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その15 ドラゴンは飛ぶ

 祝え! 旧帝国陸軍の力を受け継ぎ、時空を超え、遥かなる地にその姿をしろしめす空の王者。その名も四式戦・疾風(はやて)『大帝都燃ゆ』決戦機部隊カラーV e r .(バージョン)。異世界の少女がその力を継承した瞬間である。


 ・・・正直スマンかった。

 なんだか言ってみたくなっただけだから。

 まあ、何だ。そのくらい僕のテンションはMAXだったってことで。



 ティトゥをコクピットに乗せた僕は下生えの上を走る。

 この時は全然気が付いていなかったのだが、四式戦ほどの大型機が離着陸するにはこの森のスペースは明らかに狭すぎる。

 僕の身体は四式戦の限界を超えた超・四式戦だったというわけだ。

 四式戦を超えたら五式戦なんじゃない? という意見はもっともだ。

 四の次は五だからね。でも残念ながら五式戦っていうのがもう存在するんですよ。三式戦の機体に違うエンジンを積んで、より性能が上がった超・三式戦とも言える機体が。

 超・三式戦なら四式戦なんじゃない? という意見ももっともだ。

 でも残念ながら四式戦ってもう存在してたから・・・ってややこしいな、この話題。


 ティトゥは急に閉まった風防に一瞬不安そうな顔を見せたけど、機体が動き始めるとすぐに興奮した様子で風防の側面に張り付き、今は外を流れる景色を見ている。

 正に初めて飛行機に乗った子供状態だ。

 録画機能があればこの初々しい姿を残すところなんだけど・・・残念。

 本当は安全のためシートベルトをして欲しいけど、それを伝える手段がない。

 こっちで可能な限り安全飛行を心がけよう。


 良く晴れた青い空だ。ティトゥの初フライトには持って来いだな。


 さあ、十分に速度も乗ってきたぞ。



 いざ行かん! 一ヶ月ぶりの大空へ!



◇◇◇◇◇◇◇◇


 私がドラゴンの背中の窪みに滑り込み、イス状の箇所に収まると、透明なガラス状の部位が前にスライドしてきて閉まりました。

 私はドラゴンの体内に閉じ込められたことになります。

 一瞬さっき感じた不安ーー一ヶ月もの間木につないでいたことを恨んでいるのではないか?ーーが脳裏をよぎりました。

 彼はここに私を閉じ込めてなんらかの復讐をしようとしているのではないでしょうか。


 しかし、そんな不安も、彼が地面を走り始めたことで吹き飛びました。

 間違いない。彼は私を乗せて空を飛ぶつもりなのだ!

 私は今ドラゴンに乗って空を飛ぼうとしている!

 


 考えてみれば貧弱な人間がドラゴンの背に跨って飛ぶなど不可能なのでしょう。

 物語に描かれた竜騎士の絵では、まるで馬につけるような鞍を乗せていました。しかし、そんなもので人間がドラゴンの速さに耐えられるわけがないのです。

 この透明な部位は高速で生じる突風から私を守るもの。この窪みは彼が左右に傾いた時私が滑り落ちないよう支えるためのもの。そして私の前に見えるなんだか色々は・・・何なんでしょうね?

 丸い小さな窓がいっぱいあって、それに文字だか記号だかがいろいろ書いてあって、それがゆらゆら動いています。

 非常に興味をそそられますが、今、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないので、頑張って我慢することにします。



 お腹に響くドラゴンのうなり声はさらに大きくなり、足元から伝わる大地を走る振動がやがてーー


 フッと無くなりました。


 その途端、グイっと大きく彼の頭が空を向き、私の視界も大きく傾き、やがて森の木が私の視界の下に消えていきました。



 飛んだ! 私は今飛んでいる!



 ゴグン、と足元から何かの振動がします。何の振動なんでしょうね。

 もう何もかもが驚きと感動でどうして良いのか分かりません。


「ちょ・・・ティトゥ、落ち着いて!」


 ドラゴンに自分の名前を呼ばれたことで我に返りました。

 気が付けば私は幼子のようにキャーキャーと無意味な叫び声を上げながら、両手でバシバシと窓を叩いていたようです。

 あまりの興奮に私の中の淑女はどこかに飛んで行ってしまっていたみたいですね。私は少し赤面しました。

 カーチャが一緒に乗っていたら、あの子なら恐怖で卒倒しているかもしれませんね。

 そんな姿を想像して、私は今度はクスクスと笑い出します。

 自分で自分の感情が抑えきれないみたいです。こんなことではドラゴンに呆れられてしまいますね。

 彼が心を許し、私を乗せて飛んでくれたこの今こそ、主人として毅然とした態度を取らなければいけないというのに。

 でも彼は言葉を話し高い知性を持つ生き物です。

 犬や馬を躾けるような考え方は良くないのかもしれません。

 きっと互いの心に寄り添うような関係が理想的なんでしょうね。



 やがてドラゴンの身体が大きく傾きました。

 どうしたのかしら?

 思わず目の前にある棒?を握りましたが、棒は力を入れるとその方向に倒れ、私の身体を支える役には立ちません。

 どうやらこの棒は乗り手の意思をドラゴンに伝える道具のようです。

 いずれ必要になった時に試してみようと心に止めておきます。


 ドラゴンは傾いたまま飛び続けます。どうやら何かの上空をクルクルと回っているようです。

 何でしょうね? 窓?から下が見えそうですね。


 ・・・あ。


 そこは屋敷から村に向かう道の途中。

 急に屋敷から消えた私を捜しに出ていたのでしょう、家令のオットーをはじめ、数名の屋敷の人間の姿が見えます。

 こちらを指さしている者もいますね。ドラゴンに気が付いて混乱している様子です。


 あ、私と目が合いましたわ。


 その途端全員が目と口を大きく見開いて私を見つめます。


 プフッ!


 みんなに悪いとは思いつつ、つい噴き出してしまいました。

 だってみんな同じ顔をするんですもの!

 祖母の代から家に使えているメイド長のミラダがあんな顔をしたのなんて初めて見ましたわ。

 

 私はみんなの中に私付きのメイド・カーチャの顔を見つけました。

 なるほど。きっとドラゴンは地上に彼女を見つけて立ち止まったのでしょう。

 カーチャと私はドラゴンという秘密を共有していた仲なのに、私だけ一人で先にドラゴンに乗ってしまいましたね。


 ゴメンなさいね。


 地上まで言葉は届かないので、そういった意図を込めて手を振っておきます。


 私の行動をマネしたのでしょうか? ドラゴンも手を振るようにフラフラと翼を振ります。


 それがまた可笑しくて、ついつい笑みがこぼれました。


 そうしてドラゴンはゴウッと大きく唸ると、もう地上を振り返ることなく空の高みへと飛び立つのでした。



 ドラゴンはしばらく高度を上げると、ピタリと方向を定めると、ある一点を目指し真っすぐに飛翔します。

 やはり私と彼の心はつながっているのね。

 私は今日何度目かになるどうしようもない喜びに身を震わせました。

 なぜならその方向は、もし私にドラゴンの翼と力があったなら絶対に向かった方向なのですから!

 私はちょっとしたいたずら心が芽生え、あえて彼に尋ねてみました。


『ドラゴンさん。私をどこに連れて行ってくれますの?』


 彼の言葉は分かりません。ですがもう答えは分かっています。



「戦場へ」

次回「混乱する使用人達」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 足元からの振動がなくなり……静かになる 主輪を格納する振動、その音。 地上を飛び立ち、機体を軽くロール、彼女が地上を見下ろせるように…… ああっ、最高のシーン!! ありがとうござ…
[良い点] 「四式戦を超えたら五式戦なんじゃない?」 「超・三式戦なら四式戦なんじゃない?」 で笑いました。むしろこのネタを使うために疾風でなく四式戦表記にしていたのか疑惑まである。
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