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その27 ランピーニ聖国からの使い

本日もブックマーク400件を記念して、2本更新をしています。

前の話の読み飛ばしにご注意下さい。

 元家具職人のオレクに作ってもらった胴体内補助席の試運転として僕達はボハーチェクの港町まで足を延ばした。

 そこで出会ったのは、ランピーニ聖国レブロンの港町の代官メルガルの部下。

 彼はこの夏僕達が見つけた幽霊船の持ち主からのお礼のお金を届けに、この国にやって来た所だったのだ。



 コノ村に戻ったティトゥは以上のような話をザックリと代官のオットーに説明した。


『あなた達、聖国で何をやっていたんですか・・・』


 僕達を見ながら呆れ顔になるオットー。

 何をやっていたかと聞かれれば、海賊退治もやっていたんだけど、そういえばティトゥはその事を家族やオットーに説明しているんだろうか?

 帰って早々爵位の授与の話とか色々とあったから言ってない気もする。

 あれ? それって大丈夫なのかな?


『こちらがそのお礼(・・)になります』


 そう言われてメルガルの部下の男から袋を受け取るオットー。ずっしりとしたその重みに訝し気な表情になるものの、そこは流石に領地を預かる代官。顔色ひとつ変えずに――


『んなっ!!』


 開いた袋の口から中を覗いて、顔色を変え顎が床に落ちんばかりに大きな口を開けた。

 オットーは油の切れかけた機械のようにギチギチと顔を動かすと僕達の方へと振り返った。


『あなた達、本当に聖国で何をやっていたんですか!!』

『さっき説明しましたわ』


 オットーの魂の叫びに面倒くさそうに答えるティトゥ。

 ボハーチェクで袋の中身を見た時には自分だって驚いていたくせに勝手なものだね。

 これはあれだ。自分よりうろたえている人間がいる事で、逆に自分が冷静になっちゃうパターンと見た。


 ちなみにベアータは村に戻って早々、自分の仕事場である厨房に引きこもっている。

 厄介事から逃げ出したんだな。きっと。




 こんなに受け取って良いんでしょうか、それに実際に船を確保したのはそちらなのに、などとあたふたとするオットー。

 実に小市民的な反応だ。僕はそんなオットーの姿にほっこりした。


『ハヤテ様も他人事のような反応をしないで下さい!』

『くれると言うんだから貰っておけば良いのですわ』

『ご当主様も無責任な発言を慎んで下さい!』


 そんな僕達のやり取りに微笑むメルガルの部下。


『心配なされなくとも大丈夫ですよ。こちらも必要な分はすでに頂いていますから。』


 彼の話によると、メルガルはこの夏におきた倉庫街の火事の分の損失と、幽霊船を港まで引っ張って来るのにかかった経費の分は事前にちゃんと引いているのだそうだ。

 それだけ引いてもこれだけの大金が残っているんだから、メルガルはどれだけ相手から分捕ったのかって話だよね。

 ラダ叔母さんも、どこからこんなおっかない人間を見つけて来たんだか。


『それにそちらも新しい領地の運営で今は何かと入用でしょう。たまたまではありますが、こちらからの叙位祝いだと思って受け取っていただけないでしょうか』

『ほら、あちらもそう言っていますわ』

『・・・分かりました。どうもありがとうございます。そしてご当主様には後でお話があります』


 オットーとしてもティトゥの領主就任のお祝いと言われれば引かざるを得ないのだろう。男にお礼を言って大人しくお金を受け取った。

 まあ実際に今はお金がいくらあっても困らないだろうからね。少しは領地の資金繰りの足しに出来たんじゃないかな。



 この日はメルガルの部下の彼にこの村の北にある港の候補地も見て貰ったりもした。


『これは素晴らしい。ここに港を作ればきっとレブロンに負けない程の港町が作れますよ』


 とか言ってくれたらしい。僕はその場にはいなかったけどね。

 多分にリップサービスも入っているんだろうけど、それでも実際に港町の運営に携わっている人間のお眼鏡に叶ったのは重畳だ。

 今までは僕達の素人判断だった訳だからね。


『ただこの湿地帯を開拓するのは一筋縄ではいかないでしょうね』


 そう言って彼は、足元の悪さと季節外れの虫と服の上からでも吸い付いてくるヒルに閉口していたそうだ。

 う~ん。やっぱりそこが一番の問題点だよな。

 いちおう彼の方でも土木作業に詳しい人材を当たってもらえる事になった。

 いざとなれば僕の方でも考えている事が無くは無いのだが、所詮僕のは素人の思い付きだからね。

 やはり専門家にやってもらうのが一番だ。




 翌日、僕とティトゥはメルガルの部下を送ってランピーニ聖国まで飛ぶ事になった。


『本当によろしいんですか?』

『わざわざ遠くからお礼を届けて頂きましたし、これくらいさせて欲しいのですわ』


 やたらと恐縮する彼だったが、ティトゥが言うように何も気にする事は無いんだよ?

 実は胴体内補助席の耐久試験を兼ねているという事は彼には内緒だ。


『メルガル殿によろしくお伝え下さい』

『こちらこそ。レブロン伯爵のお屋敷でも食べられないような素晴らしい食事をありがとうございました』


 マチェイ家の料理人テオドル直伝のベアータのドラゴンメニューは、ランピーニ聖国の人間の舌をも唸らせる絶品だったようだ。

 一皿ごとに声を上げて、食後もしきりに感心していたらしい。

 陰でベアータも鼻高々だったそうだ。

 こういう話を聞くとちょっと羨ましくなるね。僕もこんな体でなければ一度食べてみたいものだ。


『ではナカジマ様、ハヤテ様、よろしくお願いします』

『分かりましたわ』

『ヨロシクッテヨ』


 なんだろうね。僕の返事に何だか微妙な空気が漂った気がする。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 空を駆け上がるハヤテの姿を見つめながらオットーは大きなため息をこぼした。

 そんなオットーの姿をやはりハヤテを見送っていたカーチャが見とがめた。


「どうしたんですか? オットーさん。大きなため息をついて」

「いや・・・ ご当主様と私の器の大きさの差というものを考えていたのだ」


 ティトゥの器? 言ってしまえばカーチャにとってティトゥは手のかかる姉のような存在である。

 その器の大きさと言われてもカーチャにはどうもピンと来なかったようだ。


「・・・いや、いいんだ」


 先日オットーが、文字通り命を懸けてまで集めようとした領地の運営資金。それを上回る金額を、今回ティトゥとハヤテは何かのついでに稼いで来てしまった。


 領地開拓の労働力として王都の騎士団を引っ張り込んだりと、ティトゥのやることなすことはオットーの常識ではまず考えられない。

 しかしその行動の結果、どこから手を付けたら良いのかも分からずに途方に暮れていたナカジマ領の開発が、確実に良い方向に動き始めているのだ。

 そんなハヤテ達を見ていると、オットーは常識という殻に籠った自分の考えが酷く小さく価値のないものに感じられた。


(俺は一人で考え込まずに、あの時部下に言われたように、最初からティトゥ様に一言相談すれば良かったのかもしれない)


 今回の臨時収入で、当分の間ナカジマ領を運営していくのに問題無いだけの財源を確保する事が出来た。

 オットーはかぶりを振って自分の弱気な考えを振り払った。


(ティトゥ様にばかり頼ってはいられない。何年かかるか分からないが、いつか必ずこの領地の運営を軌道に乗せて見せる)


 ハヤテ達の活躍でようやく領地開発の見通しは立った。後はコツコツと地道に開発を進めていくだけである。

 そしてそれはむしろオットーの得意分野と言っても良かった。

 空のかなたに小さくなっていくハヤテの姿を見つめながら、意気込みを新たにするオットーだった。


 ・・・が、残念ながら彼はここまで来ても、まだ彼の当主達がいかに規格外であるかを理解出来ていなかったのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 時間は僅かに遡って三日ほど前。



 ここはランピーニ聖国王都。その王城にある宰相の執務室。

 ここに今、一人のメイドがこの国の頭脳とも呼ぶべきアレリャーノ宰相夫妻の前に立っていた。


「じゃあ頼んだわ、モニカ」

「かしこまりました。必ずやハヤテ様達のご寵愛を受けて御覧に入れます」

「いや、余計な事を考えないで良いから。約束した報酬を届けに行くだけで良いから」


 宰相夫妻の前で不敵な笑みを浮かべるのはモニカ。

 この夏、ティトゥ達がランピーニ聖国に来た時に、ハヤテ付きのメイドになっていた例の女性である。

 一見笑顔の良く似合う癒し系メイドのようでありながら、その実、彼女は昼行灯のハヤテすらも警戒するほど謀略に長けた人物であった。


「可能ならそうして頂戴」

「御意」

「君も彼女を変に煽らないでくれないか?!」


 妹であるマリエッタ王女大好き姉さん宰相夫人カサンドラは、妹の心を掴んだティトゥ達を恨んでいた――が、それとは別にハヤテの桁外れの能力にも強い警戒心を抱いていた。


「ドラゴンの力は危険。あなたもそれは良く知っているはずよ」

「それはそうだが、敵対するような行動は慎むべきだという事で話はついたはずだよ」

「もちろんよ。でも、こちらからのアプローチは続けるべきでしょう? 今回の報酬だってその一環だわ」


 この夏。王族の一人であるパロマ王女が海賊に誘拐された。早期解決が絶望視されたこの大事件だったが、ティトゥとハヤテの活躍で無事に王女は戻って来る事が出来たのだった。

 宰相夫人カサンドラが言っているのはその時の報酬の事である。


「何のためにこんなに大盤振る舞いすると思っているの? 全ては竜 騎 士(ドラゴンライダー)の気持ちを聖国に繋ぎ止めるためよ」

「君ってやつは・・・」


 先程も言ったが宰相夫人カサンドラは、妹の心を掴んだティトゥ達を恨んでいる。しかし、聖国の宰相としてはみすみすハヤテと敵対する訳にはいかない。いや、むしろ味方につけて利用するべき存在だ。そんな複雑な彼女の心を彼女の夫は半ば呆れながらも理解していた。


「・・・本当に面倒な女だな」

「これも王家の血よ」


 王家の血からクレームの来そうな言葉だが、モニカが頷いている所を見ると実はそう外していないのかもしれない。


 それはさておき。こうして一人のメイドが、ランピーニ聖国からの使いとして桁外れの報酬を持って王城を後にした。

 目指すはミロスラフ王国。ティトゥとハヤテのいるナカジマ領である。

みなさんの応援のおかげでブックマーク数が400件に届きました。

いつも多くの人に読んで頂きありがとうございます。


次回「メイド現る」

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