体の方が大事だ。

 それに見つかっても、全力で逃げれば逃げ切れる――と思う。

 時速600kmで空をぶっ飛ぶ生物はいくら異世界でもそうはいないだろう。もしもそこいらにいるのなら、すでにこの国の王都は攻撃範囲に入っているはずだ。


 敵は目の前の平地に陣を張り、左右の丘に掘っ立て小屋のような簡易な砦を作っている。

 お互いの陣の前には人力で掘ったであろう簡易な堀と、その土を利用した土塁、騎兵対策であろう柵。

 作りはどちらもそう変わらない。


 ・・・こんなショボい陣地で魔法とか防げるのだろうか?

 ひょっとしてここは戦場のどこか端っこなのかもしれない。

 あまり重要な場所ではないので簡易な陣地しか作っていないのだろう。

 そう考えればまあ理解出来なくはない。


 ティトゥは目を凝らして父親の姿を捜してるけど、多分ここでは見つからないんじゃないかな。

 彼女の父親が配属されたのは最前線という話だし、ここにいる可能性は低いと思うよ。


 海岸線に目を向けるとそこそこ大きな船が見えた。

 あれが話にあった敵兵を運んできた船だろうか?

 ・・・いや、多分違うな。いくらなんでもこんな船に二千人は乗せないだろう。

 大型フェリーだって乗客を千人も乗せないはずだし。

 なんだか物凄く警戒厳重だ。敵の陣地の中で一番あそこが警備が厳しいと思う。



 さて、ここまでの偵察で大体の事情は掴めたと思う。

 恐らくここは敵の物資集積所だ。

 敵は本国からそこに見える船を使ってこの場所に物資を揚陸、一旦この場所に物資を集積しておいて、必要に応じて前線に送っているんだ。

 だから船に対する警戒も厳重なんだと思う。物資を運ぶ船さえ無事なら陣地くらいいくつでも作ることが出来るのだろう。


 ならば僕のやることは決まった。

 敵の補給線を絶つ! 




 僕は一旦この場から十分に離れて着陸した。

 今回は休憩じゃないので風防は開けない。そしてエンジンを切る。

 ティトゥが訝しげな顔をするけどちょっと待ってて。今、精神集中してるから。

 出てこ~い、出てこ~い。よし、出ました。


「ピシャピシャーン!(青い猫型ロボットがひみつ道具を出す時の効果音)

 250kg爆弾×2~!」

『それってさっきもやってましたわね。何の意味があるんですの?』


 ティトゥからのツッコミ頂きました。

 説明しよう。僕はエンジンを切ることで秘められた力が覚醒、四式戦闘機の燃料やら弾丸やらが勝手に少しずつ補充されるのだ。

 そしてその力はなんと本体に付属する落下増槽や爆弾にも及ぶのだ。


 心の中で説明を終えた僕は三度び大空へ。

 当然ティトゥは不満顔だが、どうせ口に出しても伝わらない。何もなかったことにして流して下さい。


 まずは高度を落とし、翼の先っぽに付いた翼端灯も灯しながら、できるだけゆっくりと王国軍の陣地の上空に侵入した。

 僕の接近に気が付いた兵士達が騒ぎ始めた。

 ドキドキしながら僕はその場で大きく旋回する。

 攻撃してくるなよ~。僕は君たちの味方だよ~。

 僕の緊張が伝わったのか、ティトゥも表情を硬くした。


 ひときわ大きな陣幕から、着飾ったイケメンレスラーみたいな若い男が飛び出してきた。

 周りに比べても豪華な鎧と周囲に人を従えている姿から、この部隊の隊長的な人物だと思われる。

 ティトゥも男に気が付いたようだ、大きく息を呑む。知ってるの? 有名人なのかな?

 ・・・イケメンに反応しただけってコトはないよね?

 イケメンレスラー改め隊長(多分)は僕の姿を見て目を見開いた。

 何か言っているな。『何でこんなところにドラゴンがいるんだ?!』とか言っているのかな。

 君はドラゴンを見たことがないのかね? 実は僕もなんだよ。

 でも多分、王都の騎士団(エリート)とかだったらきっと毎日見てると思うよ。

 君もこの戦いで出世できるといいね。


 僕は王国軍に対して敵意のないことを十分に伝えられたと判断した。

 リスクはあったけど、これやっとかないと混乱した味方から撃たれたらかなわないからね。

 戦争中のパイロットの回想禄でも、連絡していたはずの味方の陣地から撃たれた、とか普通に書いてるものだから。


 僕は一度大きく高度を取り、王国軍の陣地の真上に侵入した。

 はい、ちょっと上を通りますよ~。

 王国兵が僕を見上げて目を丸くしている。

 僕はそのまま王国軍の陣を突っ切り、敵陣に向かった。

 ここでティトゥに負担をかけない程度にゆっくりと加速してゆく。

 王国軍側の陣地の騒ぎに気が付いたのだろう。

 侵略軍の兵が僕を指差して何かを叫んでいる。


 ここからは時間との戦いだ。

 相手の航空部隊が上がってくるまでにけりを付ける!


 僕は一気に堀の上を越え、敵陣上空ド真ん中を突っ切った。

 一瞬、「今ここで爆弾を落としたらスゴイ戦果を上げられるんじゃね?」と思ったけど、二兎追うものは一兎も得ず。僕の目標はここじゃない。


 見えた! あの船だ。


 僕は一気に降下。急降下攻撃の練習の成果か理想通りの爆撃経路だ。


 爆弾投下。


 重量物が放たれたことにより、一瞬機体がフワリと浮いた。

 僕は重力に逆らって機首を上げその場から離脱。

 直後に黒い塊が二つ、吸い込まれるように船の真ん中辺りと後ろに突っ込んだ。

 しばらくは何も起きなかった。

 まさか二発とも不発だったのか? それとも船底を突き破って海の中に沈んじゃったのか?

 そんな不安が僕の頭をよぎった。


 すると突然、轟音と共に船から大きく火柱が二本上がった。


 ズドーン! バリバリバリ


 直後に船の後ろ半分の構造物が消し飛んだ。


 スゴイ威力だな、オイ!


 船はそのまま舳先を傾けると、みるみるうちに後ろから海に沈んでいった。

 正にあっという間の出来事だった。

 何ともあっけない・・・


 海面には船だったモノの残骸が浮かんだ。

 その中に人間らしき姿はない。

 元から誰も乗っていなかったんだ・・・きっと。


 僕は警戒しながら、敵陣から距離を取るためにしばらく一直線に海上を飛んだ。

 どうやらこちらを追いかけてくる敵はいないようだ。

 対空攻撃も無かったし、敵は余程油断していたようだ。

 だがそれに付き合ってこっちも油断してやる義理はない。


 僕は海上を大きく迂回しながら次は丘の上の敵の砦を目指した。




 油断してやる義理はない。(キリッ)

 と言ったが、あれはウソだ。

 僕は今、油断しまくりだ。

 砦から敵の攻撃は全く無かった。そう、全くだ。


 それどころか砦の上空を飛ぶと敵兵は僕の姿を見て逃げ出す始末。

 威嚇のために狙いも付けずに適当に弾丸をバラ撒いているだけで、あっという間に砦はもぬけの殻になってしまった。


 仕方がないのでもう一方の砦でも同じことをする。

 弾丸を撒きながら飛び回るだけの簡単なお仕事です。

 この世界の戦争ってどうなってんの?




 僕は今、王国軍の陣地に向かっている。

 ティトゥの要望だ。

 正直気が進まないが、この戦いとも呼べない戦いの功労者が僕なのは間違いないだろう。

 この戦いに参加した理由はティトゥを竜 騎 士(ドラゴンライダー)として売り込むためだ。

 そのためにも、王国軍の協力者として戦果をあげた事をきちんと記録にのこしておいてもらわなければならない。


 可能ならこのまま竜 騎 士(ドラゴンライダー)として最前線にも参加したい。

 人を殺すのは気が重いが、ティトゥの父親も娘が竜 騎 士(ドラゴンライダー)なら発言力を増すだろう。

 無謀な作戦に無理やり参加させられる危険も減るんじゃないかと思う。


 

 僕はさっき見かけた大天幕の近くに着陸した。

 幸い丁度良い空きスペースがあったのでそこに着陸したのだ。


 ウソです。そんな都合の良いものはありませんでした。

 色々となぎ倒しながら着陸しました。

 結構大惨事です。


 いや、違うんだよ。今ティトゥはパジャマなんだよ。もし陣地の外に着陸して、女っ気のないガテン系の男共のやらしい視線にさらされながら、大陣幕まで歩かなきゃいけなくなったらどうするんだよ。

 20mm機関砲の弾丸はまだまだあるからね。


 大天幕の前にはさっき見たイケメン隊長が立っている。

 君、分かってるよね? ティトゥに何かしたら敵の船みたいなことになっちゃうよ?

 僕は不良のようにエンジンをブイブイいわして威嚇する。

 ティトゥが勝手に中から風防を開けて身を乗り出した。

 いつの間に風防の開け方を覚えたんだろうね? 色々スゴイなこの子。


 レッド・ピンク髪の美少女の爆誕にその場にいる全員が驚愕に目を見開いた。

 オラオラなに見てんだお前ら! ティトゥのパジャマ姿をガン見してんじゃねえぞコラァ!


『ティトゥ?!』


 イケメン隊長のそばにいた冴えない中年男がティトゥの名前を呼んだ。

 気安く名前を呼んでんじゃねぇ! テメエ何様だゴルァ!! 


『お父様!』


 お父様でした。お父様サーセン。失礼ですがあまり似ていない親子と言われませんか?


『君の娘さんなのかね?』

『はっ、カミル将軍。私の娘ティトゥ・マチェイでございます』


 将軍かよ!

 いや銀〇ネタじゃないよ。

 なんで将ちゃんがこんなトコにいるんだよ。最前線にいなくていいのかよ。


『マチェイ嬢、何から聞けばいいのか分からないが・・・説明はしてもらえるよな?』

『もちろんです閣下。これは私のドラゴン! 私は彼と心を通わせ、共に王国の力となるべくこの地に馳せ参じました!』


 おおおおおっ!!


 周囲で固唾をのんで見守っていた男達のどよめきが上がった。

 なんだろうね、地元の祭り神輿を思い出した。あれはもっとオッサン率が高かったけど。


『ドラゴン・・・それ、いや、彼がドラゴンだというのか?』

『そうです閣下! この王国を救うため舞い降りたドラゴンです! ・・・あの、それで閣下、なぜ父が閣下のそばに? ネライ卿の陣立てで攻撃部隊に配属されたと聞きましたが』


 あ、それ僕も気になった。クズの手紙ではパパは確かクズの差しがねで最前線送りになってるはずなんじゃ。


『フン。この軍の最高指揮官は俺だ、下らん横やりなど許すわけがなかろう。つまらんことをしでかした弟なら更迭したわ。今頃王都の屋敷で震えていることだろうよ。』 


 将ちゃんクズの兄ちゃんだったのかよ! とすると、この人が優秀って噂の元第二王子なのか。

 どうりで出来る男オーラがビシビシ出てると思った。男としてのコンプレックスを刺激されるなぁ・・・ちょっと苦手かも。

 ティトゥは長く張っていた気が緩んだんだろう、大きく息を吐くとペタンとイスに腰かけた。


『親子でつもる話はあるだろうが後でゆっくり時間を取ろう、まずは詳しい話を聞かせて欲しい。その前に何か着るものを用意させよう』


 その言葉でティトゥは自分がパジャマのままここに来ていたことを思い出したようだ。


『きゃあああああ!』


 顔を真っ赤にすると、ピシャリと風防を閉じた。そのまま身体をかき抱き羞恥に震える。


『ドラゴンさん! 飛んで! 早く!』


 アイアイマム。僕は理解あるドラゴンだから。

 ・・・うっかり作ってしまった黒歴史って辛いよね。


『ティ・・・ティトゥ?』

『マチェイ嬢?! どうしたのだ?』


 慌てる男達を大地に残し、ドラゴン航空・ドラゴン便テイクオフ。

次回「戦い終わって 」


本日から

『スキル・ローグダンジョンRPGで俺はダンジョンの中では最強

~町に帰るとレベル1のザコ』

https://ncode.syosetu.com/n1567fk/

という作品も書いています。

そちらもぜひ読んでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 反跳爆弾か、急降下か、緩降下か、わくわくしました(不謹慎) さすがの陸軍機、対地攻撃もお手のものでしたね。 ティトゥ、上手く話を進めて頑張れ!
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