~魔王は居ないんですか!?~
――「ここが異世界か……」
高田高次になった神は中世ヨーロッパ風の裏道に降り立つ。裏道に人影は無く、薄暗くて不衛生だった。
ドカッ――
「痛ッ」
突然、腰辺りに衝撃が走った。
タタタッっと小さな影が裏道の奥へ走っていった。スリだったのかもしれないが高田高次は何も所持していなかったようで何も盗られてはいなかった。
「あんなに小さい子供がスリをしているのか……文化レベルが低いな……」
上級神の作った世界の内情の一片を知りため息をつく
「取りあえずこのままの服はまずいな」
今の服装は上下黒のスウェット、この中世ヨーロッパ風の街並みには合わない。
パチンッと指を鳴らすと上下黒のスウェットは白いシャツにズボン、茶色いブーツとなった。
「まあ、これで目立たないよね」
服装の確認を終え裏道から表通りへと出る、そこは中世ヨーロッパ風の家が軒並み建っていて――
――道歩く人は全員現代風の服装だった……
「えっ?」
驚きの声に反応して通行人の目線が自分に向けられる。その目は珍しいものを見るような目だった。
「何で服装は現代風なんだ……」
高次の目の前にいる通行人の服装はスキニーパンツやジーンズ、シャツ、パーカーなど、どう見ても日本の都心部の風景が広がっていた。よく見ると手にスマートフォンを持っている若者やイヤホンを耳に着け音楽を聴いている女性など中世ヨーロッパ風の景色を取り除くと現代の日本にしか見えない。
「設定ちゃんと練ったのかな?」
この世界は上級神が遊びで作った世界だが遊び心満載だ、この世界観で魔王が存在するなんて思えない。通行人を見ても魔法の杖や剣を持った人は居ない、平和そのものだ。
「まあいいか、早く魔王ブッ飛ばして帰ろう」
目を瞑り意識を集中させ付近の気配を読み取る。神である高次は簡単に人の力を見抜くことができる、この力で魔王を探そうとするがやはりこの町中にいる訳もなかった。
(まあ、いるわけないか……)
先の力を使った時に通行人の力も測ったが至って普通の人だった。
「全く、面倒だな~」
神である私がこんな面倒な事をするのは嫌だが致し方が無い、通行人に魔王の居場所を聞くことにした。
「すまない、魔王は何処にいるのか分かるか?」
「魔王?この町の端の小さい家に住んでるよ」
男は”そこにいるじゃん”とでもいう風に町の端の丘を指さした。
「もう一つ聞こう……魔王は何処にいる?」
きっとマオーさんと間違えたのだろう、魔王がこんな町の近くの小さい家にいる訳が無い。
「だからあそこだって」
男はやはり町の端の丘の上を指さした。
「……ありがとう……」
上級神はどんな考えでこの世界を作ったのか皆目見当もつかなかった。
「ふうぅぅぅぅっ」
力を体の芯に集中させ力を凝縮させる
すると高次の身体は浮き上がり始めた。
「おおっ飛んでるっ!」
「やばい!!やばい!!」
通行人は人が浮かぶのがそんなに珍しいか野次馬しに集まるが高次は野次馬の目を気にせず丘の上の小さな家に飛翔した――
――「此処に魔王が住んでいるのか……?」
高次の着地した丘の上には屋根から曲がった煙突の生えた木造の古小屋と言える小さな家があった。
曲がった煙突からは煙が出ている。
普通は暗い世界観の中にそびえ立つ大きな城に魔王が住んでいるのだがこの世界の魔王は小さな家でこじんまりと生きているのかもしれない――
「こんな小さな小屋で隠居生活でもしているのかもしれないけど殺させてもらいます」
俺の手に掛かれば魔王なんてワンパン余裕だ、ワンパンチで終わらせて天界に帰らせてもらいます。
スゥー―。
鼻から息を吸い空気を肺に満たす。
「魔王!!出てこい!!ワンパンで楽に殺してやる!!」
小さな扉の前で物騒な言葉を使い魔王を挑発する。
「……」
扉が開く気配はない……
「もういいや」
高次は力の抜けた拳を扉にノックするように当てる。
――ドゴッ。
その瞬間扉は粉砕する、粉々になって消えた扉の破片は小さな家の中に散乱した。
「魔王出てこい!居るのは分かってる!」
家に立ち入り見渡すが魔王どころか人の影も見えない、家の中には大きな焦げの付いた窯鍋が一つだけ壁の近くに置いてある、中央には脚の短い丸いローテーブルと厚手の座布団がありローテーブルの上にはオレンジジュースがコップに入れられ放置されていて奥の暖炉では火が焚かれている。
「本当に此処に魔王が住んでいるのか?」
ワンルームほどのこの部屋にはその他に塗り絵、カードゲーム、ビー玉などのおもちゃが見られる。
――ガタッ。
家を間違えた、そう思い家を後にしようとすると窯鍋がガタガタッと動いた。
ひょこっと小さな頭が窯鍋から出てきた。
「ッ!」
が、出てきたと思ったら直ぐにイソギンチャクの様に引っ込んだ。
「……魔王ですか?」
「……いかにもユーナが魔王だ」
窯鍋の中から声だけが聞こえてくるがその声は幼い女の子の声だった。
「家壊しちゃってごめんね」
そう言い高次は指を鳴らし扉を元に戻した。
完全に家を間違えたみたいだ申し訳ない事をした。
「ユーナに用があって来たのか?」
直した扉を引き、外に出ようとした時背後から声を掛けられる。振り返ると腰まで伸ばした長い金髪をポニーテールに結んだ幼女が立っていた。