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偏っていた勝負

「え……」

 銃声からワンテンポ遅れ、アデルが叫んだ。

「エミルーッ!?」

「うるさいわね」

「……へっ?」

 拳銃からもうもうと煙が立ってはいるが、エミルは倒れることも血を吐くことも無く、ピンピンしている。

「あんな弾じゃ死ぬわけないわ」

「……え? え?」

「……!」

「あたしがスコフィールドに込めた弾は、雷管も何にも付いてない空包5発と、木炭の欠片を卵で固めて、鉛弾に似せて込めただけの、ニセモノ弾が1発。

 そんなのが当たったところで革のコート相手じゃ、粉々になるだけよ。ま、多少痛かったけど」

 胸に付いた炭を払いながら、エミルは「羽冠」に声をかける。

「あんたは自分の頭に当てて撃たず、勝負相手を撃ち殺そうとした。あんたの負けよ」

「い、イカサマ……っ」

 抗議しようとする「羽冠」に、エミルは冷たく言い返した。

「イカサマ? あたしが何をしたって?

 実弾込めたなんて、言ってないでしょ? あんたが卑怯にも、あたしを撃っただけじゃない。どこがイカサマよ?」

「こ、コイン、表が出るはずだった!」

「へー。そうだったの」

「……!」

「おい、どう言うこった、そりゃ?」

 アデルの問いに、エミルはポケットからコインを取り出して放り投げる。

「適当に投げてみなさい」

「お、おう」

 エミルに言われるがまま、アデルはテーブルにコインを投げてみる。

 すると――「羽冠」が叫んだように、コインは表を向いた。何度トスしても――何回かに1回は裏が出るものの――やはり表ばかりが出る。

「……なんで?」

「そう言うコインだって言うことを、こいつは見抜いたのよ。多分裏が出やすいコインだったら、トスする前に『表がお前、裏が私』って決めたでしょうね」

「よく……、分からないな。結局こいつは一体、何をしてたんだ?」

「したって言うより、さっき検討した時に言った通り、観察力の問題ね。相手の目や動きとか、カードの混ざり方、ダイス自身の癖とかを見抜いてたんでしょうね。

 でなきゃダイスの時、あんな露骨に20や30は出ないわよ。町に行って、そう言うのを作ってもらってたのよ」

「へぇ……?」

 きょとんとするアデルに苦笑しつつ、エミルはダイスを握りしめた。

「さっきこいつがやってたみたいに、振り回さずにそのまま皿に落とせば……」

 カラン、と音を立てて皿に落ちたダイスは、5・6・6の目を出した。

「おわっ」

「6が極端に出やすくなるのよ。

 で、こいつがやっぱり観察眼で勝負を有利に運んでることがはっきりしたところで、次の勝負に出た。

 そしてコイントスの直前、あたしはこいつに見せたのとは別のコインと、こっそりすり替えたのよ。もう一枚の、極端に裏が出やすくなるコインとね」

 エミルはコイントスの時からずっと握っていたコインを、今度はマギーに渡した。

「……本当、裏ばっかり」

 マギーが感心している横で、「羽冠」が悔しそうに頭を抱え、うめいている。

「イカサマ……! イカサマだ……! コイン、すり替えるなんて……!」

「同じ1セントよ? ただ、表か裏のどっちかが出やすいってだけで。それをイカサマだなんて言うのは、コインの違いが分かるあんただけよ。

 不服なら、もう一回勝負してあげてもいいわ。でも」

 エミルは「羽冠」に、こう言い放った。

「あんたはもう、どんなギャンブルでも勝てないわ」

「なに……!?」

「羽冠」がいきり立ったところで、さらにこう続ける。

「あんたは絶対勝てると高をくくった勝負で、卑怯な真似をして負けたのよ。

 そんな間抜け、あんたの神もきっと見放したでしょうね」

「そ、そんなはず無い!」

「羽冠」は叫び、テーブルに自前のダイスを置く。

「私が勝つ! 勝たない、おかしい!」

「いいわよ。さっきと同じルールで行くわ。あんたから振りなさい」

「うう……、ううう……!」

 乱暴にダイスが投げられる。だが、出た目は1・2・3、最小目の6だった。

「うあ……!? おお……、ばかな……、神よ……、(神よ……、私は……)」

「あたしの番ね」

 エミルがひょい、とダイスをつかみ、軽く投げる。

 エミルは1・1・1のゾロ目――最大目の55を出した。

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