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その21 四式戦闘機《ドラゴン》 vs 白銀竜兵団《ドラゴン》

 ズドーン


 僕の背後で大きな爆発音が上がった。


 二発目の爆弾も命中。これで今日の分の250kg爆弾は打ち止めだ。

 あれほどの爆発が起こったんだ。爆心地にいた敵はただじゃ済まない。


 250kg爆弾の避難距離は約300mと言われている。

 これはその範囲に破片が飛び散るという意味だ。

 当然彼らはその範囲に余裕で収まっていた。


 三部隊中の二部隊を壊滅させたんだ。白銀竜兵団はほぼ無力化したと考えてもいいだろう。

 しかし、まだ一部隊残っている。


 白銀竜兵団は帝国軍の主力であり精神的支柱だ。彼らの心を折るためには全滅させる必要があるだろう。


 昭和の初め。日本とアメリカの戦争が避けられなくなった時、当時の連合艦隊司令長官だった海軍大将山本五十六は、空母を中心とした機動部隊によるハワイのアメリカ基地攻撃、という驚きの作戦を立案した。

 作戦名はハワイ作戦。世に言う真珠湾攻撃である。

 有名な作戦なので説明は省くが、これには開戦直後に大きな打撃を与えてアメリカ側の戦意を削ぎ、早期和睦に持ち込みたいという考えがあったと言われている。


 僕もこの作戦にならって、開戦早々に帝国軍に大きな打撃を与える事で彼らの戦意をへし折り、撤退に追い込もうと考えたのだ。

 しかし、帝国軍五万に対して僕一人が与えられるダメージなど微々たるものだ。

 だったらゲリラ戦を仕掛るのはどうだろうか?

 絶え間ない攻撃で兵士達を精神的に追い込み、彼らの間に厭戦ムードを広めるのである。

 その上で僕が最後のダメ押しをする事で帝国軍の戦意を喪失させる。


 幸い季節は冬。テントを焼き、食料を焼けば、きっと兵士は寒さと飢えで戦場に向かうのがイヤになるに違いない。

 別に彼らの国が攻め込まれた訳でもないのだ。誰が好き好んで辛い思いをしてまで他国に攻め込みたいと思うだろうか?

 それで手に入る土地も別に彼らのものになる訳でもないのだ。

 職業軍人である騎士団員ならともかく、一般の兵士は皇帝に対する忠誠心なんて特にないだろうしね。


 僕はティトゥと相談してこの方針で作戦を固めた。

 開戦早々に帝国軍に与えるべき打撃は、この時点ではまだ具体的には考えていなかった。

 しかし、幸い作戦開始前にチェルヌィフ商人のシーロから詳しい帝国軍の情報を聞く事が出来た。

 ここで僕は”白銀竜兵団”をターゲットにする事を決めたのだった。


 その後僕達はひたすら帝国軍に嫌がらせを続け、僕に対する恐怖を刻み込んだ。

 最後に僕が彼らの切り札である白銀竜兵団を叩きのめせばこの作戦は完了である。


 もし逆に帝国軍が復讐に燃えて奮起してしまったら? その場合、さすがにもう僕にはなすすべはない。

 これから毎日帝都に都市爆撃を加えて、皇帝が軍を呼び戻してくれることを期待するしかないだろう。



 作戦を完遂するには白銀竜兵団を全滅させる必要がある。


 僕は砦の周りを旋回すると、低空から彼らに襲い掛かった。

 白銀竜兵団は密集隊形からさらに密集して盾の後ろに隠れた。


 ――馬鹿な事を。そんなもので20mm機関砲の弾丸が防げるわけがないのに。


 今彼らがすべきは身を寄せ合って防御を固めるのではなく、僕に狙いを定めさせないようにバラバラに逃げ出す事だったのだ。

 そうすれば少なくとも被害数は抑えられたはずである。

 彼らが取ったのは最悪の選択だった。

 密集したらまとめてやられるだけだと分からないのだろうか?

 分からないのだろうな。ならば分かるようにするだけだ。


 僕は視線の先の銀色の塊に照準を合わせると20mm機関砲を発射した。


 ドドドドドドド!


 弾丸は彼らの鎧をあっさりと貫通して、その下の柔らかな肉体も貫通、さらに背後の同僚の肉体をもズタズタに破壊した。

 僕は機関砲を打ちながら彼らの上空を通過。旋回すると彼らの様子を窺った。


 驚いたことに白銀竜兵団は逃げていなかった。

 それどころか仲間の死体を盾にして、再び密集隊形を取っていたのだ。


 お前達は、馬鹿か?!


 そんなに僕に殺されたいのなら望み通りに殺してやる!


 ――後で思えば、彼らは恐怖で足がすくんで逃げられなかっただけなのかもしれない。

 僕はその後二度彼らに攻撃を仕掛けた。

 やがてそこには動く者の姿は無くなった。


 四式戦闘機(ドラゴン)白銀竜兵団(ドラゴン)の戦いはこちらの圧倒的な勝利に終わった。

 だから何だ? 当たり前の結果だ。最初から同じ土俵にすら立っていないんだから。


 僕は帝国軍の方へと視線を向けた。

 彼らは言葉も無く呆けたように立ち尽くしている。


 お前達も逃げないのか・・・ なら嫌でも逃げたくなるようにしてやろう。


 僕は翼を翻すと次は帝国兵達に襲い掛かったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ミロスラフ王国の砦。

 砦のミロスラフ兵達はハヤテの活躍に大喝采を送っていた。


 ハヤテの攻撃を受けて帝国軍は右往左往している。

 圧倒的に強大な帝国軍がたった一匹のドラゴンに翻弄される姿は痛快で、あちこちで興奮した兵達が盾や槍を打ち鳴らして熱狂している。

 一部の王都騎士団員を除き、彼らは噂にしかドラゴンの戦いを知らなかった。

 その圧倒的な破壊力と頼もしさに、この日彼らの心に圧倒的なドラゴン神話が刻み込まれたのだった。


 

 城壁の上に一段高く作られた台の上で、ティトゥは不安に胸を締め付けられながらハヤテの姿を見つめていた。


 興奮に沸く周囲とは対照的に、彼女の美しい顔は歪み、まるで苦痛をこらえているように見えた。


「ハヤテが苦しんでいますわ・・・」


 縦横無尽に帝国軍を翻弄しているハヤテの姿が、ティトゥの目には苦しみにあがいているように見えているのだ。


 そんな彼女をメイドのモニカが心配そうに見守っている。

 いつも笑みを絶やさない彼女にしては珍しい表情だった。


 ティトゥがふと気が付くと、隣に立っていたはずのカミル将軍の姿が見えなくなっていた。

 やがて角笛が吹かれると砦の門が開き、ミロスラフ軍が一斉に走り出た。


「帝国兵を追い払え!」

「進め、進め! 俺達にはドラゴンがついているぞ!」


 ワアアアアアッ!


 帝国軍は既に撤退を始めている。

 彼らは武器を投げ捨てて逃げ出した。

 重い盾や長い槍は走って逃げるのに邪魔になるからである。

 ミロスラフ兵の一部はそんな戦利品に目がくらんで立ち止まったが、騎士団員に怒鳴られて慌てて走り出した。


「ドラゴンが見ているぞ! 勝利は我らのモノだ!」


 この言葉をカミル将軍が言ったという説もあるが、この混乱の中で発言者を特定する事は不可能だろう。

 一つだけ確かなのは、ドラゴンの存在が彼らに勇気を与え、彼らを後押ししていたという事だ。


 ミロスラフ軍は一丸となって敗走する帝国軍を蹂躙した。

 帝国軍の中に組織立って抵抗する部隊は存在しなかった。

 ウルバン将軍率いる帝国軍首脳部が真っ先に逃げ出し、兵を指揮する者がいなかったのだ。

 それでも通常の編成であれば、部隊に配備された騎士団員によって僅かなりとも秩序が保たれていたかもしれない。

  本来兵士を束ねる指揮官となるべき騎士団員を白銀竜兵団に集中させる、といういびつな編成が、ここに来て帝国軍の足を引っ張る事となったのである。


 

 やがて砦の前から帝国軍が一掃され、ミロスラフ軍から勝利の雄叫びが上がった。


 帝国軍五万はたった三千八百のミロスラフ軍になすすべなく敗走したのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ティトゥは城壁の上から戦場を見つめていた。

 戦場跡地にはハヤテの爆撃による大きな穴が二つ空き、周囲には死体とバラバラの人間のパーツが転がっている。


 ミロスラフ軍は帝国軍が捨てた武器や、残して行った物資を砦に運び込んでいるところだった。

 負傷した兵は、歩ける者は自分で、動けない者は戦友に担がれて、砦に戻って治療を受けている。

 死体の処理は後回しにされているようだ。

 あまりにも一方的な戦いになったため、帝国軍側の死傷者が多く出すぎたためだ。


 現在もカミル将軍率いる王都騎士団の精鋭が帝国軍の後を追っている。

 あわよくば帝国軍の将軍を捕虜にしようと考えての事である。

 結局この目論見は失敗する。想像以上に帝国軍が壊走を続け、これ以上深追いするのが危険と判断されたためだ。

 少なくとも今日明日中に帝国軍が戻って来る事だけはないだろう。それが分かっただけでも収穫であった。


 ――ハヤテが見に行けばすぐに分かるこの程度の情報でも、人間の足や馬の足だとこんなものなのである。

 この世界においてハヤテの能力がどれほど規格外か分かるというものだろう。


 そのハヤテはミロスラフ軍が砦を出た後もしばらくは戦場に留まっていたが、今では空の彼方に去ってしまっている。

 ティトゥは時々空を見上げて、ハヤテの帰りを待っていた。


「冷えて来ました。そろそろ中に入りませんか? ハヤテ様が戻れば見張りの者が伝えるようにしておりますので」


 メイドのモニカがティトゥに何度目かの提案をした。

 ティトゥは返事をする代わりに空を見上げた。

 モニカは諦めて黙ってティトゥを見守った。


 その時、空からかすかにヴーンという低いうなり声が届いた。


「ハヤテ!」


 それは彼女のドラゴンのうなり声であった。

 ティトゥは立ち上がり、砦の中へ飛び込んでいった。



 ティトゥがナカジマ騎士団を伴って砦から出ると、今朝、砦に来た時と同じ場所にハヤテが翼を休めていた。

 その姿はまるで怒られるのが怖くてしょんぼりと待っている大きな子供のようにも見えた。

 ティトゥはハヤテに駆け寄るとその主脚に抱き着いた。


「ティトゥ。カエル」

「そうね、帰りましょう。みんなが私達の勝利の知らせを待ってますわ」


 そう言いながらもティトゥはいつまでもハヤテに抱き着いて離れなかった。

次回「王城を去る者」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハヤテが心を押し殺して戦う中、ティトゥが彼の苦しみや悲しみを理解し寄り添おうとしていることに 救いを感じました。この二人はやはりいいコンビですね。 [気になる点] ドラゴンライダーの二人は…
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