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その17 目指すは戦場

 大地を離れ、今再び異世界の空に舞い上がる!

 ああ、一ヶ月ぶりの大空よ!


 ・・・おっといけない、脚を収納してなかった。

 久しぶりに飛んだ喜びについうっかり忘れてたよ。


 ゴグン・・・。


 引き込み脚が収納された小さな振動に、コクピットに座ったティトゥが反応する。

 なんだか恥ずかしいな。

「Tシャツ裏表間違えて着てませんか?」と言われた時を思い出す。


 さて、どのくらいの高さを飛べば人に見つからずに、戦場になってるネライ領まで行けるだろう。

 あまり高度を取るとティトゥの身体が心配だ。

 パジャマ一枚の姿だし。



 ・・・ていうか今更ティトゥの姿で気になったことがあるんですよ。

 で、女性のみなさん、ちょっと伺いたいことがあるんで引かずに聞いてほしんですけど。


 みなさん寝る時ってブラジャーしてます?


 いや、女性の皆さん! 「何コイツキモイ」とか思っているんでしょう? 分かります! 分かりますけど、最後まで聞いて下さい! お願いします! あのね、ティトゥがね。


 どう見てもブラジャーしてないんですよ。


 コクピットってね、僕にとってスゴイ至近距離なんですよ。だからついつい目に入っちゃうんですよ。

 さっきもね、飛ぶ前に地面を走ってたじゃないですか。不整地なんで振動を拾うんですよ。


 揺れるんですよ。何がって胸が。


 ほら、ティトゥのおっぱいって大きいじゃないですか。こうボヨンボヨンって。

 あ、待って下さい、もうこの話題やめますから。だから許して。



 ふう、ボヨンボヨンのせいで卑猥な話題をしてしまったようだ。英国紳士の僕としたことがお恥ずかしい。

 あ、ウソウソ、だからティトゥそんなに窓を叩かないで。

 って、君興奮しすぎでしょ。


「ちょ・・・ティトゥ、落ち着いて!」


 ふと我に返った。という表情でティトゥが正気を取り戻した。

 かと思えば今度はクスクスと笑い出す。


 え~と、この子ってこんなキャラだっけ。

 精神が幼児退行しちゃったみたいなんだけど。




 丁度森を出てすぐのトコロでカーチャの姿を見つけたので、その上を旋回する。

 他にも大勢いたが、きっと彼女と一緒にティトゥを捜していた人達なんだろう。

 良かった。みんなティトゥの姿に気が付いたようだ。

 目を丸くして大口あけてコッチを見ている。


 ドラゴンってそんなに珍しいのかい?


 ふむ、試しにちょっとウチの家で考えてみよう。

 もし妹が姿を消したとする。みんな心配するよね、必死で捜し回るよね。その妹が帰ってきた!

 ーー馬に乗って。


 ・・・おおう、なんたるナンセンス。

 そりゃあみんなこんな顔して驚くわ。なんかゴメン。


 とりあえず目的は果たしたことだし、軽く翼を振って僕に任せてくれと伝えて飛び去る。


 伝わったよね?


 正直、カーチャ以外の人の前に姿を見せるのは一瞬ためらわれた。

 しかし、僕のわがままで彼女が周囲に心配をかけたままにしておくことはできない。

 それに向かう先は戦場だ。どのみち多くの人に見られることになるんだから今更だ。

 僕はティトゥを助けると決めたのだから。



 ティトゥから聞いていたネライ領の方角に向け空を飛ぶことしばし。

 四式戦の巡航速度は380㎞/h。一時間で東京から大阪まで飛ぶことだってできる。

 この国は小さな国のようだし、すぐに戦場が見えてくるだろう。


『ドラゴンさん。私をどこに連れて行ってくれますの?』


 あれからすっかり大人しくなったティトゥが僕に聞いてきた。


「戦場へ。」


 返事をすると、スゴく嬉しそうな顔になった。

 と言っても言葉は通じないハズだしどうしたのかな?

 あ~、僕が黙って空を飛んでいるので不安になっちゃったのかもね。

 気が利かない男で申し訳ない。自分不器用ですから。


 さて、今のうちに戦場に着いた時のことを考えておこう。

 目的はティトゥの父親の救出だ。

 だが、かっさらって逃げるわけにもいかない。そんなことしたら敵前逃亡、つまりは脱走兵だ。

 脱走兵は懲罰部隊。囚人と一緒に地雷処理である。


 だから僕はティトゥを僕に騎乗する竜 騎 士(ドラゴンライダー)として国に売り込むつもりだ。

 この国の航空戦力がどの程度なのかは分からないが、僕達に価値を見出せば、ティトゥの父親に対し無体な要求はしないだろう。

 その後は運任せ、成り行き任せの行動になるだろう。


 だが、そんなことより僕は考えなければならないことがある。

 というか覚悟をしなきゃいけない。


 僕は自分の命を奪われる覚悟ができるか?

 他人の命を奪う覚悟はできるか?


 異世界でも空は青く美しい。あ~あ、戦争さえなければきっと最高な気分だったのに違いないのにな。




 そんな僕の視界の隅に家が数軒まとめて立っているのが見えた。

 小さな村だろうか。

 ちょっとコースから外れるが、なんとなく興味を引かれたので寄り道してみることにした。



 井戸を中心に6軒ほどのボロボロの家が建っている

 石を積んで作った小屋のような家だ。

 村には人はおろか家畜もいないみたいだ。

 村人は戦争を恐れて逃げ出したのか、あるいはとっくに破棄された村なのか。

 何かの棒が丸いボロ布を地面に縫い留めている。

 

 その時僕は不意に気が付いた。それが槍を刺された赤ん坊の「おくるみ」だということに。

 もちろんその「おくるみ」に中身が入っていることにも。

 一度気が付くとボロボロの家は荒らされた後、放火された後であることも分かった。

 そして燃えカスの中に人間の手足のようなモノが見えることも。


 この村は襲われて全滅していたのだ。



『ドラゴンさん。もう行きましょう。』


 ティトゥが静かに言った。

 その落ち着いた感じから、どうやら一目みた時からこの村が悲劇にみまわれたことを察していたみたいだ。

 僕はやはり覚悟が決まっていなかったようだ。



 さらに遠くに人の列が見えた。

 敵兵か?!


 と思ったがどうやら戦闘を避けて逃げている民間人だったようだ。

 この村の光景が心を蝕んでいたようだ。

 我ながら神経質になっていたようだ。


 そのまま近づき、列の上空を旋回しながら観察することにする。

 上空1500mほどを飛んでいるので見上げてもヘンな鳥にしかみえないはずだ。

 ・・・だったらいいな。

 あまり高度を取ると高山病の心配がある。

 確かTVで見た箱根駅伝の中継で箱根山が1400mくらいって言ってたような記憶がある。

 マラソンをしても大丈夫なんだからコクピットに座っていても問題ないだろう。


 避難民はみんな薄汚れた格好で僕を見上げる人は一人もいない。

 疲労と心労が限界を超えているんだろう。みんな足元に目を落としたままたんたんと歩いている。


 その時、列の最後尾に動きがあった。

 今まで列をなして歩いていた人達が突然パラパラとあちこちに散っていく。

 列の最後尾のその先に砂煙が上がっているのが見える。


 騎兵だ! 避難民が敵に襲われている!

 なんてことだ。もうここは戦場だったのだ。

次回「初めての戦闘」

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