その27 誕生! ナカジマ騎士団
いよいよ199回。明日の朝の更新で200回となります。
読み飛ばしにご注意下さい。
僕がパロマ王女を乗せて、山一つ挟んだお隣の隣国ゾルタのオルサークへと通い始めて早四日。
今日、最後の話し合いが終わって同盟は正式に結ばれた。
こうして役目を果たしたパロマ王女は、お国であるランピーニ聖国に帰る事になった。
『パロマ様には満足なおもてなしも出来ず、申し訳ございませんでしたわ』
『もうティトゥお姉様と同じベッドで寝られなくなるかと思うと寂しいです』
えっ? 君達一緒のベッドで寝てたの?
キャッキャウフフのパジャマパーティーみたいな感じ?
何だかあっちの会話がすごく気になるけど、僕は僕で増量されたお母さんズに取り囲まれてそれどころじゃなかったりした。
『ハヤテ様。本日の”お土産”も大変好ましゅうございました』
『ほほほ、アネタも喜んでいましたわ』
『うん! ベアータのお菓子もっと食べたいな』
『まあこの子ったら。はしたないですよ』
あ~、ハイハイ。次は今日の倍作ってもらうよ。それでいいよね?
甘いモノの力ってホント凄いよね。
『ハヤテ。パロマ様をお送りしますわよ』
『王女殿下。この度はご足労ありがとうございました』
『両家に良き繁栄がありますように』
パロマ王女は、近頃すっかり影が薄くなってしまった気がするオルサーク家の当主に頷くと、ティトゥに支えられて操縦席に乗り込んだ。
『マエ、ハナレ!』
オルサーク家の人達に手を振られながら僕は空へと飛び立つのだった。
てなわけでやってまいりましたランピーニ聖国。
王城ではマリエッタ王女がメイドのモニカさんと一緒に僕達をお出迎えしてくれた。
『ティトゥお姉様、ごきげんよう』
『ごきげんよう、マリエッタ様』
パロマ王女とはここでお別れである。
それはそうと、パロマ王女はさっきから何かを気にして辺りを見渡している。
『マリエッタ、今日はカサンドラ姉さんは来ないの?』
『それが・・・ ハヤテさんの件で王都が大騒ぎになっていて――』
どうやら僕が王城に降りる所を見た聖王都の人達が、『何か変なのが王城に舞い降りたぞ!』と大騒ぎしているんだそうだ。
まあ日本で言えば、国会議事堂にUFOが降りた所を見られたようなものだろうからね。
政府は国民に隠して何をやってんだ! って事になるよね。
現在、宰相夫妻はその火消しに大わらわなんだそうだ。
あ~、じゃあ今日の着地もバッチリ見られただろうから、また話題になるだろうね。申し訳ない。
『いいんです。それがカサンドラ姉上のお仕事なんですから』
マリエッタ王女は辛らつだ。どうやらカサンドラさんに邪魔されてティトゥの所に泊まれなかった事をまだ根に持っているみたいだ。
いやまあ、君が期待しているほどナカジマ領は楽しい場所じゃないけどね。ぶっちゃけただの漁村だから。
それでもマリエッタ王女的には、ティトゥと一緒のベッドでお泊り出来るだけでも価値のある宿泊先なのかもしれない。
『えっ・・・ ハヤテさん、今何て言ったんですか・・・』
マリエッタ王女の顔からスッと表情が抜け落ちた。
あ、やべ。
えと、そうそう、それはそうとモニカさん。頼んでおいた物は出来ましたか?
『ええ。問題なく』
『ハヤテさん。こっちを見て私の言葉に答えて下さい』
『マリエッタ。その話は後で私からするわ』
パロマ王女ナイスフォロー! いたずらっ子がワクワクしている顔にしか見えないのが若干気になるけど、この場を切り抜けられるのならそれでもオッケーです。
問題の先送りどころか更なる悪化を招いただけのような気もするけど、成長した未来の自分を信じてあえてこの場は丸投げで。
『あなた達、何をやっているんですの・・・』
ティトゥが呆れ顔でポツリとこぼした。
モニカさんの指示で例のモノが樽増槽に詰め込まれた。
『流石に一度では無理ですね』
そうだね。
胴体の中にも積めるだけ積んで、それでも残った分はまた後で取りに来ようか。
取り合えず、これでモニカさんの用事は全て終わった事になる。
じゃ、そういう事で。随分長くなった気もするけど、今までお世話になりました。
『ではナカジマ領へ戻りましょうか』
いや、何であなた付いて来る気満々なんですか?
仕事は終わったんだからここに残ればいいじゃないですか。
お疲れ様でした。また逢う日まで。
『ナカジマ家の存亡のかかったこの時期に、国でじっとしてなどいられませんよ』
『モニカさんがいれば心強いですわ!』
うぉい! ティトゥも乗り気かよ!
まあモニカさんが無駄に頼もしいのは確かだけどさ。でも本当にいいの? 本物の戦争だよ?
『ハヤテ様のそばにいれば安全だと信じていますから』
・・・・・・
まあ、あなたがそれでいいなら、僕から言える事は特にないですけど。
モノ好きな人だなホント。
『自分の人生。生まれやしがらみで生き方こそ思うに任せられなくとも、せめて楽しくありたいんです』
なるほど。まあモニカさんらしいといえばらしいかな。
この人も難儀な性格してるよね。
こうして僕はティトゥとモニカさんを乗せて、ナカジマ領へと戻ったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ここ、隣国ゾルタのオルサークにはナカジマ領を発ったナカジマ騎士団員達が、山を越えて続々と集結しつつあった。
「オルサークだ! 俺達はゾルタに帰って来たんだ!」
騎士団員に率いられた開拓兵――元ゾルタ兵――は、夢にまで見た懐かしの故郷に溢れ出す涙を堪えきれなかった。
「お前達ゾルタの者なのか? ひょっとして春に集められた兵士達なのか?!」
オルサークのあちこちで開拓兵達は暖かく迎えられた。
ゾルタの民衆の中にも春の派遣兵に対する同情の声は大きかったのだ。
それは派遣兵のほぼすべてが平民の一般兵卒であり、捕虜となった彼らをゾルタ王家が引き取らなかった事がその原因となっている。
要は切り捨てられた彼らに対して、切り捨てた側の後ろめたさがあったのである。
とはいえ、例えそれが罪悪感から出た親切心であったにしろ、今の開拓兵達にとっては何事にも代えがたい喜びだった。
彼らは嬉しさを噛みしめる一方で、この祖国を今も蹂躙している帝国軍に対して激しい怒りに搔き立てられるのだった。
ここはそんなナカジマ騎士団の集められた村の一つ。
今日、村の広場に空からハヤテが降り立った。
「ナカジマ騎士団、整列!」
号令がかかり、一糸乱れぬ動作で騎士団員達は直立不動の姿勢を取った。
やがてハヤテの背にティトゥが立ち上がると、その場の緊張感はピークを迎えた。
「ごきげんよう、みなさん。ナカジマ領からオルサークまでの行軍ご苦労様でした。早速ですがみんなでハヤテの荷物を下して頂戴」
「かしこまりました! 総員かかれ!」
命令を受けてキビキビとハヤテに取り付く男達。
しかし、樽増槽から荷物を取り出した途端、彼らは雷にでも打たれたようにビクリと反応すると、手を止めてしまった。
「おい! 何をやっている!」
「しかし、班長、これを見て下さい・・・」
「んなっ!」
班長が部下に見せられたのは緑の布地をベースに作られた騎士団の装備だった。
そう。ハヤテがランピーニ聖国でメイドのモニカに頼んでいたのはこの装備の制作だったのだ。
聖国の騎士団の装備を卸している工房の職人総出で制作された装備は、やや聖国風のデザインを感じさせる小洒落た軽装だった。
動きやすさを重視したそのデザインはナカジマ領での任務に適していると思われる。
時間がなかったせいもあってか、基本的にはありもののパーツの組み合わせだ。
しかし、その分補修や手入れの手間が掛からないと思われ、洗練された信頼性とある種の機能美を感じさせた。
そしてその胸元には、これだけは新規造形のナカジマ家の家紋が誇らしげに浮き彫りされているのだった。
彼らはうろたえてハヤテの背のティトゥを仰ぎ見た。
「あの・・・ 当主様、これは?」
「ナカジマ騎士団の装備ですわ。あなた達、それに着替えて頂戴」
「「「「「!!」」」」」
声にならない歓声が上がり、男達が我先にと装備へ群がった。
「どっちも右の小手じゃないか! 誰か間違って両方左の小手を取っていないか!」
「押すなって! 誰だ二つも持って行くのは!」
「間違って一つ下のサイズを取ったヤツはいないか?! この一つ上のサイズと交換しよう!」
「馬鹿! こんな所で脱ぎ出すヤツがあるか! 当主様の前だぞ!」
装備を手にした男達はホクホク顔で村の家の中に入って行った。
やがて新装備に身を包んだ男達が家の外に姿を現した。
それぞれ同僚の恰好を品定めしながら、嬉しそうに自分の姿と見比べている。
冬の寒空の下、彼らの顔はみな興奮で赤らんでいた。
「ナカジマ騎士団! 整列!」
ハヤテの前に整列する新たな装備に身を包んだ騎士団員達。
彼らは気持ちも新たにハヤテの背に立つ自分達の当主を見上げた。
「捧げ! 剣!」
一斉に抜剣し、胸元に掲げる男達。
しわぶき一つ無い、しんと静まり返った広場にティトゥの声が響いた。
「あなた達の剣、ナカジマ家当主、ティトゥ・ナカジマが確かに受け取りましたわ!」
こうして今、ナカジマ領を離れた異国の地にナカジマ騎士団が誕生したのである。
次回「200回記念読み切り◇ドラゴンは姫を乗せ王国の空を飛ぶ◇」