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勇者が魔王を倒す物語  作者: カブヤン
第一章 つどうゆうしゃたち
2/2

第2話 クエストNo.0 始まりの村から出ろ その1

 旅立ち、それは始まりの一歩。


 まぁ実際には生まれ故郷から伝説の剣がある村まで旅してたわけですが。そこは割愛で。


 兎にも角にもここが始まり。僕は今、伝説の剣を腰に下げ、この村より出ようとしている。決意を胸に。


 やる気も十分。これより勇者の旅が始まるのです。とりあえず目的地は王都。そこには世界中より猛者が集まる酒場があります。


 そこで仲間を集う。さすがに一人で旅に出るなど自殺行為なので。仲間はどんな方でもいいですが、希望としては女性がいいです。結婚したいんです。友達のレックは結婚してからと言うもの、毎日毎日がバラ色のようで……世の中はクソです。


 ということで今から村を出ようと思います。ところで――


「フハハハハ! 我は魔王四天王が一人! 闇の巨竜! さぁ勇者よかかってこい!」


 山のようなドラゴンが出待ちしてるんですけど。四天王とか言ってるんですけど。


 えっもしかしてこれが最初の敵? 最初はなんかぶよぶよした可愛らしいやつじゃないんですか?


「フハハハ! お前が勇者か!?」


「あ、いえ、違います」


「ならばよし! それじゃお前か!?」


「違います」


「うむ! ならば通れ!」


 村を出る人出る人に勇者かどうか聞いて回っている。巨大なドラゴンが首をひょこひょこ動かして聞いて回っている。


 そしてことごとくを通している。魔物があんなに聞き分けがいいとは知らなかった。


「女神様、あのドラゴンに勝てますかね僕」


『無理ね。レベル30はないと瞬殺よ』


「なるほど」


 ちなみに今のレベルは1だ。最初からレベルが5ぐらいある物語ではないのだ。まぁレベルは女神様が定期的に教えてくれる以外に知る術がないので、あってるかどうかわからないけど。


「フーハハハハ!」


 戦えば瞬殺だ。下手したら鼻息で死ぬかもしれない。仕方がない。騙すみたいで悪いが死ぬよりはいいです。


 僕は剣をできる限りマントで隠しながら村の入口を出ました。下を向きながら、できるだけ存在感を消して。


 ひっそりと、足音を殺しながらドラゴンの傍を通る。でかい、本気ででかい。山のようだと言ったけど本当に山ぐらいある。背中に家を建てても気づかれなさそうだなと……


「待てィ! 貴様勇者か!?」


 やはり隠れたまま通るのは無理でした。ドラゴンは顔をこちらに向けて大きな声で勇者か否かを聞いてきました。


 伝説の剣を抜いた僕、勇者カイムに対してその質問。答えは決まっています。


「違う!」


 この威風堂々さ。まさに覇者のよう。


「何!? なら通れ!」


 ふ、所詮爬虫類よ。どんなに大きくなろうとも、小さな脳みそでは人間の知恵にはかなわない。


 ということでどうなるかと思ったが、僕はこれで安全にこの村を離れることができました。女神様、どうでしょうか僕のこの危機回避。褒めてもいいのですよ。


『しょうがないけど情けないわ……』


 さて、では行くとしましょう。新たな仲間を求めて。できれば巨乳の女性がいいです。できれば。


「待てぇ! 逃げる気か!」


 その時、僕の背に声が叩き付けられた。女の声、大きな声。どこかで聴いたことがあるような声。


 僕は振り返りました。何故かドラゴンもその声の方を見ました。


「逃がさん……逃がさんぞ……」


 剣を抜いてゆらゆらと迫ってくる女。彼女は確か、不幸にも伝説の剣を抜いたのに勇者になれなかった巨乳の女騎士。


 完全に殺気で眼が血走っている。僕が何かしただろうか。心当たりがなくてもそんな眼を向けられては、なんていうかこう、困る。


「私は騎士団を辞めた! 貴様を殺すために! 騎士道もくそも関係あるかぶちころしてやるぞ勇者カイムゥ!」


「何だと!?」


 い、いかん! ドラゴンが反応した!


「おい娘! こやつが勇者だと! 本当かそれは!」


「そうだ! あれは私から伝説の剣を奪い勇者になったクソ野郎だ! 大衆の面々の前で……おかげで私は笑いものだ! 騎士団の仲間も何か微妙な顔で私をみるし! この屈辱ゥ!」


「何ぃ! それ酷いだろう勇者カイムとやら!」


「違う! 元々僕が勇者だ! その女騎士さんはたまたま抜けちゃっただけだ! 僕は悪くない!」


「言い訳するな! っていうかやっぱりお前勇者なのか!」


「し、しまった!」


『なんだこれ』


 女神様の呆れる声が聞こえる。ドラゴンがものすごい怖い顔でこちらを見ている。


 終わった。終わってしまった。旅が終わってしまった。


「うおおおお! 勇者カイム覚悟ぉぉぉ!」


 そこらの魔物よりも怖い顔をしてどたどたと女騎士さんが走ってくる。どうやら本気で僕を殺したいらしいです。


 駆けてくる女騎士さん。彼女は大きなドラゴンの足元を通り、一直線にこちらに向かってきました。


「うおおおお覚悟ぉぉぉぉ!」


「グアア! 魔王様のために勇者死ねぇ!」


 女性がしてはいけない顔で迫ってくる女騎士さん。と同時に火を吐こうと口をこちらに向けるドラゴン。


 終わった。いろいろ終わった。僕はこの時、故郷に残してきた父と母を思い出しました。旅に出る時に言われた言葉を思い出しました。


 ――どーせすぐ帰ってくるべ!


 すみません父さん、母さん。すぐには帰れません。っていうかもう二度と帰れません。


 僕の最期の記憶は、熱ッという言葉と、なんで私までギャアアア!という女騎士さんの断末魔でした。




 ――ハッ!?




『おお勇者よ。死んでしまうとは以下略』


「こ、ここは!? め、女神様!?」


『ここは教会です。あなたは生き返りました。女神パワーです』


「きょ、教会だと!?」


 キョロキョロと見回す僕。赤い絨毯。謎の十字架。眼が点になって固まる神父。


 何かが手にあたる。棺桶だ。自分は棺桶に入ってたのか。


『勇者は死にません。所持金の半分を失って生き返ります。所持金が1ララしかない場合は0になります』


「所持金……だと……!?」


 確か僕の持ち合わせは30ララだ。すぐさま懐の財布を取り出しコインの数を数える。確かに、確かに15ララになってる。


 なんてことだ……なんてことだ……僕のお金が……


『いやいやいやお金よりも生き返ったことをね。喜ぼうよ』


「……それもそうですね。神父様が現実逃避してなんか踊ってますけど、なんなんですかねあれ」


『棺桶ばーんって開けて出てきたからね。そりゃびっくりするわよ。まぁ神父何かほっといて……んんっ! 勇者カイムよ。町の外では未だにドラゴンがいます。あなたではあれに勝つことは難しい』


「ど、どうすればいいのですか女神様」


『レベルを上げるのです。ひたすらに鍛えるのです。あのドラゴンは一人で戦うのならばレベル30は必要でしょう』


「しかし、ドラゴン以外に敵がいない! レベルをあげようにも無理です! っていうかレベルって何ですか!?」


『哲学みたいなこと言ってないで、話を聞くのです。ドラゴン以外に敵がいない。そんなことはない勇者カイムよ。ドラゴンの足元、気づかなかったでしょうが小さな魔物がいました。それをこっそりと倒し、レベルを上げるのです』


「こ、こっそり!? ドラゴンに気づかれたらどうするんですか!?」


『大丈夫です勇者カイムよ。何度死んでもとりあえず棺桶バーンとして生き返ります。ひたすらに逃げて逃げて、雑魚を倒してレベルを上げるのです。レベルがあがったらなんか変な音が鳴りますのでわかります』


「30か……ちなみに最大レベルっていくつですかね」


『255だけど』


「なるほど……あのところで、何か死ぬ寸前に一緒に燃えた女騎士さんがいたんですけど、その人はどうなったんですか?」


『……知りたい?』


「いや、いいです。なんか嫌な予感がしますんで」


『うん。それがいいと思う』



 そして、僕の長く険しいレベル上げが始まった―――――

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