その24 資材到着
ふと気が付くとブックマークが400件になっていました。
それを記念して昨日の夜に飛び込みで更新をしています。
前の話の読み飛ばしにご注意下さい。
本日は19時に2本目の更新をしたいと思います。
アダム隊長と騎士団がゾルタ兵の捕虜を連れてナカジマ領に到着した翌日。
コノ村に二日連続となる訪問者があった。
『ジトニーク商会の者です。商品を持って参りました』
丁度いつものようにティトゥが僕の操縦席に座ってオットーの話を聞いていた所だったので、商会の人は僕の前までやって来た。
ジトニーク商会か。先日ティトゥがボハーチェクの港町で買った食糧と資材を馬車で運んできてくれたみたいだ。
ふと気が付くと、いつの間にかアダム隊長達が現れて僕達の側までやって来ていた。
ひょっとしてティトゥ達の護衛のつもりなのかもしれない。
『各村々まで届けて貰えるんだよな?』
『もちろんでございます』
『・・・分かった。少し休んでいてくれ』
オットーは商会の人を下げるとアダム隊長の方へと振り返った。
『少し良いですか? 今後の領地の方針でそちらと相談しておきたい事があるのですが』
今のオットーの言葉でティトゥはピンと来たみたいだ。一体何の話だろうか?
『街道の通行料ですか』
オットーの話を聞いてアダム隊長は意外そうな表情を浮かべた。どうやらアダム隊長達は街道を通ってコノ村に来るまでに一度も通行料を要求されなかったみたいだ。
というかそんな事になってたんだね。
ちなみに開拓村の村人達も、30人以上の武装した騎士団に率いられた100人以上の集団から通行料を取る勇気は無かった模様。
まあそうだよね。
アダム隊長の部下の二人も訝し気な表情をしている。
『国が作った街道から勝手に通行料を取る権利なんて村にはありませんよ?』
『もちろん分かっています。私も今後このような行為の一切を禁止するつもりですわ』
『そこで相談なんですが、ゾルタ兵の捕虜を使って行う農地開拓に、村人の参加を検討して欲しいのです』
なるほど。通行料を取らない事で減った村人の収入を、農地開拓の給与で補わせるわけか。
悪くない考えじゃないのかな?
でも、アダム隊長は難しい顔をしている。
『それは・・・ちょっと難しいでしょうな。もう少ししてからならともかく、今はまだ村人とゾルタ兵の間に互いに溝があります。同じ現場で作業していると無駄に軋轢を生みかねませんぞ』
アダム隊長の心配も分かる。
村人にとってみれば、長年自分達だけでやっていた村に大勢の余所者が入って来たわけだし、ゾルタ兵の捕虜にとってみれば敵地の開発をやらされるわけだ。お互い面白くないと思っていると考えた方が良いだろう。
一緒の仕事をしているうちにわだかまりが解けてーーといければ理想的だけど、今回の場合は逆方向に向かう可能性の方が高そうな気がする。
一度そうなってしまえば致命的だ。もし村人とゾルタ兵が一斉に争い出すような事でも起きれば、村に配置されている騎士団の人数だけじゃ、どう考えても抑え切れるとは思えない。
『しかし通行料の分を無償で補填する訳にもいきません』
『当然ですな。誰が見てもそれは悪手だ』
働かずにお金がもらえるとなれば人間はどんどん図々しくなっていくからね。
ここは二人の意見が一致している。とはいえ、だったらどうすれば良いのだろうか・・・
『あの、少しよろしいでしょうか?』
考え込んだ僕達に、さっきのジトニーク商会の商人が声を掛けて来た。
『少しお話を伺っていましたが、でしたら街道の整備をして頂けないでしょうか』
『街道の整備・・・ なるほど。確かに少々痛んでいましたね。』
『ええ。失礼ながら最初に作られて以来、ロクに整備もされていなかったのではないでしょうか。我々のような一頭立ての馬車なら良いのですが、貴族様のお使いになるような二頭立ての馬車となると今の街道では不便なされるのではないかと思います』
ふむ。つまり彼は街道の整備ーー公共事業を興して村人に還元せよと言っている訳だな。
確かに、地域の活性化に公共事業、というのは日本でも良く聞く話だ。中々良いアイデアなんじゃないだろうか?
ティトゥも僕と同じことを考えたのだろう。パッと表情が明るくなった。
『どうでしょうかオットー。私は彼の考えは悪くないと思いますわ』
『・・・分かりました。ではその方向で話を進めましょう』
? 何だろうな。オットーの返事はどこか煮えきらないような気がする。
『でしたら私達も商会の者と一緒に村を回って騎士団の者と打ち合わせをしましょう。よろしいかな、ジトニーク商会の方』
『もちろん結構でございます』
アダム隊長はジトニーク商会の人と一緒に開拓村を回るみたいだ。
作業が増える訳だから現場とのすり合わせが必要なんだろう。
早速馬を取りに行くアダム隊長達の背中を見ながら、僕はオットーの冴えない表情がどことなく気になっていた。
そのゾルタ兵の捕虜がやって来たのはその日のお昼を回った頃だった。
騎士団員の乗る馬に連れられてやって来たのは20歳ほどの青年だった。
『お、俺は兵士になる前は家具職人の店に住み込みで働いていた』
『実際に作業をさせた所、本人の言葉に誤りはありませんでした』
青年の名前はオレク。
少し引っ込み思案な気もするけど、職人ってそんな感じなのかもしれないな。
『ハヤテ様を怖がっているんだと思います』
『ハヤテを恐れているのね』
『・・・』
カーチャとティトゥは黙っていてくれるかな。少しは無言を貫くオットーを見習って欲しいね。
オレクを連れて来た騎士団員は報告を終えると、とんぼ返りでコノ村を去って行った。
なんだか忙しそうな所に仕事を増やしちゃったみたいでゴメンね。
早速オットーがジトニーク商会が運んできてくれたばかりの資材を前にオレクに説明を始めた。
『お前にはこれを使ってベッドや机、生活道具を作って欲しい』
『・・・良い木材だ』
僕には普通の木の板にしか見えないけど、オレクには違いが分かるみたいだ。
『家はあそこの小屋を使え。昼間は村の中ならある程度自由にして良いが、夜は小屋から出る事を禁止する。念のためにドアには外から鍵をかけさせてもらう。作業に人手が必要ならアノ村の者に言え。手を貸すようにこちらから言っておく』
『分かった』
オレクは木材を前にオットーが連れて来たアノ村の若者と何やら打ち合わせを始めた。
敵国の捕虜とか聞いていたので、もっと嫌々連れて来られるものだと思っていたけど、意外と現状を前向きに捉えているみたいだ。
オレクがそうなのか、それとも今回連れて来られた捕虜はみんなそうなのか。
ゾルタ兵とか捕虜とかそういう名前が持つイメージに引っ張られるのは良くないかもしれないな。
『確かにそうですわね。では彼らの事は今後”開拓兵”と呼ぶ事にしますわ』
僕の話を聞いたティトゥがそう決めた。
なるほど。開拓に従事する兵士。言い得て妙な気もするな。
日本で言えば明治時代に北海道を開拓した”屯田兵”が近いのかもしれない。
オットーも特に反対する事も無くこの意見はすんなりと通り、今後ナカジマ領では旧ゾルタ兵捕虜は開拓兵と呼ばれる事になった。
『開拓兵・・・ですか?』
オレクはオットーに付けられた使用人(もちろん彼に対する見張りも兼ねている)からその事を聞かされて、不思議そうな表情を浮かべた。
『戻って参りました』
一週間ほどしてアダム隊長達がコノ村に帰って来た。
『ジトニーク商会の資材は予定通り、各村に新たに作らせた備蓄小屋に納めて来ましたよ』
『ありがとうございます』
あれ? 村に前からあった食糧貯蔵庫とは別に作らせたんだ。
『ええまあ。その方が管理の手間も省けますから』
そういうものなのかな? まあこういう事務的な事はオットーの得意分野だから、彼に任せておけば問題はないだろう。
『それよりも、現場の意見でも開拓と街道整備を同時に監督するには騎士団の数が足りないと言われました』
『・・・やはりそうなりましたか』
アダム隊長の言葉に途端に表情が曇るオットー。
最初の予定だと村に4人の騎士団員で十分だったけど、街道整備の方にも人手を取られるなら確かに4人じゃ足りないかもね。
『街道整備の監督をする人材はそちらで手配されますか?』
『ポルペツカにも人をやりましたが、やはり監督を任せられるほどの人材となるとまとまった人数の確保は無理のようです』
どうやら八ケ所同時というのが今回のネックになっているみたいだ。
かといって順番にやるという訳にもいかないのだろう。
そうなると仕事の無い村から不満が出るし、仕事の無い村に通行料の徴収を許すと、今度は仕事をしている村から不満が出るのが分かり切っているからだ。
誰だって土木作業をやって給与を貰うより、今まで通り楽して稼ぐ方が良いに決まっているだろう。
『申し訳ありませんが、そちらにお任せしてもよろしいでしょうか?』
『分かりました、王都の騎士団に連絡を入れましょう。なあに、前にも言いましたがナカジマ領に来たがっている者は多いですからな。希望者に不自由はしませんよ』
笑顔を見せて頷くアダム隊長。
本来ならこれで一件落着ーーのはずである。
でも、僕はオットーの沈んだ表情が気になって仕方が無かった。
19時に2本目の更新をしたいと思います。
次回「オットーの覚悟」