~幼女ですよね?~
「いや、君に用があったわけじゃないから」
狭い家の中に立つ幼女は大きな青い眼を高次に向けていた。高次に向けられた二重の大きな目は高次をジッと見つめている
「ユーナに用があるんだろう!?」
「幼女に興味はありません」
金髪ポニーテールの幼女は食いつき気味に尋ねてくるが正直言って鬱陶しい、この家を離れて本当の魔王を殺しに行こうとすると幼女の自己紹介がいきなり始まる。
「私はユーナ・レーヴェント六歳!好きなものはオレンジジュース!」
聞いてもいないのに大きな声で自己紹介してくる。小さい女の子の高い声はとても耳障りだ。
「お前は?」
「高田高次、多分三十歳ぐらい?好きなものは睡眠薬」
幼女の質問に高田高次の生前のプロフィールから読んで得た情報から自己紹介をする。
「なるほど、コウジか……お前強いな!!ユーナの眷属にならないか!?」
「これから魔王をぶち殺しに行くんだ、他の子を誘うんだね」
「えっ……ユーナを殺すのか?」
嘘でしょ、とでもいうような目で見てくるその目には怯えの色が見える、そんな怯える幼女を高次は宥める。
「君じゃなくて魔王を殺しに行くの、分かるかな? ま・お・う! 悪い奴だよ、そいつを倒しに行くの」
――ジワァ~。
高次が分かりやすく幼女に魔王について説明すると幼女は泣き出した。
「ユーナ、悪い事してないもんっ!」
「うん知ってる、君は魔王じゃない」
泣き出す幼女を宥めようとするが幼女は泣き止まない。
(これだから人間の子供は扱いが面倒だ……ん?)
目の前で泣きじゃくるクソガキに不快感をその顔に映した高次だったが足元の違和感に気づく。
「地震か……」
動かずに立っていれば感じ取れる程度のものだったが次第に小さな揺れは大きくなっていく。
――ズズズズズ。
「まったく……」
これだから異界には来たくなかったんだ、早く帰ろう……
そう思いながら地震が治まるのを待つが揺れは治まらずにどんどん大きくなっていく。
ズズズズズズズズズズッ!!!
「うわっ」
ついに地震は立っていられないほど大きくなり高次は空に避難した。
「なるほど……あの幼女本当に魔王か」
上空から幼女を見て確信する。
幼女の周りだけなぜか空間が歪んでいたのである。
「取りあえず黙らせよう」
面倒な事は嫌なので一発で仕留めることにした。
ゴンッ!
よし、仕留めた……後はどうするか……
「うわぁぁああああああぁああぁああああああ!!!」
仕留めたと思ったら仕留め損ねていたようだ。
「何なんだ、あの幼女……」
幼女の頭蓋骨の骨密度の高さに驚愕する。
「う~ん、どうしたものか」
再び空に避難し幼女を黙らせる方法を模索する。
「オレンジジュース……」
先程の自己紹介で幼女がすきだと言っていたオレンジジュースを思い出す。
「これだな」
パチンと指を鳴らし自分よりも遥か上空を見上げる。
するとぽつ、ぽつと滴が落ちてきた。
ザァ――。
滴は雨になり丘の上に降り注いだ。
「全く……」
嫌な顔しながら降り注ぐオレンジジュースを神の力で弾く。
「これで泣き止むか……」
早く泣き止め、とオレンジ色の雨の中泣いている幼女に目を向けた。
「うっうっうぅぅ……」
幼女は降り注ぐオレンジ色の雨に打たれながら空を見あげる。
上に向けた顔を伝ってオレンジ色の雨が幼女の口の中に流れ込む。
「……オレンジジュースっ!」
空から降るオレンジ色の雨が自分の好物のオレンジジュースと分かるや否や直ぐに泣き止み一滴も溢すまいと小さな犬歯のある口を上に開けた。
「オレンジジュースの雨だー!!」
はしゃぎながらオレンジジュースを口の中に貯めながら走り回る様は高次にはバカな犬がはしゃいでいる様に見えていた。
「やれやれ……」
ため息をつきこれからの事を考え唸る神様・高田高次であった。