その14 開拓村
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僕はティトゥと料理人のベアータを乗せて、ナカジマ領となったペツカの村々を回った。
同じことの繰り返しだったので細かい所は割愛するが、その様子は――
先ずは適当な場所に着陸する。
僕の姿に驚いて集まって来た村人達の前にベアータが立って、村名主を呼んで来るように呼びかける。
村名主がやって来た所で、ベアータはティトゥがこの領の新しい領主になった事を宣言する。
驚いている村人達に向かって、ティトゥは自己紹介と連絡があるなら海辺のコノ村まで誰かをよこすように、と言う。
ベアータが僕に乗り込んで出発する。
これを村の数だけ繰り返した。
流石に八回も繰り返すと、最後の方はかなり作業的な流れになってしまっていた気もするけど、まあ業務連絡みたいなものなんだからそれでも問題ないのかな?
今は全ての村を回り終えて、ティトゥ達を乗せて帰りの空を飛んでいる所だ。
『どの村も同じような見た目だし、村の人達も皆同じような反応をするから、同じ村を繰り返し訪れているような気分になりましたわ。』
『あ、それ分かります! アタシもさっき「あれ? さっきこの村でも同じこと言わなかったっけ?」とか思っちゃいました!』
最後の村を訪問し終わった解放感に、ティトゥとベアータから笑みがこぼれた。
『そういえば今朝の料理はどうでしたか? お屋敷で出す料理のようにはいきませんでしたが。』
『十分でしたよ。皆満足そうに食べていましたわ。』
ティトゥの返事にベアータの心配そうな顔がパッと明るくなった。
『それにしても、アタシ達はともかく、ご当主様はよく漁村の家で寝泊まりして平気でいられますね。』
『もちろんですわ。私は旅の中でハヤテの翼の下の地面にムシロを敷いて直接その上で寝た事だってありますのよ。』
ティトゥのドヤ顔に、「へえ~」と、素直に感心するベアータ。
いやいやティトゥ、何だかカッコ良い事言っているけど、君一度だってそんな経験してないからね。
どこに行ってもいつも家の中で寝てるから。あまり自分の冒険を捏造してると後で恥をかいちゃうよ?。
そんな話をしているうちに、僕達はお昼にはコノ村に戻って来たのだった。
『という訳で村名主と村人達にはちゃんと言って来ましたわ。』
僕の操縦席に座ったまま胸を張って報告するティトゥ。
オットーは釈然としない表情をしている。
『ほぼ全ての村人に領主自身が直接宣言するなんて前代未聞じゃないのか? いや、各村々で連絡する手間が省けたのだから良い事のはずだ。多分そうだ。・・・そう思おう。』
何やらブツブツと呟いていたオットーだったが、彼の中で何かの折り合いが付いたみたいだ。
部下に馬車から何か書類を持って来させた。どうやら次の話題に移る事にしたようである。
『ナカジマ領の昨年の収支を私が簡単に纏めたものです。この数字を見て下さい。』
オットーは僕の翼の上に上り、手にした書類をティトゥに渡す。
ふむふむ、どれどれ。
僕もティトゥの後ろから覗かせてもらうが・・・コレってどういう事?
『収穫量が足りていませんわ。』
『・・・はい。』
そう、この領では作物の総生産量が領民による消費量を下回っているのだ。
そんな事って有り得るの?
『この収穫の半分を税として納めさせています。』
『それじゃあ村人が死んでしまいますわ! 税を取らないという訳には・・・いきませんわね。じゃあ一体どうすれば・・・』
まあティトゥの気持ちも分かる。でも税を全く取らない訳にはいかない。それだと今度はティトゥ達が食べていけない。
そもそも全くの無税にした所で、最初から生産量が年間消費量を賄えないのだから意味は無い。自分の足を食べるタコのようにやがて村が消滅してしまうだけだろう。
どうしてこんな領地が今まで存続出来ていたんだろうね?
『当面の所はマチェイのご当主様――ティトゥ様のお父様から持たされた資金があります。今年は領主が代わった恩寵として税を取らないという事も可能です。しかし、当然ですがずっとそれを続ける事は出来ません。』
『生産量が少ないのなら農地を増やす訳にはいかないのかしら? 土地は余っているのでしょう?』
『・・・分かりません。前の代官の残した書類には書かれていませんでした。』
オットーの話によると、前の代官はオットーに挨拶をしただけで直ぐに町を出て行ったんだそうだ。
だからオットー達は誰にも相談出来ずに、前の代官が残した書類からこの領地の現状を知るしかなかったのだ。
そしてその書類には農地の開拓に関しては記されていなかったらしい。
まあ、確かに自分達の失敗をわざわざ書き残していったりはしないよね。
『開拓の事情に関しては私も村に部下をやって調べさせています。しかし人手が足りずに・・・』
『なら私が村を回って聞いて来ますわ。』
ティトゥの言葉にオットーは渋い顔になった。
『今日は迂闊にも止める事が出来ませんでしたが、今後は今朝のような事は控えて下さい。』
『? どういう事ですの?』
『貴方はナカジマ家の当主であり唯一の血筋なのですよ。もしその身に何かあったらナカジマ家は、そしてこのナカジマ領はどうなると思っているのですか?』
オットーの指摘に言葉を失うティトゥ。
ティトゥも全くその事を考えていない訳では無かったはずだ。実際に折衝事はベアータに任せて、自分は僕の操縦席から一歩も出ていなかった。
とはいえ、この場合はオットーの言う事が正しいだろう。
もし村人に悪意があって本気でティトゥを害そうと考えていたら、弓で矢を射かけてもいいし、僕が降りそうな場所に落とし穴を掘ったって良いのだ。
『せめて護衛を付けて下さい。』
『そんな事を言われても・・・』
ティトゥは僕に視線を向けた。
まあ、僕の胴体に一人くらいなら入る事ができるけど、それじゃオットーも納得しないよね。
その後も二人の話し合いは続いたが話は一歩も前に進まなかった。そもそも情報が少なすぎるのだ。
話が動くのは翌日。オットーの部下が開拓村から事情を聞いて戻って来てからである。
『農地の開拓を制限されている?』
『いえ、制限というよりも場所を限定されているのだそうです。』
オットーの部下の話は意外な内容だった。
村人達は湿地帯の周辺以外の農地の開拓を許されていないというのだ。
具体的に言うと湿地帯があってその南に村がある。その村には街道が通っているのだが、村の農地はその街道よりも南側に作る事を許されていないのだそうだ。
つまり村人が農地を増やそうと思ったら、村と湿地帯との間の狭い範囲に作るしかないという事になる。
『どうしてそんな事を。』
『・・・当時の国王が開拓村を作ったそもそもの目的は、ペツカ大湿地帯を農地として開拓する事でした。ここからは私の想像になりますが、村人を湿地帯の方へと追いやる事で、無理矢理にでも湿地帯を切り開かざるを得ない状況に追いやったのではないでしょうか?』
なるほどね。国としては湿地帯を開拓して欲しい。でも村人は湿地帯から離れた方向に楽して農地を作りたい。
そんな両者の立場のせめぎ合いで作り出されたルールという訳か。
結局村人による湿地帯の開拓は成果を出せていない訳だし、誰も得をしないクソルールだったという訳だな。
『そんな決まり事は無くしてしまえば良いのですわ。』
『・・・そう言われましても、王家の命令ですから。』
『国王がそんな細かい命令を出すはずがない。おそらく宰相であるユリウス様かその部下の出した命令だろう。』
オットーが苦々しく吐き捨てた。
確かに。ちょっと聞いただけで上手くいきっこない悪法だ。多分上司から理不尽なノルマを押し付けられた下っ端役人が思い付きで下した命令じゃないだろうか。お役所仕事でいかにもありそうな話だ。
『仮に命令を撤回出来たとしても、村は現状を維持するだけで精一杯の様子です。街道の南に新しい農地を開拓するだけの余剰人員は出せないでしょう。』
『・・・お父様に頼る訳にはいかないかしら?』
『マチェイで人を募集するのですか? 確かにこれから冬になって農閑期に入りますが・・・ 今年は春に隣国ゾルタとの戦いがあって兵役に取られた者も多く、村の手入れも後回しになっていましたからね。この状態でどれだけの人数が集まるか・・・』
あれ? 村は維持していくだけで手一杯って、おかしくないかな。街道の南にだってポツポツと農地があったはずだけど・・・
あ、分かった。あれは隠し田だ。
隠し田は昔の農民がお上に隠してコッソリ作った、まあ言ってみれば脱税用の農地だ。
当然バレたら厳しい罰を受けたが、それでも作る者が後を絶たなかった。
それだけ農民の方も生きていくために必死だったんだろう。
なるほどね。どうりで妙に中途半端な大きさの畑がやけにまばらにあると思っていたんだ。
どう考えてもこれじゃ不便で仕方が無いだろうにと疑問だったんだよ。
彼らとしては隠れて開墾したつもりかもしれないけど、空の上から見たら一目瞭然だからね。
さてどうしようか。ここでバラしても良いけど、ちょっとばかりの農地が判明した所で焼け石に水だろう。
確かに脱税は良くない事だけど、隠し田程度を接収しても大して財源の足しにもならない上に、村の人達に恨みを買ってしまうだけだろう。それよりも、村には農地を開墾出来る程度は余剰人員がいるという事実の方が大切だ。
開墾のための人員か。
土木工事といえば古代ローマの時代から軍人の得意分野?だ。
・・・ふむ。彼を頼るか。
僕は最近出来たばかりの自分の人脈を早速活かす事に決めた。
次回「収容所」