~こんなはずじゃなかった~
なんか書きたくなりました!
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――「コウちゃ~んご飯此処に置いとくわよ~」
「……」
閉じられたドアの向こうに食事を置く母の声が暗い部屋に届く、部屋のパソコンのスイッチは入っておらず家具も机と椅子、本棚のみで殺伐としている。いや、殺伐としているというより片付いているが正しい。いつもはコーラの容器や本が床に散乱しているが今日の為に部屋を片付けた。
「もうそろそろか……」
白い壁紙の壁に掛けられている何の特徴も無い丸形の時計に目をやる。時計は四時三十分を指している。
「ははっやっと死ねる……」
俺、島田高次は高校を卒業後、大学に進学もせずバイトもせず家に引きこもってきた、引きこもりの理由は簡単、大学受験の失敗だ、そこからやる気というものが失せた。
それ以降二十年人との関わりを絶ってきた。だがそんな長い時間人との関わりを絶ってしまった為か心を病んでしまい何もできなくなった。
「もう四十分か……」
時計を確認すると時計の長針が四十分を指していた。
外からは下校途中の中学生の楽しそうな会話が聞こえてくる。
「まあまあ、楽しかった……かな」
島田高次は机の上の睡眠薬に手を伸ばし掴み取る。睡眠薬は小さな瓶の中に12錠入っていた。瓶の蓋を開け三錠手のひらに出すマーブルチョコの様な白い錠剤は艶を出して島田高次の手のひらで転がっている。
島田高次は錠剤を口に含みコップに入れた水で流し込み飲み込む、その行為を四回繰り返し瓶の中に十二錠あった睡眠薬は無くなっていた。
――でさ~
――そうなの~?
外から聞こえてくる楽しそうな声を背に島田高次はドアに向かう。ドアノブには縄が輪を作るように結ばれてドアに掛かっていた。
島田高次は縄で作られた輪に頭を通し首にかける。このまま前に倒れて首を括るのもいいがそれは苦しいだろうと思い島田高次は睡眠薬を飲んで首を吊ることにしたのだ。
「……」
いつも感じる気だるげな感じではない力の抜ける感覚が伝わってきて体の芯が重くなってくる。
「……」
島田高次の意識は四時四十四分四十四秒にこの世界から旅立った――
――「おめでと~う!!特等は異世界転生です!!」
「……」
姿の見えないもやもやした何かが島田高次を祝福する。
”もや”はノーリアクションの島田高次を無視して話し続ける。
「君は運がいいね!丁度ピッタシ四時四十四分四十四秒に死ぬなんて!更に!!異世界転生権まで手に入れられるなんて!!」
「……」
「もしも~し?あれ?嬉しくない?」
「……」
島田高次は答えない
「転生だよ?冒険だよ?チートだよ?」
「……」
島田高次からの返答はない
「異世界転生したくないとか?」
”もや”は島田高次に尋ねると初めて島田高次の口が開く
「静かに寝ているような感覚……意識が無い寝ている時の感覚が死んだら永遠に続くと思っていたけど違うんですか……」
抑揚のない島田高次の声がもやに尋ねた。
「えっと……死はそんなもんだけどいずれは輪廻転生するよ」
死について簡単に説明する。島田高次はその質問に納得したようで直ぐに「では、転生権は破棄します……」と一言
「えっえっえっ?」
予想外の返しに動揺する。
「いやっでも、異世界転生だよ?冒険だよ?」
「このまま死なせてください……」
もう死んでるよ?
必死に異世界をアピールするが島田高次の意志は揺るがない。
(まじかよ……転生権破棄なんて考えられん、転生してもらわないと上からうるさく言われちゃうよ)
島田高次の目の前で漂っているもやは神だが低い位に位置する下級神だ。下級神は上の中級神、上級神に雑用を任せられることが多い。
今回任された仕事は上級神が遊びで作った魔王の存在する世界にプレイヤーを送り込むだけの簡単な仕事……だったはずだが目の前の島田高次にはどうやら異世界に転生する気はないようだ。
暫し思考……
「ステータス最強!ハーレム三昧!酒池肉林!!どう?」
「いえ、いいです……」
解決策無し……ホントにもう、いい加減にしろ。
「わかったわかった。じゃあ中間天国に送ってあげるよ」
中間天国とはたいして悪い行いを行ったわけでもない者が送られる所だ。
”もや”はそう言い、手を島田高次の頭に乗せ島田高次の肉体と意識を引きはがす。島田高次の身体から白いもやが引っ張り出された。
「じゃあね」
島田高次の意識体はその場から遥か上空にある光に吸い込まれていった――
――「さてと……」
島田高次の意識を中間天国へ送った後”もや”は抜け殻になった島田高次の身体に入る。入るというより乗っ取った。
「さっさと魔王殺して今日の仕事を終わらせよう」
仕事を押し付けてきた上級神曰く「私が作ったこの世界では魔王が世界を支配していてそこに異世界転生した勇者が現れ魔王を倒すという物語」らしい、つまり下級神である俺に掛かれば魔王を倒すなんて簡単な事だ。速攻クリアして終わらせてやる。
島田高次の肉体に入った神は上級神の作った世界へとお散歩感覚で旅立った。