SUMMER VACATION 2019 エピローグ
順番に読んでいる方は「四式戦闘機はスキル・ローグダンジョンRPGで村では小柄で5億7600万年」本編の最終話「最終話 創られた神」の方を先に読んで下さい。
ここはランピーニ聖国からミロスラフ王国へと向かう空の上。
僕は少女二人を乗せてティトゥの実家、マチェイに帰る途中であった。
『カーチャ! 貴方無事でしたの!』
『きゃあああ! いきなりどうしたんですかお嬢様!』
いきなりティトゥに抱きしめられてメイド少女カーチャが悲鳴を上げる。
『だって・・・あら? だって何なのかしら? ねえ?』
『いや・・・私に聞かれても・・・ どうしたんです? ハヤテ様。』
どうやらティトゥは本人にも分からない衝動に駆られてカーチャを抱きしめたようだ。
それでも昂る気持ちを抑え切れないのか、ティトゥは未だにカーチャをギュッと抱きしめたままだ。
そして訳が分からず混乱するカーチャ。
ふむ。気持ちは分かるよ。
ティトゥのね。
もし僕が人間の体だったらやはりカーチャに抱き着いていただろう。
ああ、間違いないね。
中学生くらいの少女にハグ。事案発生待ったなしである。
四式戦の身体で良かったと今日ほど強く思ったことはないよ。
何故だか急に僕達二人から生温かい目を向けられ居心地が悪そうにするカーチャ。
そんなカーチャの姿に癒されてニヨニヨする僕達。
『もう、お二人共いい加減にして下さい!』
カーチャがキレるまで僕達のカーチャ構いは続くのだった。
『それでなんでウチに来る事になったんです?』
僕の前に立っているのは髭の立派なオジサン。アダム隊長である。
ちなみに、ここはかつてお世話になった王都騎士団の壁外演習場である。
僕が下りてくるのを見た騎士が慌ててアダム隊長を呼んで来たのだ。
ふむ。説明しよう。
僕とティトゥの猫可愛がりにキレたカーチャだったが、あまりに騒ぎ過ぎたのか酸欠で倒れてしまったのだ。
倒れたと言っても気絶したわけじゃなくて、フラっとしただけなんだけどね。
それを見て大騒ぎしたティトゥと僕は急遽途中で休憩をはさむ事にしたのだ。
ちなみに、今ティトゥは騎士団の人に案内されて、カーチャを背負って休憩室まで運んでいる。
カーチャはもの凄くイヤがっていた気もするけど、それは多分僕らの気のせいだ。
という内容を僕は心の中で説明した。
『いや、何か言ってくれないと分かりませんよ。』
だろうね。
でも僕の片言の現地語で説明するのは面倒なんだよな。
・・・あれ? 何だか久しぶりにこの感覚を味わった気がするんだけど。
いや。そんなはずはないか。
ランピーニ聖国でもずっとこうだったはずだし
『サヨウデゴザイマスカ。』
『・・・。』
僕の完璧な返事に感心するアダム隊長。
う~ん。ティトゥはまだかなぁ。
僕はポツポツとアダム隊長と会話を交わす。
ビックリしたのはカトカ女史のことだ。
覚えて無いかな? 将ちゃんことカミル将軍からティトゥの護衛騎士を任された残念美人のカトカ女史。
彼女は結婚が決まったそうだ。
どうも例の招宴会の時、ドレスに着飾った彼女を見染めた男性がいたらしい。
それから両家の間でトントン拍子で話が進み、婚約をすっ飛ばしてゴールインしたのだそうだ。
・・・日頃の彼女を見ていなければ、その気持ちも分からないでもないか。
ところがアダム隊長が言うには彼女は意外と家庭的なのだそうだ。
『騎士団ってのは特殊な集団ですからな。多かれ少なかれここにいる間はみんな性格が変わってしまうんですよ。』
そういうものなんだろうか? まあ環境や立場が人を変える事ってあるからね。
彼女のこれからの人生に幸多からん事を。
ところで前から気になっていたのだが、アダム隊長はこの間僕達を送り届けたボーナスで大人のお店に突撃したのだろうか?
異世界の風俗産業について僕はちょっと興味が・・・
『おや、マチェイ嬢達が戻られたようですぞ。』
うん。そうくると思ってた。
僕は一休みした二人を乗せて壁外演習場を後にする。
アダム隊長は最後まで「何しに来たんだ?」って顔をしていた気がするが、久しぶりに僕に会えた照れ隠しに違いない。
ツンデレ髭オジサン。一体どこに需要があるんだろうね?
『カーチャ、少しは落ち着いたかしら?』
『・・・それティトゥ様が言いますか?』
ティトゥはやはり何くれとなくカーチャの世話を焼きたがる。
カーチャは理由も分からず構い倒されてうんざりしているようだ。
ティトゥはあれだ。ペットを可愛がり過ぎて嫌われちゃうタイプと見た。
『そんなことありませんわ。そういうハヤテだって、カーチャと同じ年頃の姪から嫌われたって言ってたじゃありませんの。』
いや、あれは体重の話題があの子の地雷だっただけで、構いすぎて嫌われたわけじゃ・・・って、あれ? 僕いつティトゥにその話したっけ?
ティトゥも自分で言った言葉に自分で驚いている。
どうやら彼女もいつ僕から聞いた話か覚えていないようだ。
おかしな空気が僕達の間に流れる。
『お二人共どうしたんですか? 変な顔をして。』
一人事情を知らないカーチャが不思議そうにする。
・・・まあいいか。
何だか疑問は残るけど、そもそもティトゥに知られて困る話ってわけじゃないし。
ティトゥもそう思ったようだ。
僕達は気持ちを切り替えると、マチェイまでの短い時間、ランピーニ聖国での思い出話に耽るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ハヤテ達は界を渡った事で異世界での記憶を失った。
しかし、異世界での記憶は失っても、あの時感じた気持ちはぼんやりとだが彼らの心に残り続けた。
その気持ちが、今後の彼らの関係にどのような影響を与えるのかは分からない。
ただ一つ言えるのは、彼らにその気持ちが残っている限り、あの日の経験は無かったことにはならないということだ。
――SUMMER VACATION 2019・終――
この話でこのイベントの話は全て完結となります。
最初に書いた通り、これは本編のストーリーには何の関係も無いイベントのようなものです。
ひょっとしたら、今後の本編で、このイベントの中で語られた設定と矛盾する部分が出てくる可能性もあります。
その際は、あくまでこれは別の話ということでご了承ください。
最後まで読んで頂きありがとうございました。