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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

嘘つきの屋敷

作者: 白蝶 鈴

〈いつもの朝〉

 私には三年ほど仕え続けている主がいる。最初に伝えておこう。主は盲目で《人狼》だ。しかも、本人は無自覚。本当は人の肉を食べねば暴走するが、毎日の『薬』(血液)で抑えている。

 今私は薬を持って主の部屋に向かっている。コンコンとノックをし、失礼しますと声をかける。

主「ん…おはよう。ギムが来るってことは、薬の時間かな…?ずいぶん寝ちゃったなぁ…ふぁあぁ…」

ギム「おはようございます。レイ様。体調はいかがでしょうか?」

ああ、なんと美しい…黒い耳、しっぽ…尖った牙…おっと、見とれてしまった。視線を隠し、薬の入ったグラスをそっと渡す。

レ「ありがと。ねえ、ギム。最近何かつけてるの?とってもいい匂いする。」

主は私の首もとに顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。

ギ「いいえ。何もつけておりませんよ?さあ、薬を飲んでください。」

とぼけた口調で何も知らないふりをしながら、主から離れて本棚に近づき

ギ「今日は何を読みましょうか?」

レ「んー、今日はバラ園に行きたい!前から敷地にあるって聞いてて、行きたかったの!本は冒険ものがいいな。あと、マカロンが食べたい!」

主は子どものように顔を輝かせ、望みを口にする。愛らしい笑顔だ…全く…逆らえる気がしないな。

ギ「あなたが望むままに」


〈薔薇に囲まれ〉

 主の手を引き、バラ園に着く。赤の薔薇が主に咲いている、真ん中に小さなテーブルと椅子がある。

ここは私が個人的に管理している。どこで主が知ったのか…。

ギ「さあ、着きました。あの、失礼を承知で申しますが…」

目が見えないのになぜ…と私が言い終わる前に主は答えた

レ「いい香りするだろうし、花を触ったことが無かったから。あと、ギムとお散歩したかったの!」

ギ「左様でございますか。ならばお手を。花に触れたい、ですよね?」

レ「ん…」

小さな手を薔薇の花弁にそっと触れさせれば、主はパァッと花咲くように笑う。赤い花がよく似合う…鋏をとり出し、近くに咲いている薔薇を切り取る。棘を切り、主の髪に差す

 すると、びっくりしたのか、主が眼を開いたのだ。血の赤色の瞳…

レ「なに…?ばら?髪に…差したの…?」

戸惑う主を落ち着かせるため、夢見心地の自分を起こし、興奮を抑え

ギ「ええ、レイ様。お似合いになると思いまして。お気に召されませんでしたか?」

レ「ううん。すごくうれしい!怪我しないように、棘を切ってくれてるし、何より…ギムがくれたからね。お気に召さないわけがないよ‼」

跳ぶようにくるりと回り、自慢気な笑顔をしている。そう、主は歳は成人こそしているが、子どものような無邪気さや無垢さがある。そこも愛らしい…

レ「これは後でお部屋に飾ろ?あ、ねえねぇ、今日もお話読んで?座れるとこはある?」

ギ「はい。そうしましょうか。椅子があるので、そこで話しましょう。あと、朝ごはんも食べましょう。」

レ「うん!」

嗚呼、主が私の側にいるなら…向けられる感情が食欲だって…



*


 こいつがいる生活に嵌まってる。自分でそう思う。なんでかな…所詮『人間』、世話係。まあ、長い間いるからかな。いつもなら三ヶ月ぐらいで音をあげるのに…。

こいつ来た当初は鉄と血の匂いがこびりついてたなぁ…最近の匂いは、新しい薔薇でも育て始めたのだろう。

そんなことを考えながら、朝ごはんを食べる。サンドイッチ。僕の好物設定の。

よくもまあ、朝から大変な。こいつ、わざわざ自分で作ってるし、美味しくない訳ではないし、と玉子サンドを頬張る。

ギ「どうですか?味付けを少々の変えたのですが、お口にあいましたでしょうか?」

レ「美味しい‼ギムが作ったもの、なんでも美味しいね」

『なんでも』ではない。だが、ギムが作った『肉料理』はどれも美味しい。

にしても、なんだろう。やはりこいつからいい香りが…。身体が熱くなるような…もしかして、僕発情期とか…?

無意識に顔をちかよせていたらしい、肩を押されちょっと離れる気配がする

ギ「っ…どう、されましたか?」

レ「ん…やっぱり、いい匂いがして…」

動物の本で発情期のことは知ってるし、本能的に何をすればいいかわかる。だいたい、一度世話係の男の体をベタベタ触ったことあるし。

そこでふと思いつく。子をなせば、身体的関係をもてばこいつは僕から逃げないのでは…?

ふむ、まあやってみるか。こいつとの生活に嵌まってるなら、相手も嵌めてしまえばいい…。幸い、こいつは僕に好意があるらしいしな。

レ「ねぇ…ギム、身体がぞくぞくしてきて…その、だから…」

甘えた声を出し、太ももをスルリと撫でる。娼婦の真似事をしてみせる。

気のせいかニタリとギムが笑ったような気がした。

ギ「そろそろお部屋に戻りましょうか。身体が冷えたのでしょう。暖めて差し上げます。」


*(間の出来事はご想像におまかせします)



〈後戻りなど…〉

 自分の下でトロンと目を少し開き、息を整えている主を見る。

はぁ、ここまでくるの長かったなぁ。薬もお香も効かないかと、研究者の奴らも心配していたぞ。

そう、ここは研究所。人狼の生態やらなんやらを調べているらしい。警戒心を誘わないよう、主もとい『研究対象』には屋敷と伝えている。研究対象の世話係は罪人だ。そりゃもちろん、危ないし、世界的に必要ないやつを房から連れ出すのさ。刑期を短くしたくないかってね。まあ、私が続けるのは別にそのためじゃないが。

最近やっていたのは、人狼が発情したらどうするか。

役得だったな。私が続けるのは、主に一目惚れして、それからずっと愛しているからに他ならない。そういえば、初恋も人狼だった…


5年前、私は『普通』だった…

 ああ、ツマラナイ。なに一つ変わらない日々。まるで色のない、味のない。

会社からの帰り、刺激が欲しくて路地裏にフラフラと入った。奥からなにやら、グシャグシャと音が聞こえ、吸い込まれるように奥へと足を進める。

何か…濃い鼻につく臭いが…血…?

息を殺し、足早になる。助けなきゃとか、正義感ではなく…操られるように。

そこで、目に入ったもの…それが私を支配した。赤、黒、赤…あまりにも艶やかな…鮮やかな…

それは、人の形をした『黒い獣』が人を食している姿だった。

音一つたてず、私はその場を後にした。


 その日から私は壊れていった。まあ、その前から大分壊れていたのかもしれないが。私はなんとかその獣に近づきたくて、何百もの命と血液で手を汚し、それらの肉を自身の血肉にした。

途中から腕を見越したどこぞのマフィアに雇われた。世の中には私のようなおかしな趣味を持っているやつもいるらしい。まあ、食べる方だが。

自分が食べれるように料理していたためか、料理の方もまかされた。収入もあるし、動きやすいため仕えていた。だから、思い入れこそないが、ドンには感謝していた。

だが、政府も目をつけだし、抗争に負けて力が弱くなったところで一気に攻めいってきた。元々あまり大きくなかったうちはほとんどのやつは捕まり、壊滅した。

 その後のことは、特に覚えていない。たしか終身刑だったかな。正直、なぜ死刑じゃなかったのか理解できなかった。素直に罪を認め、仲間の情報なんかをべらべら喋ったため、何らかの理由で従わざるを得ない状態だと思われでもしたのだろうか。

刑務所で暮らしていたある日、研究者のようなやつがやってきた。夜にそっと呼び出されてやつらは、

研「刑期を短くしたくないか?ある研究に使う生物の世話をしてもらいたいんだが…」

いうまでもなく、今の研究所のやつらだ。外に出られたらまた、会えるかもしれないし…とかなんとか考えて、あっさり了承した。


 半生を振り返ってみたが、うむ…やはり私は、人でなしだな。人として生きていられず、獣の姿にすがり、今私の腕の中にいる自分よりも一回り小さな獣の主を閉じ込めてしまいたいと願っている。私だけにすがり、何処にも行かなくなればいい…私以外のやつがいないところで…

そんなことを考えていると、突然主に抱きしめられた。

レ「ねえギム、籠の中でも、道具だっていいから…」

主は涙をこぼしながら、震える手で私を強くだきしめる

レ「僕から…離れて行かないで…」

ああ、全て分かっていたのか。わかった上で隠していたのか…賢い方だ。

私はそっと主の背中に手を回し、

ギ「離れるはずありません。私はいつも、貴方のそばに。」

これでいい。これで私のもの。

ギ「レイ様、貴方さえよろしければ、今晩ここから逃げましょう。ね?」

レ「君とならどこへでも。」



*


~一昨日、□県△△市○○研究所から原因不明の爆発がありました。死者は現在分かっているかぎりで23名。行方不明者は16名。また~

ギムがラジオの電源をきる。

ギ「物騒ですね。全く。さあ、夕食にしましょう。」

ここは森の奥の小さな小屋。昨日から僕らが住む家。たぶん、結構前にギムが住んでいた家。ギムは手早く今日の夕食をテーブルに置いていく。炭と血とギムの匂い。

今日は『誰』の肉かな。メスの匂いだ。お腹空いちゃって、お昼に適当なやつつまんだけど、ばれてないかな。というか、家から出たのばれてないかな。

ギ「レイ様?いかがされましたか?」

レ「ううん。なんでも。いただきます!」


ああもっと、僕に溺れてしまえ。

嗚呼ずっと、私のものだ。


ギ「レイ様、愛しております。」

レ「ギム、大好きだよ。」



これは僕の…私の…

『愛』だ。

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