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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その17 王城のモニカ

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここはクリオーネ島ランピーニ聖国、聖王都ランピーニ。

 その王城の奥に建てられた屋敷。

 今、ここには出産を控えた元第四王女セラフィナが里帰り中であった。


「モニカです」


 ノックの音にセラフィナは手元の刺繍から顔を上げた。

 抱くと折れてしまいそうな儚い印象の美女である。

 セラフィナが頷くと、彼女の側に控えていたメイドが部屋の扉を開けた。

 扉の外には若いメイドの姿が。メイドは優雅にお辞儀をした。


「お久しぶりです、セラフィナ様」


 エニシダ荘でハヤテ付きのメイドとして働いているモニカである。

 モニカは部屋のメイドに向き直った。


「後は私達だけで話します。お前達は席を外してよろしい」


 モニカがそう告げると、彼女は黙ってお辞儀をし、開け放たれた扉から部屋を後にした。

 セラフィナはモニカに椅子を勧めた。


「いつこちらに戻って来たの? それとも貴方が戻って来なければならないほどの事があったのかしら?」


 その態度はどこか気安く、とても王族とメイドの関係には見えない。

 それもそのはず。同い年の二人は、幼い頃から城のメイド長マルデナの下で、まるで姉妹同然に一緒に育った仲なのである。


「貴方のお姉さんに説明するためにちょっとね」


 姉と聞いて、セラフィナの眉がピクリと跳ねた。

 セラフィナは元第四王女。上の二人の姉は彼女が生まれる前に他界している。

 つまり現在、彼女の姉と言えば第一王妃アマランタの娘でありこの国の元第一王女、現宰相夫人のカサンドラただ一人しかいなかった。


「姉さん・・・やっぱり何かしでかしたのね」


 セラフィナは美しい眉をしかめ、ため息をついた。

 彼女は、末妹のこととなると暴走しがちな姉を心配して、彼女にとって腹心の友であり最も頼れる部下でもあるモニカを現地に送っていたのだ。


「こうなる気はしていたのよ」

「ご苦労様。けどどっちかと言うとしでかしたのはお姉さんの方ではなく、竜 騎 士(ドラゴンライダー)の二人の方になるかしらね」


 セラフィナは驚きに目を見張った。


「貴方がそんなに楽しそうにしているのっていつ以来かしら?」


 セラフィナは親友の滅多に見せない珍しい態度に驚き、強く興味を引かれるのだった。




 セラフィナは手を上げてモニカの言葉を遮った。


「ごめんなさい。もう一回、今の所の説明をお願いできるかしら?」

「う~ん、やっぱりこれは実際に見てもらわないと理解し辛いわね」


 モニカは困った顔で肩をすくめた。


「でも、荷物は王城の方へ送ってしまったのよね。あのドラゴンは本当にぶっ飛んでるから無理はないか。この国でこの事を本当に正しく理解できるのは貴方のお姉さんくらいなんじゃないかしら」


 セラフィナ元第四王女は、さっきから機嫌よく語る親友の姿に驚きっ放しだった。


(この子がこれだけ喜んでいる時点でただ事じゃないのが分かるわ)


 モニカは少し困った性格の持ち主で、あえて危険な場所に首を突っ込んでギリギリのスリルを楽しむ所があった。

 顔立ちも良く、家柄も申し分のない彼女に浮いた話一つないのも、そんな彼女に付いていける――面倒を見られる男性がいないせいもある。

 セラフィナは親友をここまで夢中にさせるドラゴンという存在に、激しく好奇心を掻き立てられた。


「分かった。だったら姉さんの所に行きましょう。すぐに支度をするわ」


 モニカはセラフィナから見えないように小さく苦笑した。


(まあセラフィナは仕方が無いか)


 モニカの本心としては、せっかく自分が元第一王女カサンドラ・現アレリャーノ夫人より先に会いに来たのだから、彼女にはそのアドバンテージを最大限に活かしてもらいたかった。

 なのにセラフィナはこうして手の中のチャンスを簡単に手放してしまう。

 王家の人間としてはそれが正しい判断なのかもしれないが、自分の主と仰ぐには器量が小さすぎる。

 モニカは彼女を親友と思ってはいたが、主としては凡庸で物足りないと感じていた。


(それでも竜 騎 士(ドラゴンライダー)のお嬢さんくらい突き抜けていたら、それはそれで魅力的なんですけどね)


 モニカによるティトゥの評価は、「世間知らずで秀でた物も無い、極平凡な貴族のお嬢さん」である。

 しかし、このお嬢さんは世間知らず過ぎて、時として思わぬことをしでかしてしまう。

 要は天然なのである。

 おかげでモニカはどうにも彼女から目が離せないのだった。




 ここは王城の宰相執務室。

 部屋の主であるアレリャーノ宰相夫人カサンドラは、仕事で聖王都を離れていたもう一人の部屋の主である彼女の夫、アレリャーノ宰相と二人の息子を出迎えていた。


「宰相府特級鑑札を発行したんだって?」

「帰って来て早々に言う事がそれ?」


 夫の詰問気味な言葉に憮然とする宰相夫人カサンドラ。


「いや、それは言うだろう。君だってあれがどれだけの効力を有するか知らないわけじゃないんだから」


 痛い所を突かれたカサンドラは誤魔化すようについと目を反らした。

 そんな妻の姿にアレリャーノ宰相はため息をついた。


「おおかたマリエッタ王女殿下絡みの事なんだろう? 君は日頃は優秀だが、マリエッタ王女殿下の事となるといつもポンコツだからな」


 カサンドラはズバリ言い当てられた事に加えて、夫からポンコツ扱いされて顔を真っ赤にして腹を立てた。

 そんな妻に宰相は後ろに控えていた二人の息子達を前に押し出した。

 15歳になる兄と13歳の弟である。

 二人は今年から父親に付いて宰相の仕事を学び始めた所だった。


「妹を大切にするのも結構だが、自分の息子達も大切にしようよ」

「イヤよ。男の子は可愛くないんですもの」


 ぶっちゃける母親を微妙な目で見つめる二人の息子達。

 彼らにとって、母は尊敬すべき立派な存在だ。

 だがそんな彼らにとっても彼女のこういう所だけは困りどころなのである。


「姉さん・・・ 自分の子供に対して今の言葉は流石にどうかと思うわ」


 女性の呆れ声に宰相親子は振り返った。部屋の入り口に立っているのはお腹の張った身重の女性とその後ろに控えるメイド。

 元第四王女セラフィナとセラフィナの腹心の友モニカの二人であった。




「といった訳で私が説明に参った次第です」


 モニカの説明に部屋に沈黙が落ちた。

 セラフィナとモニカの仲は王城の人間の誰もが知っている。

 彼女がセラフィナの前で嘘をつくとは思えなかった。


「いや、本当に君何をやっているんだよ」


 宰相府特級鑑札を発行したのがつまらない嫉妬にあった事を聞き、宰相は剣呑な空気を漂わせた。

 二人の息子達も母に対して呆れた目を向ける。


「つまり竜 騎 士(ドラゴンライダー)は二日に一度しか海賊の捜索をしていない上に、その時すら朝に出て夕方になる前には帰って来ていると貴方は言うのね?」


 カサンドラは彼らを無視(スルー)。自分に都合の悪い外野の声は遮断して、モニカを詰問した。

 この面の皮の厚さは流石一国を預かる宰相夫人といえる。のかもしれない。


「ええ、そうですね。さて、そのことを説明する前に、先ずはこれを見て頂きましょう」


 モニカはカサンドラの視線を飄々と受け流し、部屋の隅に積まれている荷物へと足を向けた。


「あら、それは貴方の送った荷物だったのね」

「・・・そこは少しは危機管理意識を持とう。不審物かもしれないだろうに」

「そういうのは部下に任せていますから」

「君だけの問題では無いのだぞ、ここは国家の中枢ということくらい君にだって分かっているだろう?」


 などと言い争う宰相夫妻を尻目に、モニカは荷物の中から1m四方の板を取り出すと順番に床に並べていった。

 その数18枚。

 それが縦三枚、横六枚の長方形になるように敷き詰められていく。

 宰相夫妻は口では言い争いをしながらも、目は興味深くモニカの作業を追っていたが、次第にその表情はこわばり言葉も少なくなっていった。

 そんな両親の態度に戸惑う息子達。

 そしてセラフィナ元第四王女は並べられた板を見て感心するように呟いた。


「これが貴方の言っていた例のもの(・・・・)なのね?」

「ええ。・・・さて、坊ちゃま方、これが何か分かりますか?」


 並べられた板には扇のような半円形に放射線状に線が引かれ、さらにはグネグネとした絵まで描かれている。

 所々に細かな書き込みもされているが、それは今まで二人が見たことも無い記号だった。

 少年達は意味が分からずに顔を見合わせた。

 アレリャーノ宰相は絞り出すように唸った。


「これは・・・聖国の王都近くの海岸線。つまりこれは近海の島の地図だな? 一体どうやってこれを・・・」


 海岸線の地図?

 確かにそう言われてみればそうにも見えるが、それが一体何だと言うのだろうか。

 やはりピンと来ていない様子の息子達。

 無理もない。まだ子供の彼らは知らないが、海岸線の地図は重要軍事機密だ。アレリャーノ宰相が難しい顔をするのも当然であった。


(馬鹿な・・・これほどの地図は王城にだってありはしないぞ)


「違うわ。これは地図なんて甘いものじゃない」


 真剣な表情で並べられた板を見つめる宰相夫人カサンドラ。その整った顔からは表情が抜け落ちて真っ青になっていた。

 そんな彼女の様子に、モニカは、「やはり貴方は気が付きましたか」とでも言いたげな笑みを浮かべた。


「これは地形図よ! この記号は数字を意味しているのね? これは山の標高、これは港からの距離、この線はおそらく船の定期航路なんだわ! 教えなさい! これはどうやって描かれたものなの?!」


 信じられない物を見る目で自分の妻を見つめるアレリャーノ宰相。

 しかし、カサンドラの目にはすでに夫の姿は映っていない。

 この状況にモニカのニヤニヤ笑いは止まることを知らなかった。

次回「モニカ説明会」

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