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眉唾な依頼

「そりゃまた物騒な」

 パディントン局長からの話を聞いて、探偵局員アデルバート・ネイサンは眉をひそめた。

「俺は保安官でも用心棒でも軍人でも無いんですよ?」

「しかし最善の方法はそれしか無いんだよ。それ以外のアプローチをしたら、ほぼ確実に君は死ぬ」

「正直、胡散臭いっス……」

「しかし事実、そいつと接触したガンマン、カウボーイ、用心棒、保安官、軍人、教師、牧師、牧場主、鉱山主、エトセトラ、エトセトラ、……ともかく色んな人間がそいつとテーブルを囲み、ギャンブルし、そして一人残らず死んでるんだ。27人、たった一人の例外も無く、だ。

 だから、そいつと接触した際に君が執るべき行動は一つしか無い。出会った瞬間に撃ち殺すしかないんだよ」

「まあ、凶悪な賞金首って言うなら射殺もやむなしでしょうけど……」

 アデルは依頼書の人相書きに目を通し、「うーん」とうなる。

「正体不明の胡散臭いインディアンって感じですけど、ただギャンブルしてただけでしょ、こいつ。しょっぴくだけじゃダメなんスかねぇ」

「それが大きな問題なんだ。彼と卓を囲んだ27人全員が死んでいるわけだからね。

 彼自身に殺意が無いとしても、これだけ死者が出ているのだから、野放しにできない。クライアントもそう思っているからこその、この依頼なんだよ」




 依頼書の内容は、次の通りである。

「近年、我が州およびその近隣州を徘徊する一人のインディアンによって、我が州各市町村で数多くの死亡者が発生している。

 目撃者によれば、『本人は賭博行為を行っただけ』とのことではあるが、彼と賭博を行った者は例外なく死亡していることから、彼自身が殺害した、あるいは殺害に関与した疑いが強い。

 そこで並々ならぬ実績を持つ貴君に、件の『デス・ギャンブラー』の捜索、および拿捕ないしは殺害を依頼したい。

 報酬は州が彼に課した懸賞金12000ドルと、私個人からの謝礼金3000ドルとする。


A州知事 ……」




「頼むよ、知事とは……」「はいはい、『昔からの付き合いなんだ』、でしょ? 素敵なご友人がいっぱいいらっしゃるのね」

 エプロン姿の女性が、コーヒーを盆に載せてやって来た。

 新しくパディントン探偵局の一員となった賞金稼ぎ、エミル・ミヌーである。

「そうとも。だからこそこの探偵局もここまで大きくなったわけだ、うははは……」

 エミルの皮肉をものともせず、局長は高笑いして見せる。

「はあ……。

 で、こいつに何を頼んでるの?」

 エミルはコーヒーを配り、アデルを親指で差す。

「西部の、かなり西の方で話題になってる賞金首を仕留めてきてほしいのさ。君も『デス・ギャンブラー』のうわさを聞いたことはあるだろう?」

「ええ。とんでもなく強いんですってね。銃や腕っ節じゃなく、博打の方だけど」

「その通り。しかしその強さは、何と言うか……、あまりにも呪われた強さなんだ。

 さっきも話した通りだが、こいつは27人の人間を死に追いやっている。それも白人ばかりをな」

 これを聞き、エミルの鼻がぴく、と動く。

「『ギャンブラー』はインディアン風の男だって話だけど、それを考えると死人が白人ばっかりって言うのも怪しいわよね」

「ああ。しかも死者27名に、それ以外の共通点は無い。

 我々でその27名に対し身辺調査を行ってみたが、まったく関係性が無かったんだ。一番近い2人の住所を見ても、17、8マイルは距離が離れている。

 まあ……、もう一つ、共通点としてはだ」

「全員『ギャンブラー』と博打してる最中か、その直後に死んでるんだよ。確かに『死神デス』だな、こいつは。

 とは言えですよ、局長。博打やってるだけで死ぬなんてこと、有り得るんスかね」

「今は何とも言えん。そこは実地で調査しなけりゃ、結論は出んよ」

「……ま、業務命令ならどこでも行きますよ。イギリスだろうとインドだろうと、ニッポンだろうと」

 アデルは肩をすくめ、コーヒーを一気に飲み干した。

「頑張ってねー」

 エミルはそう返し、そそくさとその場を離れようとする。

 しかしそれを見逃す局長ではなく――。

「君もね」

 局長はエミルの肩をつかみ、にこやかに微笑んできた。

「……はーい、はい」

 エミルもアデル同様、肩をすくめて見せた。

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