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閑話5-5 ティトゥの『大帝都燃ゆ』中編

 ハヤテの操縦席でまどろんだティトゥは、そこでハヤテのボディーの元となった映画『大帝都燃ゆ』を体験するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇映画『大帝都燃ゆ』より◇◇◇◇◇◇◇◇


 本土防衛部隊に配属された白山伍長は初陣で敵機(P-51 マスタング)を撃墜する。

 仲間や隊長からも認められ、有頂天になる白山だったが、病院に赴いた際にヒロイン・小夜子から「相手のパイロットにも家族がいたのに、そんな風に浮かれるのはどうかしら?」と苦言を呈されて口論になった。


 小夜子のような人達を守るために自分は戦っているのに、と、不満が消えない白山だったが、小夜子から渡されたフランスのパイロット・サン=テグジュペリの「夜間飛行」を読んで考えを改める。

 国が違えど、そこには同じ思いを抱いたパイロットの姿があったからだ。


 白山は小夜子に会い、互いに失言を詫びる事で二人は和解した。この出来事をきっかけに二人は相手を強く思うようになるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 私は自分のパートナーとなったハヤテを見上げました。

 何人かの男達がそんなハヤテに取り付いて何やら作業をしています。

 自分のパートナーに勝手に手を出される事に私は不快感を覚えますが、ハヤテは何も喋りません。


 今のハヤテはまるで魂の抜けた抜け殻のようです。


 いえ、ハヤテだけではありません。ここにいるドラゴンはみんなそんな感じなのです。

 ここには私の知る、ものぐさでお人好しでちょっとお調子者のハヤテはいないのです。

 その思いは私を酷く寂しくさせました。

 

(これはハヤテの昔の記憶なんじゃないかしら?)


 その時私はふとそう思いました。

 夢にしてもあまりに荒唐無稽な内容だし、その割には何だか妙に筋道立っている気がしたからです。

 何だか誰かの演じるお芝居を見せられているような、そんな不思議な違和感があったのです。


 これはハヤテが私と出会う前、以前の契約者との記憶。その推測は私の胸にストンと落ちました。

 ハヤテはこのシラヤマ某という人物との交流で人間性を学んで、今の性格になったのかもしれません。


 だとするとここに並んでいるハヤテの仲間達はどうなってしまったんでしょうか?


 私は抜け殻のように佇むドラゴン達を見つめました。


◇◇◇◇◇◇◇◇映画『大帝都燃ゆ』より◇◇◇◇◇◇◇◇


 米軍のB―29による軍事施設や工業地帯への戦略爆撃は、昭和20年を迎え、その勢いは増すばかりだった。

 さらに3月に硫黄島が陥落。米軍は中継地点を得た事でいよいよ一般国民への空襲、都市爆撃へと移行していくのだった。 


 そんな時勢に、ヒロイン・小夜子も母親の実家のある長野に疎開する事が決まり、白山と小夜子は二人で丘に夜桜を見に行く。

 月明かりの下、灯火管制の敷かれた真っ暗な街並みを見下ろす二人。

 そこで小夜子は持参していたおにぎりを白山に手渡すのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 私はカーチャと夜に丘の上に立っていました。

 眼下には明かり一つ無い街並みが広がっています。

 どうしてこんな事になっているんでしょうね? 場面が飛び過ぎて理解が追い付かないんですけど。

 誰かに説明して欲しいです。


「お腹が空くと思って、お弁当を用意して来たのよ」


 そう言ってカーチャが取り出したのは、ハヤテがいつもどこからともなく取り出してくるあの”おにぎり”でした。

 あれは元々カーチャが――いえ、この女性が作ったものだったのですね。


「どうぞ」

「・・・頂きますわ」


 見た目も大きさもいつも通りの”おにぎり”です。

 カーチャの視線を受けながら私は一口頂きました。


「おにぎりですわね」


 私の返事にカーチャは微妙な表情を浮かべました。


◇◇◇◇◇◇◇◇映画『大帝都燃ゆ』より◇◇◇◇◇◇◇◇


 ティトゥは塩対応だったが、映画の中では白山はおにぎりをガツガツと頬張り、小夜子の笑いを誘った。

 白山は小夜子に「この戦争が終わったら疎開先まで絶対に会いに行く」と約束を交わして分かれるのだった。


 この頃には日本の防衛施設は大きな被害を受け、B―29の爆撃を止める事は困難になっていた。

 遂には米軍は、自らの損害も大きい夜間爆撃を止めて、日中に悠々と爆撃を掛けるようになっていた。

 白山ら本土防衛部隊も果敢に攻撃を仕掛けるが、空襲で軍需工場も破壊されて補充すらままならなくなっていった。

 そんな中でも、白山らは国を守るために懸命に戦った。


 そしていよいよ終戦となる8月を迎えた――


◇◇◇◇◇◇◇◇


「白山機! 何をしている!」


 隊長のオットーが私の乗るハヤテの下まで走って来て怒鳴りました。

 ハヤテの周りで独楽鼠のように走り回っていた男達が直立するとオットーに答えました。


「白山機、エンジン不調! 起動しません!」


 そう、どうした事か今日のハヤテはむずがって、彼らが何をしてもうんともすんとも言わないのです。

 オットーは素早く決断しました。


「白山機は待機! 至急掩体まで下げろ!」

「・・・分かりました!」


 男達は悔しそうな表情を浮かべましたが、オットーの命令を受けてハヤテを押して行きます。

 私も手伝った方が良いのでしょうか?


「白山機の僚機は俺に続け!」


 オットーは自分の乗るハヤテに向かいながら騎士団員に指示を飛ばしています。

 やがて全員の乗るハヤテが慌ただしく広場から飛び立ちました。

 しばらくは広場の上を、ヴーンヴーンとうなり声を上げながら飛び回っていましたが、やがて空のかなたに飛んで行ってしまいました。


 急に静けさを取り戻した広場の一角で、私のハヤテを担当していた男達が私に申し訳なさそうに頭を下げました。


「自分達の力が足りずに申し訳ありませんでした」

「今朝まで何の不具合も無かったんですが」


 彼らはハヤテが飛ばなかった事に責任を感じている様子です。

 私はハヤテの背中から降りると彼らに向き直りました。


「仕方がありませんわ。飛びたくないというのを人間がどうこう出来るものでもありません。きっとハヤテには今日、何か飛べない理由があったんですわ」


 私がせっかく慰めたのに、彼らは微妙な表情を浮かべて互いに顔を見合わせるのでした。




「敵機動部隊が接近しているだと! 急いで味方機を呼び戻せ!」


 私が建物の中に入ると、中は蜂の巣をつついたような大騒ぎの最中でした。


「一体何があったんですの?」

「白山伍長か。マズい事になった。海軍から連絡が入った。空母を擁する敵の機動部隊が沿岸に近付いているらしい」


 男の説明は良く分かりませんでしたが、敵にもハヤテのようなドラゴンがいて、そのドラゴンを積んだ船がこちらに近付いて来ている、と考えていいのでしょうか?

 彼らはドラゴン同士で戦っているのでしょうか?


 私は先程のズラリと並んだハヤテ達を思い浮かべました。

 私はハヤテが隣国ゾルタの大きな船や、巨大な海賊船を一撃で沈めるのを見た事があります。

 そんなハヤテがズラリと並んでいたのです。それはそれは圧倒的な戦力だというのに、敵にもドラゴンがいるというのでしょうか?


 ・・・まるでこの世の最後の戦いのようです。


 あまりの恐ろしさに私は背筋が凍る思いがしました。


「敵の目的はおそらく航空殲滅戦だ。B―29が飛来する前にわが軍の迎撃機を露払いするつもりが何らかの理由で到着が遅れたのだろう。しかし、それがこちらにとっては最悪のタイミングになってしまった」


 男は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべました。


「今、敵空母が艦載機を飛ばすと、丁度B―29との戦闘を終えた味方機がこの基地に戻って来る時刻と重なってしまうのだ。いくら技量に優れたパイロットといえど、燃料も弾薬も乏しい状態では満足に戦う事は出来ん。運良く着陸が出来た機体も地上では敵機の機銃掃射のいい餌食だ。下手をすれば今日で基地航空隊の全機が食われてしまうぞ」


 男の言葉に私は頭を殴られたようなショックを受けました。

 みんなが全滅?

 あのハヤテ達が、ハヤテに乗る騎士団員達が、オットーが、みんな死んでしまうと言うの?


「ダメです! こちらからの呼びかけに応答はありません!」

「まだ会敵していないはずだ! 呼びかけを続けろ!」


 私は衝撃で痺れた頭で強く思いました。


 そんな事は許せない。


 例えこれが私の夢でも、このまま手をこまねいて見ている訳にはいかないわ!


「私が行きます! 私とハヤテが行ってその船を沈めて来ますわ!」

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