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探偵業のABC

 北へと続く足跡を確認しながら、アデルがつぶやく。

「残り具合から見るに……、10往復は超えてるな。確かに仕立て屋のおっさんが言ってた通り、1ヶ月は滞在してるみたいだ」

 このつぶやきに、エミルが感心して見せる。

「伊達に探偵なんて名乗ってないわね。他に何か分かることは?」

「ん? そうだな……」

 エミルの反応に気を良くしたアデルは、途端に饒舌になる。

「足跡の間隔からして、『羽冠』は身長60~63インチ、体重は140~145ポンドくらいだな。

 間隔の短さから、チビだってことは大体見当が付く。一方で、足跡が左に寄ったり、右に寄ったりでよたよたとしてるが、酔っぱらっているにしちゃ爪先の方向が一定で、しっかり定まっていることから、そうでは無いと分かる。

 となるとこれは、太鼓腹を抱えてがに股気味に歩いていることを示唆している。このカチカチに乾いた地面でもしっかり跡が残っているし、相当デブだってことは間違いない」

「へぇ。他には?」

「他には、……そうだな、靴底の形が妙にいびつだ。何度か直してるらしい。だが職人がこんなツギハギみたいな汚い直し方するわけ無いし、となると自分で直したんだろうと言うことが分かる。割と器用なタイプだな」

「ふーん」

「えーと、そうだな、他には……」「あのね」

 足跡にばかり目を向けているアデルの襟を、エミルがぐい、とつかんで引き上げた。

「ぐえっ、……な、何すんだよ!?」

「後ろ」

「え?」

 アデルが振り向いたところで――彼は後方の岩陰に、誰かが慌てて隠れるのを確認した。

「推理眼を披露するのは結構だけど、尾行に気付かないようじゃ、探偵失格なんじゃない?」

「……耳が痛いね」

 アデルは首をさすりながら、岩陰へと声をかけた。

「俺たちに何か用か?」

「……」

 答えない尾行者に、今度はエミルが話しかける。

「別に何もしないわよ。目的も一緒なんだろうし、一緒に来た方がいいんじゃない?」

「……あ、はい」

 岩陰からおずおずと現れたのは、まだ15、6歳くらいの、赤毛と金髪の中間くらいの髪色の少女だった。

「あの……、目的が一緒、って言うのは?」

 尋ねた少女に、エミルが答える。

「こんな荒地にハイキングしに来るなんて、そんな酔狂な人はそうそういないわよ。大方、『羽冠』に会いに来たってところでしょ?」

「は、はい。そうです」

 うなずいた少女を見て、アデルはエミルに向かって肩をすくめた。

「……探偵顔負けだな。お前も相当の推理力を持ってるよ」

「どうも」


 少女から詳しく話を聞いてみたところ、やはり「羽冠」に会いに来たのだと言う。

「じゃあ、3日前に街を出たマスターは……」

「はい。わたしの父です」

「やっぱりね。で、3日も戻ってこないから、もしかして……、って?」

「……はい。でも」

 少女は顔をこわばらせ、こう続ける。

「もしかしたら、そうじゃないかも知れないし、だとしたら、何で戻ってこないのかって」

「……君には悪いと思うが、十中八九、お父さんは」「アデル」

 アデルの言葉を遮り、エミルが尋ねる。

「希望を持つのは大事だけど、それを裏切られた時の覚悟は今、しておいた方がいいわよ」

「分かってます」

「本当ね? 『羽冠』のところへ乗り込んですぐ、お父さんと、……いいえ、お父さん『だった』ものと出会ってしまっても、泣き叫んだりしないって、誓える?

 悪いけど、あたしたちは仕事で『羽冠』を捕まえに行くの。だから、あなたをなだめる余裕は無いわよ?」

「……はい。誓います。ご迷惑は、絶対にかけません」

「いいわ。それなら付いてらっしゃい。

 あたしはミヌー。エミル・ミヌーよ。そっちの探偵さんは、アデルバート・ネイサン。通称アデル」

「よろしく」

 アデルの差し出した手を握りながら、少女も自己紹介した。

「マゴット・レヴィントンです。マギーと呼んでください」

「よろしくね、マギー」

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