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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その20 王女誘拐

◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日の朝。すでにティトゥとハヤテは数日ぶりの調査のために空へ飛んでいた。

 屋敷の使用人達は各々自分の仕事へと戻って行く。

 マリエッタ王女も勉強のため、自分に割り当てられた部屋へと戻って行った。


 金髪縦ロールの双子のような姉妹、第六王女パロマと第七王女ラミラはそんな屋敷の中で、二人暇を持て余していた。


「ティトゥお姉様が出かけられて、時間が空いてしまいましたわね。ラミラ」

「そうね。この数日はいつも一緒だったから余計に退屈に感じますわね。パロマ」


 この5日ほどティトゥはやむを得ない理由で、いつもの調査を休んでいた。

 そのおかげで屋敷の三人の王女達は、朝から晩までティトゥと共に過ごすことができたのだ。


「こんな事ならお姉様に海賊退治なんてお勧めするんじゃなかったわ。ラミラ、貴方が余計な事を言わなければ良かったのよ」


 第六王女パロマが不貞腐れたように唇を尖らせる。

 確かに、ティトゥに手柄を立てさせてみんなに認めさせる、というアイデアを出したのは彼女の妹、第七王女ラミラだ。

 だが、あの時パロマも妹の考えに積極的に賛同していた。

 今更そのことを言い出すのは卑怯ではないだろうか。ラミラの頭にカッと血が上った。


「何よ。私が悪いとでも言いますの? ならパロマが好きに考えて勝手にすれば良いのですわ!」


 ラミラはイスを蹴って立ち上がると足音も荒く部屋を出て行った。

 後に残されたパロマも妹の剣幕にしばらくポカンとしていたが、やがてプリプリと怒り出した。


「何ですの今の態度は! 元々あの子の言葉が原因なんじゃない!」


 いつも二人揃って仲良く行動しているように見えるパロマとラミラだが、元々こらえ性のないわがままな性格の二人である。

 王城のメイドであれば誰でも知っていることだが、実は二人の口喧嘩は日常茶飯事なのだ。

 この日もいつものように、お互いがひとしきり腹を立て終われば、どちらからともなく仲直りするものと思われた。

 しかし、そこに一人のメイドが入ったことによって彼女達の運命の歯車が大きく狂う事となる。


「でしたらマチェイ嬢にプレゼントを贈られてはいかがでしょうか」


 パロマは驚いてメイドの方へと振り返った。

 メイドが用事を言いつけられた訳でもないのに主の事情に口を挟んだことに驚いたのである。

 見覚えの無い、目鼻立ちのハッキリとした気の強そうなメイドだ。


「初めて見るメイドね」

「使用人のアントニオの妻でございます」


 アントニオの風貌を聞き、パロマは、ああ、と思い出した。

 よく仕事中に居眠りをしたり、手を抜いたりしては、メイド長のマルデナに怒られている男である。

 アントニオはこのモンタルボにある町の出身ということで今回のメンバーに選ばれていた。

 妻は彼の推薦による縁故採用である。何でも実家は町の名士という話である。


「今、町に帝国の商人が来ていて、大変珍しい物を売っていると話題になっています。それを買って贈られてはいかがでしょう」

「ミュッリュニエミ帝国の? それは良いかもしれないわね」


 ミュッリュニエミ帝国はティトゥの国、ミロスラフ王国のある半島の丁度大陸との境目に位置する半島最大の国である。

 近年帝国からは、今までにない珍しい道具や新しい製法で作られた装飾品が、半島のあちこちに輸出されていた。

 ランピーニ聖国中枢では、領土的野心に富む帝国による大きな戦に備えた軍資金集めによるものではないか、と推測されていたが、政治に興味の無いパロマ王女はそんな事には全く関心が無かった。

 帝国の製品といえば見たことも無い珍しい物、その程度の認識でしか無かったのである。


「良いわね。その者をここに呼びなさい」

「それよりも密かにお買いに行かれてはいかがでしょうか?」

「なぜ?」


 商人を呼べば屋敷中にその噂が広まるだろう。当然プレゼントを贈る相手、ティトゥの耳にも入ってしまう。

 それよりもコッソリ買ってサプライズプレゼントをするべきではないか、と言うのだ。

 サプライズプレゼント、という部分がいたずら好きなパロマ王女の心に刺さった。


「王女様自らが選ばれて買われた物であれば、よりマチェイ嬢にも喜んで頂けるのではないかと。それに・・・」

「それに?」

「ライバルにもグッと差をつけられるチャンスではないでしょうか?」

「素晴らしいわ!」


 ライバルとは言うまでもなくマリエッタ王女の事である。今や屋敷で、ティトゥを挟んでの王女達の綱引きを知らない者など誰もいない。


「今から出られれば、どんなにゆっくりプレゼントを選ばれても昼過ぎには戻って来る事が出来ます。王女殿下さえよろしければ、夫に話を付けて内密に屋敷を出られるよう都合を付けられますが?」


 黙って勝手に屋敷を離れる事に不安を覚えるパロマ王女。しかし、メイドの言葉はあまりに魅力的すぎた。

 結局、王女はメイドの言葉に従う事に決めた。

 メイドは速やかに夫であるアントニオに話をつけ、馬車に王女を隠して屋敷から連れ出すことに成功するのだった。



 そしてパロマ王女は夕方になっても帰る事は無かったのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『おそらくその者達を裏で操る者がいると思われます』


 マリエッタ王女がティトゥに説明した。 

 屋敷のメイドや使用人達に聞き取りを行った所、使用人のアントニオとその妻ベロニカの姿が消えていたそうだ。

 マリエッタ王女は、というよりは警備の騎士隊長は、二人が脅されるか買収されるかしてパロマ王女を誘拐したのではないか、と考えているようだ。


 まあそうだよね。そこらの小悪党がわざわざ王家なんて大物に手を出すような危険を冒すとは思えない。

 背後にあるのは余程大きな組織だろう。

 騎士隊長は国外の組織が怪しいと睨んでいるようだ。

 ランピーニ聖国は歴史的にも国外に敵が多い。

 聖国と不仲な国かその国の貴族辺りが画策した犯行ではないか、と考えているようだ。

 さもありなん。


『私が・・・私があんな事さえ言わなければ・・・』


 ポロポロと涙をこぼすラミラ王女。

 どうやら、自分が勝手にしろと突き放さなければパロマ王女が一人で攫われることが無かったのではないか、と思っているらしい。

 う~ん。その場合、単に攫われる人間が二人に増えただけなんじゃないかと思うけど。


『ティトゥお姉様、ハヤテさん。お二人のお力で何とか出来ませんか?』


 マリエッタ王女が懸命にティトゥに訴えた。

 日頃はティトゥを取り合って仲の良くない姉妹だが、心から憎しみ合っているわけではないのだろう。

 マリエッタ王女の顔は心配で青ざめている。


『そうは言われましても・・・』


 ティトゥだって何とかしたい気持ちはあるに決まっている。それは見ているこっちにもヒシヒシと伝わってくる。

 あれだけ慕われた相手なのだ。そんな少女が攫われて今もひどい目に遭っているかもしれない。

 そんな話を聞かされて、優しいティトゥが平気でいられるわけがないに決まっているじゃないか。

 でも、彼女は貴族令嬢であって、騎士でもなければ領主でもない。

 捜査する能力も自分の手足となって動かせる組織も持たないのだ。

 すがるように僕を見るティトゥ。


 僕だって何とかしてあげたい。


 もし僕の身体がアニメやスパイ映画に出てくるような秘密道具満載のスーパー戦闘機だったら、王女の行方を探す方法だってあっただろう。

 でも僕は現実に存在する昔の戦闘機のレプリカでしかない。


 僕達に出来ることは、今も懸命に捜査を続けている騎士達を信じて王女の無事を祈ることだけだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「申し訳ございません・・・賊を取り逃がしてしまいました」


 報告に戻って来た騎士の言葉に崩れ落ちそうになるラミラ第七王女。

 そんな彼女をずっと隣に座って慰め続けていたマリエッタ王女が支えた。


 時間は深夜。

 パロマ王女を誘拐した賊は、町が闇に包まれると隠れていた家を引き払い、王女を連れて町の近くの海岸まで移動したようだ。

 タッチの差で隠れ家を突き止めた騎士団が見つけたのは、胸を一突きされて殺された使用人のアントニオと、隣の部屋で乱暴されて殺されていたアントニオの妻のベロニカの死体だった。

 ようやく騎士団が賊の足取りを掴んだ時には、すでに彼らは隠していたボートに王女を乗せて海へと逃げ出した後であった。


「おそらく沖合に別の船を用意していたものと思われます」

「では今頃は海のどこかに・・・」


 マリエッタ王女が苦しそうに呟いた。

 妹の言葉が胸に刺さったのだろう。ラミラ王女はすっかり涙の枯れ果てた目に絶望を浮かべた。

 痛ましい少女達の姿に、自らの無力を噛みしめ、顔を伏せることしか出来ない周囲の大人達。

 そんな中、いつの間にか部屋にいたメイドが、人知れず部屋から姿を消していた。

 ハヤテ付きのメイド、モニカである。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕のテントにモニカさんが訪れたのは、もう日付が変わろうという深夜のことである。

 何だか知らないけど、この人は夜中たまに僕のテントの外を足音を殺してうろつくことがあるんだよね。

 前々から気になって仕方が無かったのだ。


 その夜、僕は一連のパロマ王女誘拐に関して何もできない自分に無力感を感じていた。


 てっきりこの日も、モニカさんはいつものようにテントの外をうろついた後、屋敷に戻るものだとばかり思っていた

 しかし、意外なことに今日の彼女は開けっ放しの入り口からテントの中に入ってきたのである。


『ハヤテ様、起きていますよね? 少しお時間をよろしいでしょうか』


 起きているも何も、こちとら睡眠のいらない便利な体ですから。

 いくらでもお時間よろしいですよ。


 モニカさんは訥々とパロマ王女誘拐団に関しての情報を語り出した。

 今分かっているだけの情報が余すところなく僕に語られる。

 ていうか、こういう捜査情報って部外秘じゃないの? なんでただのメイドのモニカさんが知っているわけ?

 本当、この人何者なんだろうね。

 まあ、それはそれとして、彼女のもたらした情報は僕にとって予想外の内容だった。


 でも、これなら――


 僕の体にフツフツと力が湧いて来た。 


『どうでしょうか? 相手がこれ(・・)なら貴方の力でどうにかなりませんか?』


 どうにか出来るとは言えない。でも、その情報が本当なら僕にも――僕とティトゥにも出来ることがある。

 僕はモニカさんにハッキリと伝えた。


『ヨロシクッテヨ』

『・・・前から思っていましたが、その言葉使いは貴方の体に似合っていませんよ?』


 知ってるよ! 文句はティトゥに言ってよ!

次回「一夜明けて」

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