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その18 姉妹ケンカ

今日の更新分でこの作品も通算190回になります。

200回に向けて何か出来ないか考えましたが・・・ 更新回数を増やすくらいしか思いつきませんでした。

 ここはランピーニ聖国王城。その中庭に僕は翼を休めていた。

 僕の周囲には警備の騎士団員が立ち、その外をメイドさんやら誰だか良く分からない貴族のオジサンやらが怖いもの見たさで興味深そうに眺めている。

 場所が違うし人も違うけど、僕にとっては概ねボハーチェクの港町と変わらない景色と言えるだろう。


 そんな中、王城へと連れられて行ったティトゥが戻って来た。

 派手に中庭に着陸した事を怒られたのだろうか。彼女はどこかゲッソリと疲れているように見えた。


『そんな理由じゃありませんわ』

『ハヤテ様、ごきげんよう』


 ティトゥに続いてやって来たのは第八王女のマリエッタ王女――じゃない。

 地味な顔立ちの、長いストレートの金髪の少女だ。

 知らない子だな。誰だろう。向こうは僕の事を知ってる感じだけど。

 金髪の少女は僕が戸惑っているのを察したのか小さく笑みを浮かべた。


『ハヤテ、パロマ王女殿下ですわよ』

『この夏は海賊に攫われた所を助けて頂きありがとうございました』


 ええ~っ?! この子があの金髪縦ロール姉妹の片割れだって?!


 いやいや分かる訳ないでしょ。髪型も恰好も全然違うし、喋り方だってお嬢様喋りじゃないし。

 こんなビフォーアフター、匠にだって分るわけないって。


 驚く僕が面白かったのか、パロマ王女(本当に本人なの?)は笑いをこらえきれずにクスクスと笑った。


『パロマ王女は私達と一緒にオルサークに来て頂ける事になったんですの』


 えっ? それってどういう事?


◇◇◇◇◇◇◇◇


 少しだけ時間は戻る。

 王城の応接室に第八王女マリエッタ王女と宰相夫人カサンドラの怒鳴り合う金切り声が響いていた。


「パロマ姉様が行くなら私も行きます!」

「そんなの許せる訳ないでしょう! あなたは城にいなさい!」


 ナカジマ家と隣国のオルサーク家の同盟。その立会人としてパロマ王女が名乗りを上げた。

 そしてここから二人の姉妹ケンカが始まったのだった。


「どうしてパロマ姉様が良くて私はダメなんですか!」

「パロマはこの夏、竜 騎 士(ドラゴンライダー)の二人に助けられたわ。その恩を返したいと言われては止める訳にはいかないでしょう?!」

「私だってティトゥお姉様とハヤテさんに命を助けられました!」


 マリエッタ王女はこの春ミロスラフ王国の王都で陰謀に巻き込まれた時に、竜 騎 士(ドラゴンライダー)の二人に助けられている。

 とはいえそんな正論で宰相夫人カサンドラは引き下がらなかった。


「それは違うわ! あなたの件ではミロスラフ王国にも非があった。王国民である彼らが助けたのはある意味当然なのよ!」

「そんなのは屁理屈です! カサンドラ姉上は私を外に出したくないだけなんだわ!」


 妹にズバリ本音を言い当てられてカサンドラは――


「ええ、そう! 誰が可愛い妹を二度と外にやるもんですか!」


 醜く開き直った。


「酷い! パロマ姉様の事はどうでもいいんですか?!」

「・・・私はあまり重い愛情なら別に無くてもいいんだけど」

「パロマだって大事よ! でも私にはあなたの方が大事なのよ!」


 エスカレートしていく姉妹の口論にパロマ王女の言葉は届かなかった。

 アレリャーノ宰相は額に手を当てて諦観の表情を浮かべ、ティトゥは荒ぶる二人に眼を白黒させる事しか出来なかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 というような事があったんだそうだ。

 ・・・マジかよ。

 妹を可愛がるのはいいけど、それってちょっと度が過ぎない?


 結局マリエッタ王女はカサンドラさんに言い負かされ、ヘソを曲げて部屋に戻ってしまったんだそうだ。

 せっかく久しぶりにティトゥに会えたというのにご愁傷様。


『それで私はいつ出れば良いのかしら?』


 パロマ王女は”あくまでも個人的に”僕らの同盟の見届け人としてオルサーク領に出向く事になるそうだ。

 聖国と帝国の関係に亀裂を入れないためにも、公式に訪れることは出来ないという訳か。

 つまりは王族としての公用のルートは使えないという事だ。要はいつものように僕がコッソリ密入国させればいいんだね。


 いいでしょう。アッシは裏の運び屋ハヤテ。金さえ積まれれば何だって運びやすぜ、ダンナ。


 冗談はさておき、パロマ王女の協力はこっちにとっても想定外だった。ランピーニ聖国の王女が立会人になってくれるのは非常に頼もしいね。是非ともよろしくお願いします。


 それでいつパロマ王女が出れば良いかと言われれば・・・ トマスが山を越えてオルサークに到着した後がいいんじゃないかな。

 確か四日で着くとか言ってたっけ。


『ヨッカ。アト』

『ハヤテは四日後だと言っていますわ』

『そうですか。分かりました』


 パロマ王女は近くにいたメイドに旅行の支度をするように命じた。

 女の子って旅行の荷物が多い印象があるけど大丈夫かな?


 さて、これで後はモニカさんが戻って来るのを待つだけだけど・・・


 あっと、タイミング良く戻って来たみたいだ。


『こちらの打ち合わせは終わりました』

『では戻りましょう。パロマ様、次は四日後にお会いしましょう。その時にナカジマ領までご足労願いますわ。オルサーク領に向かうのはその翌日という事で』


 なる程、確かにそっちの方がいいか。トマスだって帰ったその日に屋敷に訪ねて来られても落ち着かないだろうしね。

 そうそう、次に来るまでに中庭を片付けておいてもらえるようにも頼んどかないと。



 この後、モニカさんの指示で大量の軍資金を積み込むと、僕達はパロマ王女との再会を約束して王城を後にしたのだった。


 ちなみにこの日、突然謎の物体が王城に降り立ったと、聖王都の民は大騒ぎになったという。

 宰相はその火消しに大わらわになったそうだ。サーセン。

 しかし、だ。これも全ては元を正せば、半島の平和を脅かした帝国軍が原因なのだ。

 彼らが攻めて来なければ、僕だってこんな事をしないで済んだのだ。


 つまり、全ては帝国軍が悪い。


 僕は彼らに代わって帝国軍に思い知らせる事を固く誓うのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテ達がランピーニ聖国で交渉を行った四日後。

 小ゾルタの片田舎オルサーク領に早馬が走っていた。


「ご当主様! トマス様が! トマス様が隣国の騎士を連れて戻って参りました!」

「何だと?!」


 オルサーク家の屋敷、その執務室で仕事をしていたオルサーク家の当主は報告して来た騎士団員の言葉に目を剥いた。


「詳しく話せ!」

「はっ! トマス様とアネタ様は護衛の騎士団と共に、つい先ほど山から里に降りられました。同行しているのはナカジマ家騎士団を名乗る男達12名。全員がミロスラフ王国の騎士団の紋章の入った装備を付けております!」

「王都の騎士団? ナカジマ家とやらの騎士団ではなかったのか?」


 騎士団の報告に混乱するオルサーク家の当主。


「いえ、あれは間違いなく王都騎士団の紋章でした。・・・報告を続けてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。頼む」

「はっ! 彼らはナカジマ騎士団を名乗り、トマス様はナカジマ家当主からの要請でオルサーク家との同盟の仲立ちに戻ったとおっしゃいました。現在トマス様達には村で休んで頂いて、迎えの馬車の用意をしている状態です!」


 ナカジマ家という聞き慣れない家名にオルサーク家の当主は眉間に皺を寄せた。


「・・・分かった。報告ご苦労だった。休むがいい」

「はっ! 失礼いたします!」


 騎士団員が部屋を出ると、控えの隣室から初老の紳士が顔を出した。

 オルサーク家の当主は眉をひそめると初老の紳士に文句を言った。


「トマスが戻ったとは、どういう事だ父さん? トマスとアネタは適当な理由を付けて外国(そと)に逃がしたのではなかったのか?」

「そのつもりだったが・・・ ワシが思っていたよりあの子達は優秀だったようだ」


 老紳士は困った顔をしながらもどこか喜びを隠し切れない様子だ。

 自慢の孫が利発だった事が嬉しいのだろう。

 そんな父親の姿を見ながらオルサーク家の当主は苦々しげに顔を歪めた。


「帝国軍からの物資の要求は日増しに強くなっている。義兄上の所では払えない代わりに娘を帝国軍の将軍に差し出す事にしたそうだ」

「お前は! 辛い旅を終えたばかりのあの子達に今度は帝国軍に行けというのか! それでも親か!」


 だったら俺にどうしろと言うんだ! オルサーク家の当主は辛うじてその言葉を飲み込んだ。

 彼だって人の親だ。好き好んで我が子を敵に差し出したいと思う訳は無い。

 ただそうしなければ帝国軍が領地に侵攻する口実を与えてしまうのだ。


「なあ、帝国軍の要求に応えるだけの物資は本当に用意出来ないのか?」

「出来ない訳じゃないが・・・ この冬を越せない者達が多数出る事になる」


 半島の国々はこの数年、天候不順による不作に喘いでいた。

 王家による政策を誤った小ゾルタは特にその被害をこうむり、今年の春には食い扶持を稼げない者達を兵士として隣国に送り込むといった非人道的な泥縄式の対策まで取られる始末であった。


「あれはこの国が取った最も愚かな選択だった。あの兵達がいればここまで帝国軍の好きにはさせなかったものを」

「・・・言っても仕方のない事だ」


 わずか二千の兵が残っていた所で帝国軍に抵抗出来るとは思えない。

 しかし、オルサーク家の当主は父親の気持ちを汲んでその言葉を口には出さなかった。

 父が望んでいるのは正論ではない、気持ちの問題だと知っていたからだ。


「とにかくトマスとアネタを出迎えるとしよう。妻達も二人が去ってから沈んでいた。二人の顔を見れば元気を取り戻すだろう。それにナカジマ家とやらの騎士団にも話を聞かねばならんからな」


 そう言うとオルサーク家の当主は二人の妻を呼びに部屋を出た。

 残された老紳士は力無く「長生きするのも善し悪しだ」とこぼすと息子の後に続くのだった。

前書きにも書きましたが、200回まで一日二回の更新をしたいと思います。

次の更新は18時を予定しております。


次回「兄妹の帰宅」

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