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その21 バージョン2.0

本日二本目の更新です。

読み飛ばしにご注意下さい。

 夜も更け、コノ村の家々に明かりが灯るころ。僕は自分の家であるテントの中で、自分の体に起きた不思議な現象について考えていた。


「やっぱりそうだ・・・ 以前より燃料の消費量がかなり減っている」


 今日僕はコノ村からランピーニ聖国へと飛び、隣国ゾルタのトマスの実家までコンテナを運んだ後、再びランピーニ経由でコノ村まで戻って来た。

 普通に考えて無給油で飛べる距離ではないので、最初はランピーニ王城で増槽の燃料に切り替えるつもりだった。

 ところが不思議な事に燃料計を何度見直しても普通にいけそうだったので、試しにそのまま飛んでみたのだ。


「・・・今考えたら随分無茶な事をやっちゃったよね」


 もし燃料計が壊れていただけだったら僕はどうしてたんだろうね。

 まあでも、最近の自分の体の調子から、いけそうな気がしていたんだよ。

 実際、こうして無事にコノ村までたどり着いたしね。



 そう。実は最近、僕の体の調子が今までよりかなり良くなっているのだ。


 例えば燃料が増える速度も上がっていたりする。


 以前説明した事があると思うけど、僕のタンクの中の燃料は、エンジンが動いていない間にジワジワと回復する。

 今までは約25時間程でフルタンクになっていたけど、近頃だと一晩もあれば満タンにまで戻るのだ。

 その速度は体感だけど今までと比べておよそ2倍。いや、倍以上の速度で回復している気すらする。


「・・・それにハードポイントの問題だ」


 僕の翼の下には、爆弾や増槽を運ぶための懸架装置が取り付けられている。

 この懸架装置の最大積載量は不明だが、今日、僕はそこに片側400kgのコンテナを積んだ。

 僕の最大の攻撃力を誇る250kg爆弾の約1.6倍の重量だ。

 普通そんな重量物を取り付けたら本体のフレームが曲がってしまうんじゃないのかな?

 でも僕は危なげないどころか、むしろまだまだ余裕すら感じられたのだ。


「これって、僕が高性能になってる? のかも」


 言うまでもなく僕の体は機械だ。生き物は体を使えば使う程鍛えられるが、機械は使えば使う程ヘタレて性能が劣化してしまう。

 金属はチビたり疲労したりしても回復する事はないからだ。

 しかし僕の体はキズが付いても休みさえすれば回復する。

 そういう意味では僕の体は正確には機械とは言えない。

 超機械生命体とかそんな名称が正しいのかもしれない。


「何度も飛んでいる間に鍛えられたのかな?」


 ゲームみたいに経験値が溜まって、知らない間にレベルアップとかしたんだろうか?

 その可能性もゼロではないが、僕にはもう一つ心当たりがあった。


 実は今から少し前、僕の体は一度プラモデルでいう「仮組み」の状態に戻った事があった。

 数日で元の姿に戻る事が出来たけど、考えてみればあの日以来燃料の回復量が上がったような気がするのだ。


「つまり今の僕の体はプラモデルで言えば、四式戦闘機・疾風(はやて)『大帝都燃ゆ』決戦機部隊カラー Ver(バージョン)2.0、とかそんな感じなのかな?」


 外見上はなんら変化はないので、Ver(バージョン)1.5くらいが相応しいのかもしれないけど。

 それにしたって尋常じゃない程の機能の上がりっぷりだ。


 確かに今は帝国軍相手に大変な時期なので、性能の向上は素直にありがたい。

 とはいえ原因の分からない性能の変化は薄気味悪いのも確かだ。

 原因不明の性能向上があるのなら、原因不明の性能低下だってあるかもしれない。


 しばらくは慎重に様子を見る必要があるだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「あははははははっ! あ~可笑しい! こんなに笑ったのはいつ以来でしょう!」


 部屋のベッドに座ってお腹を抱えて笑っているのは、ストレートの金髪を長く伸ばした地味な顔立ちの少女だ。

 彼女はティトゥのナカジマ家と隣国のオルサーク家との同盟の立会人になるためにランピーニ聖国からやって来た第六王女のパロマである。


 目の端に涙を溜めながら笑い続ける王女を、ティトゥは羞恥に顔を真っ赤に染めて恨めし気に見ていた。


「パロマ様・・・笑いすぎですわ」

「ゴメンなさい、ティトゥお姉様。でもまさか村の家を屋敷と言い張っていたなんて思わなかったんですもの」


 思い出すとまた可笑しくなったのか、パロマ王女は今度は声を押し殺して笑いをこらえた。


 そんな王女の姿にティトゥは諦めた様子でため息をついた。


「ゴメンなさいティトゥお姉様。もう笑わないからベッドでお話をして頂戴」

「・・・それなんですけど、本当に一緒に寝るんですの?」


 元々漁村のコノ村には一国の王女を泊める部屋もベッドも無い。

 この村で一番大きくて立派なベッドはティトゥの使っているベッドだ。といっても家具職人のオレクが作った飾り気のない素朴な作りなのだが。


 パロマ王女に自分のベッドを提供すると言ったティトゥだったが、パロマ王女は、だったら一緒に寝ましょう、とティトゥを誘ったのだ。

 

 パロマ王女とその妹である第七王女のラミラは、最近でこそ別々に行動する機会が増えているものの、以前はそれこそ朝から夜まで一緒に生活を送っていた。 ・・・まあその分、些細な原因による口喧嘩は絶えなかったのだが。

 その頃の二人はこうしてよく一緒のベッドで寝ていたのだ。


 ちなみに庶民は家族全員で同じ部屋で寝るのが当たり前である。

 兄弟二家族が同じ家に住んでいる事だってさほど珍しくはないのだ。

 この世界はまだまだ個人のプライバシーが問題になる程、成熟してはいないのだった。


「折角ティトゥお姉様のお部屋に泊めてもらえるんですもの、寝つくまでお話をしていたいわ」

「別によろしいですけど・・・ はあ・・・ 分かりましたわ」


 テンションも高くワクワクしているパロマ王女に、ティトゥは「これは何を言っても聞きそうにありませんわ」と諦めたようだ。


「明日はオルサークに向かうのですから、夜更かしはしませんわよ」

「それは残念ね。なら少しでもお話をしてもらってマリエッタを悔しがらせてあげないと」


 浮かれているせいか、少しいたずらっ気が顔を出すパロマ王女。

 実際に後日、パロマ王女からこの日の話を聞かされたマリエッタ王女は、文字通り地団太を踏んで悔しがったという。

 完全にへそを曲げたマリエッタ王女は、無理に自分を引き留めた姉のカサンドラとしばらく口をきかなくなった。

 そしてパロマ王女はカサンドラから恨みがましい目で睨まれる事になるのだった。

 

 こうしてこの日の夜は更けていった。




 明けて翌朝。昨日の夕食に引き続き、ナカジマ家の厨房は戦場だった。

 屋敷の小柄な料理人ベアータは、大車輪で厨房の中を走り回っていた。


「ひやあああ、まさかアタシの料理を聖国のお姫様に食べて頂ける日が来るなんてさ!」


 元々ベアータは、料理人だった祖母に頼み込んで教えて貰った料理の腕を元に、各地の店を回って修行を積んだいわば実戦派だ。

 よもやそんな自分が貴族家の料理人になって、日々やんごとなき方々に料理の腕を振るう事になるとは本人も思っていなかった。

 ましてや自分の作った料理が聖国の王女の口に入るなど、想像の埒外だ。

 どんな運命のいたずらがあればこんな事になるのだろうか?


 ちなみに厨房で料理をしているのは彼女一人だ。

 日頃は料理を手伝ってくれるメイド達も、自分達の手掛けた料理が王女に出されると知ると怖気づいて、何くれと理由を付けて厨房に近付かなくなっていた。

 そのためベアータは孤独な戦いを強いられているのである。


「ベアータさん、次の料理は出来ていますか?」

「ええっ?! もう?! そこに置いてるから持ってって! あっ、ちょっと待って!」


 メイド少女カーチャを引き留めると、ベアータは魚の切り身のムニエルに、レモンのような酸味の強い柑橘類をカットして添えた。


「これで良し。持ってって!」

「はい!」


 今の料理が最初のメインディッシュ、魚料理だ。

 次は軽い口直しを挟んで、メインディッシュの主役、肉料理に移る。

 まだまだベアータは気を抜けないのだった。



 上品に次の料理を待つパロマ王女だったが、その顔は興奮に高揚していた。


「本当にどれも美味しいわ! 流石ドラゴンメニューね! どのお皿もお替りが欲しいくらい! ここに住んでいたら私、太ってしまいそうね」

「ベアータが聞いたら喜びますわ」


 いえ、本当に美味しすぎるんだけど。私って食道楽にハマっちゃう人間だったのかしら?


 パロマ王女は口の中で小さく呟いた。


「何かおっしゃりました?」

「いいえ、何でもありませんわ。あら、次の料理はお魚なのね。これも良い匂いだわ。バターを使っているのね。珍しいわ」

「はい。白身魚のムニエルでございます」


 パロマ王女の至福の時間はまだまだ続くのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇ 


 パロマ王女が美味しいドラゴンメニューに舌鼓を打っているその頃、ここオルサークでは一人の少女の目から光が消えていた。


「あら、アネタ、もう食べないの?」


 母親に言われて朝食の並ぶテーブルに匙を置くアネタ。

 そんなアネタの横では兄のトマスが黙々と機械的に食事を口に運んでいる。

 アネタ程ではないにしろ、彼もこの朝食に喜びを見出していないことは明白だった。


 アネタはそんなトマスにすがるような目を向けた。


「トマス兄様・・・」

「・・・言うなアネタ。俺も同じ気持ちだ。しかし・・・いや、俺達はこの食事に慣れるしかないんだ」


 トマスの言葉にアネタは力なく匙を手にすると、塩味の効きすぎた豆のスープを口に運んでモソモソと咀嚼した。

 アネタは心の中で叫んだ。


 ベアータ! どうかあなたの魔法をウチの料理長にも教えて頂戴!


「本当にどうしたの? 二人共」

「「・・・いえ」」


 母親の心配そうな言葉を兄妹は豆のスープと共に虚しく飲み込むのだった。

次回「高貴な立会人」

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