ヒロインだがヒロインに非ず
テンプレテンプレ言うてますが、揶揄とかじゃないです。素直にテンプレ好きですし、テンプレの基となった数々の作品に敬意を表します。
ヒロイン転生した。
……しかしヒロインに非ず。
私が転生したのは、前世で読んでいた『悪役令嬢転生モノ』の小説の世界の『ヒロイン(=悪役)』だったのだ。
私は愛想はいいが、頭はそんなによろしくない。成績で言うと中の下か下の上位。頭がよろしくない自覚と共に、その保身から人の話を聞くのが上手くなった。
本当はさして聞いてなくても、大袈裟位のリアクションを自然に行い、耳心地の良い言葉を吐いて肯定してあげるだけで大抵の人は心を開いてくれる。
頭のいい人はプライドが邪魔してなかなかできないらしいが、結局それはボッチになっても平気な自信があるからじゃないのかな……と弱い私は思う。
(……確かにビッチヒロインとしてはうってつけだ)
などと納得している場合ではない。
これは由々しき事態である。
既に私は気の弱さとボッチになるの怖さから、物語の通りのフラグを立ててしまっていた。このままじゃ逆断罪必至。
しかし、当然のことながら悪役令嬢にあたる人の事を『悪役令嬢』だなんて目で見たことはないし、嫌がらせの捏造もしてなどいない。……私はあまり回転の得意でない頭をフル回転させ考えた。
考えるだけだと、どんどん忘れていくので紙に書き記す。前世と共に思い出した日本語で。これならば皆わからないだろう……私にしては冴えている。
ごく簡単なあらすじ、今の状況、そして最も重要なのが『悪役令嬢』の事だ。
『転生ヒロインであり主役』……シャロン・ミューア男爵令嬢である私は平民育ち。男爵令嬢の落とし胤だということが判明し引き取られた。というテンプレ設定。
『転生悪役令嬢であり、主役』の筈のジャネット・ステイプルトン侯爵令嬢。彼女は公爵家の優秀な令息であるレスリー・エイヴリング様の婚約者だが、やはりテンプレ的理由から仲が上手くいっていない。
物語と現実は、今までの過程で概ねリンクしている。ただし、物語が進んでつまびらかになる事実(私がジャネット様に虐められた等の偽証を行うとか)以外の話だが。
確かに私はレスリー様から『立場に重責を感じている』『完璧な彼女が重荷』『令嬢然とした彼女の気持ちが解らない』という弱音を聞いている。
……勿論耳障りのいい言葉で返した。
(でも私悪くないよねぇ?!)
だって仕方ないじゃないか!
前世を思い出した今ならともかく、誰も頼れないんだもの!!平民育ちだから右も左もわからないっていうのに!
確かにレスリー様や他イケメン達にいい顔をしたかもしれないが、女の子達は遠巻きに見るだけで相手にしてくれなかったんだもの!聞こえよがしに『雑種』だの『どこの馬の骨ともしれないあばずれ』とか、嘲る言葉は言うくせにさ!
ボッチは嫌だ。優しくしてくれる人にいい顔するのは仕方ないし、作法がなってないのも仕方ないのだ。
私の作法については見かねたジャネット様がなんか言ってくる筈だが……まだそのイベントは起きていない。
(でも彼女が前世もち……なのはいいとしてもこの世界が『小説の世界』と知ってたら?!)
『小説』ではここは『乙女ゲームの世界』の筈……ちょっと待って、私の弱い頭にはきついぞコレは。
小説通りなら、まだジャネット様は前世の記憶を取り戻していない……そのイベントが『私をやんわり注意したら何故か皆に白い目で見られる』なのだから。
私は色々考えた。滅茶苦茶考えた。
時に頭を抱え、時に部屋をうろつき、時に壁に寄り掛かって三点倒立を行いながら。
わかったのは『逆立ちしてもいいアイデアは浮かばない』事位。
溜め息を吐くついでに深呼吸をしてみる。
……私自身が目指したいエンディングってなんだろう?
そんな思いが頭をもたげた。
結果、私はとりあえずなるべく誰とも接触しないようにし、ジャネット様を観察してみることにした。
彼女の人となりは小説と同じ。
努力家で、他人に厳しく、それ以上に自分に厳しい女性。
決して涙を見せず、あらゆる責を『自分が至らないから』と密かに責め、その痛みを努力に変える……まさに正統派『悪役令嬢ヒロイン』。
そして彼女の周りの恋愛フラグも小説の通りだ。
……コレはイケる!!
私の求めるエンディング……それは逆断罪をさけつつ、ジャネット様には『ざまぁ』を行ってもらい、真実の愛に気付いて頂く。
だってほら、悪役令嬢モノの魅力ってなんといっても『ざまぁ』にあると思うので!
正直レスリー様にはよくしてもらっているが、罪悪感はそんなない。
大体にしてこんな頑張り屋さんで美人の婚約者がいて、『完璧な彼女が重荷』とかないだろう。誰の為に頑張ってると思ってるんだ!
何年付き合ってんだ!!
(そんなに重荷なら引きずり降ろして差し上げよう。むしろ皆万々歳だ)
しかし私が断罪されるのは困る。
そこが考えものだ。
(それになぁ……ジャネット様はまだレスリー様を信じてるんだよなぁ……)
彼女が傷付くのは可哀想だ。それにまだ私もレスリー様からあからさまに口説かれたとかではない。ジャネット様との推しカプの相手は別にいるが、それは私の勝手な都合だ。
どう転んでもジャネット様は幸せにしてあげたい。
……何様だ私は、と思いつつ。
私自身は逆断罪が防げて、なんか普通に暮らせればいい。友達が欲しいくらいで。
平民時代それなりに苦労したし、前世を思い出しても自分がイニシアチブをとれる状況なんて今までなかった。
今が異常なのだが、それを楽しみたい。
ただ、今だけ。
精神的にも頭脳的にもずっとは無理。
私はレスリー様にもチャンスを与えてあげる事にした。
彼が真実の愛に目覚め、自分の行いを反省し、正そうと努力する気なら小説の『ざまぁ』は回避できる筈だ。
しかしレスリー様は私を口説きだした。
避けてたのが良くなかったらしいが、んなこと関係ない。
一応最終確認をする。彼にとっての死亡フラグが立つか立たないか……まぁ、死にはしないから大丈夫だ。
「そんな、やめてください!レスリー様にはジャネット様がいるでしょう」
「あの女とは婚約を解消する。……ここ数日で解ったんだ、愛しているのは君だと」
(…………『あの女』?『ここ数日』?)
奴の台詞にこめかみがひきつるのを覚えた。
……私の腹は決まった。
レスリー、『ざまぁ』決定。
閲覧ありがとうございます。
3~5話で終わらしたい。